表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/47

第二十五章 戸惑い

 エミリーが目を覚ましたのは、王都から逃げ出した夜も明けた頃だった。

「う、ううん・・・?ここは、どこ?」

「お、やっと目ぇ覚めたか」

「ここがどこかってのもとっても気になるんだけど、私がどうしてあなたに背負われてっていうか、何この状況?」

「あーっ、だ・か・ら!エミリー様が目を覚ました時にこのぼくが直に背負ってたかったのにー!」

「ファボ、お前が背負えてたのなんて、最初の一時間くらいだったじゃねぇか。その後のほとんどは俺がこうやって運んできてたんだろ」

 エミリーは、背もたれ付きの長椅子に膝を曲げて寝かしつけられ、ザギの体の前からの背負い紐がそのまま長椅子の上から下まで渡されてエミリーの体が不意にでも転げ落ちないよう工夫されていた。

「とにかく、もう自分で歩けると思うから、下ろしてもらえる?」

「くっそー、このぼくが!背中からお姫様だっこに移行して、至近距離で見つめあいながら!照れてはにかむエミリー様をじっと見つめながら優しく下ろして差し上げる予定だったのにーーー!!!」

「うるさいぞファボ。悔しかったらもっと強くなれ」

 ザギが背負い紐を無造作に肩から外しても長椅子は地面に落下せず、ふわりと着地して、落下防止の紐も優しくほどけた。

「ちょうど良いし朝ご飯にしよ。用意するよ」

 ウルベが大きな背負い袋を地面に下ろし、ビブが中から朝食の具材を取り合わせて配布した。

「エミリー、だいじょうぶ?」

 麦パンを切って間に乾燥肉とチーズを挟んだサンドイッチと水筒を渡されたエミリーは、受け取りながらも逆に問い返した。

「大丈夫って言われても、うん、体調的にはたぶん問題無いけど、玉座の間で何があったのか教えてもらうまでは、大丈夫とは言い切れないかな」

「だよね。まぁ、ぼく達が見聞きした事は伝えるからさ。ちゃんと食べて体力つけてね」

 そうしてビブは、自分も気を失ってからの出来事を、ザギやファボの証言も交えながらエミリーに伝えた。

 エミリーは、当然、何事も無かったかのように飲み食いする事など出来なかった。

「サラが・・・!?まさか、でも、そんな・・・」

「エミリーが演技でずっとぼく達をだまし続けてたんでない限り、あれはサラだったと思うよ」

「そんな訳無いじゃないの!」

「だよなー。他の魔法も全部使えたサラなら、グリラおばちゃんと戦って殺されかけた時も、自分で自分の身は守れてただろーし」

「ザギ様、その言い方はヒドイですよ!」

「まぁそうだけどでも、間違ってはないわね。首を落とされてまで演技は続けられなかったでしょうし。とにかく、私はエミリーで、サラ様っていうか姉さんじゃないから」

「でも、サラはおまえとずっと一緒にいるって言ってたぞ」

「それも、良く分からないのよね」

「何が?」

「だって、とりついてるって言うの?もしそうなら、呪術的には、すぐ感じられてないとおかしいじゃないの?」

「気づかれにくい在り方というか、通常では有り得ない何かをしているんだろうね。だって、間違いなく体は死んでたんでしょ?」

「間違いないわ」

「じゃあ、答えは明らかだよね。サラは、殺されても魂がこの世界に留まれる方法を見つけたんだよ。正確には殺されてなかったか、殺されたと<最悪の災厄>に判定されてその標的から外れた後に、体は蘇生させてどこかに隠してぎりぎり生かしてあるのかも知れないけど」

「何だよそれ。殺されても生きてるって有り得るのか?」

「普通じゃ、無理だよ。でもサラは、この世界の深奥を探求している間に、いざという時の為の回避手段を用意してたんじゃないかな」

「じゃあ、モーマニー様も?」

「その可能性はあるけどね。今のところ知っているのは、エミリーの体に宿っているらしいサラだけだ。王宮から王都を出た頃にはもう力が感じられなくなって、何度呼びかけても出てこなかったけど」

「実際にあった事なんでしょうけど、信じがたいわね」

「サラは、ぼく達の状況も把握してて、これからの指針まで与えてくれた。ザギは、エミリーに宿ってるサラを感じたり見たり触れたりするようになれって。そしたら<最悪の災厄>も攻撃できるようになるって」

「あなたと私には?」

「ぼくは、蓋をはずせるようになれって。それがザギやエミリーも必要としてる手助けになるみたい。エミリーに対しては特に無かったかな」

「そう・・・」

「ぼくが、蓋の外し方を見つければ、今は出来ない何かが出来るようになるんだろうけど、その蓋ってのがどんな物でどうすれば外せるのか、説明は無かったしね」

「ごめんね。意図的にサラ姉さんに切り替わる事も出来ないでしょうし。ね、姉さん?」

 返事は無く、エミリーはエミリーのままだった。

「やっぱりダメか。まぁ、姉さんからの課題は追々考えていきましょ。ここは、王都から西に進んできた辺り?」

「ですです。急げばあと2、3日でトウイッチの森に戻れます。これからは、名実共にエミリー様の守護戦士ガーディアンとなったこのぼくが、雷の双剣をサラ様から与えられエミリー様を守るよう命じられたこのファボール・ウィンゴットが、あなたを絶対に守り抜きます!」

 ファボが雷の双剣をエミリーにかざして見せつけると、エミリーは半歩引いてファボに言った。

「それ、危ない武器だし、あまり見せびらかして歩かない事ね。あなたが武器に殺されないよう注意なさい」

「どうしてですエミリー様?これはお言葉ですがエミリー様の空気の盾をも貫き、どんな相手だって痺れさせたり気絶させられるのに」

「そんな強力な武器を、大して強くもなく誰も手を出したくないような後ろ盾を持たない相手が持ち歩いてると知れたら、あっという間に狩られるわよ。あなたの命ごとね」

「・・・・・ま、守って下さいますよね、エミリー様?ザギ様やビブ様だって!」

「全く、誰が誰の守護戦士ガーディアンなのよ。さ、行きましょう。やる事は多くて、時間も必要な程には与えられないでしょうから」

「だな。でも、弱っちいファボがこれでちょっとした練習相手になったのは間違いないのは儲けものだぜ」

「下手したらぱしりから解放されちゃうかもよ、ザギ?」

「それは無いなー」

「えー、そしたら、今ここで勝負しましょうよ!」

「ダメよ。そんな暇無いわ。食べたらすぐに出発よ」

「そんな~」

「私達が王宮を訪れて去った事は知れ渡ってないかもしれなくても、雷の双剣が、暁の車輪のクルトの手から、名も知れない若者の手に渡って西の方に、おそらくはトウイッチの森へと移動してるとか噂が広まってたら追っ手がかかってておかしくないのよ?」

「何をぐずぐずしてるんですか今すぐ出発しましょう!そして全速力でトウイッチの森に戻って結界を万全にしてもらいましょう!」

「でも結局、グリラを倒したりミミシュを助け出したりしないといけないから、森を出ないといけないんだけどね。だから本当の意味で、あなたはその武器にふさわしい使い手になるしかないのよ」

「そりゃ、なれるものならなりたいですけど~」

「私の守護戦士ガーディアンになるってサラ姉さんと約束したんじゃないの?しっかりしなさい。男の子でしょう?」

「はははいっ!不肖ファボール・ウィンゴット!エミリー様にふさわしい男になれるようがんばります!」

「よろしい。さて、それじゃ出発しましょう」

 そうしてトウイッチの森へと急ぎ出発した彼らの休息した痕を、最初の追跡者が訪れたのはその半日後の事だった。

「待っててね~、雷の双剣ちゃん!あなたは絶対の絶対にあたしの手に取り戻してあげるんだからー!」

 そんな台詞を残して、彼女は一行の足跡を辿っていった。

2016/4/2 方角や誤字などを修正(守護棋士って何なんだorz)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ