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06|殺す。

 ソレは再びダンジョンを進んでいく。核を護る方法についてはまだソレには答えが出ていなかったが、だからといって留まるという選択はなかった。

 そして通路を進んでいく途中でソレはブヨブヨした塊をいくつも発見したので、そのまま覆い被さって溶かして喰らった。ソレの体積からすれば、この付近の同族などもはや敵ではなく、ただの補食対象でしかなかった。

 そして通路の角で遭遇したゴブリンも炎で焼き殺してから喰らった。焦げた部分の味はやはり悪いとソレは感じた。襲ってきた犬とも闘った。しかし、右の前足を焦がしたところで逃げられた。もう少し近付いてから焼くべきだったかとソレは後悔した。

 そうして獲物を補食していく内に自然とソレの体積は増えていき、次第に自分が鈍くなっていることもソレは理解できていた。しかし、ソレに抗せる相手がここには存在しない。敵なき環境ではソレの危機感も薄れ、ただ増えるばかりであった。


 環境がソレを心身共に鈍くさせていったのだ。だがソレは、気にせず捕食を繰り返していった。


 そして、ソレがこのダンジョンに訪れてから十日過ぎた頃のことだった。ソレの大きさは以前よりもかなり大きくなっていた。ゴブリンの倍は体積が増していた。敵がいないのだ。だからソレは膨れ上がる一方だった。


 そして周囲に敵なしと堂々と通路を進むソレの前に、ゴブリンが現れた。ソレは喜んだ。餌が自らやってきたのだ。素敵なことだと歓喜した。


 だがゴブリンは一体ではなかった。通路の前と後ろから二体、三体とゾロゾロとゴブリンが現れて、その数は実に30体以上にも及んだ。

 中でも筋肉質のゴブリンと、杖を持つ細身のゴブリンがソレの前後の群れの前に出ていて、それぞれの群れを率いているようだった。


 ホブゴブリンとゴブリンシャーマン。このダンジョンの中で生きるふたつのゴブリン族が自分らを脅かす敵を滅ぼそうと手を組んでやってきたのだ。取り囲んでソレを殺そうとしていた。


 ソレはゴブリンたちから漏れる殺気に若干の怯えを見せるも、しかし自らの力を過信して前へと突き進んでいく。そして、ひとまずは正面のゴブリンたちを殺してしまおうと考えた。

 だが、このゴブリンたちは狩られる存在ではない。この場において彼らは狩る側の存在へ変わっていることをソレは理解していなかった。そしてソレに対しゴブリンたちは弓と矢を携え、ホブゴブリンとゴブリンシャーマンの合図と共に一斉に撃ち放った。


 突然の遠くから放たれた攻撃にソレは驚いた。距離があるのにゴブリンが自分に攻撃できていることがソレを焦らせた。しかし、体積の増したソレに対してゴブリンたちの矢では核までは届かせることは出来ない。

 それでもゴブリンたちは矢を放ち続ける。核まで届かずともゴブリンたちはその矢でソレを始末できると考えていた。何故ならばその矢には毒が塗ってあった。このダンジョンに群生する白い苔を煮出して作る毒が大量に塗ってあったのだ。

 ソレは刺された矢からの突然の刺激に驚愕していた。何かが体の中に入り込んでくるのを感じていた。その感覚をソレは恐ろしいものだと理解する。何本もの矢が刺さり、その矢尻に塗られた毒がソレの中に入ってきているのだと把握する。

 そうしてソレは己の中に入った異物、己を殺す存在『毒』のことを認識した。このままでは毒が核に届いて自分は死んでしまうだろうと結論づけた。死という迫り来る驚異をソレは恐れた。


 だが、ゴブリンたちにも誤算はあったのだ。その矢尻に塗られている毒はダンジョン内で群生している白い苔を煮出して作ったものである。ダンジョン内ではそれなりに見かける苔であり、ソレは、かつて白い苔を食事としていた時期があった。故にソレの中には白い苔で作った毒への耐性があったために毒の効果は弱かった。

 また、ソレはかつて同族に食われかかったときの経験から、浸食された部位を切り離すすべを知っていた。

 そしてソレは毒の混じった部分をトカゲの尻尾のように切り離すことで毒の浸食を防ぐことにした。しかし毒とは違い、ソレの中に広がった感情は消えなかった。

 かつてソレは何度かの恐怖を体験した。それはすべてあらがえない理不尽な暴力だった。だが、今回のモノは違っていた。己よりも矮小な存在がソレを殺そうとしたのだ。


 ソレの中には今、轟々とした怒りが駆けめぐっていた。


 そしてソレは切り離された己の一部をそのまま魔力へと変換し、炎へと転じさせた。切り離した一部を使って炎を出そうとしたのだ。

 しかしソレの意図とは別に、ソレの一部だったものは突然爆発した。

 ソレから分かたれたソレの欠片は炎の生成こそ出来たものの制御が不能になっていたのだ。そして切り離した欠片の魔力を一気に消費して暴発したのである。

 かつてソレが取り込んだ火精石は今ではソレの内部で溶けきっていてソレの性質のひとつとなっていた。そして、切り離された一部にもその性質はあったのである。


 その様子を見たソレは爆発が己の魔力で発生したことを把握していた。そしてソレの中を黒い喜びが満たしていく。怒りを、生まれて初めての殺意を発散させる手段を見つけたソレは興奮していた。

 

 一方で突然の爆発によりゴブリンたちは硬直していた。だが高い知性を持つゴブリンシャーマンだけはすぐさま正気を取り戻していた。

 そして、ゴブリンシャーマンはソレに対する驚異度を最大にまで引き上げて、全力で炎の術を放ったが、ソレは切り離した一部を先ほどのように魔力を込めながら投げつけた。

 すると空中で爆発が起こり、ゴブリンシャーマンの炎はかき消された。のみならず爆風でゴブリンシャーマンが転倒した。そこにさらにソレの一部が投げつけられ、ゴブリンシャーマンは上半身を吹き飛ばされて殺された。


 その時点で、恐らくはその場の狩るモノと狩られるモノの関係性は逆転したのだろう。


 爆発という驚異的な殺傷手段を目の当たりにしたゴブリンたちは総崩れとなった。背後から迫っていたホブゴブリンの群れはゴブリンシャーマンの死に、自身らの不利を悟ってその場から逃げ出した。

 一方でゴブリンシャーマンの群れはそのリーダーが死亡したことで指示が発せられず固まっていた。放心状態だった。それがゴブリンシャーマンの群れとホブゴブリンの群れの運命を決定的にたがえさせた。


 そしてソレは食事のためではなく、己の殺意を満足させるために未だに留まっているゴブリンシャーマンの群れを殺し始めることにした。


 纏まっていたゴブリンたちに身体の一部を再度投げつけて爆発させて吹き飛ばし、炎で焼いて、頭の中をかき混ぜた。また毒を受けた際の萎縮という体験をソレは強く意識していた。本能的に体内を締め付けることで毒の巡りを遅くしていた経験がソレに、己の身体の理解を深めさせた。

 そして力を込めるということを以前よりも強く把握した。同時にそうすることでその身が硬くなることも認識していた。

 ゴブリンを包んで、ソレは力を込める。するとゴブリンが潰れ、赤い液体が飛び出しソレにかかった。その甘露な味が殺意を食欲へと変えていった。

 その頃には、ゴブリンシャーマンの群れも多くが逃げだしたが爆発に巻き込まれて動けなくなっている何匹ものゴブリンは、未だにその場には転げていた。


 そのゴブリンたちに対してソレは容赦のない攻撃を加える。


 潰す。燃やす。溶かす。爆破する。


 その過程で自身を萎縮、いや圧縮することで力が増すことをソレは気付いた。故に無駄に増えた体積を圧縮することでより強靱な身体へと変わっていくことをソレは覚えた。

 しかしただ圧縮するのにも限度はあるようだった。現時点での限界点が存在しているようだった。またゴブリンたちの行動に対してもソレは興味深く観察していた。


 ゴブリンは武器を持っていた。腕を持っていた。

 かつてゴブリンの持っていた槍はソレを貫いてソレの命を奪いかけた。そのことをソレは思い出していた。


 そして、まだ生きているゴブリンの口から悲鳴が上がった。その理由はソレが身体を細く伸ばしたもので槍を掴み、ゴブリンを突き始めたからだ。


 ソレはなるほどと感じた。自分で絞め殺すよりも、込める力が少なく、なおかつゴブリンを痛めつけられる。剣も振るったが、剣よりは槍の方が良いように感じた。転がる槍が7本、ソレはその数に合わせ伸ばした身体、つまりは触手で掴み、ゴブリンたちでその使い勝手を確かめながら、食事へと入っていった。

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