幻の語りーー媚姫
その力は、
山をも充分貫通できるほどであった。
勿論、当たったら死ぬしかない。
光明頂にいる師父の罵声が聞こえた。
時間があまりない。
速戦即決で奴を片つけなければならない。
決意した風一郎は下げず、
槍に向いて、
「烈火神刀」と、
大喝して迎撃した。
その瞬間、
彼の手は刀と化した。
手はもう人間の手ではなく、
見たことが無く、
烈火のような刀となった。
矛先から、長い柄の末端まで、
切り裂かれてしまった。
恐ろしい“烈火神刀”は、
とまらなかった。
その余勢は、
暴君の腕、さらに肩までも斬った。
傷口から噴射した血は、
風一郎の衣を染めてしまった。
大敵は魔尊なので、
敗走した暴君を追撃しなかった。
足が止まらず前進する。
光明頂上の師父と魔尊の姿が見えた。
卯の刻にもなってない。
風一郎はちょっと安心したが、
突然、何か変だと感じた。
そう、
聲、
香り、
戦場に相応しくないものがあった。
その聲は、
笑い声だった。
その香りは、
薔薇の香りだった。
そういう物の持ち主は、
妖艶な女だった。
暴君が敗走した一瞬に、
魔法のように出てきた。
美しい薔薇を持って笑っている。
彼女は拍手しながら風一郎を褒めた。
「百聞は一見に如かず!かっこいい!その一撃」
「君、誰?」
と、風一郎は聞いた…
しかし、すぐ思いついた。
暴君の後は、
媚姫の出番は決まっているだろう。
「君、媚姫?」
「そう!可愛いお姫よ!」
「僕は女に手を挙げたくない!」
「私も戦いたくないよ!」
「それじゃ!通してくれ」
「いいよ!どうぞ!」
と、媚情の媚姫は風一郎を通した。
戦わなかった。
あり得ないことだ。
不思議だと思ったが、
深く考えず前進した。
その時・・・