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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大国様シリーズ

大国様が本気で義父を攻略するようです・十二

作者: 八島えく

注意:このお話は、男性同士・義理の父子同士の恋愛描写が含まれております。閲覧の際はご注意ください。

 新幹線の車内で、終点を告げるアナウンスが聞こえた。

 俺はふと、目を開いた。どうやら俺も寝ていたらしい。俺の肩を枕代わりに、大国がまだすーすー寝息を立てていた。

 結構気持ちよさそうに寝てたから、起こすのはちょっと忍びないけど。

「大国、着いたって。大国」

 肩をなるべくそろっと離して、両手で大国を支える。軽くゆすって、大国の名前を呼んだ。

 体をもぞもぞさせながら、大国がむっすりと目を開く。寝起きは機嫌が悪いのかと不安になったが、大国はいつもののんきな笑顔に戻った。

「ああ、お義父さん……。申し訳ありません、眠ってしまっておりました」

「いいよ、よく眠れたみたいだな」

「はい。お義父さんの隣は心地いいですから」

「……そりゃよかった。さっ、降りるぞ」

「はい」

 俺は荷物を荷台から下ろして、改めて大国に自然に手を伸ばす。大国は自然にこの手を取って立ち上がってくれた。

 荷物は、重たい方を俺が持つ。純粋な力なら、俺の方が上だもんな。少しはいいとこ見せて、義父の威厳ってやつを思い知らせておかないと。


 ――という数分前の意気込みもどこへ行ったのやら。

 切符を出して改札を出るという、今の時代なら簡単なことでさえ、俺には難しかった。荷物がデカくて挟まったり、切符を落としたり、そもそも大国にさとされるまで出るべき改札を間違えていたりと、さっきまでの威厳はなかったことにしてほしいことこの上ない。

 そんな俺の苦悶を知ってか知らずか、大国は完璧な微笑と完璧な仕草でもって、俺をさりげなくフォローする。義父の威厳? そんなものはないんだよ。



 予約した宿を、ひとまず目指す。まずは荷物を預けてからだ。その後にのんびり散策でもすればいい。名所は事前にざっくり調べておいたから、荷物を預けてからのこれからは完璧だ。知らない土地だから道に迷うことも考えて、周辺の地図はしっかり読みこんできた。うん完璧。


 宿は駅から歩いてすぐのところにしておいた。だからさすがに迷うってことはなかった。

 短い距離なのに俺の心はうきうきしている。肩にのしかかる荷物の重さもなんてことない。

 

 新幹線を下りて改札を出ると、急に冷たい空気が抜けてきた。新幹線は思った以上に暖かかったらしい。


 宿までの道のりを歩いていくと、当たり前のことだけと様々な人が行き交うのがわかる。親子連れ、一人せわしなく駆け抜ける若いもの、犬を連れて散歩する老夫婦。


 見慣れない風景が、視界に飛び込んでくる。隣の大国を差し置いて、俺はそれらに釘づけだった。

「……ふ、くく」

 隣で、大国の押し殺したような笑いが聞こえた。その声で俺は我に返る。

「あっ、ごめん! つい、知らない土地だったから、何か新鮮で……」

「いえ、構いませんよ。子供のように目を輝かせてあちこちを見回しているお義父さんを眺めているのも楽しいですので」

「わ、悪かったな子供でっ」

「いやいや、褒めているのですよ。……して、宿はいずこに? いくら力持ちといっても、お義父さんに長く重い荷物を持っていただくのは心苦しいです」

「あぁ、そだな。宿はすぐだから、えっと……」

 俺は上着のポケットからぺらぺらの地図を出す。兄がくれた地図はわかりやすい。

 地図を頼りに宿を目指す。一回くらいは道を間違えることも覚悟してたけど、さすがにそれはなかった。


 宿の女将に部屋まで案内してもらい、そこで一息ついた。荷物をおろした時の解放感がどっと湧き出て、畳に腰を落ち着けてしまう。

「ああ、長かった」

「新幹線は初めてでしたものね。最近はこうした長旅もなさらないようですし、お疲れになってしまいましたか?」

「ちょっとだけな。でも少ししたらすぐに出かけられるぞ」

「お義父さんは頼もしいですね」

「褒めても茶しか出ないぞ」

「ではお言葉に甘えて、お茶を頂けますか」

 完璧な微笑でそんなことを言われたら、従うしかないのだ。


 部屋で一息ついてから、俺たちは宿の外へ出た。

 空気が冷たいけど太陽の光は暖かい。だから凍えるほど寒くは無かった。

 大国と一緒に知らない土地を歩いていく。この感覚、久しぶりだ。

 

 温泉街をふたりして歩いているだけでも楽しい。嫁と息子を連れて旅行した時の感じとよく似ている。まったく同じじゃないけど。

 うまそうな匂いがすると、そちらにつられてふらふらしてしまう。独り占めすんのは嫌だから、大国のぶんとふたつ買ってみる。

 ほれ、とほかほかのじゃがバターを渡すと、大国が嬉しそうに受け取ってくれた。近くのベンチに腰掛けて頬張って、なんてことない時間を二人して味わっている。


 食べ終わったらまた次へと歩く。次の店は土産屋だった。栞とか置物とか、いつもは興味のないものがきらきらして見える。

 気になったのをたまにつまんでじっくり見てみる。光にかざすと透き通って視えた。


 大国がさりげなく俺の隣に近づいて、「それがお好みですか?」なんて聞いてくる。

「ん? うん、今のところは……」

「では、私から贈りましょう」

「いや、そんな……悪いし」

「もらってください。せっかくご招待して頂いたんですから、そのお礼というにはささやかですが」

「む、しかたねーな……。貰ってやる」

 ガラス細工でできた兎の置物をもらった。小っさい紙袋に包まれたそれが、この世で一番の宝物に見えた。

「ありがとな」

「いえ、喜んで頂けて何よりです」


 土産屋と屋台に入っては何かを買ったり食べたりが続いた。間に街の風景や観光地を巡った。

 この地に祀られた小さな社へ寄った。参拝すると、双子の兄妹らしき神々が楽しそうに話しかけてくれた。


 かかっていた石橋を大国と一緒に渡る。水の流れる音と木々の葉のこすれる音がまざりあって気持ちがいい。

 橋の向こうから、激しい水の音が聞こえた。音のしたほうを探すと、滝を見つけた。

「お義父さん?」

「ああ、滝があったから」

「あれですね。ここから遠いですが、こちらまで音が届くんですね」

「すごいよな、あんなに……」

「はい。出雲にも滝はあります。あれより大きなものもあるんです。でもその滝よりも、あちらのほうがとても美しく感じられます」

 橋の手すりに手を置いて、大国はその滝を眺めている。俺も隣でそれを眺める。


 川の近くにいたからか、体が少し冷えて来た。そろそろ温泉が恋しくなるころだ。

 大国を連れて先へ進むと、湯屋の暖簾を見つけた。

 

 大国の顔を伺う。温泉入ろうか? と目で聞く。

 いいですね、と大国が答える。

 俺たちは、暖簾をくぐった。

この時期は温泉が恋しくなりますね。温泉街を想像しながら、今回のお話を書いておりました。年末はのんびり家で過ごす予定なので、空想で旅して満足した気分になるという。

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