第二十八章 キーブーからの依頼
クルトは後からついて来させる事にして、ザギ達はエミリーをトウイッチの樹の地下の自室に寝かしつけてから、テューイがオーガ達を連行していった反省部屋へと向かった。(ファボはエミリーと残りたがったが、入り口をまだ通れなかったの事もあって却下された)
テューイと合流するまでの間に、ノーム男がザギ達に尋ねた。
「お前達、あのオーガ達どうするつもりだ?」
「まだ決めてねーけど。てゆーかお前、どーしてあいつらと一緒に戦ってたんだ?奴隷にされてたのか?」
「それに近い。だから、あいつら殺されると困る」
「どーしてだ?殺したら自由になれるんじゃねーの?」
「誰か人質にされてるとか?」
「そうだ。お前、頭いいな。本当にゴブリンか?」
「トウイッチにいじられてるけどね。ビブって名前だよ。プヘルテって呼ばれてた女オーガを倒したのがザギで、槍持ちと戦ってたのがウルベ。剣と盾持ってたのに殺されかけたのがファボ。君、というかあなたと戦ってたのがエミリーね」
「ビブ様ひどいっ!」
「事実だろ。悔しかったら強くなれ」
「ザギ様まで!ぐううっ」
ノーム男はゴブリンの少年達と人間との不思議な関係に首を傾げながらも、ビブの質問に答えた。
「キーブーだ。女オーガが族長のプヘルテ。お前が倒したのがグーガ。剣と盾持ちがギーガ。槍持ちがドーガ。三人とも、プヘルテの婿だ」
「オーガで女族長って珍しくねぇ?」
「かもな。だが、前の族長の娘でもあるらしいし」
「それがテューイに殺された三つ角のアドヴォフってことだね」
「そうだ。お前達、強いし、テューイやグリラとも知り合いらしいし、頼みがある。とても大切な」
「人質にされてるノーム達を助けて欲しいってか?」
「そうだ。ザギといったか。お前の武器、すごい。トゥイッチが作ったか?」
「だよ。だよなー。俺がすごいんじゃなくて、武器とそれ作った奴がすごいって言われちまうよなー。くそー」
「そこの人間、ファボって奴とは違って使いこなしてた。それは認められるべき。プヘルテもあの靴、まだ使いこなしていないしな」
「そうなの?あれを作ったのはキーブー?」
「違うぞ、ビブ。ロザル。俺が、助け出して欲しい相手だ」
木々の隙間からテューイとクルコと宙に浮かされたままのオーガ達が遠く臨めた辺りで、キーブーは足を止め地面に這い蹲って頭を下げ、ザギ達に懇願した。
「テューイ達モーマニー商王国の戦士団に壊滅させられたオーガ達の残党、逃げ続けた。ずっとずっと西の方へと。そして考えた。負けたのは、力が足りなかったせいじゃなく、魔法の武器が無かったせいだと」
「だから、魔法の武器を作れると云われてるノーム達を探し出して、襲って支配下に置いたんだね」
「そうだ。もちろん俺達も戦った。だけど相手のが数多くて大きくて力も強くて、最後には負けた。そしてたくさん、たくさんの仲間が殺された。だから、ロザルが、魔法の武器作れる最後の職人が協力することと引き替えに、仲間の命救った。だから俺は、ロザル救わなくちゃいけない」
「つまり、お前達の所には、プヘルテ達の仲間がまだたくさんいるんだな」
「いる。まだ魔法の武器の数多くないから、大勢は連れてこなかった。モーマニー殺されて国も無くなったという噂が流れてきたから、プヘルテ達だけで情報確かめに来た。俺は、ロザルに対する人質だ」
「ロザルとあなたは恋人同士なの?」
「幼なじみだ。だけど、将来は一緒になるつもりでいた」
「今でもでしょ?」
「ああ。お前、本当にゴブリンらしくない」
「良く言われるよ。ていうことは、オーガ達だけじゃないんだね。ゴブリンや、もしかして人間も配下に加えてるの?」
「そうだ。プヘルテ達がトウイッチの森の近くで待つ間に、モーマニー商王国の王都に偵察出して、戻ってくるの待ってた」
「俺らと入れ違いだったんだな」
「頼む。あいつらが戻らなければ、ロザル達里に残ってる仲間達は残らず殺される。お前達なら、ロザル達助けられる!」
地面に額をこすりつけるキーブーにザギは尋ねた。
「ま、助けてやってもいいかも知んねぇけど、こっちにも都合があってなぁ。さっき一ヶ月って期限切られちまったし」
「ちなみに、プヘルテ達の仲間ってどれくらいいるの?」
「王都に出した人間の偵察は2人。ノームの里には、オーガだけで30人、人間やゴブリン合わせて百人くらいだ」
「ちょっとぼく達だけじゃ手に余りそうだね」
「しかし、テューイがいれば相手が何人いようと」
「そりゃそーかも知れないけど、テューイもトウイッチの用事が最優先だからなー」
「頼む!お前達が協力してくれなければ、もう望みは無い!ロザルに頼んで何でも作ってもらえるぞ!?」
「って言ってもなぁ。俺はもうこのハンマーで十分だし」
「ぼくはほぼ必要としてないし、ファボも雷の双剣もらったばかりだしね」
「呪術の修行しないといけねぇしな。やっぱオークのじっちゃんに一度殺してもらわないといけねぇかな?」
「ザギってば。死んだらおしまいだっての」
「お前の蘇生の練習になるんじゃねぇの?」
「そーゆー問題じゃないでしょ!」
「ザギ、お前、呪術身につけたいのか?」
「お、何だお前。もしかして呪術使えるのか?」
「俺じゃない。ロザルが、一部の呪術を使える」
「マジかよ!でも、遠いんだろ?着くまでに一ヶ月かかっちまうんじゃ意味無ぇな」
「トウイッチに頼んで転移してもらえば、少なくとも行きは時間かからないよ」
「でも、ミミシュ達が囚われてるとこまで何日かかるかもまだ分からないんだぞ?」
「それも、ロザルなら手助け出来るかも知れないぞ?」
「本当かよ?仲間助けて欲しくて嘘言ってんじゃねぇだろーな?」
「嘘じゃない!ノームの魔法の品々に祝福や呪いがかけられる話、お前達でも聞いたことはあるだろう?あれ、ロザルが出来る。それ、呪術を応用したものだとロザルが言ってた。その中には人探しのもあると」
「オークのじっちゃんもそんなのがあるってのは言ってたけど。ビブ、どー思うよ?」
「あのオーガ達はこの森に置いておきたくないし、確かにテューイが同行してくれるなら相手のが何十人か多くても何とかなっちゃうかも知れないから、キーブーの仲間を助けてあげるのは、ありかも知れない」
「そうしてくれると助かる!一生の恩に着る!俺もお前達と一緒に戦う!ロザル助ける!」
「んー、テューイの意見も聞いてみないと分かんねーけど、ロザルっての、一番厳しく監視されてるんじゃねーの?何か騒ぎがあったら、真っ先に人質にされて殺されちまうんじゃねーの?」
「オーガ達、まだまだ魔法の武器必要としてる。でも材料集めて作るの時間かかるし、ロザルが最後の職人だから、殺されるの一番最後の筈。その間に助け出す、絶対に!」
ザギとビブが相談しあうように視線を交わすと、トウイッチの樹に避難していて同行してきていたイージャが提案した。
「ウルベも、そして我も同行させよ。そこにメスが何匹いるか知れないが、通常のゴブリンであれば残らず我の支配下に置ける。それで敵の手勢はかなり減らせるじゃろう」
「いけませぬ、イージャ様!危のうございます!」
「確かにトウイッチの森に隠れておればこれ以上安全な場所は無いだろうが、忘れたか?我々は本来招かれざる客。隣の森に間借りさせてもらっているだけの居候だと」
「しかし」
「それにエルベは身ごもっているものの、まだ出産の時期には至っていない。ザギやビブ、そなたにテューイ殿までいれば、案ずることも無かろう」
「しかし、万一の事があれば取り返しがつきませぬ」
「ザギが言っておったろう。何やら一ヶ月という制約がかけられたと。ならば何度も助けられている我らに出来る事があれば惜しんでいる時ではない」
「まー、テューイに聞いてみようぜ。オークの里近くまで運んでもらった時みたくトウイッチに転移させてもらえるかどうかでも話違ってくるし」
そうしてザギ達はオーガ達を中空に囚えているテューイの元へと向かった。
章カウントが間違っていたので訂正(第二十七章→第二十八章)




