11|復讐する。
3人の冒険者たちを喰らったソレは体積こそそれほど肥大化しなかったものの、魔力はそれなりに増えたようだった。
食事を終えるとソレは触手を増やし、バルディッシュとリーダーの少年が持っていた盾を掴んでいた。
ここまでの経験上、やはり一匹のみのソレは数の多さに圧倒される場合があると考えていた。かといってソレに仲間を増やすという概念はない。故に触手の数を増やす。己ひとりでどうにかする方法を模索していた答えのひとつが手数を増やすことだった。
そうして先へと進み、岩場を抜け、ソレは別の森へと入っていった。
途中で凶暴な熊に襲いかかられたが、炎を浴びせてよろめかせたところを炎の魔剣で突き刺し、他の武器も一緒に突き立てて殺した。もはやその程度の魔物ならば相手にならぬほどに自身が成長しているのをソレは感じていた。
熊を消化し終わるとソレはさらに奥へと進んでいく。この広い洞窟の森の中心にある石造りの何かにたどり着くまでは、もう後一日といったところだろうか。
だがその途中でソレは目撃してしまう。
あのゴブリンの集落で襲いかかってきたオークと同種の魔物の群れが歩いているのをソレは見かけたのだ。もっとも、場所もゴブリンシャーマンの集落からは随分と離れているし、同じ群れであるとは思えなかった。だがソレの中の黒々とした怒りの炎は燃え広がっていた。
雪辱を晴らしたいという感情がそこにはあった。
だがオークの数は多い。把握できた限りでも30体はいた。それは集落で攻めてきたオークたちの数の倍以上。普通に考えれば避けて通るのが正解だろう。
だがソレの意志がその行為を許さなかった。殺せと全身が震えて訴えていた。
故にソレはオークの群れに全力で当たるべく動き出した。
まずは爆破粘体をその場で10造って、群れに向かってバラまいた。そして全身を低く伸ばして近づいていく。
対して突然の攻撃を受けてオークたちは慌てふためいていた。しかも敵がどこから攻めてきたかが分からない、その動揺しているオークたちの真下から自身を低く伸ばしていたソレが一斉に触手を動かして持っている武器を突き刺した。
突然の襲撃、さらには真下からの攻撃にオークたちは悲鳴を上げた。その奇襲は恐ろしく上手くハマっていたのだ。いかに好戦的な種族とはいえ、死をも恐れぬ勇猛さを発揮できるのは士気が上がっているときに限定される。意味も分からず一方的に攻撃を喰らってはさすがのオークもパニックになる。
そしてソレはオークたちを切り刻んでいく。手に入れた炎の魔剣は想像以上の切れ味で、魔力に満ちたソレが振りかざすことで、オークの革鎧ごと斬殺できた。魔剣だけでも5体を切り裂き、他の得物や爆破粘体で併せて13体をわずか数分で駆逐したソレは、残りのオークも殺そうとさらに突き進む。
そして、オークの群れは未だに動揺が隠せない。突如の襲撃に心が追いついていない。であればソレにとっては美味しい的でしかない。
突き、斬り、潰し、砕き、燃やす。
半数以上を一方的に殺されたオークたちが怯えるのも無理はない話で、ソレの蹂躙に上手く対応できていない。そして、その状況を打開すべく群れのボスであるハイオークが飛び出してきた。ハイオークの力強い斧の攻撃を、ソレも盾で受け止める。さすがのパワーに受け止めきれず、盾が弾かれるが、しかし得物は他にもある。斧が、バルディッシュが、槍が、そして魔剣が一斉に降り注ぎ、ハイオークを切り裂いた。
そして叫び声をあげるハイオークの口にソレは槍をねじり込み、その首裏まで貫通させ、さらには口元に爆破粘体を詰め込んで、そのまま爆発させた。その頭部が木っ端みじんに破壊される。
その姿にソレは、自分を怯えさせたゴブリンシャーマンの集落のハイオークの姿をようやく己の内から消せたのだと感じた。心の奥底で怯えていた弱い自分を消失させられたと感じたのだ。
それを見ていたオークたちが悲鳴を上げて逃げ出していく。
だがソレは背を見せて逃げ出す相手にも容赦はしない。死んだオークたちが落とした手斧を投げて何体かはそれで仕留めて、さらに追いかけてそのほとんどを殺すことに成功した。
その後の食事の途中で、ソレは3度の魔物の襲撃を受けた。
それはサーベルタイガーと、大熊、そして別のオークの群れだった。
サーベルタイガーと大熊はそれぞれ2体と3体の群れで対処にはそう困ることもなかったが、続けてのオークの群れは10体ほどで、怒り狂ってソレに強襲してきた。
ソレが奇襲を仕掛けた先ほどとは違い、敵の戦意は強く、相手の実力も高いようにソレは感じた。またハイオークが二体いたことで、ソレも苦戦を強いられたがどうにか撃退することには成功した。
もしかすると最初に逃がしたオークの群れの集落からきたのかもしれないとソレは考えたが、その後の襲撃はなく、ソレが答えを知ることはなかった。
そして、ソレはさらに先へと進む。もうじき石造りの何かのある場所である。