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パニック☆スター  作者: モエLOW
パニック☆スター3
19/26

3話 カメレオンスター

 つばめ号船内


 現在つばめ号船内は今までにないぐらい緊迫した空気が流れていた。「贅沢な安らぎ」でのミーティング。小春と隊長、弥ちゃんが中央にある丸テーブルで話し合っていた。


 「勢いで宇宙に出てきたはいいが弥、考えはあるのか?」


 質問したのは隊長で、答えようとするのが弥ちゃん。

 留衣ちゃんがいなくなって数時間が経とうとしていた。留衣ちゃんがいないことに気付き、すぐさま隊長に連絡、そして弥ちゃんが何の説明もしないでつばめ号で飛び立つと言い出して、宇宙に出て、今に至る。

 自分で言うのもなんだが、小春自身相当焦っていたと思う。隊長には何回も冷静になれ、と言われた。正直な話、留衣ちゃんがいなくなってから現在に至るまでは、パニックになっていて殆ど記憶に残っていない。それぐらい心配で不安だった。

そして、時間が経ちようやく冷静に考えられるようになった。

 冷静に考えて小春も思うことがある。

 適当に飛んでも留衣ちゃんは見つけられない。むしろ、タイムロスになり兼ねない。小春が言える立場でないのは重々承知であったが思ったのだ。

 話し始めようとする弥ちゃんに小春は自然と息を呑む。


 「おそらくはッス」


 弥ちゃんは隊長と小春を見て続ける。


 「小春の家は一応厳重にロックしていて、誰か無断で入ったなら警報が鳴るように改造していたッス」


 お、おう。今はそれどころじゃないので聞き流そう。


 「それでも一流のプロにかかれば侵入するには難しくはないッス」


 今の話しだと侵入されたなら警報が鳴るらしい。だけど、夜中警報は鳴らなかった。多分、弥ちゃんは一流のプロの犯行だと言いたいのだろう。


 「次にリンクスターのセキュリティーッスが、それはまず間違いなく作動するッス。無断で星に入った瞬間に警報、または異常を知らせてくれるッス」

 「異常はあったが、警備員は異常なしと判断したそうだな」

 「それッス。警報は鳴ったッスが、監視カメラで確認したとこ何も映っていなかった。それで誤作動と判断したみたいッス。それも二回」

 「出て入っての二回か?」


 弥ちゃんは頷く。


 「一流のプロの犯行ッスけど、それ以上ではない。範囲が結構狭まったと思うッス。どうッスか?」


 どうと聞かれても、範囲が狭まったかどうかは今の小春には分からない。一流以上の存在がどんな存在かも分からないし。てか、一流の上って何だよと、疑問に残る。


 「それは狭まったと言うのか?」


 隊長も同じく思っていたらしい。


 「弥クラスの強者が除外されたッス。それだけでも、進展はあるッスよ」

 「弥ちゃんクラスのバカがいるの?」

 「バカではなく天才ッス。そこ間違いないように」

 「どっちでもいいけど、一流の上がいるの?」

 「測定不能クラスが、知っている限りで二人ッス。たった二人ッスが、そいつらが今回除外されたのは不幸中の幸いと言えるッスね」


 二人かぁーー、全然絞れてない気もする。だって宇宙には何千億もの人々と、何百個の星が存在しているのだ。それに、それは特定ではなくどんなレベルの奴が行なった犯行かを測定しているだけではないだろうか? 


 「回りくどいな弥。結論を最初に言え!」


 隊長が一喝すると、弥ちゃんは言う。


 「リンクスターのセキュリティーには引っ掛かったが、目視は出来なかった。しかし、小春の家の厳重なロックは解除出来た。これは、カメレオンスターの特殊部隊の犯行が濃厚だと思うッス」


 隊長は腕を組み「んー」と黙る。


 「目視出来なかったのはカメレオンスターの欠片の力が有力な線だと弥は判断したッス」


 名前から概ね想像できるが、一応確認する。


 「カメレオンスター? どんな力?」


 それはッスねと、弥ちゃんが言う。


 「風景に溶け込む力。ざっくり言うと姿を消せる力ッス」


 やっぱりか。体を変色させて周囲の環境に溶け込む、爬虫類のカメレオンと同じ力。


 「諜報活動に長けたカメレオン特殊部隊は、潜入等のスキルは一流ッス。この星なら小春の家に容易に侵入も可能。全てが当てはまるッスよ」


 こんな少ない情報で犯人を特定した弥ちゃんには言葉もでない。犯人が特定出来た次は、留衣ちゃん救出に向けての作戦だと、小春の中で気持ちが高まる。だが、隊長の方を見ると犯人が特定出来たのに、難しい顔を崩さなかった。


 「らしくないな弥」


 弥ちゃんは下を向く。


 「当てはまったのではなく、当てはめたのだろ?」


 ん? 不意にそんな事を言う。


 「普段なら上げられた情報とは異なる結果を消していき、最後に残った結果を有力な線と判断するのが弥だよな。でも、今はどうなんだ? カメレオンスターと最初から予想して、条件を当てはめたんじゃないか?」


 小春には同じように聞こえ、何を問題にしているか分からない。

 小春は隊長に聞く。


 「それではダメなんですか?」

 「ダメではないが、今の話だと絞れていないんだよ。違う誰かが、カメレオンスターの欠片を使用することだって可能だし、潜入にしても自分で出来ないなら他の誰かを雇うことも可能なんだ。多分、姿が見えないからカメレオンスターの欠片と判断した。そこまではいい。だが、欠片の使用=(イコール)カメレオンスターの犯行と弥の中で限定した上で、上げられた情報を当てはめたんだろ」


 隊長は上げられた情報が他にも一致する人が沢山いるんだと言っている。そうなると、言うように弥ちゃんらしくないと思ってきた。


 「まだあるッス!」


 隊長に意見する弥ちゃん。


 「ネプチューン社の記事の内容による情報操作。ピッタリのタイミングでの留衣の誘拐。今回の騒動は複数の情報機関が絡んでいると弥は判断したッス」

 「そうも考えられる。しかし、カメレオンスターにいる確証は? 複数の情報機関が絡んでいるとしたらカメレオン特殊部隊が誘拐し、他の星に連れ去った線も濃厚だと思うのだが? それにネプチューン社の記事が元凶なら、普通疑うのはネプチューン社だよな?」

 「ネプチューン社は大いに可能性はあるッス。あるッスね・・・・・・」


 次第に声が小さくなり消えていく。しかし、沈んだと思っていた声が再び音量アップする。


 「あぁーもう! じゃぁ、どうやって特定するッスか? 現段階で犯人を特定するのは無理ッスよ! 証拠も証言も何もないし、犯人特定に時間を費やしているうちに留衣の身柄だって保証されている訳ではないッス」


 隊長は「だから?」と言って弥ちゃんに続きを促す。


 「だから、これはもう弥の勘ッス! カメレオンスターに賭けるッス。それに、空ぶった場合でもカメレオン特殊部隊が動いた線は高いッス! そいつらに吐かせれば無駄にはならないと思うッス!」


 弥ちゃんが大声で叫ぶと、


 「ふん」


 隊長が鼻を鳴らした。


 「それでいい。変に御託を並べてかっこつけるな!」


 笑っていた。


 「今回は弥の勘を信じよう!」


 行き先がカメレオンスターに決まった。

 

 それから留衣ちゃん救出についての作戦会議が始まると思ったが、作戦と呼べる作戦ではなかった。本当に留衣ちゃんがカメレオンスターにいれば相手から尻尾を見せる、それで終わりだった。救出についての段取りもなく、一番隊らしいと言えば一番隊らしい行き当たりばったりな作戦だ。言い方を変えると、その場での即時判断での行動。隊長と弥ちゃんだからこそ実行できる高難易度な戦術と言える。

 心配はない。弥ちゃんの勘も絶対に当たっている。留衣ちゃんはカメレオンスターにいる。そして、この留衣ちゃん救出任務は絶対に成功すると心から信じている。一番隊に不可能と言う文字はない。だから、一番隊に心配はなかった。


 だけど、心配はあるのだ。

 留衣ちゃんの身の心配と、それと留衣ちゃんを拐った理由。

 留衣ちゃんは無事だろうか? 留衣ちゃんは何で誘拐されたんだ?

 気掛かりはカメレオンスターに近付くにつれ増していったのだった。

 

☆★☆★☆★


 木を隠すなら森

 人を隠すなら人混み

 星を隠すなら宇宙

 見つからないかくれんぼ

 自由自在の星 カメレオンスター

 

 空はドス黒い雲に覆われて、今にも雨が降りそうな天気だった。

 つばめ号は住宅地が密集するエリアを通り過ぎ、大きな四角い建物に丸屋根を載せた建築物が多く密接するエリアに降り立った。

 隊長と弥ちゃん、小春の順で前を歩く。歩く道の端には大きな建物がずらっと並んでいるが、どの建物からも人の気配が感じられなく、どの建物もシャッターが閉まっていた。少し歩いて行くとシャッターが開いてある建物を発見。通り過ぎざまにチラっと建物の中に目をやると、古くゴツイ機械が多く置かれていたのだった。しかし、やはり中には人が居なく廃墟のようになっていた。


 工場なのかな? 何を作っているのだろう。


 廃墟のようになった工場には、錆び付いてボロボロになっているロゴが描かれていた。不気味に笑う老婆の絵。


 ぷる・・と、つち? 


 錆び付いてて文字が読めない。

 だけど、ここら一帯の工場には同じと思われるロゴが描かれていたのだった。


 「想像とちょっと違うッスね」

 「ああ、そうだな」


 小春は前を歩く二人に尋ねる。


 「ここって工場ですよね? 今はもう閉鎖になったのですか?」


 とても今もバリバリ稼働しているとは思えない。


 「みたいッスね」


 トーンを低くして答えた弥ちゃんも、この光景に戸惑っているみたいだった。何度も顔を右に左へと動かして様子を確認していた。


 「弥ちゃんも知らなかったの?」


 弥ちゃんが答える。


 「とても栄えた星だと聞いていたッス」

 「栄えていた?」


 とは、お世辞にも言えなかった。


 「コスモ社と同業の情報機関がこの星には存在するッス。情報を商品にして他星に売っているッスね。新聞の発行もそうなんスが、報酬次第でどんな困難な情報も手に入れてくるカメレオンスターは有名なんスよ。有名だけあってこの工場地帯も繁栄していると思っていたッス」


 小春の目には廃れているように見える。


 「ここらの工場はカメレオンスターの一角を担うプルートゥ社の工場ッスが」

 「潰れている?」

 「そう、見えるッスよね。プルートゥ新聞はちゃんと発行されているからプルートゥ社自体が潰れたワケではないと思うッスが、想像とは程遠いッス」

 「プルートゥ社はカメレオンスターの財政の大部分を支えていると聞くが、この様子だとカメレオンスターは今財政困難に陥っているのかもな」

 「戦争が多発していた時期は、カメレオンスターのプルートゥ社に仕事の依頼が殺到してそれはとても繁盛していたと聞くッス。プルートゥ新聞が今も継続して発行されているッスから、カメレオンスターは今も栄えていると勝手に思い込んでいたッス」


 工場に描いてあるロゴはプルートゥ社のもので、ここら一帯全てがプルートゥ社の工場だった訳か。カメレオンスターの一角を担っていたと頷ける。


 「起死回生の為の大スクープを入手する必要があった。その為留衣を誘拐して、星砕きである証拠を掴もうとしたッスかね?」

 「それだけだといいんだがな」


 微かに聞こえた隊長の声に反応して小春は、


 「それ以外があるんですか?」


 隊長に質問した。


 「留衣が誘拐された理由は星砕き関連で間違いないだろう。だけど、カメレオンスターは何故知っているんだ?」

 「何故って、どんな困難な情報も入手出来るのがカメレオンスターじゃないんですか?」

 「だとしたら、既に留衣の記事を流していると思わないか?」


 そうかも知れない。ってことは、


 「まだカメレオンスターは、留衣ちゃんが星砕きと断定出来ていないってことですか?」


 留衣ちゃんが星砕きだと言う証拠がないんだ。


 「留衣がリンクスターにいる事実は、噂程度の話なんだと私は思っている」

 「・・・・・・噂ですか」

 「問題なのが噂はどこで広まっているかだ」


 留衣ちゃんが星砕きと知っているのは、あの時留衣ちゃんを利用しようとした星と、記者さん。記者さんは捕まっているから大丈夫として、なら、


 「イリュージョンスターが流したんですか?」

 「それはないッスね。イリュージョンスターは留衣を知っているけど、リンクスターで保護したことは知らないッス」


 じゃぁ、誰が流したのだろうか? 


 「引っかかるんだよなぁ」

 「引っかかるッスね。イリュージョンスターでないとすると、あの時の記者の新作追々しか思い付かないッスけどーー今は捕まっているから外部に情報を流すのは無理ッス」


 記者さんが所属しているコスモ社の線もあると思うのだけど、弥ちゃんの話を聞く限りだと除外している。


 「コスモ社は?」


 何故コスモ社は星砕きの情報を知らないのかを聞く。


 「コスモ新聞は新作追々個人の行為だと記していたッス。多分間違いはないと思うッス」


 小春は「そうなんだ」と頷いた。弥ちゃんがそうだと言えばそうなんだろう納得する。

 それにしても、新聞記事一つでそこまで信用されるコスモ社って何者なんでしょう? 一人考える。そして、隊長が言った噂を流した奴についても考える。前を歩く弥ちゃんも、たぶん小春と同じことを考えているのだろう。手に顎を乗せて空を見上げていた。


 「私達が知らない所で何かが動いているかもしれん。弥が宇宙船で言っていたように情報機関達が絡んでいるとしたら・・・・・・」


 数秒間の間皆無言になると、前を歩く隊長が立ち止まり振り返る。


 「いや、考えさせるようなことを言ってすまなかった」


 隊長は首を振って言う。


 「ここに留衣がいれば分かることだ。手遅れになる前に捜そう」


 弥ちゃんは隊長の言葉を聞くと、手を顎から離す。


 「それもそうッスね」


 考えても分からないことは分からないのだ。優先すべきは、誰か流したのではなく、留衣ちゃんを救出することだ。その為には、早く留衣ちゃんを捜し見つけれなければ。そう、捜さなければ。


 「早く捜しましょう!」


 ・・・・・・。


 あれ? 

 思う小春は自分の言葉に疑問を抱く。

 どうやって捜すの? 

 カメレオンスターと断定したのはいいが、それでもこの広い星をくまなく捜すにはどのくらいの時間を掛ければいいのだろうか。


 てか、無理だろ!


 「隊長!」


 隊長の名前を呼ぶと、今思ったことを強くぶつける。


 「どこを捜すのですか? 広すぎて無理ですよ」


 言葉は、隊長と弥ちゃんには弱音を吐いたと思われたのかもしれない。そんな小春に弥ちゃんは言う。


 「心配しなくてもちゃんと考えているッスよ」


 なだめられた感覚に近かった。考えているって言われても、目的もなくただ歩いているだけだと思う。


 「何故堂々とカメレオンスターに不法侵入したと思っているッスか? 隠密で動くなら、こんな堂々と入っていないッスよ」

 「・・・・・・そうだけど」

 「それについては心配無用ッス」

 「そうなの?」


 小春にもその作戦を教えてくれてもいいと思うけど、


 「もう少し我慢して歩いてろッス」


 聞く前に、聞くなと遠まわしに言われた。


☆★☆★☆★


 我慢して歩けと言うので歩くこと二十分。プルートゥ社の工場地帯を無言でひたすら歩いていた。どこに向かって歩いているのか分からず、ただ二人の背中をついて行く。

 隊長と弥ちゃんを別に疑っている訳ではないが、流石に事情が事情なだけあって、小春の中に焦りが見え始める。焦りは小春の口を開けた。


 「隊長と弥ちゃん? 冷静は分かるのですが、もっと急いで捜さないとーー」


 すると、隊長が右手を斜めに下げて、


 「静かに」


 その場に止まれの合図。隊長の声が緊張しているのが感じ取れる。

 小春も隊長の発言につられて、息を呑みその後の展開に構えた。


 「・・・・・・」


 しかし、待ての合図から環境に進展はない。時折吹く風の音だけが、廃れた工場地帯に冷たく音を立てる。工場地帯には一番隊の三人だけしか立っていなく、何に対しての待て、の指示なのか首を傾げる。

隊長の指示なので静かに待っていると、隊長の左手首に付けてあるブレスレットが光り出した。

 次の瞬間に、


 「そこか」


 手を真横に向けて、ボムを放り投げた。

 ボムは何もない所で爆発する。


 「予想より遅かったな」


 隊長が声を向ける方を見ると、先程までは何もなかった空間が変化を生み、突然向こうの景色を遮った。


 「お?」


 びっくりして声を漏らした小春の目には、黒焦げになった人が今まさに地面に倒れた映像が映り込んできた。


 「突然人が! なんてこったい!」


 何もない場所から、マジックショーでも見ているように人が突然姿を現した。これがマジックショーなら登場した人が観客に向けて手を上げどや顔をするのだが、黒焦げになって倒れている人を見るとショーは大失敗だね。観客から大ブーイングの嵐だろう。


 「そこびっくりするッスか?」


 人が何もない所から突然姿を現したのなら普通びっくりするでしょう? どんな手品を使ったんだ?


 「この星の力!」


 うんざりした声で説明してくれた弥ちゃん。

 すっかり忘れていました!


 「そ、それは知っているよ」


 でも、強がって言った。


 「カメレオンのように風景に同化するんでしょ? 知っていたし。カメレオンスターの星の特徴だよ。知っていたし」

 「超常現象を見たように驚いた雰囲気だったスが?」

 「違うよ! 何故カメレオンスターの欠片を使った人が小春達の前に現れたの? って驚き!」

 「分かった分かった」


 小春の肩を叩く弥ちゃんの顔は、悲しそうな顔をしていた。


 「もういいから。それよりも留衣ちゃんに集中してよ!」


 小春は隊長のボムによって倒れた人を見る。


 「それで弥ちゃん。これがーー」


 急に小春の口を、手で押さえる弥ちゃん。


 「見てろッス」


 弥ちゃんの目の先には、倒れた人に近付く隊長の姿。そして、隊長は倒れた人の胸ぐらを掴み持ち上げた。隊長のボムを食らって黒焦げになった人は女の人で、その女に隊長は言う。


 「もっと穏やかにことを進めたかったが、そうも言ってられんのでな」


 お? 

 隊長の顔がみるみる変わり、


 「言うか言わないかの選択肢をやろう」


 こえぇぇぇぇぇぇぇ。

 人の限界を軽くオーバーした脅し顔は、鬼以上の超越した存在だった。間近で目の当たりにしている女は、


 「わわわわ、わわたたたたし、は」


 恐怖に支配されていたのだった。


 「留衣はどこだ?」 

 「しししし、しり、しません」


 口が上手く動かない女を残念そうな目で見つめ、左手を女に見せつける。


 「そうか、残念だ」

 「え? はははい? なななに、をするの?」

 「今から、お前の口の中にこれを入れる」


 左手に付けてあるブレスレットが光出すと、口に飲み込めるぐらいの大きさのボムが出現する。


 「いちいちお前一人に時間を掛けれないのでな」

 「ひぃぃぃぃぃぃ」


 隊長がボムを突き出すと、女は涙を流しながら何度も叫ぶ。


 「いいい、言います。言いますから。言いますから」


 「それだけでは分からない。本当に助かりたいなら早く居場所を言え」

 「あああっ、あっち、あっちです」 


 女は体を目一杯傾けて後ろを指差した。


 「ぷ、ぷるーとしゃの、だいいち、こうじょう、こうじょうにいます」


 女の言葉を聞くと、隊長は掴む手を離す。それに伴って、女は魂でも取られたかのように地に蹲った。

 え? 

 衝撃の現場を目撃した小春は言葉を失った。遠目で見ていた小春にも恐怖は伝染しており、無意識に弥ちゃんの袖を掴んだ手が震えていた。


 「あれを敵にしちゃダメッスよ小春」


 うん。心で頷く。


 「でも、本当に犯人がカメレオンスターで良かったッスね」


 そうだね。心で頷く。


 「不法侵入した敵を排除しようとしてたかもしれないッスからね。もし、弥達の勘違いなら大問題ッスよ」


 つまり、犯人をカメレオンスターだと決めつけて、わざと見つかるように誘い出して、全てを知っているとハッタリをかけて脅した。

 大問題だったと笑い話処の騒ぎではないよ! 弥ちゃんの勘を信じていたけど、それでも只の勘によくそこまで出来るよな! 考えた弥ちゃんもだし、実行する隊長も、どっちもすげーよ! 肝が座りすぎだよ! 


 「場所は分かった。早く行くぞ!」 


 危険な橋を渡りっぱなしだと思う小春は、「今に始まったことではなかったけどね」と、二人の行動力を尊敬して走り出した。


 「待ってて留衣ちゃん! 今行くから」

 

☆★☆★☆★


 女が言うプルートゥ社第一工場は探すまでもなく見つかった。他の工場と一見変わらない外見は、とても目立っていた。廃墟のようになった他の工場とは違い、光があり、機械の動く音がして、人の気配がして、工場としての役割が働いているように思えた。

 弥は隊長と小春を後ろから眺める。

 いい感じに小春も血が荒ぶっているし、いい予感がしないッス。


 「入ったとこ勝負だな」


 隊長はいつものこと。

 隊長は悩むことなく工場前に立つ。中に人の気配があるけど、大きなシャッターが閉まっていて中には入れない。上にも小さな小窓が幾つかあり、頑張ればそこから入れるだろうし、他にも裏口などがあるだろうし、入る手段はいくらでもある。しかし、隊長はわざわざ閉まっている丈夫そうなシャッター前に立ち、


 「エクスプロージョン」


 躊躇なくボムを使い、爆発させて吹っ飛ばした。


 「走るぞ!」


 隊長は言うと、爆発によって生じた煙の中を突っ走る。小春も驚きはしなく隊長に続いて走り出した。


 「もっと手段はあるッスよ。しかも断然効率的にッス」


 気持ちの準備をする暇もなく弥も煙の中に駆け込んだ。

 黒い煙は視界を遮断する。隊長の姿も、小春の姿も見えない。何も見えないが、声だけはしっかりと耳に入ってくる。それは、隊長でも小春の声でもなく、工場の中にいた人達の声。


 「爆発したぞ!」

 「誰かが侵入してきたのか?」

 「決まっているだろ! リンクスターだ!」

 「全員戦闘態勢に入れ!」


 弥は爆煙を駆け抜けて、工場内に侵入。前には隊長と小春が先に到着していた。

 工場内は、緑色の地面に、古めかしい重音と共に稼働している機械類が多数。機械からは物凄い速さで紙が飛び出している。これは印刷機で、横には紙の束が工場天井まで積み重なっていた。

 あたふたする工場内の人達は、銃や剣などの武器を手に取ろうと動き回っている。


 まずは状況整理ッス。


 弥が工場内の状況を確認していると、皆とは違う不審な動きをする男が一人いた。皆が武器を取るために動き回ったりしているのに、男は奥に走り出したのだ。男の走る速さよりも、弥の目線の方が早く奥に到着。

 今まで冷静になっていた弥にも込み上げる感情が顔を出した。

 もっちりした肌に、弥達を見てヤエバを見せながら笑う顔。

 その顔に、傷が付いていた。

 口元から垂れて固まった血に、顔面右半分が青く腫れている。手錠でつながれた手首に、逃げ出さないようにと捕まえておく為の小さな鉄格子の檻。

 流石の弥もこれには怒りが湧いた。やってくれるじゃねぇーッスかと、機人を呼ぶ態勢に入るが、


 『お前らふざけんな!』


 留衣が捕まって、檻に入れられて、暴行を受けていた衝撃の事実は小春を叫ばした。

 男は留衣が入る檻に向かって走っているのを見て、小春は怒りのままにナイフを取り出して走り出そうとしている。

 男は留衣を人質に取って、弥達の動きを制限しようとしている。小春は分かっているのか分かっていないのか謎だが、それを止めようとしていた。


 間に合わないッス。


 そう判断した弥は、機人を一応上空に待機させておいた用意周到さに自我自賛しながら、ポケットからリモコンを取り出す。

 ボタンを押す為に親指を上げると、その前に、


 「エクスプロージョン」


 静かに呟く隊長の声。

 瞬間に、走る男に向かってボムがワープして被爆。


 「あまり私を怒らせてくれるな!」


 言い切ったと同時に、

 ドォーン

 工場右半分が爆発によってなくなった。


 あぁ、隊長が相当なお怒りのようで・・・・・・。


 弥達と比べものにならないくらい冷静な判断と的確な対処。そして、怒りは工場半分を破壊した。


 「おい! そこの奴。お前はここの星の長で間違いないな?」


 留衣を人質に取ろうとした男に問う。男はカメレオンスターの長で、名前は・・・・・・。

 忘れたッス。


 「宣戦布告と受け取って間違いないな?」


 ボムを直撃した長は頭を押さえて体を起こす。隊長も手加減はしているみたいで、


 「う、違う。違うんだ」


 息の根はある。しかし、ボムのダメージの反動は大きく、立ち上がろうと膝に手を掛けるが地面に転んでしまった。


 「何が違う? 周りの奴らは戦争する気みたいだぞ?」


 吹っ飛ばされていない工場左半分には、武器を持った無事な人達が立っている。武器は持っていても、ただ突っ立ていて放心している状態だった。

 隊長の言葉を聞くと、我に返ったのか武器を捨てて手を上げる。

 一瞬で片がついてしまった。おそるべし隊長ッス!


 「私達は、はぁはぁ、こうするしか道がなかった」


 苦しさを抑えて必死に声を出した長に、隊長は左手を向ける。


 「リンクスターを敵に回す道以外にないと?」

 「・・・・・・あぁ、分かっていた。こうなると分かっていてやった」

 「勿論覚悟は出来ているんだろうな?」

 「これでも星を治める長だ。どうか、他の者には手を出さないでくれ。頼む」


 出しちゃったッスけどね。工場右半分には瓦礫に埋もれた人が沢山いる。

 ブレスレットが光り、一つのボムが出現すると、その時だった。


 「待って下さい。全ては私の責任であって、長は関係ありません」


 倒れる長の前に立って、手を広げる女の乱入。


 「私はプルートゥ社・社長の隠岐冥砂おきめいさと言います。長に罪はなく、私が、私達プルートゥ社が勝手にやったことです」


 プルートゥ社の社長である、隠岐冥砂が真の犯人だと言う。

 それを聞いた隊長の表情は固かったが、少し悩んだ後に、諦めた表情をして言う。


 「なら、包み隠さず話せ! それが唯一の助かる道だと思うんだな」


 向ける手を下に下ろした。


 「少し私達の現状をお話しさせて下さい」

 「・・・・・・」


 無言で見つめる隊長に、隠岐冥砂はゆっくりと震えながら話し始めた。


 「もう既に知っているとは思いますが、私達プルートゥ社は風前の灯火と言えます」


 目を疑ったッスが、閉鎖された工場が物語っていたッス。


 「数十年前から私達プルートゥ社の仕事は激減し初めて、プルートゥ社が最も誇るカメレオン特殊部隊の諜報活動も今は年に数回だけの仕事になってしまいました」


 プルートゥ社は新聞の発行だけではなく、お客を対象に情報入手の依頼も承っているッス。それを遂行するのが、プルートゥ社のカメレオン特殊部隊であり、プルートゥ社主軸の仕事。

 主軸である仕事が激減して、弥達が見た稼働していない工場に結び付くッス。


 「戦争が少なくなって他星の情報の重要性が低下したのもありますが、全てはコスモ社による圧倒的な力の前に成す術がないのが原因でした。長年に渡る信用によって生まれた情報の信憑性を、コスモ社の出現によって一夜にして壊されました」


 正確な情報だと信じて貰う為には信用されなくてはいけない。それを壊されたと言う隠岐冥砂の顔は悔しさが滲み出ていた。


 「コスモ社が使用する星の力は、信用がなくても信憑性だけを提示する力があります」


 どっちを取るかと言われると、


 「曖昧な信用による信憑性より、確実な信憑性を信じるッス。弥も以前まではコスモ新聞以外はどうも胡散臭いと思っていたぐらいッスから」


 弥の意見はきっと、皆が思うことッス。


 「はい。それが、宇宙の常識になってしまいました」


 根付いてしまった常識に顔が俯く隠岐冥砂だった。

 理由は分かったッス。ここまでは、カメレオンスターの現状を見れば察しはつくッス。さて、ここからがややこしい話になるッスね。

 問題がカメレオンスターに留まってくれればいいと思い弥は質問する。


 「それで、留衣を誘拐して起死回生を図ろうとしたッスか?」


 首を振る隠岐冥砂を見て、弥は心の中で落胆した。


 「私達に起死回生のチャンスなどもうありません。既にプルートゥ社の幕は閉じているのかもしれません。知っていたのですが諦めたくなかった。栄光のプルートゥ社だった頃の執心にしがみついていただけだと分かっていて、認めたくはなかった」


 涙ぐむ隠岐冥砂の肩を後ろから叩き、長は「もういいんだ」と言って前に出る。


 「私が、カメレオンスター長・隠岐避役おきひえきが全ての元凶である」


 隠岐? 思い出したッス! 確かこの二人は夫婦だと何かの記事で読んだ気がするッス。


 「プルートゥ社はカメレオンスターの歴史であり、全てだった。だから、潰すワケにはいかなかった。そんな時に現れた星があった」


 現れた星?


 「コスモ社」


 長がはっきりと言う。

 隊長が深い溜息を漏らす。弥も溜息を漏らした。よりにもよって、ノーマークだった星が出てくるとは・・・・・・。


 「コスモ社はそんな私達に、条件を呑めば資金援助の約束を持ち掛けてきた」

 「条件?」


 隊長が呟くと、一息入れて話し始める。


 「プルートゥ社の記事の内容をコスモ社に一任する。それを私は受けた」


 コスモ社に良いイメージはなかったッスが最悪ッスね。となると、プルートゥ社の現状から察するに他の星でも同じようなことが起きているかもしれないッス。コスモ社の傘下になった星が幾つかあると見ていいッス。


 「しかし、突き付けられた記事の内容はどれも中傷的な記事。真実など一つもなかった」

 「仕方なかったのです。さもなければ資金援助を打ち切ると脅されて、長は私達の為に胸を痛めて従うしかなかった」


 夫である隠岐避役を庇う嫁の隠岐冥砂。


 「留衣の件もか?」

 「はい。リンクスターに留衣と言う名前の奴がいる。そいつが星砕きだと言う証拠掴んでこいと。手段を選ぶなと」


 ・・・・・・おかしい。コスモ社は星砕きの件は関わっていない筈。そもそも知らないから、新作追々一人の責任で終わったのではないッスか? コスモ社が絡んでいたなら新作追々一人が起こした問題とは書けないッス・・・・・・。


 何が起きているッスか?


 イリュージョンスターの一件に、新作追々とコスモ社は繋がっていないのは間違いないッス。間違いようのない事実。コスモ社は知らないから、プルートゥ社に留衣が星砕きであると言う証拠を掴んで来いと命令したッス。


 コスモ社は知らなかった。留衣を星砕きとは知らなかった、知らなかった・・・・・・。


 うーん、分からなくなってきたッス。


 そもそも、知らないのに何故知っているッスかねぇ? 新作追々が後で情報を教えたとか? ・・・・、それもないかな。コスモ新聞が発行されたのは新作追々が捕まってから数日が経っていたッス。監獄に入って外部に情報を流すのは無理ではないッスけど、限りなく不可能に近い。じゃぁ、追々の情報でもないとするとどこで漏れたッス? 言い方を変えると、どこで知ったッスか? 


 知った? 


 ・・・・・・。


 そうか! 

 弥の頭に一つの答えが浮かんだ。

 イリュージョンスターの一件に関わっていなくとも、新作追々の不可解な行動と宇宙の現状で知ることは可能かもしれない。


 「やられたッス!」


 答えが出た途端に、今まで見落としていた自分の愚かさを悔やむ。


 「コスモ社め!」


 弥が叫ぶと、小春が聞いてくる。


 「コスモ社? 新作追々の単独の犯行で、コスモ社は無関係だって言っていたじゃん。コスモ新聞は事実を書くのでしょ?」


 説明してやるッス。


 「イリュージョンスターの一件は全て新作追々の仕業でコスモ社は無関係ッス。だけど、コスモ社は考えた。どうやって、新作追々はリンクスターを落とそうと考えていたのかと。同時に、宇宙から星砕きの噂が消えた。そこで、ある憶測に行き着くッス」


 つまり、


 「リンクスターに星砕きがいると。噂程度の話でここまでしやがったッス」


 断定出来てないからカメレオンスターを使い調べさせた。

 でも、そこまでするってことは決まりッスね。


 「コスモ社は本気でリンクスターを落とす気でいるッス」


 弥の言葉に驚く小春がムキになって聞いてくる。


 「何でリンクスターを? どうして留衣ちゃんが関係するの?」

 「理由は知らないッスが、追々と同じ穴のむじなだとしたら宇宙規模での戦争を望んでいてもおかしくはないッス」


 理由なんて弥が知る訳もないし、知りたくもない。ただ、追々がそうだったように、コスモ社もそうなんだろうと思うッス。弥達には到底理解できない理由があるッス。


 「留衣が関係する理由はーー」


 弥が留衣を見ると、小春も釣られて留衣を見る。そして、思い出したように小春は言う。


 「先ずは留衣ちゃんを助けないと」


 ごもっともッス。

 隊長の素早い行動で、お相手は完全に戦意損失してしまっている。留衣に対しての危険もなくなり安心してしまっていた。どう考えても相手の話を聞く前に留衣の身柄保護が先ッスよね? と順序が逆になってしまったのである。


 「星砕きだと証明する為に随分酷い仕打ちをしました。私達がこの子に危害を加えれば、星砕きの力を発揮するのかと思いまして・・・・・・。本当に申し訳ありませんでした」


 謝る長に無言で睨みつける小春。

 それは、そうなるわな。


 「この子は本当に子どもそのもので、脅威など何一つありませんでした。償いはーー」


 長の謝罪を遮って小春は言う。


 「そんなの今はどうでもいいから、檻の鍵を渡して!」


 小春が長達の前まで歩み寄り、手を突き出した。


 「あっ、はい。鍵は私が」


 隠岐冥砂が自分のポケットに手を突っ込む。ゴソゴソとポケット内を探し、鍵を見つけたのか手を抜いた。

 同時に隊長が何かの異変を察し、呼び掛けた。


 「留衣!」


 留衣・・・・・・?


 呼ぶ声に反応して、長と隠岐冥砂が振り返り、小春も留衣の方へと目をやる。


 「あぁぁあぁああああぁぁ」


 留衣は突然唸りだして、


 「こはるが、こはるが!」


 身をプルプルと揺さぶる。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 咆吼と共に留衣は檻をぶち壊した。

 弥も含めて、留衣の突然の猛威に息が詰まった。


 あれが、留衣? 


挿絵(By みてみん)


 目を疑ったのは弥自身で、いつも見ているバカで、甘えん坊で、おこちゃまな留衣ではなかった。今弥の目に映っている人物は、狂暴と凶暴と強暴で形作られた人らしき者。獲物を狩ろうとするハンティングの目に、獲物を噛みきると言わんばかりのヤエバ。溢れ出す殺気だけで、黒く重い重圧がのしかかる。

 弥の目には、目の前にいる留衣が化物ばけものにしか見えなかった。

 実を言うと、荒れ狂う留衣をしっかりと見るのは初めてで、セントスターではモニター越しからだし、イリュージョンスターでも小春の馬鹿な発言の御陰で印象が大分薄れて見えていたのだった。

 だから、実質弥は初めてかもしれない。こんな姿の留衣を見たのは。そして、思う。


 小春はこんな狂気に満ち溢れた留衣と真正面から向き合ったんスか?


 檻を自らの力で破壊した留衣の手には大きなハンマを抱えていた。


 「留衣ちゃん? どうしたの? 武器を手から下ろして?」


 小春の声も届いてないらしく、留衣は動き出す。

 体を前に曲げて身を低くする。ハンマーを口で加えて両手を地面に付く。そのポーズは獣そのもので、獲物に対しての狩る身構えだ。

 留衣の視線がぶつかる場所には、長と隠岐冥砂の二人。瞬間に留衣は飛び掛った。

 両手と両足を上手く使っての跳躍しながらの前進は機敏性抜群で、視点が定まりにくい。前方への跳躍ではなく、斜め左右に向かっての跳躍で、加えて速い。

 一瞬で間合いに詰め寄り、ハンマーを両手に持ち構え、


 「お前らがぁぁぁぁぁぁ」


 二人をぶち当てた。


 『うわっ』


 二人は左方向へ吹っ飛ばされる。


 「あああああああああああああああ」


 吠え滾る留衣と、転がる長達を見て武器を構えるプルートゥ社・社員達。それを見て敵だと判断したのか、社員達に向かって天井一杯跳び上がる。

 そして、天井付近からハンマーを掲げて急降下する留衣。地面間際で持つハンマーを振り落として、


 「真撃しんげきスマッシュ」


 地面のコンクリート全てを砕く。リフレクトクリスタルによって生まれた反射の作用は、行き場のないコンクリートが下ではなく上全方位に対して弾け飛ぶ。それは、内部で爆弾が爆発したかのように上へ破裂した。

 砕かれたコンクリートの破片達が見境なくプルートゥ社・社員達を襲った。


 「おい! 留衣やめろ!」


 隊長が留衣に向かって叫ぶが、留衣の耳には届いていない。

 留衣の攻撃によって傷ついた社員が、地面を這い蹲っているのが見える。目の前にいる留衣から少しでも距離を置こうと必死で横たわる体を動かしていた。その社員に向けて、留衣がハンマーを構える。


 まずいッス!


 「留衣やめろ!」


 弥と隊長の行動が重なった。留衣を止めようと走り出したのだ。しかし、それよりも先に留衣の元へ辿り着いた者がいた。


 「小春!」


 弥は叫んでいた。

 小春は暴走する留衣に迷いなく前から抱き込んだ。頭を撫でて、


 「よーし、よーし。どうしたのさ、急に? 皆留衣ちゃんを助けにきたんだよ! 大丈夫だから」


 優しく宥める。


 「・・・・・・」


 すると、留衣も我に返ったのか回りをキョロキョロと見渡す。


 「あれ? 留衣は、小春が死んだと思って、それでーー」


 小春の顔を何回も手で触り無でて確認する。それは、小春が本物だと確認するように。


 「ん? どうしたの留衣ちゃん?」


 小春が留衣の顔を覗き込む。すると、安心したのか留衣は、


 「わぁぁぁぁぁぁん」


 大声で泣き出した。

 泣きたいのはこっちッスよ。やれやれッス。

 でも、弥達が着くまでの間小春との約束を守る為に、暴行を受けながら耐えていたのは心から偉いと思うッスけどね。それで、弥達が来て安心したのか、張り詰めた線が切れて錯乱したのかな? 強引ッスけど、そういうことにしとくッス。今回ばかりは隊長も何も言うまい。


 あとはッス。


 この後始末をどうするかッスけど、どうしたものか。今ので完全に留衣が星砕きだとバレた訳ッスがーー。


 弥は、隊長によって半壊した工場内と留衣によって殲滅させられたプルートゥ社・社員達を見渡す。

 怪我はしているッスけど、見たところ全員が無事ッスね。


 「どうするッスか隊長?」


 腕を組み考える隊長は答える。


 「本当に星を壊滅させるワケにはいかないしな」

 「そうッスね」

 「少し脅す程度と思っていたんだが、私達も人に言える立場ではないんだよな」


 そうッスね。カメレオンスターの誘拐は元をただせば弥達が原因でもあるッス。誘拐自体を擁護するつもりはないッスが、弥達が善を持って悪を正す立場でもないッス。宇宙的に言えば、星砕きをかくまっているリンクスターを悪と見るだろう。


 「留衣が暴れなかったら適当に脅して解決だったッス。んー、本当どうするッスか?」

 「あぁ、すまん。いい方法が私も思いつかん」

 「でしょうね。弥も全く思いつかないッス」


 考える弥と隊長に、泣き止んだ留衣と小春がトボトボ近寄ってくる。


 「隊長と弥、助けに来てくれてありがとうございました。それと、最後暴れて、小春との約束守れなくてごめんなさい」


 頭を下げる留衣。


 「良く無事でいてくれた。良かったよ」


 うっすら笑を浮かべる隊長。


 「無事で良かったのには弥も同感ッス」


 顔を上げた留衣に対して、弥はデコピンをお見舞いする。

 パチンッ


 「いたっ」

 「ちょっと弥ちゃん? 留衣ちゃん怪我しているんだから悪戯はやめてよ」


 小春に怒られたッス。


 悪戯と言うか、小春みたいに抱きつくワケにもいかないので一種の表現方法がデコピンだったッス。それと、このどうしようもない現状に対して、留衣を責める立てることは出来ないッス。やり場のない気持ちを一種の表現方法でもあるデコピンに込めてみたッス。


 「悪戯じゃないッスよ。弥の今の心情をデコピンに表したッス」

 「えー? 心情? 痛嬉しいみたいな?」

 「それだと弥は変態じゃないッスか?」

 「弥は変態なのか?」

 「違うッス!」


 弥を見る留衣の顔は見ていて痛々しいッス。受けた暴力の酷さが身に染みる。


 「隊長! もう、この星抹消しましょうッス」

 「いや、ダメだろ」


 冷静な突っ込み。

 八方塞がりになっている弥達に対して、近寄る影があった。


 「はぁ、はぁ、うっ」


 今にも倒れそうな長と、それを支える隠岐冥砂。


 「今のは天罰だと受け取っておこう」

 「?」

 「私達は何も見ていないし、何も知らない。もう、遅いかもしれないがチャンスをくれ!」


 隊長に土下座をする長と、隠岐冥砂。


 「長は最後まで星砕きの誘拐を反対していました。仮にそうだとしても、リンクスターには何か深い事情があると。コスモ社には何回も出来ないと拒否し続けていました。しかし、資金援助を切ると言われ、仕方なく・・・・・・」

 「今回の一件で私達はコスモ社との関係を切る。もしかしたら、切られる方が先かもしれない。だが、星砕きの件を表には出さないと約束させてもらう」


 命乞いにも見えなくはないッスね。

 隊長はそんな長達を見て決心したのか口を開ける。


 「分かった。こちらからもよろしく頼む」


 と、だけ言うと、


 「私達が力になれることがあったら、命を掛けてリンクスターに協力する」


 もう一度土下座をした。


 「いや、そんなのはいいから、財政問題を何とかしろよ。資金援助を打ち切られて困るんじゃなかったのか?」

 「しかしだ、それとこれとは別なんだ。いつか必ず助けになる」


 根は良い夫婦だとは思うッス。信用してもいいんじゃないか? 信用するしかないのも確かッスけど。

 隊長もしつこく謝る長達に「分かった分かったから」と、適当に流してカメレオンスター第一工場を後にした。


 留衣を無事救出したが、問題が解消された訳ではなかった。やるべき仕事は沢山あるというやつで、これからが忙しくなりそうッス。忙しくと言ってもコスモ社については、リンクスターから今のところ手を出せる術はなく、バレていないなら現状維持が望ましい。今後、星砕きの証拠を求めて手を打ってくるだろう敵をどう対処するか一番隊の課題になるッス。

 とにかくッス、留衣は救出したので今は早くリンクスターに帰還するのが先決。

 早くリンクスターに帰りたいという気持ちを強めて、弥一同は宇宙船つばめ号に向かい足を進めるのだった。

 しかし、弥達をリンクスターには帰してはくれなかったッス。

 

 一本の電話から劇的な展開を迎える。

 

 弥達の任務はまだ終わらない。終わらしてくれなかったのだ。

 

☆★☆★☆★

 

 『ピピピ電話だよ! ピピピ電話だよ!』

 後ろを歩く弥から音がした。


 ん?


 懐からパソコンを出す弥は私に言う。


 「ちょっと待って下さいッス」


 パソコンを広げると、弥は首を傾げる。


 「非通知? 誰ッスかね・・・・・・、隊長ちょっと出てもいいッスか?」 

 「あぁ、構わないが」


 弥に電話とはどこの変人だ? リンクスターからの連絡なら私に掛けてくる筈だし。


 「弥には電話をする仲の良い友達なんていないッスけどねぇ。まったく誰ッスええええええ?」


 突然驚き叫ぶ弥。


 「どうしたの弥ちゃん?」

 「弥?」


 驚く弥に声を掛ける小春と留衣。弥は叫び終わると硬直して動かなくなった。


 「おい! 弥!」


 私は声を掛けながら、弥の後ろに回り込む。


 「!」


 弥が驚いた理由が分かった。パソコンのモニターには私もよく知る人物がいた。


 『ご機嫌よう、草葉緋香里そうはひかりさん』


 こいつは、サイエンススター長の創造利奈そうぞうりな


 『あなた方の宇宙船に何回かコンタクトを送ったのですが留守だったみたいなので、弥さんに直接連絡をいれました」

 「何で知っているッスか?」

 『ふふふ、何ででしょう?』


 弥の質問に微笑む創造利奈。


 「んで、何の用ッス?」


 機嫌が悪くなった弥がセリフを吐き捨てた。


 『時間もないので率直に聞きます』


 一転して真剣な眼差しになる。

 嫌な予感しかしない。


 『リンクスターに星砕きの留衣がいますね?』

 「ぎく」


 分かりやすい反応をする弥。


 『いるのですね。では次に、あなた達は今カメレオンスターにいると思いますが』


 私達の居場所まで知っているのかよ!


 『何か起きましたか?』


 起きた? 起きすぎて検討がつかない。


 『例えば、星砕きだと言う事実が明らかになったとか?』

 「え?」


 カメレオンスターには星砕きだと知られてしまった。しかし、口外はしないと口約束をした。あれのことか? それともカメレオンスターが早速裏切り、外に公表したとか。だが、まだあれから数時間も経っていない。早すぎるぞ。


 『私の思い過ごしでしたらいいのです。ただ、カメレオンスターからラングウェッジスターの宇宙船一隻が飛び立つのが確認されましたので」

 「まじッスか?」

 『本当です』


 ラングウェッジスターというと、コスモ社本社を置いている星だ。あの場にいたのは私達と、カメレオンスターだけではなかったのか。

 留衣が暴れたのを見られていた・・・・・・。

 創造利奈の発言に青ざめる弥。


 『その表情を見るとーー何かあったのですね』

 「ちょっと、待つッス?」


 自分の心情を隠すように強く叫ぶ。


 『もう一つ、あなた達にとって悪い知らせがあります』


 まだあるのか?


 弥はというと蒼白の表情で手が微かに震えている。動揺が弥の頭をショートさせている。

 これ以上は限界かと思い、私は弥からパソコンを取り上げる。思った以上に精神的にダメージを負ったらしく、手には力が全く入っていなかった。

 私が弥に代わってパソコンを持つと、小春と留衣が後ろから覗き込んできた。


 「隊長? もしかしてかなりピンチですか?」

 「そのようだ」


 もしかしなくてもな。


 「留衣が暴れたからやばいのか?」


 留衣も少しは状況を把握しているみたいだった。

 私は違うと言いたかった。でも、それはもう留衣を中心に廻り出したのだ。留衣が望んでいなくても、宇宙は動き出している。


 「そう・・・・だな」


 子どもの留衣には残酷だったかもしれない。私の言葉を聞くなり「うん」とだけ言い、思い詰めた表情になる。

 留衣の表情を見て居た堪れない気持ちになるが、私は知るべきだろうとそう判断した。

 二人が無言になり、私はパソコンモニターを見る。


 「私が話を聞く」

 『長であるあなたが聞いた方がいいのかもしれませんね』

 「それで、悪い知らせというのは?」

 『はい。私達がインクリボンスターで体験した全てをお話しします』

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