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09|掴む。

 今、ソレの前には二体のゴブリンがいた。


 そのゴブリンたちは、或いはさきほどの集落から逃げた生き残りだったのかもしれない。まったく関係のないハグレだったのかもしれない。しかし、そんなことはソレには何の関係もなかった。ただ喰らうべき対象でしかなかった。

 そして、大きな木のウロの中に隠れて怯えていた親子のゴブリンをソレは触手に持たせた斧で切り裂いて殺してから、傷付いた身体を癒すべく食事に入った。ゴブリンシャーマンの集落での逃走から数時間後のことであった。


 なお、現在ソレの持っている斧はハイオークの所持していたモノで、薄汚れてはいたが鋼で出来ている非常に硬く重いハンドアクスだった。

 ゴブリンの集落を逃げる際に投げつけられた他の斧は逃走している途中にすべて捨てたのだが、その斧だけはゴブリンの頭蓋骨に刺さって抜けなかったのだ。なので逃げ切ったところで、ようやくその斧を抜いて、今は槍の代わりの武器として持っていた。

 その鋼製の斧は重量はあるが触手を4本使えば、ある程度は自由に動かせたし、何より威力が以前の木製の槍に比べて段違いに強力だった。

 しかし、武器を持つのに造りだした7本の触手のうち3本が現在は手持ちぶさたである。すでにその触手は固定化されたため、いまさら体内に戻すことも出来ないため、ソレは持つモノがないことを寂しく感じていた。


 ともあれ、さきほどのオークの群れは危険だと感じたソレは万が一にも遭遇しないようにゴブリンの集落とは逆の方向へと進むことにしたのであった。

 その途中で見つけたゴブリンの親子を消化し終わったソレは、再び足の触手をせわしなく動かしながら進み出す。

 さきほどのオークからの逃走による全力疾走を経験したことでソレの移動速度は大きく向上していた。しかし速く走れても不意を打たれては元も子もない。自分を殺す可能性のある敵との遭遇も考え、ソレは慎重に、周囲への警戒を常に行いながら動くことにしたのだった。


 そしてさらに進んだ先、少し高い丘にたどり着いた。ソレはとりあえず進行方向である丘を登っていくと、この周辺が見渡せる崖へと出た。


 その時ソレは初めてこの森の全体を見渡したのだが、そこは恐ろしく巨大な洞窟の中であるようだった。まるで切り抜かれたように岩で覆い尽くされた広い空間の上にわずかばかりの光があった。その光はかつてソレが浴びたものよりも弱かった。どうやら岩の透き間から太陽光が漏れているようである。

 そして、その下にはやけに白い木々が立ち並ぶ森があり、中心には何かがあるのがソレにも分かった。


 それは巨大な四角い石で出来た何かだった。


 その何かをソレは興味深く見る。ソレの本能がなぜだかとても刺激されていた。その先へ行くべきだとソレに強く訴えていた。一体何があるのかは分からない。しかし、ソレの魔物としての本能がそこに行くことを望んでいた。


 故にソレは石で出来た何かに向かって進むことをその場で決めた。理由はわからないが、美味しそうな肉の気配をさらに強めたような何かがあるのをソレは感じたのだ。であれば、ソレが止まるはずがなかった。


 そしてソレは目的を得て、進む方角も決まり、さらに先へと進んでいく。

 森の一つを抜け、川を渡り、さらに森を越えるとそこには大地にいくつも巨大な亀裂が入った岩場へと出た。

 足の触手ではそこを通るには心許なかったが、ソレは最初の頃のように全身を岩にくっつけることで岩場の裂けた崖の中を、道なき道を進んでいく。そして、ちょうど中程までたどり着いた頃、ガラガラとソレの上から岩の欠片が落ちてきたのだ。

 ソレは突然のことに驚いて上を見たが、巨大な人型の何かがゴロゴロと落ちてきているのが確認できた。それは全身を切り裂かれ、剣と槍が刺さった巨人族ジャイアントだった。巨人族ジャイアントが崖を転がりながら落ちてきたのだ。


 ソレは驚き、身を縮めて防御の姿勢をとったが、幸いなことに巨人族ジャイアントはソレと接触することなく下へと転がり落ちていった。

 そして上から、かつて喰らった炎を出す者と同じ姿をした、つまりは人族の探索者たちが見下ろしているのをソレは見た。


 ソレはとっさに岩場の陰に隠れて様子をうかがった。どうやら、複数の探索者たちは巨人族ジャイアントが落ちていくのを見て、その後はその場から離れたようだった。


 探索者たちが居なくなったことを確認したソレは、ズルズルと下へと降りていく。そして降りた先に、崖の突き出た岩場に乗っかっている巨人族ジャイアントを発見する。どうやら意識はまだあるようだ。探索者たちとの戦闘の後にここまで落ちたというのに異常な頑丈さである。しかしさすがの巨人族ジャイアントも虫の息ではあった。

 その姿はハイオークよりも強そうではあった。だが、瀕死の重傷を負った巨人族ジャイアントはソレにとっては強敵には映らなかった。

 であればと、ソレはゆっくりと巨人族ジャイアントを首から包み込んで体内に進入する。それには巨人族ジャイアントもビクビクと力を振り絞って抵抗するが次第にその動きも弱くなり、脳をある程度かき混ぜたところで事切れた。元々、死ぬ直前だったのだ。ソレにとっては実に他愛もない作業だった。

 そして、ゴブリン5~6体ほどもある体格に、強者の匂い漂う巨人族ジャイアントの死骸が目の前にある。ソレは思うがままにむしゃぶりついた。自身の内側が満ちあふれていく幸福をソレは感じていた。

 そしてソレは、自身のステージがより上がったような感覚を得た。ソレは自身をさらに圧縮することが出来ると感じた。自身をより深く、濃密にさせることが出来るようになったようだった。

 ソレは巨人族ジャイアントを喰らったことでかなり体積が増したが、圧縮を行ったことで以前と変わらぬ程度までにはまた縮んだようだった。しかし力は増し、魔力は増えた。表面もより硬くなり、破損していたゴブリンの頭蓋骨も巨人族ジャイアントのものにソレは変えることにした。

 そして巨人族ジャイアントに突き刺さっていた剣と槍も回収した。槍は今ソレが持っている斧と同じく鋼製だったが、剣は普通と武器とは違うようだった。その柄にかつてソレが吸収した火精石よりもさらに純度の高い石が収まっていたのである。それは人の世では炎紅玉と呼ばれるものだ。つまりはその剣は魔剣に該当するモノであるようだった。

 ソレが魔力を込めながら剣を振ると剣からは炎があふれ出てきた。火精石のように炎を出すことは出来ないが、剣そのものが燃えさかるのだ。新たに得た力を見てソレは興奮した。

 そして、思い浮かぶのはハイオークの姿だ。ソレの中を今、かつて受けた敗北への怒りと黒い殺意が蠢いていた。

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