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第十四章 白状させられたテューイ

 グリラ達が去った後、ザギ達は先ずグーゴルルを呼ぼうと笛を吹いた。フーメルの亡骸なきがらをどうすべきか、子供達にはどう伝えるべきか、ザギにもビブにも分からなかった。

 しかし何度笛を吹いてもグーゴルルはやって来なかったし、みな疲弊していたし、エミリーはフーメルの血にまみれて風邪を引きかけているせいか体が震えているのを見て、ビブは提案した。

「みんな、いったんトウイッチの家に戻って休もう。濡れた体洗ったり拭いたりして、乾いた服に着替えないと。フーメルさんの遺体もこのままには出来ないし」

「体洗うとか俺はそんなの一番後でいい。とりあえず俺はファボが無事かどうか確かめてくる」

「分かった。お願いするよ」

「ついでに、グーゴルル達の家の様子も確かめてくる」

「子供達に出くわしたらどうするの?」

「隠してもどうせわかっちまうなら、早い方が」

「グーゴルルがその場にいなさそうなら、まだ伝えないでおいて」

「あいよ。その代わり、こっちはビブに任せた」

「うん。任せて」

 ザギは、テューイから顔を背けて一言も口をきこうとしないエミリーの様子をちらりとだけ見てから、その場を後にした。


 ザギは反省部屋まで炎は届いていなかった事に安堵して、扉を開けてファボの無事を確認した。

 ファボは寝台に腰掛けていたがザギの姿を認めると駆け寄ってきて立て続けに質問した。

「ザギ様!あの後結局どうなったんですか?リー様っていうかエミリー様は無事なんですかお怪我はされたりしなかったんですかあいつらは去ったんですか誰か殺されたりはしたんですか?!」

「エミリーは無事だ。生きてる。怪我はしたけどフーメルが癒してくれた。そのフーメルがグリラに殺されてしまったけど・・・」

「そ、そうですか・・・。優しい人、というかコボルトだったのに」

「グリラ達はとりあえずいなくなってすぐには戻って来ないだろうけどさ、ここにグーゴルル来なかったか?」

「いいえ」

「そか。じゃ、俺はグーゴルル達の家行って様子確かめて来るからさ。悪いけどここでまだ待っててくれるか?」

「・・・ザギ様。お願いがあります!」

「なんだよ?」

「ぼくがもう裏切るつもりが無いのは今回の事で分かって頂けたと思うのですが」

「それで?」

「ぼくも、あなた達のところに連れて行って下さい!」

「トウイッチの家に?」

「そうです。エミリー様が怪我をされたというなら、フーメルさんが殺されたというなら、それなりに危ない目にも会われたのでしょう。そんなあの人の側にぼくはいてあげたいんです!」

「まー、俺はかまわないかもだけど、ビブは何て言うかなー。それに、ファボだとあの穴通れないと思うんだよな」

「穴?」

「ま、いいや。それじゃすぐグーゴルル達の家に行くぞ。グーゴルル、せめて家にいてくれればいいんだけど」

「子供達になんて伝えたらいいか、分かりませんよね」

「ああ・・・」


 ザギはファボを伴って、グーゴルル達の家に向かった。それはやはりコボルトの巣らしくない、トウイッチによって準備された樹上の家だった。

「とりあえず家は無事みたいだ」

 ザギが胸をなで下ろして、さてどうやって気付かれずに家の内側の様子を確かめたものかと思案していると、家の窓が開いてグルルが顔を覗かせて言った。

「おい、ザギ!もう人間の襲撃者達はいなくなったのか?母さんは無事なのか?」

 そう言えば異常に鼻が利くんだったコボルトはとザギは内心舌打ちしたが遅かった。

「グルル、先に訊かせてくれ。グーゴルルさんはいるのか?」

「いるけど、人間達の臭い袋に鼻やられてほとんど動けない状態なんだ・・・。それで、ザギ、母さんは?」

「悪い、グルル。先にグーゴルルさんと話させてくれ」

「ザギ、答えろよ!」

 ザギが答えられないでいると、グルルの背中に手をかけて家の中に引き戻したグーゴルルが窓から顔を出して言った。

「今降りていくから待っててくれ」

「大丈夫なのか?こっちから上がっていこうか?」

「いや、いい。君の心遣いを無駄にするつもりは無い」

 グーゴルルが顔を引っ込めて窓を閉めると、ファボはザギに尋ねた。

「あの樹上の家、一番下の枝まで7メートル近くありますし、階段もロープも梯子みたいのもありませんけど、どうやって出入りしてるんです?」

「ま、トウイッチの用意してくれた仕掛けを使ってだよ」

 ザギがそう言ったのと同時に、唐突に姿を目の前に現したグーゴルルにファボは驚いたが、グーゴルルは取り合わずにザギに言った。

「悪いが肩を貸してもらえないか?鼻が利かなくなってしまったせいか、まともに歩けなくなってしまったんだ」

「いったい何があったんだよ?」

「詳しいことは、家から離れてから話そう」

「分かった。ファボ、逆側を頼む」

「ああ、はい」

「かたじけない、ファボ殿」

「どういたしまして・・・」

 家から何分か歩いて離れる間にも、グーゴルルは子供達が隠れて着いてきていないかどうか何度も振り返って確かめた。

 充分に離れてからやっと、グーゴルルは語りだした。

フーメルは殺されたのだな?」

「ああ。悪い。守れなかった」

「無理もない。あれは、禍禍まがまがし過ぎる存在だった。例え自分が側にいたとしても、共倒れしか出来なかっただろう」

「じゃあ、グーゴルルもあいつを、グリラを見たんだ?」

「ああ。臭い袋のせいで、あまり近寄れなかったが」

「何なんだその臭い袋っての?」

「言葉そのままだ。鼻の利く動物避け。コボルト避けに使われるものをばらまかれて、おそらく自分達の迷った時の道しるべにも、後から追ってくる者達への足跡代わりにもしたんだろう」

「それでグーゴルルの鼻もやられちまったのか?」

「ザギがあのグリラとかいう人間の女と対峙していた場所の風上に撒かれていたのが特別製だったようだ。他のは無理をすれば近寄れないことも無かったから、完全に油断していた。フーメルの癒しを受けてもどうにもならなかった。二人揃ってやられなかったのが不幸中の幸いだった。でなければフーメルが、あの炎の魔法使いに拘束されていた者達を見つけて介抱する事も出来なかっただろう。森に逃げてきていたゴブリン女王候補プリンセス達に両手両足を失っていたクルトを任せ、フーメルとミミシュには君たちの後を追ってもらったが、いや、それも逆に命取りとなってしまったか」

 自虐的に言うグーゴルルに、ザギは伝えた。

「フーメルさんがいなければ、リー、本当はエミリーって名前らしいけど、リーは死んでたかも知れないし、ミミシュがいなければ両手の親指を失って首に炎巻かれてたテューイも死んでたかも知れないし、そしたら他にまだ何人殺されててもおかしくなかった。だから」

「ありがとう、ザギ。それで妻の亡骸は今どこに?」

「トウイッチの家」

「そうか。そこへ向かうとして、先に妻が殺された場所に立ち寄ってくれないか?」

「わかった・・・」

 両側から補助を受けても足下がおぼつかないグーゴルルは、雨にぬかるみ、半分焼け野原に囲まれた場所にたどり着くと、ザギが言わなくてもフーメルがグリラに殺された場所へよろめきながらも進み、まだ所々赤く染まったぬかるみに倒れ込んで慟哭した。

 その姿を見たファボは、隣にいたザギに囁いた。

「失礼な事を言うと分かってるけど、言わせて下さい。コボルトも、家族を亡くしたら悲しんで泣くんですね」

 ザギは何も言わず、ファボの臑を蹴るにとどめておいた。蹴られたファボも何も抗議しなかった。

「妻に、会わせてくれ」

 立ち上がったグーゴルルをザギとファボは再び支え、トウイッチの家へと向かった。


 ザギがいなくなってから、ビブはエミリーをトウイッチ特製の浴室へと案内した。テューイは幹の穴を通れそうも無かったが、

「心配するな。中に入ろうと思えば俺は入れるから。その、エミリーを頼む。俺はまだ外を見張っていよう」

「そうですか。ではお願いします」

 そんなやりとりがあって、テューイはフーメルの亡骸とともに、幹の穴の前に残った。

 地下スペースに降りたビブは、乾いた布を何枚か持ってくると、エミリーを樹上のコテージ部分に案内し、その壁の一面を外へ押すと、さらに上へと続く階段が現れた。

 手すりが申し訳程度についた細い回廊を上がっていくと、その途中にある扉を開いてビブは言った。

「服とか脱いで入って、壁にあるスイッチ押せば壁面とか天井からお湯が出てくるから。温度や流量もダイヤル回せば調節できる。トウイッチとかぼく達用に作った物だから狭苦しいのは我慢してね」

 エミリーは扉の内側をのぞき込み、ビブが説明してくれた装置類の所在を確かめてから尋ねた。

「脱ぐの?ここで?」

「何か問題あるの?」

「ええーとね。ゴブリンはどうだか知らないけれど、人間は、その、特に年頃の女の子は、誰かの前で裸になったりしないのよ。よほどの事が無い限り」

「ふーん。そしたらぼくは下に降りてるからさ。終わったら装置止めて来て。体洗うついでで今着てる物もいったん洗ってしまった方がいいかも知れないけど任せるよ」

「そうね・・・。気を使ってくれてありがとう、ビブ君」

「どういたしまして。それじゃまた後でね」

 ビブは浴室の外に乾いた布を置き、回廊を降りていくと、エミリーは自分のひどい有様を改めて確認した。沼に何度も落ちてずぶ塗れになった状態のままフーメルの鮮血を真正面から被り、血みどろになったところを雨と炎の熱風とに煽られて何ともいえない生乾き状態となっていた。

 ビブが下の扉をぱたんと閉めて足音が聞こえなくなると、エミリーは背を屈めて浴室?に入り、お湯を出す目盛りを回してみた。

 その途端、天井一面から適温といって良いお湯が流れ落ち始めたので、エミリーは余計な何かをいじって変な事になるのは避け、まずは服を脱いで流れ落ちるお湯で洗える限り手揉みで洗った。

 何とか血の赤みがほとんど抜けた頃になって扉の外に濡れた服を放り出し、膝立ちになって体を安定させ、髪にお湯を通して血を流し落とし、その後で顔や全身をぬぐって人心地ついた。

 が、その途端、グリラの

「あなたのお父様に聞きなさい」

 という一言を思い出して震えが止まらなくなった。

 怒りとも悲しみともつかない激情が沸き上がってきて、自分でもどう向き合えば良いか分からなかった。

 エミリーはとりあえずお湯を止め、ビブが置いていってくれた大きめの乾いた布で全身を拭いて乾かし、さらにもう一枚が簡単な貫頭衣ポンチョになっていたので頭と腕を通してみた。おそらくザギやビブ用にあつらえられた物なので膝丈がかなり心もとなかったが、贅沢は言えず、とりあえず体を拭いた布を腰下に気休めに巻いた。

 洗ったばかりのローブを持って降りていくと、食堂にも幹の入り口にもビブはいなかったが、地下スペースのキッチンにいて、食事の準備をしていた。

「ビブ君、気が利くのね、とっても」

 縄梯子をエミリーが降りていくと、ビブは言った。

「服、洗ったんだね。あの薫製器、目盛りを調節すれば乾燥機としても使える筈だから、ちょっと待ってね」

 ビブは薫製器の蓋を開け、スイッチを入れて目盛りをかちかちと回すと、煙が外に吹き出してくるような事はなく、熱風だけが吹き出してきた。

「服、貸して」

「大丈夫なのよね?これ、サラ様にもらった大切な物なの」

「平気だよ。焦がしたり燃やしたりしたのは最初の内だけだからさ」

 う、と心配になりながらエミリーが差し出したローブを、ビブは無造作に内側の台に乗せて蓋を閉めてしまった。

「後は時々覗いて落ちたりしてないか確かめれば大丈夫だよ」

「それ大丈夫って言うの?!」

「へーきへーき。フーメルさんからもらった服も、ここ一年以上は焦がしたりしてないしね。もうもらえなくなっちゃったから、大事にしないとだよね」

「ビブ君・・・」

「ほら、エミリーも手伝ってよ。いつもよりだいぶ多めに作らないといけないだろうからさ」

 ビブが作っているのはじゃがいもと肉をざっくりと切り刻んで油で揚げた物だった。

 エミリーが手早く作れるスープをこしらえた頃に、地下スペースへの入り口からザギが頭を出して声をかけてきた。

「ビブ。ファボとグーゴルルさん連れてきた。それからウルベとイージャとエルベも来てる。クルトのおっさんはイージャ達が自分達の巣穴からトウイッチの森へ掘ったトンネルに隠してくれてるらしい」

「そっか。一人を置いてく代わりに一人を連れてくって言ってた置いてかれた方は、クルトさんの事だったんだね。ザギ、ここに入れない人もいるだろうから、椅子とかテーブルとか外に出して。あとテントも」

「料理作ってくれてるの嬉しいけど、とりあえず後回しだ。いったん外に出て来てくれ。リーも」

 ザギは反論を待たずに外に出て行ってしまったので、ビブも料理する手を止めて上に上がっていこうとした。

「待って!その、服が乾いてるか確かめてもらえると嬉しいかも」

「さすがにまだ乾ききってないと思うよ」

 そう言いながらも薫製器兼乾燥機のスイッチを切って蓋を開け、エミリーの服を取り出してくれた。

 エミリーも自分で触ってみて、乾ききってはいないものの十分に着れるくらいではあったので、ビブに外に出てもらってから着替えた。あの穴を頼りないポンチョと腰に巻いた布で通り抜ける事にはかなりの抵抗を覚えたからだった。


 エミリーが外に出ると、グーゴルルがフーメルの亡骸の傍らに両膝をついて声を上げずに泣き濡れていた。

 テューイはグーゴルルに頭を下げて謝罪した。

「すまない。守れなかった」

 グーゴルルはうつむいたままテューイに尋ねた。

「あれ程の相手だ。トウイッチとの契約者であるあなたでも守れなかったのは仕方あるまい。万全な状態でも無かったようだしな。だが、聞かせてくれ。あいつはなぜやってきた?妻はなぜ殺された?」

「フーメルさんは、私を助けようとして」

「いいや。俺が、来るべきじゃなかったんだろう。グーゴルルさん、あなたはどこまでトウイッチから聞いている?」

「トウイッチの<契約者>があなたで、妻を殺したグリラがその対となる存在という事くらいまでかな」

「そうか。それじゃ、全部を語れない事は・・・」

「承知している」

「おい、なんだよ二人だけで分かったような会話して。契約者って何だよ?ビブ、知ってるか?」

「ううん。聞いた事無いし、家にある本でも読んだ事無いと思う」

「短くない話になるから、先にあんたの奥さんの亡骸を葬るか・・・?」

「この無惨な有様は子供達には見せたくない。が、いきなり土の山を見せられても子供達は納得すまい」

「下手するとグリラ達の後を追っていきかねないからな」

「それが、一番怖い」

「じゃあ、雨に濡れない場所って言うと、反省部屋くらいか。イージャ達の方に安置させてもらうのは何か違うだろうし」

今度こたびもまた迷惑をかけた故、仮の墓所を設営するなら手の者を集めるが?」

「いいや、それには及ばない。一晩だけでかまわないが、そうさせてもらえるか?」

 グーゴルルに頭を下げられたファボは顔を左右に振って答えた。

「迷惑なんて訳ありませんけど、でも、ぼくは今晩はこの近くで野宿させてもらいますよ」

「気持ちは分かるよ、ファボ」

「ありがとうございます、ビブ様」

「んじゃ、フーメルさんを安置してこようぜ。そしたらここに戻ってきて、晩飯にしながら話を聞かせてくれよな」

 ザギに腿の裏をばしんと叩かれたテューイは苦笑いしたが、反論はしなかった。

「その前に、少しだけ待って。このまま子供達が会うのは、きっとフーメルさんにとってもつらいだろうから。ビブ君、おけみたいのある?」

「ん、あるよ。手伝う」

 相変わらず察しの良いビブが乾いた布とお湯を入れた鍋を持ってくると、エミリーのやろうとした事をグーゴルルが代わりに行い、弔う時の死に装束は、後で家から取ってきて着替えさせる事となった。

 フーメルの亡骸の汚れを拭っている間、手の空いていた者達が担架を作り、反省部屋へと安置し、そこでしばしの黙祷を捧げた後、一行はトウイッチの家へと戻り、地下スペースから運び出したテーブルや椅子に座り、ビブとエミリーの用意した夕食にありついた。

 誰もが疲れきり、積極的に口を開こうとはしない静かな食事の時間だったが、その分一人の例外もなくあっさりと食べ終わってしまったので、テューイから一番遠い席に座っていたエミリーが尋ねた。

「テューイ。いろいろと聞きたい事があって、でも答えられない事が多いってのはうんざりするほど聞いてるけど、答えられるなら答えて。あなたは、その、私の・・・」

「ああ、そうだ・・・」

 いっぺんに様々な感情が沸き上がってきたエミリーは、どうにかそれらに折り合いをつけて、一つの質問を口にした。

「どうして教えてくれなかったの?サラは、グリラの話からすると、同じだったんじゃないの?あなたが」

「そう、だ。だが、言えなかった。俺からはな」

「それは、グリラとの取り決めで?」

「そうだ。相手から気付かれるまでは自分からは言えないし、気付かれるような言動も慎まなければならない。もしも約束を破れば・・・」

「人質が殺される。でも、サラが殺されたのは、違う理由だったんじゃないの?」

 ビブの質問に、テューイはとても苦い笑いを浮かべた。

「サラはな。グリラが言ってた通り賢すぎた。俺が彼女の父親だっていう確証を掴むくらいじゃ止まらなかった。トウイッチと俺、俺とグリラ、そして俺の妻とグリラとの関係、過去、そしてグリラが契約した相手と、その先に至るまでの事を、ほとんど独力で推理して、解答にたどり着いてしまった。モーマニー相手に答えは明かされ、何が起こったのかは周知の通りだ」

「でも、そうするとそこにグリラは絡んでいないのでは?」

「そこがまた微妙なところでなぁ・・・」

「テューイ殿。妻がなぜ殺されたのか、明らかに出来る部分は明らかにして頂きたい」

「そっちは、主に俺とグリラとの間の取り決めのせいだと言い切れるだろうな。本当に、申し訳無い」

「詫びはもういらない。事実を、出来る限り聞かせて頂きたい!」

 グーゴルルの勢いに押されたテューイがどう答えたものか迷っていると、エミリーが問いかけを増やした。

「テューイ。もしかしてだけど、その、あなたとグリラの間の取り決めって、テューイの奥さんとテューイとグリラとの関係が絡んでたりするの?」

 テューイは、核心を突かれたというていで頭を抱えたが、にじり寄ってくるグーゴルルと、自分をほとんど睨みつけているエミリーに気圧されて観念したように言った。

「話しても良いが、聞いたら漏れなくグリラにもその事実は伝わる。そして自動的にグリラから命を狙われる対象となる。それでも、聞くか?」

「何をいまさらな事言ってるの!私なんて首を落とされかけたのよ!」

「ななななぁんですとおおおっ!グリラっすべし許すまじ必ず殺すべし!!!」

「ファボは黙ってて。今回グリラに狙われなかった人のが少ないし、優先順位の差はあっても全員彼女の標的にはもうなってるでしょ。ほら、全部話して。包み隠さず!」

「まぁ、話せる部分はな」

 こほん、と間を置いて、それでもエミリーからは視線をそらしたまま、テューイは言った。

「エミリー、お前も、サラも、俺の娘だった。その母親が、俺の妻だ。他にもう一人息子がいて、両方ともグリラのもっと直接的な人質になっている。俺もあいつが許してくれた時でないと無事を確認できないくらいの。それで・・・」

 まだ言い淀んだテューイにエミリーが魔法を行使しそうな元素オルガの流れをテューイは感じて白状した。

「グリラは、その俺の妻の妹だ。母親が違うけどな。そして」

「はぁああああっ!?」

 という周囲の大音響の反応に紛れ込ますようにテューイはぼそっと付け加えた。

「まだ駆け出しの冒険者だった頃、俺のパーティーの癒し手(ヒーラー)はグリラだった。恋仲だったのもグリラとだった。将来の約束めいたものをして、あいつの家族に引き合わされる時に初めて、今の妻、オルクレイアと出会ったんだ」

「ちょっとちょっとちょっと待ったああああっ!」

 だんっ!、とテーブルを拳で全力で打ち付けて周囲を黙らせると、エミリーはテューイを視線だけで殺しかねない勢いで問いかけた。

「いいこと、テューイ?これはとてもとてもとーーーっても大事な大切な質問だからごまかしとか嘘とかそうゆうのは一切無しよ正直に答えなさい。いいわね返事は?!」

「は、はい」

「テューイ、あなたは、結婚を約束した女性の家族に引き合わされた時に出会ったその女性の姉に目移りしてグリラを裏切ったの!?」

「そうだ」

「どうして!?」

「互いに、一目惚れだった。もう、他の誰も目に入らなくなっていたんだ。グリラには申し訳無い事をしたと、こんな俺でも分かってはいるさ」

 口をあんぐりと開けたまま呆然として長椅子に腰を落としたエミリーに代わって、ビブが尋ねた。

「グリラは何度も裏切られたと言ってたから、それだけじゃ終わってないよね?」

「ま、まぁな・・・」

「話しなさい。全部!今ここに<最悪の災厄>が現れようがそれが何よ!?みんなが殺されるまでの間に私があなたを殺すからね、テューイ!」

 鬼気迫るエミリーに肉薄されて、テューイは力無く答えた。

「それは、困るな」

「どうして?」

「俺が、自殺とか、行方不明とか、グリラか他の誰かに勝手に殺されたりすると、人質も残らず殺される事になっているからだ。エミリー、お前だけじゃなく、妻も息子もだ」

「それ、テューイのおっさんとグリラおばちゃんの間の取り決めの核心じゃないのか?」

「その内の一つだよ、ザギ。もう君たちは漏れなくグリラの標的として認識されてしまったからな。皮肉だがそれで話せるようになった」

 放心していたエミリーは、また何とか気持ちを落ち着かせてテューイに続きを問いかけた。

「その、私たちのお母さんと一緒になる為に、あなたは何をしたのテューイ?何度もの裏切りを、隠さずに話して」

 テューイは深い深いため息をついてから、ぽつりぽつりと語り始めた。


2015/10/13

誰かが死ぬというのは、この世界でもありふれた事ではあるけれど、やはり死にました埋めましょうだけでは済まない出来事です。


で、問題のテューイさんの所業については、どこの誰でもハーレム展開に寛容な訳は無いのですよ、という事で続いていきます。


2015/10/14 誤字等修正

2015/11/19 誤字等修正、ルビ試行

2015/11/27 一部記述変更

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