新しい執事
ある朝、爺やが変なやつを連れてきたんだ。
「おはようございます。坊っちゃま」
「ん…おはよ。まだねむ…」
「そのようでございますね。では、失礼して」
と言うと爺やはくいっと指を捻ると小さな竜巻を起こして俺ごと俺の寝具を舞い上がらせる。
俺は反対方向から風を呼ぶとくるくると自分のまわりに巻き付けバランスを取りながら大理石の床にふわりと着地した。
「わ、すっごい!」
パチパチパチパチと小さく手を叩くその男に俺は初めて気がついた。
「お前、誰?」
「これは坊っちゃまの新しい執事でございます」
「新しい…執事?」
「お気づきでなかったかもしれませんが、これまで爺めは坊っちゃまの執事を務めさせて頂いておりまして。今日からはこの者が坊っちゃまの執事となります」
「あのっ」
「なんだ爺、ほんとに隠居して趣味の蝶々集めに勤しむ気か?」
「もちろんでございます」
「あのっ、俺Kです。よろしくお願いします。…坊っちゃん」
「ふうん…俺の名前はFだ。よろしくな」
「では仲良く二人で力を合わせて坊っちゃまがより凶悪な大悪魔になられますよう精進してくださいませ」
「はいっ」
「ふん、くだらねー」
そして朝食の席に向かいながら爺やはこんなことを呟いたんだ。
「ところで坊っちゃま、本日より人間界に留学でございますね」
「おわっ。マジか。忘れてた」
「手配はすべて調っております。坊っちゃまも執事も全寮制の高校に入っていただきます。同室になるようにしておきましたから二人で力を合わせて」
「なぁ、お前…マジでやめるのか」
「もちろんでございます。ところで坊っちゃま。あの男、実は天使でして」
「はっ?嘘だろ?」
「色々使えるはずですよ、坊っちゃまならば」
というと爺やは年期の入った悪魔らしく、なんともいい顔で笑った。
俺はただただ驚いて廊下の花束にくんくんと顔を埋めるまぬけな男の顔を見つめたんだ。