第三十七章 空の上にて
空の青と海の碧と雲の白と。海上には様々な大きさの島々がぽつぽつと現れては消え、雲の形は風によって吹き流されたり吹き固められ一刻とて同じ様相を保ちはしなかったが、景色に見とれている猶予はザギ達に残されていなかった。
定期的にミミシュのいる方角を確かめて飛空船の進路を修正する事はもちろん、ロザルが提示した二つの魔法具の取り扱い、ガルドゥムへの対応や、そこにいるだろうグリラ、そして<最悪の災厄>との対決など、話し合い決めておかなければいけない事はいくらでもあった。
まず、魔法具の取り扱いの片方については、イージャが提案した。
「我らの眷属に試させよ」
「でもよ、危ねぇのはどうすんだ?」
「心配してくれるのはありがたいがな、ザギ。お主も、ビブも、とうに普通のゴブリンの枠に収まる存在では無くなってしまった。だが我らはゴブリンとして今後も在り続け、その為には今までにない力も必要とされよう。その為に払う犠牲じゃ。無駄にはならん」
「犠牲ってよ」
「ここにはぼくもアビエトさんも、それからロザルもいるから、大抵の事には対応できると思う。最悪の事態としては、開けた蓋から溢れ出した元素の取り扱いを覚える前に、炎なら焼け死んだり、水なら溺れ死んだり、まぁその他諸々の結末が待ってるかもだけど」
すでにゴブリンの間で話し合いは済んでいたようで、ガルドゥムに同族を数多く殺されイージャを守り落ち延びたゴブリンの生き残りの一人、ドルベが進み出た。
「おれ、炎、使えるようになる。すれば、あいつにも、ただやられるだけじゃ、なくなる」
「でもよ、付け焼き刃でいきなり立ち向かおうとしても殺されるだけだぜ」
「無駄に、死には、しない。あいつの相手、クルトとかいう人間がするというのもわかってる。だけど、弱いままじゃ、いられない」
「仕方ない、か。覚悟は変わらないんだね?」
「ああ。ただやられるだけは、イヤだからな」
覚悟は変えられなさそうな様子をビブが確かめると、ロザルが進み出てドルベに伝えた。
「目を閉じて、念じろ。自分がこれから扱えるようになりたい力を。ただし大きくし過ぎるな。間違ってもお前の一族を虐殺したような相手の様子は思い浮かべるな。炎であれば、火口で起こした小さな種火を想像しろ。呼吸を整え、何が起こっても慌てるな。取り乱せば即座に死につながると思え。それはお前の守る女王をも巻き込むかも知れぬ。いいな?」
「・・・わかった。やってくれ」
甲板の上に立ったドルベが呼吸を落ち着けると、ロザルはザギとビブを脇に従え、ドルベの周囲をぐるりと周り、
「両手を前に出せ。掌の上に小さな火を灯す事をイメージしろ」
ドルベが黙って従うと、ロザルは<蓋を開け閉めする物>の本体をその額に押し当てた。<蓋を開け閉めする物>の先端部の鉤爪の様な針はドルベの頭の中へとするりと潜り込み、体の中に同じ形で留まっている魂の一部、ドルベの場合は、心臓の近くにあったらしいが、そこにほんの小さな穴を穿つと、また本体の先端部へと鉤爪は戻ってきた。
胸に刺した痛みにドルベが瞳を開けてみると、掌のほんの少し上に小さな灯火が揺らめいていた。
「やった!炎の魔法、これで!」
「気を緩めるな!」
喜んで気を逸らせたせいか、灯火は炎の柱へと吹き上がり、起点となったドルベ自身を巻き込み焼き焦がした。
「危ないっ!」
という声がいくつも飛ぶと当時に、周囲にいた者達との間はエミリーによって空気の壁で遮断され、当のドルベはラヌカルが呼び出した水玉に全身が包まれて炎も消され、アビエトもヒールを放って火傷を癒していた。
ラヌカルが水の玉を自分の周囲へと退かせると、ドルベは甲板に両膝を着いたが、その掌には火が灯ったままだった。
「火を消す事が出来るか?出来ねば蓋を閉じる」
「ま、待て!試させてくれ!お願いだ!」
ドルベの必死さに周囲が圧され、彼は一時間近くかけてようやく火を掌の上から消し去る事が出来た。さらに自由に灯したり消したりするのには、さらに数時間と何度もの周囲の手助けを必要とした。
「これはまだうまくいった方か」
「死なないで済んだし、制御もいずれは出来るようになりそうだけど」
「すぐに使い物に出来るってもんじゃないのは確かだな」
「だが、二人とも見ただろう?あれがどのように使われ効果をもたらす物なのかを」
「蓋の位置とかは、たぶん、種族や個体に依らないし、外見からはどこにあるかなんて分からないんだな」
「魂を通じて周囲に存在する元素を取り込んで集約して、その効果を発現させてるんだね」
「ただの魔法なら、そんなに難しい事ではない。周囲からの助力があれば、一番制御に失敗しやすい蓋を開けた直後の事故死もある程度は防げるだろう。だが」
「ああ。俺達みてえに、どの蓋を開ければいいのか分からなかったり」
「制御出来なかったらどうなるかなんてのも分からないし」
「周囲からの手助けもおそらくは望めぬだろうからな。それで、どうする?ミミシュのいるだろう島まではおそらくあと二日とかからない。一日と半分といったところか」
「何かとてつもなくまずい事があったとして、それまでに立ち直れるかだよね」
「蓋の開け閉めでこれだけおっかなびっくりだと、魂を枝分かれさせる魔道具なんて使い物になるのか?」
「そっちの方はぼくに使い道を任せて。ザギはザギに必要な蓋を何にするかと、その制御の仕方を考えておいて」
「たぶんだけどよ、都合の良い強力な願いの何かな物ほど、制御も難しいし、失敗した時も取り返しつかなそうだよな」
「だろうね」
「慎重になれ、ザギ。お前なら今のままでも、グリラや<最悪の災厄>やその依り代とも戦えるだろう」
「倒せるかどうかはわかんねぇけどな」
そうして日が空の彼方へと沈んでいき、夕食を済ませた同行者の多くが眠りに落ちていったが、ザギはうまく考えがまとまらないまま、舷側にエミリーを見つけて話しかけた。
「よう。眠れないのか?」
「ザギ。もうすぐ色んな事の決着が着くかも知れないってなるとね」
「俺らみんな死んじまうかも知れねぇしな」
「弱気じゃないの」
「スライムも、ノームの機械も、手が届く相手だった。だけどな、本体があっち側にいる相手だぞ。魂の尾を狙われたら防げるかどうか分からねぇんだ」
「サラ様・・姉さんも、歯が立たなかったしね・・・。ね、ザギ」
「何だよ。絶対勝てとか約束なんて出来ねぇからな」
「違うわ。私ね、このまま死んでしまうかも知れないなら、やっぱり、もう一度は、姉さんと会って話してみたい」
「例の薬は止められてるしな。<最悪の災厄>との戦いの前にって気持ちは分からないでもねぇけどよ」
「姉さんからの伝言があったでしょう?私やザギやビブ君が開けなきゃいけない蓋があるって」
「言ってたな。俺のは、どんな存在だろうと関知して、干渉なりなんなり出来るようになる蓋って、あるかどうかも疑わしいのだけどよ」
「私は、姉さんと話せるようになりたい」
「それは、生きたまま、死んでる奴、っていうか、魂ともって事か」
「そうだね。もし可能なら」
「そもそもサラはお前の体にひっついてるみたいだし、いけんじゃねえの?他の魔法とかと違って、何か間違っても死にそうな目にも会わねぇだろうし」
「ありがとね、ザギ」
「ぱしり一号じゃなかったのか」
「ぱしりにしては、ずいぶん活躍しちゃったからね」
「グリラに負けたり、勝っても<最悪の災厄>を倒せなければ何にもならねぇけどな」
「だとしても、だよ。最初にトウイッチの森で会った時、猪倒して喜んでたゴブリンがまさかここまで強くなるなんて夢にも思わなかったし。そうだ、ザギってさ、今でも人間になりたいの?」
「どうだかな。人間になれれば、ゴブリンのままじゃ勝てなかった相手にも勝てるようになるって、そう思ってた。だからなりたかった。今じゃ、それはどっちだっていいかなって思ってる」
「人間になったザギは見てみたいかもね」
「イージャには猛反対されそうだけどな」
「ふふっ。そうだね。私も見てみたいってだけ」
「俺は、まぁ、どっちでも構わねえよ。勝ちたい相手に、勝てる自分ならな」
「ザギのそういう割り切ってるとこ、嫌いじゃないよ」
ザギは、そんなエミリーの言葉に、どう反応すればいいのか分からなかった。嫌いじゃないは好きだというのは想像出来たが、それをこの場で意味合いを限定して伝えられた意味が分からず、
「ま、戦いが全部終わってからだ。それからゴブリンのままでいるか人間になるか決めりゃいい」
エミリーも答えをはぐらかされた事は受け流した。
「そうだね。じゃ、ビブ君とロザルさん捜そうか」
「だな。ところでビブって、どんな蓋開けるか聞いた事あるか?」
「ううん。もう一つの魔道具もそうだし、秘密にしておきたいんじゃないのかな」
「<管理者>なんてのが相手だしなぁ。どこまで何を秘密にしておけるかわかったもんじゃねぇけどよ」
ビブは艦橋の操縦室にほど近い個室の一つに、ロザルとアビエトと居た。扉の外にラヌカルを立たせて他の誰も入れるなと命じられていたらしかったが、
「君とエミリーさんは別だと言われている」
と通してくれた。
部屋に通されると、中にいた三人はそれまでにしていたのだろう会話は止めたので、エミリーは思い切って言ってみた。
「あのね、ビブ君。私、姉さんと話したいの。だから、生きてる状態のまま、魂だけの存在とも話せるようになりたい。もしそんな事が出来るようになる蓋があるのなら、その蓋を私は開けたい」
ビブは、ロザルとアビエトにちらりと視線を送り、二人からも即座の否定や制止が飛びそうにないのを確認してから、エミリーに言った。
「悪くないと思う。いちいち仮死状態にならなきゃいけないのはやっぱり不便だし、その間普段なら対処出来た筈の事態に対処出来なくなるのは避けたいものね」
「じゃあ」
「でも、さっきの炎の魔法の蓋の例から推測するなら、片方の世界とやり取り出来るようになる事で、もう片方の世界とはやり取りできなくなるかも」
「体は生きてたとしても?」
「そうだね。生きたまま魂だけの存在と会話できるようになったとして、そのエミリーの言葉をもしぼく達も聞けたとしても、エミリーがぼく達の言葉を聞けなくなるかも知れないし。会話が両側に対して出来たとしても、視覚が失われるかも知れない」
「そこは、私がお手伝い出来るかも知れません」
「そうなんですか、アビエトさん?」
「ええ。我が教団は、これまで殉職を以て聖典を編み、創造主の御技に迫ろうとしてきましたから」
「そうか。だとしたら当然、仮死状態になる事も、魂だけの存在になった者とのやり取りも、いや、それ以上に」
「その先はまだ口にしない事をおすすめします、ビブさん」
「でしたね。でも、そしたらエミリーが開けるべき蓋も、その制御の仕方もご存知なんですか?」
「万人に出来た訳でも無く、我々には今ここにあるような真道具は手にしておりませんでしたからね。いろいろと勝手は違うでしょうけれど、補助は可能かと」
「じゃあ、今すぐにでも!」
「焦るなよ、リー。お前にはサラがひっついてるんだろ?そんな状態は、その真道具作った連中も想定してなかったんじゃねぇのか?」
「それは、そうだろうな」
とロザルに肯定されて、エミリーも反論出来なかったが、ビブは違った。
「そうか、だから、サラは・・・。うん、たぶん、問題無いよ。というか、サラと一緒になっているからこそ、やるべきなんだろうね」
「どういう事なんだよ、ビブ」
「それはまだ説明できない。ごめんね、ザギ」
「ったく。お前がそう言うんならどうしてもって理由があんだろうけどよ」
「まあね。そしたら準備はいい?エミリー、それからアビエトさん」
「いつでも」
「エミリーさん、どうか心を落ち着けて下さい。炎には巻かれないかも知れませんが、あなたは今まで感じ取れなかった圧倒的な存在に接する事になるのですから」
「え、でも、私はサラ姉さんだけに」
「だけじゃ済まなくなるってこったろ。全ての生命に魂が宿ってるっていうなら、単純に考えても今までの倍を」
「いいえ、それでは済みません。盲目の人が見れるようになるのに近いと思って下さい。でないと失明します。どんな治療も効きませんし、眼球を取り替えたとしても回復しません」
「魂の目が潰れるってわけね」
「はい。ですから、あなたに重なっておられる、お姉さんの声に耳を澄まし、その存在を感じ取って下さい。それと、あなたの目が今見えていたとしても、あなたの背中は見えませんね?そこはご承知おき下さい」
「分かった。徐々にって事ね。姉さんが生き返れば、また普通に向き合って話す事も出来るだろうし」
そして椅子に座った状態で瞳を閉じたエミリーの額に<蓋を開け閉めする物>が押し当てられると、エミリーは願った。
(これで、姉さんと、魂だけの存在になった誰かとも、生きたまま言葉を交わし、互いを見れるようになりますように!)
エミリーが願いを心の内で何度も繰り返す内に、額の内側へと何かが潜り込み移動し始め、脳内の奥深くにちくりと刺すような痛みを感じたが、その途端に、サラの声が聞こえた。
((それだけでは十分ではないわ、エミリー。私が全ての存在を知覚するだけでなく、あちら側でも存在し、活動できるようになる事を!))
(姉さん?!でも、そんな、大丈夫なの?)
((知らないわ。でも、願うしかないの。これからの、みんなと、自分の為にね))
エミリーは、冷ややかな鉤爪の感触が自分の脳内から背中側に抜け、そこに在るのだろう姉の魂の中へと移り、いくつもの穴というよりは裂け目を作って、元の場所へと戻っていったのを感じた。
エミリーには、サラが感じているのだろう痛みが伝わってきた。
(ぐっ、ううっ!大丈夫なの、姉さん?)
((予想、してたよりは、だいぶ、い、痛いし苦しいけど、何とか・・なりそう。最悪でも、私が消滅するだけ、だから。ごめんね、重なってるせいで痛みも伝わってしまってるみたいね))
エミリーは反射的に振り向いた。本来であれば、背中に誰かがついていればその誰かは見えなかった筈だが、エミリーへ伝わる痛みを軽減する為か、サラはほぼ全身をエミリーから引き離していた。
一言で言えば、サラは悶絶し絶叫していた。ただしその声をエミリーには聞かせまいと口を閉じ歯を食いしばり、肉体があれば歯は残らず砕け口の端から血が噴き出て、両手の爪先が食い込んだ腕からは肉や骨がのぞいていてもおかしくないような有様だった。
(姉さん!)
エミリーは迷わずサラに歩み寄り抱きしめた。その途端に全身を貫き引き裂くような痛みを繰り返し感じたが、それでも、サラを離しはしなかった。
((バカね、このままじゃあなたまで))
(放っておけるわけないでしょう?一度見捨てて逃げ出したんだから、今度は、逃げない!)
(・・・全く、頑固なんだから)
(姉さんに似たのかもね。絶対、離さないんだから!!)
サラを抱きしめ絶叫しているエミリーをザギは手助けしようとしたが、ビブやアビエトに止められ、無理矢理にでも余裕を作ってみせたエミリーは言った。
「手出し、しないで!これは、私と、姉さんで、耐えてみせるからっ!」
「分かった。だけど、死ぬなよ。二人ともな」
「はっ、生意気、言うんじゃないわよ!ぱしりのくせに!これ、くらいぃぃぃっ、耐えて、みせるんだから!」
正直、クルコの雷の双剣の雷撃に打たれた時の何倍もの痛みが永続的に続くようなものだった。あの時は失神してしまえたが、今は、魂に感じているせいか、そんな甘えは許されなかった。
(でも、もう、逃げないって決めたんだから!)
とエミリーが意地だけでサラを抱きしめ続けていると、サラがエミリーを抱きしめ返して言った。
((これは私の見立てが甘かったみたい、ね。でも一人じゃ無理でも、二人なら、エミリー、姉妹のあなたとなら・・・!))
どれだけ苦痛に満ちた時間が続いていたのか、エミリーには分からなかった。だがそれはやがて全身を貫き引き裂くような物では無くなり、頭部や背中や下腹部に限定された物となり、やがては痛みというよりは疼きのような物に代わり、そして抱きしめていた筈の姉の姿は見えなくなったが、自分に重なって存在している事がはっきりと感じられるようになった。
((ありがとう、エミリー。助かったわ))
(ううん。これくらい、いつでも、とは言えないけど、あの時の私は、何も出来なかったから)
((あの時はあの時で私はいろいろ準備していた何かを試したんだけれど、何も通じなかったからね。今こんな状態になっちゃってる訳。あなたからいろんな物を分けてもらいながらね。それでもだいぶ消耗しちゃったし、これからの準備もあるから、私も休むわ。あなたも休んでおきなさい))
(わかった。ありがとう、姉さん。その、また会えて、話せて、うれしかった)
((その台詞は、全てがうまく行ってからに取っておきなさい))
(でも、その時に姉さんとまた話せるかどうかなんて分からないでしょう?)
((それはそうね。じゃあね、お休み、エミリー。私からの声が聞こえなくなっても、存在が感じられなくなっても、慌てないで。私とあなたはつながっているんだから))
(わかった。お休み、サラ姉さん)
(お休み、エミリー・・・)
そうしてふっとサラの存在が薄くなると同時に、エミリーは猛烈な消耗と疲れを感じ、その場に倒れ込むように眠りに落ちた。
エミリーはザギが重力操作で長椅子に寝かせ、アビエトとビブが診察した。
「生命活動にはおそらく問題が無いでしょうけど」
「エミリーじゃなくて、サラかな。かなり無理をしたみたいだね」
「二人がつながってるからか。魂の状態だからこそ出来た無茶なんだろうけどよ」
「その先は口にしないでおこうよ。サラとエミリーの頑張りを無駄にしちゃうかもだしね」
「だな。そしたら今度は、俺の番か」
「だね。サラはエミリーにその痛みを分けて耐えられたみたいだけど」
「おうよ。俺は俺だけで耐えてみせらぁ」
「ぼくがザギの魂に自分の魂をつなげてみて、痛みを分担できるか試してみてもいいんだけどね」
「それは何かとっておきに使うんだろ。なら、とっとけ」
「がんばってね、ザギ。サラが願った事は、想像がつくから、ザギが全てを願う必要は無いよ」
「だとしても、願いとしてはこうなるんじゃねぇのか?全ての存在を知覚し、干渉出来るようになる、ってな」
「それだと、どれだけの裂け目を作られても耐えられるか分からない。もっと絞れる筈だ」とロザル。
「そうだね。きっと役割分担出来るからさ、この世界に存在しない相手に対して干渉出来るようになる、だけでいい筈だよ」
「知覚出来なくてもいいのかよ?」
「そこは任せておいて。ザギ一人に何でもかんでも任せはしないよ」
「分かったよ、相棒」
「信じてくれてありがとう、ザギ。それじゃ、始めようか」
「だな。どれだけかかるか分からねえけど、止めるなよ?ダメだったらどっちにしろ死ぬしかねぇんだからな」
「信じてるよ、相棒」
「おう任せとけ、ビブ」
そうしてロザルに魔道具を額に押し当てられ、ザギは必要とする穴や裂け目が開かれた全ての痛みにもだえ苦しんだ。時折瀕死の状態に陥ったが、アビエトやビブの介助で何とか峠を越え、エミリーが目を覚ました夜明け頃には、ザギも疲労困憊の末に眠りに落ちていた。




