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第三十四章 縁を結ぶ

 仮死状態になってサラの姿を見、その魂に触れる事が出来たザギだったが、その後数日、ドレインの防御も、存在の関知も進捗が滞り、ビブとアビエトが相談し、発想を逆転する事にした。

「ドレインで接触しながら仮死状態になってみればどうかな?」

「そうするとどうなるんだ?」

「トウイッチの発明した全ての元素が見えるようになる薬でもドレインの動きは見えたけど、それが肉体の目の限界だったし、あの薬飲んだ状態で戦うのは不便でしょ?」

「それ言ったら仮死状態になる薬もそうだけどな」

「でもさ、仮死状態になってもサラと会話できたりしたんだから、たぶん、その逆も出来ると思うよ」

「そうかなあ。ま、他に良さそうな手も無いし、やってみっか」

 半信半疑ながらビブの助言に従い、アビエトにドレインをかけてもらいながら、ザギは仮死状態になる薬を服用してみた。

 自分の魂が肉体から離れてみて、自分の右手首をアビエトから伸ばされた第三の手で握られている様子がはっきりと見えた。さらに生命力を吸い取られるのではなく、触れている位置から送り込まれてくるのを感じた。そのおかげか、ザギの魂はだんだんと薄まりはしなかった。

<仮死状態にちょうどいい具合を維持してくれてるのか>

 ザギが自分の状態を確認した頃、ビブがタイミングを見計らったように言った。

「目を閉じて、体の中にいる時と同じ様に何も見えなくなったら、魂の緒の先を、それからドレインでつながってるアビエトさんを感じてみて。理屈で言えば、輪状に、あちらとこちらを通じてザギとアビエトさんはつながってる筈だから」

<目を閉じる、か。魂になってる状態で目を閉じるってのも変な話だけど>

 ザギは、ビブを信じて、目をつむってみた。仮死状態になっていない時と同じように、周囲が暗黒に閉ざされた。自分の手首につながっているアビエトの触手からは、暖かな生命の元素(オルガ)が流れ込み続けていた。

 何も見えない暗闇の中、ザギはそう思っていたが、頭上を振り仰いでみると、自分の魂の緒の遙か彼方先に、かすかな光が瞬いていた。

<あれが、蓋か?あの向こう側が・・・>

 ザギは、生命の元素とも違う、目に見えるかどうかも危ういくらい極細の魂の緒を通じて、自分の魂へと息吹が吹き込まれ、ほんの僅かに揺らいだ魂は、その揺らぎをさざ波の様に魂の緒を通じてあちら側へと返していた。

 ゆったりと、ゆっくりと、魂とあちら側とは、そんなやりとりをいつまでも続けていた。

 なぜか心を落ち着かせる往還に時を忘れそうになったが、ザギはもう一つの課題を何とか思い出し、手首につながっているアビエトの触手からアビエトの魂へと、その頭上に幽かに伸びる魂の緒から先へと、感覚を手繰り登っていこうとした。

 アビエトの魂を通り抜けようとした時、わずかな震えがあったが、

<そりゃ他人に入られて気持ちいいもんでもないよな>

 とザギは先を急ぎ、やがてアビエトの魂の先があちら側へと、自分の魂がつながっている蓋の先へと意識を覗き込ませた。

 そこは、光の奔流が無数に絡まり一瞬たりとも同じ様相には留まらない空間だった。果ては感じられなかった。無限と言って良い魂の緒の先はどこかで何かにつながっているのかも知れなかったが、ザギは光の渦に飲まれそうになりながら、自分とアビエトの二カ所の蓋の間が一本の線でつながれるのを感じた。

 直後、アビエトからつながれていた触手が外され、間を置かずにヒールを重ね掛けされて、ザギは肉体に引き戻されていた。

 目覚めたザギを、アビエトはいくぶん咎めるような眼差しで見つめた。

「ごめん、何か、踏み込み過ぎた?」

「必要な手順だったかも知れませんけどね。縁は結ばれてしまったみたいです。こうなったらザギ君には是が非でも最後の目的まで達して生き残ってもらわないと・・・」

「二人とも何の話をしているの?」

「ビブの言うとおりにしてみたんだよ。確かに、魂の緒から先へと、自分のだけじゃなくて、ドレインで接続されてたアビエトさんの魂の緒から先へも、辿れたんだ」

「へぇ、すごいじゃない」

「でな、その先はやっぱり、あっち側につながってて、そこはやっぱり数え切れないくらいの魂の緒がつながってるせいか、光に包まれたとこで」

「二カ所は内側から辿れた?」

「辿れたっていうか、線みたいのでつながった。それが、縁てえのか?」

「明日、ビブ君とで同じ事をしてみれば分かりますよ」

 ザギもビブもその意図は良く分からなかったが、ザギが翌日同じ事をビブの魂の緒の先をあちら側から辿ろうとした時、そこにはアビエトとつながれたような線がすでにつながれていた。

 ザギが確かめた後、アビエトに補助してもらいながら、ビブもザギに同じ事を試し、

「そっか、結ばれるってこういう意味だったのか?」

 などとつぶやいた。

「どういう事だ?」

「んっとね。ザギ。もうぼくの事も、それからアビエトさんの事も、どこにいようと感じ取れるようになったんじゃない?」

「前は無理だったけどな」

 ザギは五感を遮断する魔法をかけてもらったが、ビブやアビエトが動いた先を、正確に把握できるようになっていた。

「アビエトさんはともかく、もう縁が結ばれてたなら、どうしてビブは感じ取れなかったんだ?」

「さあね。まだあちら側を覗き込んだ事が無かったせいかも知れないけど。それより」

「ああ、今なら、たぶん」

 ザギはグリラから渡された小袋を開き、ミミシュの髪を手に取り、さっきと同じ要領で同じ手順が踏めるか試してみた。

「今は仮死状態じゃないけど、グリラや<最悪の災厄>と戦う時も今と同じ生きてる状態じゃないとだしな・・・」

 目を閉じ、自分の魂の緒を先へと辿る所まではおそらく出来た。だが、髪の毛が留めている魂はほんの僅かな物で、そこから先を手繰ろうとしても、反応が微弱過ぎて感じ取れなかった。

 ザギがあきらめたように目を開き左右に首を振ったのを見て、ビブが提案した。

「ここからずっと遠くにいる誰かのを辿ろうとするから難しいのなら、ここにいる誰かの髪の毛で練習してみたらどうかな?」

 仲間内で一番豊かで長い髪を持つエミリーから提供してもらい、ザギは同じ事を試し、その髪が直接あちら側へつながっているのではなく、エミリーの魂へとつながっている事を見い出した。

 五感を遮断しても、エミリーのいる方角を正確に関知出来た事と併せて、ビブはハードルを一段下げた。

「つながってる先が直接見えなくても、どっちの方にいるって感じ取れれば、たぶんそれで今は十分だよ」

 そうしてミミシュの髪を再び手にしたザギは、エミリーの助言に従って、真北から少しずつ角度を変えて全周囲に感覚を凝らし、

「たぶん、この先にいる、と思う」

 と一つの方角を示し、それはクルトが保管していたミミシュの弓も合わせ持つ事で、ザギはより強くミミシュが、というより髪や弓が指し示す方角を感じた。

「方角は分かったとして、それがどれくらい先にいるか分からないなら、もう出発しないとか」

「間に合うの?」

「どれほど遠くまで行かないといけないか、分からないのだろう?」

「ミミシュ達が隠された場所が<管理者>の契約者として与えられ秘匿されてるなら、俺やトウイッチが直接転移出来るような場所でも無いだろうな」

 一同が不安に駆られる中、ロザルが提案した。

「このトウイッチの森から西南に二、三日行った荒れ地の地下にノームの廃都がある。そこには、太古のノーム達が発明した偉大な発明品が埋もれているかも知れない」

「そんなに便利な何かならとっくに盗掘されたりして無くなってるんじゃないのか?」

「いや、あの都の入り口、ノームしか知らない。それにあの都が廃棄されたのは、その偉大な産物を維持出来なくなったから」

「ロザル達の村にあった転移機械みたいに?」

「そうだ。燃料の類が無くなっていたとしても、ビブがいれば何とかなるだろう。機械的に故障しているなら、キーブーが何とか出来るかも知れない。どの道、あやふやな感覚だけを頼りに旅に出るよりは分が良い賭けだと思うが、どうする?」

「確かに後一週間くらいしか無いものな。その発明品とかっての、使い物に出来たとして、どれくらい速く移動出来るんだ?」

「飛空船と呼ばれる機械は、一日で千里を駆けたらしい」

「じゃ、決まりだね」とビブ。「その足でそこからミミシュさんやガルドゥムがいるどこかに向かうとして、そこにグリラも居合わせるだろうから」

「私は行くぞ。誰に止められてもだ」とクルト。

「またグリラに殺されかけるかも知れないが、その時は俺も手を貸そう」とテューイ。

「私も当然行くわ」とエミリー。

「じゃあ守護戦士ガーディアンのぼくもですよね!」とファボ。

「グリラおばさんとは浅からぬ腐れ縁あるし、あたしも行くよ」とクルコ。

「私もザギ君達を放っておけないし、回帰教(リターネル)としてグリラを止めなくてはいけない当事者ですからね」とアビエトとラヌカル。

 イージャはウルベ達と相談してから、ロザルに問いかけた。

「ノームの廃都とやらはかなり広いのか?」

「最盛期には万単位のノームがいたと伝わっている」

「ふむ。どんな危険が待ち受けているか知れぬし、その廃都までは私と手の者達の大半も付き添おう。捜し物をするのにも数の多さと我の力が有用な事もあろう」

「分かった。じゃあ、明日の朝出発しようぜ。何もトラブルに見舞われなかったとしても、期限に間に合うかどうか分かんねえしな」

 ザギの一言で一行は旅支度を始め、留守はグルル達や居残りのゴブリン達に任せた。


 翌朝、日の出少し前に出発した一行は、エミリーとテューイとザギにより体にかかる重力を軽減され、さらにビブやアビエトから周囲に存在する生命力の元素の供給を受け、遠目に見れば馬よりも速い速度で旅路を駆け抜け、三日はかかる予定が出発した翌日の夕方には目的地、ノームの廃都の入り口へと到達した。


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