第十五章 これまでとこれからについての話し合い
「まぁ、言うまでもなく、グリラの姉のオルクレイアに一目惚れして、将来の約束まで交わしてたようなグリラをふった事が一度目の裏切りだ」
「グリラは、素直に受け入れたの?」
「いいや。グリラはあの通り美人だが、オルクレイアはまた違ったタイプの、いやそれは話が逸れるな。とにかく彼女に足りない部分があるなら何とかするからと必死に縋ってくれたが、そういう問題じゃ無かった」
「お姉さんの方はどうだったの?」
「お互いまだ若かったからな。最初に燃え上がってた頃はグリラの事はそんなに気にしなかったが、少しずつ落ち着いてきて、グリラがまだ何とか俺とよりを戻せないかとけなげに尽くす姿を見て、さすがに心が痛んだらしい」
「痛まない方が人としてどうかと思うけど」
「ま、まぁそれでオルクレイアから提案される形で、俺達はいったん別れた。グリラはそれでひとまず溜飲を下げたが、だからといって俺はグリラとよりを戻そうともしなかった。気持ちはオルクレイアにしか向いていなかったからな」
「俺でも次の裏切りは想像がつくぞ?」
「そうね、ザギ。別れるって言ったくせに別れなかったんでしょ?」
「サラやお前が産まれてるってのはそういう事だよ。諦めきれなかった俺がオルクレイアを説得し続けて、グリラの目の届かない所でならと、その当時のパーティーは解散して、遠くへ二人で移住して、そこでやがてお前とサラを授かって、俺とオルクレイアは正式に結婚する事にした」
「それが二度目の裏切りって事だね」
「ああ。俺は止めたんだが、オルクレイアは腹違いとはいえ妹には隠しておけないし出来るなら祝福して欲しいと願ってたから、結果、グリラにも伝わってしまった。当然、責められたさ。激しく、厳しくな・・・」
「想像できるわ。無理も無いと思うし、心情的には母さんよりもグリラに同情するわよ」
「それで、次の裏切りってのが何になるんだ?」
「その結果が今の取り決めとか人質を取られてるような事態につながってるんだろうけど」
「君達は本当にゴブリンとは思えないな。トウイッチに今度詳しい話を聞いてみたいが、とはいえ話を戻そう。グリラにあまりに厳しく責められ続けた俺は切れた。逆ギレして、かっとして、とんでもない約束をしちまったんだ」
「聞きたくないけど聞かせて、いや聞かせなさい」
「俺と勝負して、勝てたなら妻と別れてやるとグリラと約束したんだ」
「はぁぁっ?!」
「当時まで、グリラは純粋な治療師だったからな。もちろん直接戦闘なんて弱い魔物相手ならともかく戦闘の専門職と腕を競える筈も無かったから、回数制限はかけなかった。それが、マズかった・・・」
「そこから鬼の様に修行したグリラに逆転されたんだね」
「そだ、あの力が抜けてったの、あれもグリラの魔法だったのか?」
「そうだ。グリラはヒーラーだ。ヒーラーは、自分の体内だけじゃなく、世界に満ちている生命の元素を用いて癒しの魔法を行使する。その魔法で自身の体の強化も出来るし、周囲の敵から吸収して弱体化させたりも出来る。だたしグリラ程強力に生命の元素を操れる奴は他にいないと思う。暗器の数々が無力だとは言わないが、目くらましの飾りだよ。俺に勝とうとしていろいろ試行錯誤してた頃の思い出の欠片を今でも身につけて愛用しているだけだ。戦士団にいた頃はヒーラーである事自体を秘密にしてたけどな」
「それで、負けたのに、約束を守らなかった。守ろうとしなかった。それが次の裏切りね?」
「ああ。負けたらオルクレイアと別れると約束して五年が経った頃に俺は初めてグリラに負けたが、別れられる筈も無かった。オルクレイアはその時すでに次の子供を身ごもってて、もうすぐ産まれるという時期だったんだ。だから俺はオルクレイアを連れて行方をくらました。俺に他の選択肢は無かった」
「何だかなぁ・・・」
「それで、それがどう続いて今の状況になったの?」
「その頃までにトウイッチの契約者になってた俺は、トウイッチの助けも借りて普通の手段では絶対に見つからない場所に隠れてた。いくら探しても手がかりすら得られなかったグリラもその仕掛けに気が付いて、だから、<最悪の災厄>と契約した。あいつが彼女と契約できたのは、境遇から同情されたのもあるんだろうな・・・」
「同情って?」
「そっちは完全に話せない領域だ。すまないな」
「えーと、そしたら次は<最悪の災厄>付きで居場所を突き止められて、お母さんと、たぶん産まれてた子供、私にとっては会った事の無い弟になるんだろうけど」
「アトールって名前だ。今年で十歳になる」
「ってちょっと待って。今までの話の流れだと、私もその取り決めが結ばれた時に、テューイやお母さんと一緒にいたんじゃないの?」
「もちろんいたさ。サラもだ」
「でも、テューイやサラと一緒にいたような幼い頃の記憶なんて無いわよ?サラ様もそうだって言ってたし」
「記憶の操作だよ。<管理者>様にはいろんな特権が与えられてるんだ。トウイッチでさえ介入出来ない事のが多い」
「テューイさん。<契約者>とか<管理者>とか、どういう意味なんですか?話せる範囲で教えて下さい」
「契約者ってのは言葉通り、トウイッチや<最悪の災厄>と契約した者ってだけだ。用事を言いつけられたらその用事を契約相手に対して果たして、その代わり願い事を聞いてもらえる。叶えてもらえるかどうかは別の問題になるが。<管理者>については、そうだな・・・」
ごくり、とテューイの周りの何人もが固唾を呑んで続く言葉を待った。
「どこまで話せるんだか分からんが、トウイッチが、この世界の創造主の元飼い犬で、創造主から与えられた知恵の実を食べさせられて<奇跡を生み出す者>となり、この世界からいなくなってしまった創造主を呼び戻そうといろんな発明を続けてるのは割と知られてる話だが・・・」
「そうか。<管理者>って事は、創造主から自分が生み出して残していく世界の管理を任された者って事、だけど、え、でもそうすると・・・」
「ビブ。君は賢い。故に危うい。今ここにグリラも<最悪の災厄>も現れようとしていないのは、たぶん、すでに君達の何人もが契約者のグリラの口から、<管理者>の名を聞かされて、彼女の殺すリストに載せられているからだろうな」
「え、何、それじゃ逃れようのない天災や不運の象徴として語り継がれてる<最悪の災厄>が、この世界の創造主から跡を託された<管理者>なの!?」
「俺は知らないと答えておく。お前も余所で吹聴して回るのは絶対に止めろ。言った方も聞かされた方もいつどこで<最悪の災厄>に殺されるか分からないからな。お前が言った通り、どこへ逃げようが逃れようも無いんだ」
「この世界の<管理者>だからか。確かにそれは笑えぬな」
「ああ、笑い話では済まされない。君達はいずれグリラに殺される。もし彼女がしくじり続ければ、<最悪の災厄>に直接殺される。防ぐ手立ては存在しない」
「トウイッチでも?」
「可能性が無いでもない程度だ。トウイッチ自身は絶対に<最悪の災厄>の標的にはならないし害されもしない。何故なら、いや、言わないでおこう」
「もうここまで来たら言われないでも分かりますよ。創造主に置いて行かれたのは<管理者>も同じ。自分の権能が及ぶのはこの世界の内側に留まるとしたら、その外側に対して何らかの奇跡を起こす事を、そして創造主を呼び戻す事を彼女もトウイッチに期待しているのでしょう。だとしたら」
「そこら辺で止めておくんだ、ビブ君。君がそれを口にしたら、本当にこの場に顕現してもおかしくなくなる」
「分かりました」
ふぅ・・・、と誰ともなく息をついて間が空いた後に、グーゴルルは徐に最初の問いを繰り返した。
「テューイ殿。あなたの過去の是非について今はとやかく言わない。だが、なぜグリラがここに来たのか、なぜ妻が殺される事態となったのか、教えて欲しい」
「グリラには妻と息子が直接的に人質に取られてて、グリラが許してくれた時でないと無事を確認出来ない。それはつまり」
「その為の殺し合いなんだ」
「俺はあいつを殺す事も、あいつに殺される事も禁じられている。だが、あいつに勝つか、勝負であいつを満足させる事が出来れば、妻と息子の無事を直接確認する事が許される。もし取り決めの制約に反してあいつが妻や息子に危害を加えるような事があれば、俺にも即座に伝わるし、約束を破るような事があればあいつも<最悪の災厄>に殺されるだろう」
「ええっと、ちょっと待てよ。勝ってもそれだけの条件しか与えられないなら、どうやったら人質は解放されるんだ?」
「その条件は与えられてはいるが、与えられてはいないようなものだ・・・」
「グリラ自身が取り決めに違反する事が一つの可能性だけどそれはたぶん起こらない。テューイが勝っても人質と会えるだけ。与えられてるけど与えられてないって言葉からすると」
「そうだ、な。妻を俺のこの手で殺せば、他の人質は解放される。が、そんな事は決して出来ない。ちなみに、妻自身が自殺をしても他の人質は全員殺される」
「あなたの裏切りの象徴だからですね」
「そうだ・・・。それで、グーゴルルさんの質問に戻ると、年に一度、かつて俺がオルクレイアに引き合わされてグリラを最初に裏切った日に、あいつと全力の勝負をしていた。殺し合いと言ってもいいが、俺は殺されても殺してもいけなかったがな。そしてモーマニーの戦士団にいた間は殺し合いは禁じられていたが、モーマニー亡き後、当然、約束された勝負は行われる筈だった」
「そこに<穀潰し>を持って行かなかったのは何故なの?なんで私に預けたりしたの?!」
「お前が俺の娘だって事は当然トウイッチも知ってたさ。だけどな、お前に<穀潰し>を託してトウイッチに返す事で、俺はもう今までの様な関係に胡坐をかいていられなくなったって事を伝えたかったんだろうな」
「サラが、姐さんが殺されたから・・・?」
テューイが苦々しくうなずいた姿を見て、グーゴルルは低いうなり声を上げながら頭を振った。
「何年かぶりの全力の勝負を反故にされたグリラは激怒して、テューイの代わりに、エミリーに託された<穀潰し>を取りに来た。テューイは親指を負傷させられて、待っているよう言い付けられていたのに、その禁を破った。破ればエミリーは殺すと約束されていたのに、それでも来てしまった」
「なるほどな、ビブ君。事情は分かった。承服したとも納得したとも言えないが、子供達にどう話したものか、まだ分からないが、ともかく、テューイ殿、お願いがある」
「何なりと。殺される以外でお願いするが」
「殴らせろ。何発かは言わんが、気の済むまでだ」
「構わないが、足元がふらついている状態では」
「座っている状態ならどうとでもなる。いくぞ!」
グーゴルルはテューイの返答を待たずに、拳を握り込んでテューイの頬を打ちぬいた。ダメージ的にはまったく応えた様子は無かったが、グーゴルルは構わずに腕を大きく引き戻し、二度、三度、四度、五度と、打たれる度に正面に向き直るテューイの両頬を殴りつけると、椅子から立ち上がって言った。
「今夜の話し合いの機会には感謝する。明日にはフーメルを弔う葬儀を行うから、今夜、私はフーメルと二人で過ごす。テューイ殿を除く方に参列してもらえれば有り難く思う」
テューイは無言で頭を深く下げ、よろめきながら歩き出したグーゴルルを支えようとファボが脇に駆け寄ったが、グーゴルルは手振りだけで無用だと断り、そのまま木々の幹に倒れすがるようにトウイッチの家から去って行った。
グーゴルルの姿が梢の間に見えなくなってから、エミリーはテューイに尋ねた。
「あの、さ。私のお父さんとお母さん、育ててくれてた方のって事になるんだけど、当然、事情は知ってたのよね?」
「ああ。お前の養父になってもらったコバは、盗賊兼商人で、俺とグリラが組んでたパーティーの一員でもあった。俺とグリラの間の事情も全部知ってたし、二人の間に子供はいなかったから喜んで引き受けてくれた。コバの奥さんのリャクテもグリラに同情的だったから、グリラもこの案を受け入れてくれた。モーマニーはコバつながりで紹介されてな。連れ添っていた女性を亡くされて以来独り身を貫いてたから、その女性との間の子供という事になった」
「私がサラ様の身代わり、影武者としてモーマニー様の王宮に呼ばれて、テューイにも初めて会った、まぁ実際には違ったわけだけど、それまでの間一度も会わなかったのは、グリラとの取り決めだったの?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「はっきりしないわね。でもそうか、サラとはもっと前から会ってた筈なのに、グリラは禁じなかったの?」
「言っただろう?俺から気付かせるような言動さえ慎んでいればとりあえず取り決め違反にはならなかった。だが、世界有数の豪商になりかけていたモーマニーが自分の、いや商人達による国の設立を実現しようとしたのは、サラを娘として引き取って後の割と早い時期だった」
「もしかして、その頃から手伝ってて会ってたの?」
「サラと会うのはもう少し後だったが、辺境の空白地に国の樹立を宣言して、周辺の辺境貴族達に賄いを渡しておいても、いざ本当に勢いのある勢力が立ち上がろうとすれば有形無形の妨害が無数に起こった。その内力尽くの荒事でないとカタがつかない依頼にちょくちょく手を貸してる内に、戦士団の団長なんて物まで任されるようになって、その頃にサラとも会った。エミリー、お前を王宮に迎え入れたのは、周辺が安定してからだったから、もう少し後だったけどな」
「記憶を操作して引き離した筈の娘二人を側に置くなんて、取り決めには違反してなかったかも知れないけど、グリラが何も口出しとかしなかった訳も無いよね?」
「その通りだよ、ビブ君。しかし二人の娘を前にして真実を明かせないという葛藤もさりながら、事情を知っていたモーマニーが俺とグリラのを含めた戦士団員の間の殺し合いを禁じた事で、俺はオルクレイアとアトールに会えなくなってしまった」
「会えなかった二人に会えるようになった代わりに、会えていた二人に会えなくなるのなら公平って事ね」
「グリラの理屈から言えばそうなる。事実そうやって折り合いをつけてくれた」
「でもよ、グリラはもうテューイより強かったんだろ?なのにテューイが団長だったのは何でだ?」
「グリラは俺と違って強さをひけらかしてはいなかったからな。モーマニーとの強いつながりも最初は無かったから、エミリーが王宮に入ったのと同じ頃に俺からの推薦て形で副団長扱いで戦士団に入った。いきなりだったから、当然反発の声は強かった」
「でもどうせ実力で叩き潰したんでしょ?」
「当時副団長だった奴と特に強く反対してた奴ら五人をまとめて半殺しにした。俺とかが割って入らなければ誰かは殺されてただろうな。モーマニーが団員同士の殺し合いを禁止したのはその事件の後だったから、狙ってそうしたのかも知れないが」
話が一区切りついた事を感じたビブが地下スペースでお湯を沸かし、お茶を残っていた面々に振る舞うと、飲み慣れない暖かい飲み物の味に困惑しながらもイージャが尋ねた。
「おおよその状況は分かった。ここにいる面々がこのままではグリラか<最悪の災厄>に殺されてしまうだろう状況も含めて。であれば次は、どうすればその状況を打破できるかではないのか?」
「俺とグリラの間の取り決めに関しては、俺かオルクレイアが自然死するか、俺がオルクレイアを殺すくらいしか終わらせる方法は無い」
「グリラが第三者に殺された場合はどうなの?」
テューイはほろ苦い顔をして言った。
「試さなかったと思うか?」
「なるほど。試して、失敗して、たぶんテューイかオルクレイアの親族が報復として犠牲になったのかな」
「ご明察だよ、ビブ君。で、<最悪の災厄>を退ける方法だが、これが見当も付かない。武器でも魔法でも通常の攻撃手段として考えられるようなものは一切通用しないからだ」
「サラの強力な魔法も、全く通じないであっさり殺されてしまったものね・・・」
胸をぎゅっと押さえたエミリーに、テューイはうなずいて続けた。
「トウイッチでも、<管理者>は止められない。これは確認済みだ」
テューイのその言葉に望みを絶たれたようにうつむいた者が多くいた中で、それまで考え込んでいたザギが声をあげた。
「いやでもさ、アドミンて奴、この世界からいなくなりたいんだよな?」
「その言い方は正しく無いかも知れないが、そうかも知れないな」
「だって、この世界を創った奴を呼び戻したいって事は、そいつと一緒の場所に行けたらそれでも満足するんだろ?」
「その答えを知ってるのはアドミンだけだろうが、もし彼女自身にそうする事が許されているのなら、もうとっくにそうしていたとは考えられないか?」
テューイの指摘にザギは反論出来なかったが、ビブは違った。
「それは簡単です。この世界を託された者として、そんな行為には及べ無いように制約を創造主から課されているのでしょうね。さらに言うなら、彼女自身を滅ぼせるような存在をアドミンは認められない。だから創り出せない」
「でもトウイッチなら違う。その筈よね、テューイ?」
「その推察は間違っていないかも知れない。しかしだ、それもやはり出来る事なら最初からアドミンとトウイッチはそうしたと思わないか?」
ビブはさらに考えてさらに付け加えた。
「トウイッチがそう望んでいなかったから、というのはどうでしょう?」
「そっか、さすがだぜビブ!トウイッチが協力するふりだけ続けて実はそのつもりが無かったのなら・・・!」
ザギがテーブルに身を乗り出して言ったが、
「そんな単純なわけが無いし、そんな事続けてて<管理者>にばれない訳が無いだろ」
「「トウイッチ!」」
テーブルの上には、突如として一匹の直立した犬が出現していた。世界の誰にも、<最悪の災厄>と同じくらいに知られた<奇跡を生み出す者>。背丈は立った状態で90センチほど。白い毛並に、赤い首輪、黒い垂れ耳、黒い鼻と同じ色の黒い帽子のつばをちょっとだけ掲げてみせて挨拶の口上を述べた。
「初めての方は初めまして。そうでない者も、そうであるのにそうでない事になってる者もまぁとりあえず初めましてか、やぁこんにちは久しぶりって事で。ビブとザギも良く生き残っててくれたね」
「てゆーか戻ってくるならもっと早くに戻って来ておけよな」
「うーん、どっちかって言うと、もっと早くに戻ってはいたけど様子を見てた感じじゃないの?」
「ほい、ビブのが正解。ていうかね、<最悪の災厄>の契約者が森に入った時点で検知はしてた。どんな事態になりそうか予想もついてたけど、こっちの契約者も森に向かってたのも知ってたからね。<契約者>同士のいさかいにその契約主達は直接介入しない取り決めになってるから様子を見てた。フーメルは残念な事になってしまったけど、ぼくの実験台達が無事だったのは何よりだよ」
「でもグリラの殺すリストに載って、<最悪の災厄>の標的にもなっちゃったみたいだけど」
「そう<管理者>から通知を受けたから、滞在先から転移してきたんだけどね。とりあえずいきなり殺される事態にはならないからそこは安心して良いよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「他の誰かが言っただろう?ぼくは<管理者>に協力している立場で、そしてザギとビブはぼくの大事な実験台だと」
「何の実験台なんだ?」
「テューイ。久しぶりだけど、ここまでずたぼろにされた君を見るのは久しぶりだね。両手の親指に関しては心配しなくて良いよ」
「ついでに言うと、両手足失ってしまった戦士もいるから」
「そっちもついでで片付けるから心配しなくて良い。ザギとビブにも、今までは正確な実験目的を伝えては来なかった。何でかはこれから言う答えを聞いてもらえば、今みたいな状況にたどり着くのを待っていた事を分かってもらえると思うけど」
「もったいぶるなよトウイッチ」
「君にとってもこれ以上重要な情報なんて無い筈なんだからさ、ザギ。もっと心して聞きなよ」
「この状況を待ってたって事は、もしかして・・・」
「言ってみなさい、ビブ」
「もしかして、殺せない筈の存在を殺せる存在を造れるかどうかの実験?!」
「大・正・解!ビブ、君は次の段階に進む準備が出来たようだね。ザギ、君に関しては、そこのテューイから得られるだけの指導を受けてからだ」
「そしたら、どうなるんだ?」
「ゴブリンなんて種族の枠を越えた、人間よりもオーガよりも誰よりも強い、何者をも倒せるかも知れない存在だよ」
トウイッチの言葉に他の者達は静まり返ってしまったが、ビブが補足し、その内容をトウイッチもうなずく事で肯定した。
「正確には、そうなれるかも知れないけど、なれないかも知れない、ですよね?」
2015/10/16
トウイッチようやく登場でございます。
テューイがやらかした事はまだまだあるのですが、話がまたそれるので別の機会があれば書きます。




