16|喰らう。
あれから、どれほどの時が経ったのか。
ソレは日にちという概念を持っていないし、自分が生まれてからどれぐらい経ったのかということも覚えてはいない。また興味もないだろう。
ともあれ、ソレは長い時間をかけて今も増え続けていた。
白き世界の先にあったものは、一種のエネルギーの塊だった。
その塊をソレは喰らった。
そして大きな変化が起こったかといえばそうではなかった。
いつも通りに増えただけだ。
ただ、それだけ。
しかし、これ以上強くある必要はなくなった。
もはや、必要がなくなるほどに強くなっていた。
だから、ソレは増やすことにしたのだ。
遺跡から出て、森の魔物たちを喰らい、森そのものも喰らい、外に出ても喰らい、何もかもを喰らい、喰らえるものすべてを喰らい、星の表面を喰らい尽くした。
そして、地上のすべてはソレとなった。
やがて、ソレは星の中にあった熱量も喰らい始めた。
星そのものも抵抗し壮絶な戦いとなったが、しかしソレには勝てなかった。
そしてソレは、星の核をも喰らった。
そこに至るまでに数千年か、数万年か、或いは数十万年かかったかもしれない。だがそこまでに至った後、ソレはやはり貪欲に何かを求め続けた。
中でも、ソレが欲したのは太陽の光だった。
昔、恐怖を感じたその光は、星を喰い終えた後ではソレの唯一のエネルギー源となっていた。だが、そこから先が進めない。宇宙とは生き物に適した環境ではなかったのだ。
伸ばしても届かない。だから、ソレは飛ばした。己の分身を。
宇宙空間に自分の分身を数千億と飛ばし、ソレらとは光による通信のようなもので繋がり続けた。
バラまかれたソレの分身は太陽の周囲を回る星々にも取り憑き、エネルギーを奪っていった。そして太陽にも到達した。
ソレは自身を広げた壁を造って太陽を囲い、その身で光と熱を受けて、そのエネルギーを吸収し続けた。やがて、太陽を覆い尽くすまでに肥大化したソレは恒星を核として一体化し、さらに己の存在を拡大し続けた。
そして、ソレは太陽系のみならず、銀河へと広がっていく。ソレの分身は宇宙をさまよいながら、様々なモノを喰らい続けていく。
いつしか光すらも超えた、エントロピーの流れだけでソレはすべてと繋がり、銀河系をもソレは覆い尽くしていく。ダークマターなどとどこかで呼ばれているもの、或いはそれ以外の何かをも取り込み、あらゆるものを喰らい続け、ソレはさらなる拡大を続けていく。
その成長は止まらない。喰らうものある限り、無限に成長を続けていく。
光よりも早く、ただ膨張し、永遠に増え続け、やがてソレは宇宙そのものを……