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10|落ちる。

 巨人族ジャイアントという極上の肉に加えて、魔剣や槍を手に入れたソレは非常に満足していた。以前に比べて自分がより大きな存在になったことを自覚し、そのまますぐに先に進もうとした。


 しかしソレは下から感じる何かの気配に気付いた。


 下で何かが動いている。その気配を感じたソレは、その何かに興味を持って下を覗いてみた。

 するとそこにいたのは恐らく先ほど上から覗いていた探索者らしき者たちだった。その探索者たちはその場をウロウロとしながら何かを探しているようだった。

 ソレは探索者たちは、落ちた巨人族ジャイアントを探しに来たのではないかと考えた。そして、おそらくはソレが手に入れた魔剣を探しているのだろうと。

 だが見つかるわけがない。巨人族ジャイアントは彼らのいる場所よりも高い岩場の上にあるのだ。魔剣もソレが手に入れているのだ。しかし……と、ソレは考えた。


 下にいる探索者の数は4人。今ならば食べられるのでないかと。


 ちょうど真下にいる今はチャンスだ。これを逃せばあれを食べるのは難しいかもしれない。そう、ソレは感じた。

 しかし、運良く一人の探索者に覆い被さって倒すことが出来ても他に3人もいる。故にソレは考える。ここまでの経験から正しい答えを導き出そうと考える。

 そして、ソレは答えへと至る。

 つまりは落ちるのは自分でなくとも良いのではないか。先ほど巨人族ジャイアントが落ちてきたように別の何かを落とせばよいのではないかとソレは考えついた。それからソレは自らの身体を岩の付け根に忍び込ませた。そして隙間に浸透させて切り離しそのまま一気に爆破したのである。


 そして、岩場が崩れ、下へと落ちていく。


 それは探索者からすれば突然起きた災害のようなものだった。巨大な岩がゴロゴロと上から落ちてくる。ソレを見たリーダーの少年が叫び、反射的に全員がその場から離れた。彼らの身体能力は総じて高い。しかし、何事にも運というものがある。小柄な探索者の1人が砕けて散った岩のひとつにぶつかり、その場で転げて倒れた。そのことにリーダーの少年が声を上げようとするが、もっと危険なものは岩よりも若干のタイムラグを持って降ってきたのだ。


 そして、リーダーの少年にソレはすっぽりと覆い被さった。少年は叫び声を上げようとしたが、しかしそれは叶わない。口を開けばソレに入り込まれることは知識として少年には理解できていた。目も開けられない。鼻や耳から入り込んできているのは分かる。このままでは内側から食い破られるとリーダーの少年は恐怖し、仲間たちの助けがすぐに来ることを期待するが、土煙による視覚の障害と岩の激突する音により他の仲間たちは少年に気付く様子はなかった。

 しかし、少年もダンジョンを攻略し続けてきた探索者だ。ただ助けを待つというだけではない。全身から魔力を発生させて、その圧力でソレを振り払おうとする。そしてそれ自体は上手くはいっていた。少年の体内へと進入しようとしたソレは魔力の壁に阻まれた。だが少年はその直後に三方から刃を受けた。

 斧と、槍と、自らの魔剣が背中と、首と、腹に刺さっている。首と腹は完全に致命傷だった。そして魔力による圧力も消え、力を込めることも少年は出来なくなった。そして少年の全身の穴という穴からソレは進入し、喰らい始めた。


 その少年の危機に最初に気付いたのは、岩を避け切った戦士の男だった。岩に当たって倒れていた仲間に駆け寄ろうとしたが、その途中で戦士はリーダーの少年がソレに捕らわれているのを目撃してしまう。

 そして声を上げようとしたときには、少年はその全身を刃物で突き刺されていた。戦士は絶叫した。ここまで共に戦ってきた仲間が死にゆく様を見て走り出した。


 その戦士の行動に、ソレも少年を突き刺した武器を抜いて臨戦態勢となる。すでにソレは少年の脳内にまで到達している。そこをグチャグチャにしておけばまともに動けなくなると、ここまでに犬などで試していてソレは理解していた。つまりは少年はすでに終わっていた。


 そして戦士が振るうはバルディッシュという長柄の大きな斧のような武器だ。その武器を振りかぶる戦士にソレは迷いもせずに炎を浴びせる。

 だが戦士は炎の魔法を浴びながらも突き進む。全身が淡く光り、魔力で覆っているようであった。故にソレは触手の先を千切って爆破粘体として投げつける。それを戦士はバルディッシュで受けてしまう。そして粘着質のその物体はバルディッシュで弾かれることなく、くっついた。


 そして爆発したのだ。


 戦士はその衝撃からバルディッシュを思わず手放した。その様子を見計らってソレは上空から斧を振り下ろし、正面から槍を突き出す。戦士は右手のガントレットで斧を受け止め、左手で槍を掴んで防いだ。その反射速度はとても人間とは思えないものだったが、直後に戦士は全身が焼ける感覚を味わった。

 それは斜めに胴体を切り裂かれたために感じたものだった。炎の魔剣が、受け止めた右手と掴んだ左手ごと戦士の鎧を斬り裂いていた。

 そして戦士はズルズルと切れ目から身体の半分が崩れ落ちて、地面に転がる前に絶命した。


 続けて残り一人……というところで、ソレに突如全身がしびれる感覚があった。それは魔術師の雷撃の魔術だったのだろう。ソレの表面からシュウシュウと煙が上がるが、ソレへのダメージはそれほどでもないようだった。おそらくはここまで成長したことで魔法への耐性が上がっていたのだろう。


 そして、ソレは魔術を放った魔術師に対峙しようとしたが、魔術師はすでにソレから背を向けて逃げ出していた。その魔術師に対してソレは槍を投げつけたが、不可視の壁によって弾かれた。

 またソレも走って追いかけようにも、体内には今少年が入っていて自由には動けない。少年を体内から捨てるか否かをソレが悩んでいる内に魔術師はもう岩場の陰に隠れて姿が見えなくなっていた。やむなくソレは魔術師を諦めて、倒れている最後の探索者の方へと進み出した。


 その探索者はすでに意識を取り戻していた。だが全身が痛み、身体を動かすことが出来ないようだった。その探索者の身体は細く、水色の長い髪、細長い耳をしたエルフと呼ばれる少女であった。もっともソレにとってはそのような姿形であろうと関係のある話ではない。エルフの少女はソレの中で今まさに溶かされつつあるリーダーの少年の姿を見て絶叫した。

 しかしソレにとって少女の反応など気にする必要もなかった。抵抗し暴れる少女の上にソレは覆い被さり、暴れる様を楽しみながら体内に取り込んだ。

 少女の桜のような淡いピンクの唇も、小ぶりの乳房も、未だ守り続けてきた下腹部のそれも、ソレの体内においては等しく溶かされる定めだ。やがて少女も動かなくなり、その命も尽きてゆく。唯一の慰めは恋が芽生え始めていた少年と共にあの世へと逝けたことであろうか。


 そして、この世界において勇者候補と呼ばれている少年少女たちの物語はここで志半ばに尽きた。それもまた、この世界においてはよくある光景のひとつではあるが。

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