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幕間7 ガルドゥムの判断と誓い

 ガルドゥムは、裕福な平民の家に産まれた。

 次男で家を継ぐ必要も無く、幼い頃から魔法の才能を認められて、そこそこ名の知れた元冒険者の魔法使いに学んだ。わずか13歳で最初の魔物を仕留め、15歳の時には二つ名ともなった灼円の魔法も編み出して一人前の冒険者としてデビューした。

 駆け出しの少年冒険者としては破格の扱いだった。師からの口添えもあって経験豊富なクルト達のパーティーに迎え入れられ、数度の冒険で力を見せつけてクルト達のギルドにも招き入れられた。

 そんなガルドゥムにとって、一番の興味は己の魔法の強化であり、二番目の興味はその魔法の力を振るう事であった。

 攻防一体の灼円の魔法を身につけてからは増長する機会も多かったが、それでも役割を分担したパーティーで命を預けあう重さを軽視した事は無かった。

 そんなガルドゥムから見て、クルトとミミシュの関係はいびつだった。妻子供がいても愛人や娼婦と遊ぶ男は珍しくなかったが、何かが異なる言葉にしにくい気持ち悪さをガルドゥムは感じた。

 はっきりと誰の事も好きになった事も無く、そういった衝動に駆られた事も無かったガルドゥムは、クルトのパーティーメンバー達に二人の関係を尋ねた。先輩冒険者達にはそっとしておけと言われ、表向きは従っていたが、二人が夜こっそりと仲間達から離れてつながる様を見てしまってからは、はっきりと二人を軽蔑するようになった。

 特に、自分の物にはならないとわかっているクルトを求め続けるミミシュを。

 ミミシュに恋しているつもりは無かったし、自分と同じくらいの年齢の女性冒険者達もいたが、心奪われる事は無かったのに、なぜかミミシュが気にかかり続け、初めての自慰は彼女とクルトの現場を何度目かに見た時だった。

 その時以上に、ミミシュとクルトを嫌悪した事は無かった。そんな二人の塗れ場に欲情した自分をもっと嫌悪した。

 嫌悪しながらも、時折、二人の情事を覗き見する事は止められなかった。二人から面と向かって注意された事は無かったが、ある時、事の最中のミミシュと目が合ってしまった。ミミシュは何も言わず恥じらいもせず、ガルドゥムに向かって哀れむような嘲りの表情を浮かべ、さらにその嬌態を彼に見せつけたのだった。

 以来、ガルドゥムは二人の行為を覗きに行くのを止めた。誓いを立てたからだった。

 絶対、あいつを犯してやる!あのすましてすかした男から奪って、その目の前で、汚してやる!それでもまだあの余裕ぶった笑みを浮かべるのなら、二人とも殺してやると。

 その誓いの一部は果たされた。

 一部はまだ果たされていなかったが、そんな残滓感は吹き飛んでしまった。

「お前の子をはらんだ。ガルドゥム」

 グリラと共にどこかから帰ってきたミミシュが彼にそう告げたからだった。

 感情がたかぶったガルドゥムの目の端が涙でにじんだ。

 ミミシュは続けて言った。

「お前の子だ。私は産み、育てよう。だから、クルトの命を狙う事はあきらめろ。さもなくば、私は宿っている子供ごと自分の命を絶つ」

 ガルドゥムは、けたたましく笑い泣きながら、ミミシュの体を抱き上げ、抱きしめ、宣言した。

「イヤだ!」

「何がだ?」

「ぼくの子供は産め。そしてお前がクルトをあきらめろ!」

 ミミシュは、逡巡してから、答えた。

「私がクルトをあきらめたら、お前もクルトの命を狙うのをあきらめるのなら、な」

「その言葉が誓いとして果たされる間は、あきらめてもいい。お前がぼくの側にあり、ぼくの子を無事に産み、健やかに育て上げている間は、ぼくも自分から誓いを破る事はしない」

 ミミシュも、そしてガルドゥムも、本当にこの誓いを成立させて良いのかためらっていたが、グリラが言い渡した。

「<管理者>の名の下に、二人の約束は誓いとして認められた。破った者には速やかなる死か、死を望んで止まなくなるほどの罰が与えられるだろう」

 ミミシュはグリラに何か言おうとしたが、ガルドゥムが先んじた。

「グリラ、あなたならぼく達二人を連れてクルトのいる場所に即座に転移する事も可能だろう?今すぐ連れて行け!」

「私に命令するな。それに、クルトのいる場所はそれなりに厄介な相手が集まっている。お前が危機に陥っても助けてはやれないかも知れないぞ」

「かまわない。あいつがどんな悔しそうな顔をするのかこの目で見れるのなら、多少の危険など」

「そうしていきなりこの子を父無し子にする気か?」

「何だと?このぼくがそうそう遅れをとるわけがない!」

「クルト一人が相手ならそうだろう。だがテューイやあの空気の魔法使いや薬物を使うゴブリンや他の者まで加わったらどうだ?」

「しかしグリラがいれば物の数では」

「無いかも知れないがな。今すぐにその連中と事を構えるわけにはいかない事情があって、り合えない」

「何だその事情と言うのは?」

「お前には教えられないのだよ。教えればお前の命が危うくなる」

「<管理者>の契約者の機能が絡む話か?」

「その延長線上にあると考えてくれて、そう遠く外れてはいない」

「なら、私を連れて行って下さい。あの人に別れを告げておきたい」

「ダメだ!ぼくのいないところでそんな真似はさせない!」

「そう幼い反応をするな。お前はこれから父親になるのだぞ?」

「ぐ・・・。なら、グリラ一人なら、どうだ?」

「仕方ないな。単に言伝するだけなら、荒事にもならないだろう」

 グリラは早速転移する様子を見せたが、その前にガルドゥムに釘を刺した。

「わかっているとは思うが、もう今までのような薬は使うなよ?使っていなかった薬もだ」

「わかっている!さっさと行け!」

「私に命令するなと、何度も言わせるな」

 それでもグリラは二人に背を向け姿を消した。

 二人きりになったガルドゥムは、当然の様にミミシュを求めてきたが、ミミシュはあらがわなかった。

 お腹の子に障ると言い訳も出来たが、それよりも、<管理者>に認められてしまった誓いがどの範囲までの拘束力を持つのか読めなかったのと、あの誓いを立ててしまって良かったのかどうかという迷いと後悔にとらわれていたせいだった。


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