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パニック☆スター  作者: モエLOW
パニック☆スター1
2/26

2話 ライトスター

  どこからともなく流れてくる音楽

  それに合わせて踊る陽気な人々

  笑い声が絶えない毎日

  ひときわ輝く星

  一番星をライトスター


☆★☆★☆★


 空は黒く、星の輝きも許さない漆黒の闇に覆われているようだ。見渡す限り同じ景色が広がっている。ゴツゴツとした岩がそこらじゅうに転がっており、歩く大地は砂利の絨毯が一面に敷かれている。夜道を歩くにはとても適さない道。

 とても歩きにくいと小春は思っていた。

 前を淡々と歩く隊長と、後方をよろよろと歩くやよいちゃん。

 ドテッ

 弥ちゃんが転けた音だ。これで何回目だろう。

 

 「眩し過ぎて、まともに歩けないッス」

 

 弥ちゃんが嘆いている。

 

 「弥大丈夫かぁ」

 

 隊長の感情がこもってない台詞が飛ぶ。

 

 「下も眩しくて、小春こはるも眩しくて、弥はどこを見ればいいんスか」

 「明日を見て歩こうよ」

 

 励ましの声援を送るも弥ちゃんはその場に座り込んだ。

 

 「小春は黙ってるッス」

 

 怒られた。

 

 「この石コロが全部悪いッス」

 

 転がっている光る石ころをおもむろに掴み投げる弥ちゃんは、ちょっとご機嫌が斜めになっている。

 前を歩く隊長もやれやれと立ち止まり、振り返る。

 

 「そのゴーグルを使えよ。多彩な機能が付いているって自慢してたじゃないか」

 「このゴーグルには、サングラスみたいなしょぼい機能は付いていないッス」

 「そんなしょぼい機能も付いていないなんて、案外役に立たないな。ありとあらゆる場面で役に立つと聞いたんだが」

 「ぐぅぅぅぅぅぅ」

 

 弥ちゃんは歯を噛み締め何かを唸っていたが、その場から立とうとしない。休憩の申し出だ。

 

 「少し休憩しようか」

 

 隊長は弥ちゃんの頑なな態度に折れた。

 弥ちゃんは確かに運動神経がないことは有名で、歩くのさえ苦手という体たらくぶりを発揮している。それを差し引いてもここは歩くのには困難だった。

 この、そこらじゅうに転がっている石・・・・・・じゃなくて、そう欠片かけら、正式名称「星の欠片」は光を放っている。

 小春は一つ欠片を手に取り眺める。

 

 「よく光る」

 

 光る欠片はここ一帯に敷き詰められ、黒い空を下から照らし出してくれている。

 

 「よく光るのは小春もッス」

 

 弥ちゃんの小言通り、小春も光を帯びている。

 住み慣れたリンクスターの力とはちょっと感じ方が異なるので、うまく制御ができない。

 

 「星の力の制御がうまくいかないのか?」

 「ちょっといつもと勝手が違うみたいで・・・・・・」

 「目的地に着くまで制御よろしくッス」

 

 こんな姿で人混みに出たら間違いなく珍獣認定されてしまう。

 

 「まぁ、慣れれば制御もできるだろう。焦らなくていいからな」

 「はい」

 

 小春が覚えている範囲では、違う星に来たのは初めてで慣れてないのだ。だから、しょうがないと自分でも思う。隊長の気遣いに甘えて、気長に慣れるのを待とう。

 

 「小春」

 

 名前を呼ばれ振り向くと、隊長から欠片を渡された。

 

 「はい?」

 「休憩がてらに星の力について説明してみろ」

 「・・・・・・」

 

 あれ? 小春のことを気遣ってくれる隊長は、今日は優しさが滲み出ていると思っていたのに。隣で座っている弥ちゃんはニシシシと笑っているし。

 現地抜き打ちテストは聞いてないよ!

 

 「どうした? もたもたしていると休憩が終わるぞ」

 

 小春にとって休憩じゃなくなりました。

 

 「えーと」

 

 沈黙はまずいと思い、「えーと」や「うーん」など、今考え中ですとのサインを送る。サインを送ることにより大体二十~三十秒の猶予が設けられる。沈黙よりも考え込んでいるサインを送った方が、間を長引かせることができると小春は知っている。

 ただ、悪足掻きであることも知っていた。

 三十秒ぐらいで答えが浮かぶ訳ないよ。でも、今頭の中にあるワードで乗り切るしかない。無解答はお説教確定だから。

 こうなったら、覚悟を決める。

 

 「星の力の残片が、この欠片です」

 「・・・・・・」

 

 三秒ぐらいの間が空く。

 ダメですよねー、とあきらめ隊長の説教に身を構える。

 

 「四十点ってところか」

 

 点数が貰えた! 今日の小春は冴えているとでもいうのか。

 しかも、四十点っていう相当高い点数を貰えた。

 

 「隊長は小春に少し甘いんじゃないッスか?」

 

 採点方法に不満があるみたいで、弥ちゃんが抗議してきた。

 ここで弥ちゃんがくるかぁ。こいつぁはヤベー。

 

 「別に点数の取り下げは要求しないッスから、手の拳を解くッス」

 

 力ずくで弥ちゃんの口を封印しようとしたが、先手を打たれた。でも、点数が下がらないならいっか。

 小春は光る拳を解いた。

 

 「いいッスか小春」

 

 弥ちゃんは口を動かし始める。

 

 「星の力とは、今立ってる大地や空を、海を、星を維持する力のことッス。図書館で復習してた範囲ッスけど、覚えているッスか」

 

 図書館でやった所だ。弥ちゃんの言葉で思い出してきた。

 星を維持する他に、

 

 「特別な力があり、それがこの欠片だ」

 「まだ遠いッスね。星の力は星の中心部に眠るエネルギー。ライトスターを例に出すと、星を維持する他に、発光させる力があるッス。光を放つエネルギーとでも言っとくッス。星の中心部にあるので人が直接使うことはできないッスがね。でも、莫大なエネルギーは地表に漏れ出すッス。星の力が溢れ出して地表に顔を出したものが、小春の持っている石、欠片ッス」 

 

 この欠片は小さな星の力なんだね。

 

 「補足ッス。星としての機能を維持できなくなった時、莫大なエネルギーは凝縮され、星からクリスタルに変わるッス」

 「隊長の付けているブレスレッドがクリスタルだ」

 「正解ッス。隊長の付けているクリスタルが無限電池なら、欠片は使い捨て電池と言えるッスね」

 

 よく分かった。小春はまた一段と賢くなった気がする。

 

 「この説明は二度目ッスけど」

 「ごめん」

 

 小春は素直に謝った。

 一応記憶はしているんだけど、それを引き出す作業が苦手なんだよなぁ。弥ちゃんに言わせると、勉強が足りんの一言で片付いてしまうから言わないけど。

 

「小春見てろ」

 「お?」

 

 隊長が欠片を握り小春の方へ向ける。隊長が力を入れると、

 ピカッ

 

 「眩しっ」

 

 欠片は閃光を放ち、砕けた。欠片に眠っているエネルギーは全て放出されると壊れる仕組み。

 

 「欠片だけでも目くらましぐらいになるだろう」

 「なるほど、こういう使い方もあるんですね」

 「小春は欠片の使い方より自分の使い方を覚えるべきッスね」

 

 ごもっともです。小春の体は今なお光っている。

 小春の体はどうやら特別性で、星中心部にある星の力を吸収出来る優れものなのだ。吸収した星の力はもちろん放出も可能で、結果悲しいほど光っている。制御も可能だけど、今は全自動で星の力が入ったり出たりで言うことを聞いてくれない。

 

 「取扱説明書があれば楽なのに」

 「若いのに楽するもんじゃないッス」

 「そうか。弥の意見には賛成だ。限界まで歩こうじゃないか」

 

 隊長は弥ちゃんの返事を待たず再び歩きだした。

 小春も隊長に続き歩きだす。

 

 「えぇぇぇぇぇ? 弥は小春に言ったッス」

 「隊長、町までどのくらいですか?」

 「ちょっと待つッス」

 「もう見えると思うんだが。後、町じゃなくてここでは繁華街と呼ばれている」

 「繁華街かぁ。楽しみです」

 「無視は良くないッス。一番傷つくッス」

 「期待はしない方がいいぞ」

 「どうしてですか?」

 

 ドテッ

 後ろで壮大に転ける音がした。

 

 「弥は繁華街に着くまで、後何ヶ所擦り傷を作ればいいッスかぁぁぁぁ」

 

 弥ちゃんはシクシクと涙を流して泣いていた。

 小春は倒れる弥ちゃんに近づき、手を差し伸べる。

 

 「弥ちゃん泣かないで」

 「そんな気休めいらないッス」

 

 弥ちゃんは言うと、小春の手を振り払った。

 

 「二人共行くぞ」

 「ちょっと待てえぇぇぇぇ」

 

 弥ちゃんが叫んだ。

 

 「もうちょっとッスねー、隊長は弥に気遣ってもバチは当たらないッス」

 「気休めはいらないのだろ?」

 「だ・か・ら、もっと優しさを」

 「私は気休めしか言えないからなぁ」

 「じゃーもう、気休めでいいッスから、休憩時間を」

 「弥はできる子だ」

 「激励を望んでいるワケじゃないッス。隊長はいつもそうだ」

 「隊長と弥ちゃんは仲がいいねぇ」

 

 二人のやり取りは小春をいつも和ませてくれる。まるで、仲良くキャッチボールをしているようだ。

 

 「小春の目と耳は節穴だらけッス」

 「そうかなぁ」

 「弥が苦しんでいるのに小春ときたら・・・・・・シクシク」

 

 弥ちゃんは観念したのか、しぶしぶ隊長に続いた。

 

 「弥がこんなにも・・・・・・」

 

 一人ブツブツと呟く弥ちゃんは、子供が我儘を言っているようにしか見えない。

 頭はいいのにすごい残念な子に見えるのはなぜだろう。

 

 「小春のせいッス」

 「!?」

 

 全然意味が分からない。

 

 「小春が眩しくて前も向けないッス。順番代わっるッス」

  

 八つ当たりだよ。

 

 「小春は弥の後ろを歩けばいいと思うッス」

 「いいけどさー、弥ちゃん歩くペース遅いんだもん。最初は隊長、弥ちゃん、小春の順だったのにさ。弥ちゃんが転んでいる間に抜かしちゃったんだよ。もう、自業自得じゃん」

 「小春に正論を言われ、言い返すことができないとは、弥の死期は近いかもしれないッス」

 「弥が頭でも打ったんじゃないかと、私は本気で心配になったぞ」

 

 このまま過度な運動を続けたら、弥ちゃんの頭はバカになってしまう。早く対策を打たなければ・・・・・・。

 

 「小春、弥」

 

 隊長が顔で向こう側を指した。

 

 「おぉぉぉぉぉぉ」

 

 助かった。これで天才も守られた。

 先には立体上に広がる光の塊があった。

 

 「繁華街だ」


☆★☆★☆★


 一時間程歩くと、繁華街に通じる門があり、中は尋常じゃないほどの盛り上がりを見せていた。

 ライトスターで一番人が集まる場所を繁華街と教えて貰った。繁華街を歩く人々は、片手にビール瓶を持ち笑い声を上げていたり、道端では楽器で演奏している人達、陽気に踊っていたり、歌っていたり、建物の片隅でうずくまっている人、殴り合いの喧嘩もちらほら。繁華街全体はそれほど広さはないが、建物がぎゅうぎゅうに押し込まれている感じで、とにかく建物の数が多い。建物の中にも、店がぎゅうぎゅうに押し込まれている。店の看板を読むと「飲み屋 壱」「飲み処 華」「居酒屋 修羅」・・・・・・。


 「飲み屋しかねーよ」


 なんだここは? あまりの飲み屋の多さに声を出してしまった。

 繁華街よりはネオン街がしっくりくる。光る欠片を看板や建物に飾り付けいてるも、どの店も目立ちたいの押し売りであり、取り敢えず光らせるという考えはマイナスにしか働いていない。


 「光の星ってすごい神秘的な街を想像して、ワクワク、ウキウキしていたのに、どうしてここまで腐敗した町になった?」

 「星全体がスモッグで包まれていて、太陽の光を遮断しているッス。だから、ずっと夜なんスよ。夜なら飲むしかないじゃないッスか」


 正常に戻った弥ちゃんが説明してくれた。

 夜だから飲むって考えは安易すぎるよ。それだと一日中飲んでるってことだよね? 陽気な人々とかいって、ただの酔っ払いの巣窟だよ。

 それに、


 「酒くせー」


 お酒独特の匂いが繁華街に充満している。


 「小春。文句が多いッスね。せっかくだしテンション上げていくッス」

 「逆の意味でハイテンションだよ」


 隊長の期待するなの理由が分かった。期待していただけに、ガッカリ感が小春の中を酷く突き刺さる。

 ここは小春にとって宜しくない場所だ。


 「ん?」


 小春と弥ちゃんが会話をしていると、酔っ払った人達がこちらに歩いてくる。

 うわー何かきた。


 「ねぇねぇお嬢ちゃん方今暇かい?」

 「おじさんお金いっぱい持っているんだ」

 「一緒に遊びに行こうよ」

 「君可愛いね」

 「僕の名前はねぇ・・・・・・」


 数人の酔っ払いに絡まれた。

 軽くあしらってもいいのだけど、酔っ払いのしつこさは半端ない。

 ここは。

小春は酔っ払い集団に向け両手を上げ、体の中にある星の力を放出した。


 「赤鬼!」


 小春の体が赤く光る。


 『ぎゃぁぁぁぁぁぁ』


 小春を見た男達は尻餅をつきガクガクと震え、腰を抜かしたのか無様な格好で小春達の前から逃げていった。


 「逞しいッス」


 弥ちゃんは小春に拍手を送っていた。


 「隊長に比べたらあんな連中へなちょこだね」

 「隊長こそ鬼ッスからね。比べられる相手が可哀想ッス」


 弥ちゃんは言いながら、懐に手を入れノートパソコンを取り出した。


 「星の力の制御ができていたッスね。オンとオフの切り替えがうまくいってるッス」


 繁華街に着くまでに、星の力の制御ができるようになったのだ。全自動で放出する星の力を止めることに成功した。


 「いくつか質問していいッスか?」

 「いいよー」

 「オッケーッス。じゃー質問するッスけど、赤色の光は何だったんス?」


 最初の頃光っていた小春は、色で区別すると多分白だった。繁華街に入ってからは、制御も少しできるようになって、星の力が変化している事に気付いたんだ。


 「感情で色が変わるようになった」

 「なるほど。自分で色を変えることはできるッスか?」

 「そこまではできないかな」

 「光の強さの調整は?」

 「できないね」


 弥ちゃんは聞きながらもパソコンのキーボードを叩く音は止まらない。


 「今できることは、オンとオフの切り替えと、感情の変化で色が変わるぐらいッスか」

 「そうそう」

 「あぁ、因みにさっきの感情は?」

 「この星の残念さに怒った」

 「そっちに怒ってたんスね」


 さてっ、と言い弥ちゃんはパソコンを懐にしまった。


 「そろそろオフにしないと変体者になるッス」


 いけない、いけない。

 道行く人々は赤く光る小春を、ちょうど円ができるように避けて歩いていた。避けて歩く人々も小春と同じように、赤色の警戒信号を出していた。

 よし、


 「ポッチとな」


 小春の体からは赤い光が消えた。星の力の放出を止めたのだ。


「小春の体はどうなっているんスかねぇ? ふっしぎー」

 「小春も不思議だよ」

 「私はお前ら二人が突っ立っている方が不思議だ」


 この異常なる気配、圧迫される空気、背筋が凍る寒さ・・・・・・。

 鬼だ。いや隊長だ。


 鬼の形相をした隊長が、仁王立ちしている。


 「たたたたたたいちょう? どこに行ってーー」


 ポコン

 頭を叩かれました。


 「何しにここに来んだ?」

 「任務です」


 繁華街に着いたら、まずは現地の情報を集めると言っていた。


 「ならここで雑談している場合じゃないよな? ん? どうなんだ?」


 隊長がいないと思ったら、既に任務を全うしていたとは。返す言葉もありません。


 「観光に来ているワケじゃないんだぞ。もっとしっかりしろよ」


 怒っている隊長に睨み付けられただけで心臓が止まりそうになる。


 「それで隊長。成果の方は?」


 空気を読まない弥ちゃんが自分を棚に上げ聞いた。しかし、この殺伐とした空気を断ち切るには、強気に任務の話に乗り換えるのが策だ。

 さすが弥ちゃんだぜ。天才故の荒技だ。


 「三軒の店を回ったが成果はなしだ」

 「まだ三軒ッス。これからこれから」


 励ましの意味を込め、ファイトポーズを送る弥ちゃん。

 一言多いね。天才故の誤ちだよ。

 行き過ぎた行動は弥ちゃんの頭にたんこぶを作った。


 「サボってた分際で随分と偉そうだな」

 「痛いッス。しかもサボってたのは小春で、弥は小春についての可能性を調査してたッス」

 「小春はサボってたんじゃなくて、忘れてただけだし。弥ちゃんみたいに動きたくないから止まってたワケじゃないの」

 「どっちもどっちだ馬鹿共。いいからついてこい」


 隊長は言うと歩き出し、小春と弥ちゃんもトボトボと後に従い、店前に向かう。

 店先には「酒場横丁太郎」と看板に書かれている。


 「これまた、ネーミングセンスの欠片もないッス」

 「というか弥ちゃん。一軒一軒入って聞き込み? 一軒だけで相当時間が掛かるんじゃない? そんな時間あるの?」

 「百聞は一見に如かずッス」

 「時間がないことが分かっているなら最初からーー」


 いいからいいから、と弥ちゃんは隊長の背中を押し「酒場横丁太郎」に入店する。

 店の中はカウンター席にテーブル席が四つと、外観通り小さな店内になっている。カウンター席には男が二人、テーブル席は一組の男達が三人、店のマスター一人で全員だ。

 小春達が入ると、テーブル席の男一人が小春達に気付き二度見した。まず、テーブル席の男達の背筋が伸び尋常じゃない汗が流れ、異変を察知したのかカウンター席の男が小春達を見るとフリーズした。伝染しマスターの皿を割る音が店を響く。

 時間にして僅か五秒で凍りついた。


 「おおおぃ、ああああれれって、りりりりりリンクススススタタタァのおぉおぉさぁぁ?」

 「事件か?」

 「俺何もしてないよな?」

 「隣にいるのって天才発明家の藤原弥さんじゃないッスか?」

 「この店やばいのか?」

 「マスター何をした?」

 「私は浮気ぐらいで・・・・・・」


 そして、店内がザワザワと騒がしくなってきた。

 余計な雑音も入ったが、この光景を見て妙に納得した。


 「この店に情報なし」


 小春は呟くと早々に店を立ち去った。

 店の外に出ると小春は弥ちゃんに話し掛ける。


 「力技だね」


 腕に力こぶを作り見せた。


 「このようにッス、情報を持ってたり、何かやましいことがあれば、相手の反応を見れば一目瞭然ッス」

 「簡単だね」

 「まさに力技ッス」

 「うん」


 それにしてもと小春は思う。

 隊長の認識度はリンクスターに留まらないんだ。


☆★☆★☆★


 五軒目の店での聞き込み? が終わり六軒目の店に入店すると、さっきまでの反応とはまるで違う様子の一組のカップルがいた。

 さっきまでは大抵、隊長の顔を見るとあられもない罪を被せられ、無実を嘆いたり、自分の行いに自問自答したり、土下座をする人までいた。

 だから、この一組のカップルに注目せざるを得なかった。どこが違ったのか?

 とても冷静に会話を楽しんでいた。


 「さっきリンクスターの輸送船があったよねー」

 「あれって強奪したんじゃね」

 「それで、一番隊が奪還しにきてるんでしょ? ここには犯人も輸送船もないって」

 「早くこの店から出てけって。それとも俺が追い出してこようか?」

 「キャーかっこいい」


 隊長がカップルの席に向け歩く。そして、隣同士に座っているカップルの反対側に相席した。


 「聞きたいことがあるんだが」


 隊長がカップルに言った。

 虚をつかれたようにカップルはビクッと体を揺らし固まった。蛇に睨まれた蛙のように。


 「あ・・・・・・あの」

 「私達は別に何でもないんです」


 二人の男女は顔がみるみる青くなる。次の言葉を必死で言おうとしているも、口は震えてうまく音がでてこない状態。

 人間、危機的状況に陥ると体が硬直することがあるらしい。小春もよく頭が硬直するのと同じだ。

 小春は素直に思った。


 「鬼は鬼でも優しい鬼なのに・・・・・・」


 ニシシシと悪い笑みを浮かべる弥ちゃんは楽しそうだった。弥ちゃんは人の苦しむ姿を養分として体に取り込む悪魔なのだ。


 「優しいを付けると、どことなく無害のイメージがあるッスけど、人間を鬼に例えている時点で恐ろしさが前面に出るッス。優しさではカバーしきれないッス」


 プチッ

 もしや、小春と弥ちゃんの会話が聞こえたのかな? 後方でも分かるぐらいの殺気が滲み出ているよ。

 

 「よし、外で待機ッス」 

 「そうだね。情報もゲットできそうだし」


 隊長を店に残し外で待機することにした。尋問を受けるカップルは泣いてるようにも聞こえたが、ここは彼氏さんの腕の見せ所じゃないのか?


 「愛の力は鬼をも凌駕する」


 店の扉を開け酒場を後にした。


☆★☆★☆★


 繁華街から北におよそ三キロの地点を走っている。賑わいを見せていた繁華街はなく、暗い街があった。昔は盛んだったであろう繁華街の残骸が一式ある。崩れた建物は賑わう繁華街の建物と変わらず、ただそこには人と光がない。


 「ここは昔の繁華街だ」


 走る隊長は、暗い夜道を照らす様にライトスターの欠片を、等間隔で投げている。それを頼りに小春達は足元を確認しながら走る。欠片は隊長の手を離れると同時に数秒光り、そして欠片が砕ける。だから、後ろは真っ暗で何も見えない。

 小春が懐中電灯の代わりになってもいいのだけど、あまりにも光が大き過ぎるので却下された。


 「昔の?」


 小春は隊長に聞く。

 カップルの情報だと、繁華街跡地にリンクスターの輸送船が運ばれているのを目撃したと言っていた。


 「統治者がいないと街を管理する者がいないんだよ。管理されない街は廃れる一方なんだ。古くなった街は捨てられ、新しい土地にどんどん人が移動しているのさ。ここを北とすると、北から南へと」


 ボロボロになった街は何だか可哀想。


 「廃れた街は人が寄り付かなくなって、この有様だ。しまいには、犯罪者の住み家ともなり悪循環だな」

 「隠れるのにはもってこいの場所ですからね」

 「ハァハァ、本当犯人って暗いとこ好きッスよね。こっちはいい迷惑ッス」


 今回の弥ちゃんは文句を言わず必死でついて来ている。こんな暗い場所に取り残されたら帰れなくなると、命の危険を察知しているのだと思う。隊長も何も言わずに、弥ちゃんがついて来れるギリギリの速度を保つ。


 「迷惑をかけているのは弥もじゃないか?」

 「ハァハァ、それを言っちゃおしまいッス。欠点をお互い補っていくのが仲間というもんッス」

 「弥の運動神経の無さは補える領域を超えているからな」

 「やっぱりさー、弥ちゃん運動したほうがいいよ? そのうち歩くのも困難になるよ」

 「その時は、ハァハァ、天才の腕の見せどころッス。ハァハァ、弥の足を機械にハァハァ」

 「弥、もう喋るな」


 弥ちゃんは顔をゆがめ、苦しそうに呼吸をしている。


 「ハァハァ、その言い方だと今にも弥が、ハァハァ死ぬみたいで、ハァハァハァ・・・・、了解ッス」


 言い掛けたが、自分でも限界だと感じたのだろう。途中で会話を止めた。

 弥ちゃんにしては結構な時間を走っていると思う。しかも、ゴールが分からないと尚更キツイ。

 前も後ろも真っ暗な闇が広がり、そんな闇を一瞬一瞬、ライトスターの欠片が小春達に点滅してくれる。点滅する光は昔の繁華街を映し出し、かつての栄光を連想させる。今走る大通りも人が賑わいを見せていたんたんだろうなと、ちょっとセンチメンタルな気分になる。

 感傷的な気持ちになっていると、大通りの先に微かな灯火がポツリとあった。


 「小春、弥」


 隊長は欠片の使用を止め、手から待てのサインが送られる。


 「先に灯りがありますね」

 「ここから先は慎重に動くぞ」

 「ハァハァ、ここがゴールッスか?」

 「だといいな」

 「じゃないと弥は困るッス」


 小春達は慎重に灯りの方へ足を近づける。近づくにつれ、人の気配を感じる。


 「誰かいる」

 「ここが、限界だな。これ以上は見つかる恐れがある」

 「でも、ここからじゃ何も分かりませんよ?」


 道の先には広場のようになっており、小春達は丁度死角になる部分に身を潜めている。


 「小春、体を前に出すなよ」

 「はーい、でもどうするんですか?」

 「弥に任せよう。弥、やり方は任せるから、あっちの状況の確認を頼む」


 弥ちゃんが見に行って大丈夫なのかな? すぐに見つかってしまうんじゃないの?

 小春は弥ちゃんに心配の目を向ける。


 「まったく、まったく、隊長は人使いが荒いというか何というか。でも、弥は天才ッスから、文句も言わずに命令を実行してあげるッス。散々足でまといとか言ってたッスけど、やってあげるッス」


 文句しかないよ弥ちゃん。


 「いいからやれ」

 「ほいッス」


 弥ちゃんは頭に付けているゴーグルを目元まで下ろし、付け直す。すると、ゴーグルの横のボタンを押し壁を見つめ出す。


 「手前に三人、奥に二人ッス」


 おぉー、壁が透けて奥が見えるんだね。すごいゴーグルだ。

 言い終わるとゴーグルを元の位置に戻し、次に懐から手のひらサイズの機械を出した。何かの機械は、球体の形にプロペラがあり、頭上に放り投げるとプロペラが回りだして空に飛んでった。そして、パソコンを取り出し画面を開く。


 「リンクスターの輸送船と、もう一つの輸送船らしき宇宙船があるッス。今中身を移しているところッスね」


 弥ちゃんが言うように、画面に映像が映る。

 それと同時に隊長は、


 「行ってくる。二人はそこにいろ」


 隊長は言い終わるとすぐに、広場に一人先行した。


 「あれ? 小春は何をすればいいの?」

 「見るのも勉強ッスよ」

 「その言葉を弥ちゃんが言う?」


 弥ちゃんには言われたくない言葉だ。でも、隊長の命令ならここにいるしかないけどさ。    

 小春も何かすると思ってたばっかりに、意気消沈するよ。弥ちゃんもなんだかんだ言って、自分の役割がちゃんとあるし・・・・・・。

 あぁ、そういえば、


 「最初のゴーグル必要あったの?」


 気になっていたので質問した。


 「あのゴーグルはッスね、なんと熱感知機能が付いているッス。壁なども関係なしに、壁奥の人が感知ができるッス。次に登場した発明品は、小型偵察機で名前を「ペリカメラ」。このペリカメラは先端に小型カメラが付いていて、どんな激しい戦場でも難なく偵察できる優れ物ッス。飛んでる時のプロペラ音がほぼ無音でーー」

 「違う違う。そこじゃないよ弥ちゃん」

 「ぬぬぬぬぬぬ!?」


 言葉にならない言葉で小春に問いかけた。


 「偵察機あるならゴーグル必要ないじゃん」


 小春は素直な感想を弥ちゃんに投げかけてみた。

 ゴーグルも確かにすごかったけど、偵察機一つで事足りるだろう。


 「・・・・・・」


 返事がない。


 「おーい、弥ちゃん?」

 「・・・・・・から」

 「うん?」

 「バカにされたから」


 弥ちゃんは歯を食いしばり涙を堪えていた。


 「このゴーグルはッスね、飾りじゃないッス。ちゃんと使える機能が充実しているッス。それはもう、科学の結晶のようなもんなんス」


 よしよし、と弥ちゃんの頭を撫でると涙がこぼれた。


 「隊長の冗談を間に受けるなんて、可愛いところもあるんだね弥ちゃん」

 「隊長は弥の発明品の数々をガラクタ呼ばわりするんス」

 「小春も時々ガラクタに見えるよ」

 「何も分かっていないッス」


 弥ちゃんの発明品はレベルが高くて小春みたいな素人がみても、理解できないんだ。だからどれもガラクタに見えてしまう。

 そんないつもの日常的会話を楽しんでいると、小春達の直ぐ後方から小さな石ころのような物がコンクリートの地面を二~三回擦る音がした。聞き逃してしまう程の小さな音であったが、視覚が乏しい今は聴覚が過敏にも反応する。


 「小春」


 名前を呼ぶのは、さっきまで泣きじゃくっていた弥ちゃんだが、今は険しい顔をしている。

 いつも人をおちょくるようにニタニタと笑う弥ちゃんからは想像もできない真剣な顔。


 「後ろに誰かいるッス。足音が聞こえないということは、相手はこっちが気付いたことにまだ気付いてないッス」


 気付かれないように体は動かさずに、口だけを動かし小春に話す。


 「合図で一緒に逃げるッス」


 小春も弥ちゃんに合わせて、相手に聞こえないように耳元まで体を動かし言う。


 「逃げるってどこに?」

 「ちょっ?」


 ガタッ タッタッタッタ

 後ろで動く音が小春の耳に入る。


 「挙動不審すぎるッス。バレたじゃないッスか! 前に逃げるってことッスよ。隊長の通った道は安全圏ッスから」


 後ろの足音が次第に大きくなる。

 言葉と共に走り出す弥ちゃんに続こうとするも、

 足おっそ!

後ろの足音を見ると、三メートルの位置まで接近していた。


 「走れ走れ」


 弥ちゃんの全速力は、隊長のところまで着くころには追い付かれる。

 足音の相手は、片手に剣を持ってこちらに走って来ている。見間違いではなく、明らかに小春達を敵視している。追い付かれれば、弥ちゃんはひとたまりもない。


 「よし、小春の出番だね」


 腰に隠してある二本の銀ナイフを手に持つ。銀ナイフは刃渡り十センチ程で、普通のナイフに比べて少し大きい。


 「いきなりの実践だけど緊張するな小春」


 自分の声で脈打つ心を静める。

 相手が持っている剣は大剣というものだった気がする。小春の身長ぐらいの大きさで、重量感がズッシリある。剣の刃は刃こばれが目立ち、多分打撃を目的としているんだと思う。

 斬るにしろ叩くにしろ、攻撃を受けたら軽傷じゃすまい。


 「小春何してんスか? ふざけている場合じゃないッス」


 弥ちゃんは小春が隣にいないことに気付き振り返ったのだろう。

 ふざけてないよ。超真剣だ。

 手に持ったナイフをギュッと握り締め、相手を睨む。

 それに反応したかのように相手は両手で掴んだ大剣を大きく振り上げ、小春に飛び掛ってきた。

 最初の攻撃だけ防げれば。

 相手は小春に空中に弧を描くように飛んで来る。弧の最高到達地点で振り上げた大剣を振り落とす。

 小春の頭の位置に大剣が落とされると同時に二本の銀ナイフをクロスさせ、大剣の刃をナイフの刃で受けとめる。刃と刃のぶつかり合いは金属音を鳴らした。

 小春の体を支える足は、受けとめた時の重さで少し沈む。


 「くぅぅぅぅ」


 大剣とそれを振る相手の力が加わり、受けとめた小春は自然と歯に力が入る。

 刃と刃を合わせた二人の距離はゼロ距離といえる。相手の顔も確認できる距離。相手は成人男性で、小春よりも力は上だ。受け止めたのはいいが、徐々に押され初めてきた。だけど、

 最初の攻撃は見事に防いだ。


 「今こそ解放する時」


 小春は体の中に溜まる星の力を感じる。体中心部にある小春貯蔵庫の蛇口を小さな小春達が斧で破壊していく。気合の入った一振り一振りは蛇口にヒビを入れ、破壊することに成功。

 破壊された蛇口から大量の星の力が流れ出た。

 そして、星の力が体中に行き渡り力を込める。


 「タイガーファイトフラッシュ」


 ピカーン

 星の力を一気に放出して強力な光、閃光を体から出した。弥ちゃんの走りを応援する色は黄色だった。

 ゼロ距離で光を見た相手は、目をつぶり一歩下がる。それにより、踏ん張っていた足の重さが消えた。

 相手が下がりきる前に、小春は一歩前に前進し片足に重心を置く。


 「おりゃぁぁぁぁぁぁ」


 相手の顔面に足技の蹴りをお見舞いさせた。

 顔面にクリーンヒットさせられた相手は、頭をクルクルと回して、地面に倒れ込んだ。

 沈黙の末に、


 「おし、上出来だ」


 緊張していた顔も相手の倒れたのを見て緩む。弥ちゃんはあっちの方で、口をポカーンと開け目が点になっている。そこまで驚かなくていいと思う。


 「今の騒ぎはなんだ?」


 隊長は慌てて小春達のいる通りに駆け寄ってきた。

 「弥の慌てた声が聞こえたと思ったら、急に街が照らされ」

 ゆっくりと周囲を確認し小春のほうへ来る。


 「無事で良かった」


 ボコン

 鈍い音が町に轟いた。

 小春の頭を、隊長が拳で殴ってきた。


 「おおうあうあう!?」

言葉と行動がまったく合ってないです。あまりの痛みに声が出ない。


 「大体の状況は分かった。弥の命令を無視したな?」

 「あううううえあああお?」


 なぜ見てないのに分かるのですか? さすが隊長。

 本当に痛くて言葉にできずにいたが、小春はふと思った。


 今まで散々怒られてきたけど、今回のゲンコツが比べようにもなく痛く心に響いたことを。


 「あうううあううえあうううおえあ」


 命令は無視したけど、理由があったんです。隊長に伝えようとしたが、声が言葉にならない。

 そしてもう一度、

 パコーン

 頭を叩かれた。

 今度は頭にハイタッチをするかのように平手で叩かれた。

 普通なら痛くないだろうけど、同じとこの部分は痛いです。


 「弥を庇ったんだな」


 これは、怒ってないのか?

 隊長の顔を見ると微かに笑っているようだった。


 「あいつ足遅いからな」

 「どういうことッスか?」


 口を開け惚けていた弥ちゃんも戻ってきて隊長に尋ねた。


 「弥が逃げれないと判断して無茶をしたらしいぞ」


 だろ? と隊長に問われたので涙ながらに頷いた。

 コクンコクンと何度も頭を上下させる。

 「そのことについてはお礼を言うッス。ありがとうッス。でも、それはそれ、これはこれッス」

 「そうだな」


 あー、お説教が確定してしまった・・・・・・。

 

☆★☆★☆★


 見事犯人一味から輸送船の奪還に成功することができた。隊長が全部やったようなものだけれども・・・・・・。

 拘束した犯人グループは全員怯えた状態だったと、行く先々で噂されていたのを耳にした。この入った飲み屋でも、小春達が入ってくると今まで満席だった店が一瞬にしてものけの空になってしまった。 

 そのへんは、最初と変わんないんだけどね。

 小春は空腹になったお腹を満たすために手を動かそうとすると、


 「聞いているのか?」

 「聞いているッスか?」


 隊長と弥ちゃんにつっこまれるけど、一時間同じことの繰り返し、繰り返し、繰り返し。


 「そいやー」


 意味もなく叫んでしまった。


 「ついに壊れたッスか」

 「はぁー」


 隊長の溜め息もこれで何度目だろう。


 「もう大丈夫ですって。どれほど命令が大切なのか分かりましたから。後、弥ちゃんはただ小春をバカにしているだけだよね?」 

 「いやね、隊長のポジションで説教をしてみたかったんス。いつも小春の立ち位置で怒られてばっかりだったから。たまにはこっちもいいかなぁって感じッス」

 「いいわけあるか」

 「怒るほうも心が痛かったッス」

 「半分以上笑ってたじゃん」

 「おかしくてついッス」

 「こっちの身にもなってほしいよ」


 問題発言をサラっと言う弥ちゃんは最低だよ。

 話しながらも小春の手は動かし続けている。お腹が空いているんだもん。

 テーブルに並べられた料理はもう空になろうとしていたので、メニュー表に手を伸ばす。


 「まだ食べるのかよ」


 隊長が小春に言った。


 「腹が減っては戦ができぬって、よく言いますよ。隊長」

 「戦は既に終わってるッス」

 「そうでした」

 「ここら辺で一旦話を進めるぞ」


 また説教ですか?

 小春はメニュー表を取るのを諦め、手を交差させ攻撃に備えるポーズを取る。


 「何やってんだか・・・・・・。これからの動向についてだ」


動向についてということは、お説教が終わった合図だ。小春の中では小さな小春達が、喜びに抱き合っている。一人余りがでたので、一人はガッツポーズをしていた。


 「私は一旦リンクスターに輸送船を送り届けてくる」


 輸送船が無事に帰ってきた訳で、任務達成で帰る準備の話ですな。でも、隊長は今一人と言いましたよね?


 「小春達は?」


 どうすればいいのでしょう。


 「小春は弥の付き添いだ」

 「これからに備えて足りない部品の調達ッス」


 如何にも任務が終わりでない会話の進行だ。


 「任務は終わりではないのですか?」


 この任務に続きがあるのか、新たな任務の準備なのか分からない。


 「これを」


 隊長は小春に一枚の写真を渡してきた。

 写真に映る物は、


 「紋章?」


 銀色のバッチの中心に、羊らしき動物が描かれていて、鼻風船を膨らませ眠っている様子。

 ちょっと可愛い。


 「この紋章はイリュージョンスターのッス」

 「犯人グループの一人が付けていた物だ」

 「厄介な話になって、イリュージョンスターの輩が絡んでいるかもしれないッス」

 「厄介というと?」


 イリュージョンスターとは初めて聞く星だった。弥ちゃんが厄介事と言ってもどんな時も面倒くさそうな顔しか作らないので、所詮言葉の継ぎ足し程度に、言葉の綾で言ったものだと思うも、隊長の顔からも厳しい表情を伺えたので小春自身も緩んだ糸が張る。


 「イリュージョンスターはな、閉鎖的な星なんだよ。他の星とは一切友好関係を築かない星。情報が遮断された星とも言えて、とっつきにくい部分があるんだ」

 「あそこの長は話が通じない人で有名なんス。現段階で、故意か過失かを判断するのが優先事項なんスが、確認する術が限りなくないに等しいんスよ。それをすっ飛ばして、喧嘩を売られたから買うでもいいんスけど、できれば穏便にすませたいのがリンクスターの現状ッス」

 「話し合いができないんだね?」

 「そうッス。紋章一つぐらいじゃ白を切られるのが落ちッスからね。犯人グループも紋章のことは口を割らなかったッス」


 難しい話になってきたな。簡単に言うと、次のステップに踏み出すのに、もうひと押しが足りないってことだと思う。


 「ここで初めて、今後の動きに繋がるんだ。私は輸送船を送り届けると言ったが、その時間を準備にあててほしい」


 弥ちゃんの付き添いが準備とはどう関係してるんだろう、と首を傾げる。


 「私達はイリュージョンスターの真意を確かめるため、本拠地に潜り込もうと思っている。相手の星は勿論入国の許可など受け付けない。相手からすると、私達は不法侵入の形になるな。見つからないことが前提だが、万が一も想定しなくてはならない。そのための準備に弥は部品の調達をするそうだ。小春は今回の成果に対しての褒美だ。準備もあるが、楽しんでくるがいいさ」


 成果と言うと多分、弥ちゃんを守ったことだ。長い説教でなかったことにされてたと思ってたけど、隊長は評価してくれていた。


 「ありがとうございます」


 褒められることが小春に取って極めてレアなのでとても嬉しい。


 「楽しむのはいいッスけど、あくまで弥の付き添いを忘れないでほしいッス」

 「うんうん。まかせてよ」

 「うわ~、その顔信用できねーッス」

 「それで、どこの星に行くの?」

 「ライトスターよりは楽しいと思うぞ」


 隊長は言うと席を立った。


 「のんびりしすぎたな。私はそろそろ行くぞ」


 小春は店を出る隊長を見送り、元いた席に着く。


 「弥達もそろそろ行くッス」

 「ご飯も食べたいけど、早く次の星に行きたい自分もいるよ」

 「小春、迷惑は起こさないでほしいッス。弥じゃ小春を止められないんで」

 「何て言う星?」

 「もういいッス。どうにでもなれッス。はぁ~、弥達が行く星はッスねーー」

 

 次に向かう星は「ストリングスター」に決定しました。ライトスターと比べて楽しいと言っていたので、期待が小春を興奮させる。

 隊長に貰ったお金で会計を済ます。弥ちゃんは面倒くさいと言って、会計を全て小春に押しつけて先に出ていってしまったのだ。


 「お金管理は弥ちゃんの仕事なのに、本当にもう」


 小春も店から出ようとすると店主が呼び止めてきた。


 「あんたらリンクスターの一番隊の者だろ? 腕が立つと聞いているんだが、星砕きの留衣ほしくだきのるいを何とかしてもらえないだろうか?」

 「星砕き?」

 「知らないのかい? 最近この近くの星で出たらしいんだよ。その星は見事に壊滅状態って噂だ。おかげで様で、ここ近くの星々では人が減っているんだよ。商売上がったりさー」

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