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パニック☆スター  作者: モエLOW
パニック☆スター3
17/26

1話 情報大戦

 挿絵(By みてみん)


 今日の起床時間は、いつも起きる時間から二時間半も遅く、十時の起床だった。一番隊の朝のミーティング時間が九時なので、この時間だと遅刻確定で、隊長のキツイお仕置きも確定だ。いつもなら大パニック状態で、平常心ではいられない。しかし、今の小春はとても穏やかな気分で、カーテンの隙間から漏れる日差しをボーっと眺めている。


 「いい朝だ。いや、これは朝ではなく昼か? でも、昼は十二時からの時間帯を言って、十時は違う気もする」


 では、十時は朝なのか? それも違う気もするが・・・・・・。取り敢えず、


 「中途半端な時間に万歳!」


 両手を上げて、そのまま後ろに倒れ込み布団を掛けて、


 「はい、お休み~」


 目蓋を閉じる。

 いつもなら、こんな時間に起きたなら慌ただしい時間が過ぎるだろう。でも、今日は違うのだ。寝坊した訳でもなく、寝過ごした訳でもなく、うっかり忘れていた訳でもない。

 なぜならば、今日は久しぶりの休暇!


 「最近は任務、任務で休み何てこれっぽちもなかったから、今日は自分へのご褒美! ずっと布団で過ごす日に決定しました」


 何て幸せなんだろうと思いながら、意識がだんだんとなくなっていくのが分かる。これは、もう少しで夢の中へと行く前兆だ。

 あ~、お花畑が見える。そこにピクニックシートを引いて、ゴロゴロと転がる小春と留衣るいちゃんに、やよいちゃん。そして、言うセリフが容易に想像できる。


 おなかすいたぁ


 夢の中で留衣ちゃんと弥ちゃんが想像通りに催促してきた。

 それと同時に小春の目が冷めて、ガバッっと勢い良く起き上がる。


 「家事は年中無休だった。早く朝ご飯を作らなければ」


 嫌々ベットから抜け出して、独り言を呟きながら歩き出す。


 「休暇の時ぐらい、家事もお休みにしてほしいもんだ」


 でも、最近は弥ちゃんも家事の手伝いをしてくれる御陰で幾分かマシになったと言えるだろう。たまにサボる時もあるが、それでもやってくれるというのは有難いかぎりである。まぁ、当然と言えば当然だけどね。その御陰もあって、前よりもより一層家事への責任感が芽生えたのだ。弥ちゃんが一応はやっているので、小春もサボらずやらなければいけないのだ。弥ちゃんを説教する立場がなくなっちゃうからねぇ。

 だから、こうして休暇の日まで嫌々ながらも、謎の使命感の御陰で台所に向かう。若干の不安要素を抱えて・・・・・。


 「弥ちゃんは人の揚げ足取りは天下一品だから、小春の寝坊に託けて文句をブーブー言うんだろうな」


 うーん、と少し考えて、


 「大丈夫だ。だって弥ちゃんがこんな休みの日に起きている筈がないよ。そうだ、そうだ。弥ちゃんはお寝坊さんだから問題ないね」


 自己解決をした途端、勝手に脳内で流れた意味不明の曲を鼻歌まじりで歌い出す。


 「な~にんも、しんぱいするこなんて、ないんだ~。もーまんたーい」


 歌を歌いながらダイニングへと続くドアを開ける。すると、目の前の椅子に、新聞と片手にコーヒーを持ちながら小春に背を向けて座っている人物が一人いた。髪は首辺りまで伸びた、いわえるおかっぱ頭というやつで、その後ろ髪がヒラリとドアを開けた時の微風によって靡いた。

 瞬間に、小春の足と手が勝手に動き出し、


 「何で起きているんだよ!」


 パチーン、と手の平でおかっぱ頭を叩いた。


 「痛いし、意味分かんないッス! 何で弥が起きているだけで頭を叩かれなくちゃいけないんスか?」


 おかっぱ頭は弥ちゃんで、その弥ちゃんが振り向いて小春に文句を言ってきた。しかし、文句を言いたいのは小春の方だった。


 「こんな時だけ早起きしないでよ! 嫌がらせか? これは小春に対する挑戦と受け取っていいのか?」

 「本当何を言っているッスか? 弥が起きて新聞読んでいただけで叩くなんて酷いッス。それこそ嫌がらせで、弥に対する挑戦と受け取るッス」

 「弥ちゃんが起きるのもいい。新聞読むのもいい。だけどね、何で今日という日に限ってそういうことするの?」

 「そういうも何も、今日が休みだからッス。せっかくの休みの日、ダラダラ過ごすのは勿体ないッスよ。それがいけないッスか?」

 「あぁ、いけないね。休みだから弥ちゃんは夜まで寝ていればいいんだよ。そして、小春も夜まで寝る。これが賢い休日の使い方だ」


 休みと言うのは体を休める日であって、体に鞭打つ日ではないのだ。それを、弥ちゃんは何を勘違いしているのか。


 「小春が寝るのは構わないッスが、弥を巻き込むなッス」

 「弥ちゃんが起きるのは自由だけど、それだと小春が巻き込まれるの!」


 弥ちゃんは溜息をつきながら、頭を抱えた。そして小春に向かって言う。


 「弥が小春に起きろと強要したッスか? してないから小春はこんな時間まで寝ていられたんじゃないッスか?」

 「一理はある」


 小春が頷くと、弥ちゃんの声が荒ぶる。


 「一理はじゃねーよ。まるごと弥の言う通りだろうが!」

 「確かに起きろとは強要はしていないよ。だけど、裏があるでしょう? 小春を罠にはめるための」

 「は?」

 「小春が起きないと朝食食べれないでしょ? 朝食食べれなかったことに対して弥ちゃんは小春にグダグダ文句を言うつもりだったんでしょ?」


 弥ちゃんは勢い良く椅子から立ち上がり、


 「弥をどんだけ陰険な奴と思っているんスか? そこまでブラックマンじゃないッス」


 小春に向かって叫んだ。

 確かに弥ちゃんはブラックマンではないが、そうとも言い切れない部分に納得しずらい。

 小春がそのことについて考えていると弥ちゃんが言う。


 「真剣に考えるなッス」


 言葉と共に弥ちゃんの手の平が小春の頭を掠めた。


 「弥ちゃん、性格は悪くないけどさ、曲がってはいるよね」

 「凄い失礼なことを言うッス。弥ほど真面目な人間他にいないッス。生真面目弥と改名してもいいくらいッス」

 「言ってて恥ずかしくない?」


 小春が返すと、弥ちゃんは静かに椅子に座り新聞を再び広げた。


 「少し恥ずかしいと思ったッス」


 一言言うと新聞を読み始めた。そして、小春を背にして言う。


 「休みの日まで馬鹿な討論を繰り広げたくないッス。今回はこの辺にしといてやるッス」

 「それはこっちのセリフだよ」

 「もういいッスから、ちょっと遅い朝食を作るッス。それで、水に流してあげるッスよ」


 言いたいことは山程あるが、実際朝食を作るつもりで来たのでそれはそれでいいだろう。小春は「うん」とだけ返事をして台所に向かった。

 台所に着くと手を洗い、早速朝食の準備を始める。時間も時間なので簡単に作れる食事を考える。冷蔵庫を開けて、食材をチェック。


 「何もないなぁ」


 いつもなら食材を買いだめしているので何かしら作れる物があるが、今日の冷蔵庫は空っぽだった。今日が休みということで、買い物は今日にまわそうと考えた結果がこれだ。

 小春の家事責務について、今日だけを見たら弥ちゃんに説教をできる立場ではないと思う。


 「具はあるし、オニギリでいいっか」


 ご飯は前の日の夜に炊飯器の予約スイッチを押していたので、しっかりと炊き上がっている。オニギリなら留衣ちゃんも喜ぶしいいよね。その本人はまだ起きていないが。


 「それにしても今日の留衣ちゃんは起きるのが少し遅い気もするなぁ」


 小春はオニギリを握りながらふとそんなことを思った。


 「留衣ちゃんはどんなに眠たくても、十時から放送される子ども番組は見逃さないのに。さては、昨日弥ちゃんと夜遅くまでゲームをしていたな?」


 最近の留衣ちゃんはテレビ以外にもゲームに夢中である。弥ちゃんが新しいゲームを買ったとか何とかで、二人で夜遅くまでプレーしている。小春も一~二回やったが、操作方法が難しくまともにプレーできずに諦めたのだ。複雑なコマンド入力など覚える操作が多く、勉強の暗記で一杯なのに他のことなどに気が回る筈もない。決して覚えるのが苦手ではなく、小春の最優先は勉強の暗記なのだ。でも、良くあんな複雑な操作を覚えられるなぁ、っと留衣ちゃんに少し嫉妬してしまう。

 最後の一つを握り始めると、奥から声が聞こえた。


 「小春~? 留衣はまだ寝ているッスか?」


 考えていることは一緒で、弥ちゃんも疑問に思っていたらしい。


 「まだ寝ているんじゃない? だって、昨日夜遅くまでゲームしていたでしょ?」

 「していないッスよ」


 小春は最後の一個を握り終えると大きな皿に六つのオニギリを並べる。


 「ふーん、してないんだ」


 小春は弥ちゃんの答えを聞き流すように応えた。それは、弥ちゃん達が夜遅くまでゲームをしていて、小春が同じ質問をすると決まってそう答えるのだ。だから、別段に問いただすこともしない。『昨日も夜遅くまでしていたんだ』、と自己解決をしたのだ。

 小春は弥ちゃんが座る席にまでオニギリの乗った皿を持っていく。


 「今日はオニギリッスか? 手抜き?」


 オニギリの皿を置いた瞬間に弥ちゃんから痛いセリフが飛ぶ。


 「ごめんごめん、今日食材買おうと思ってて、冷蔵庫空っぽなんだ」

 「留衣が見たら大喜びなんスけどね。留衣はオニギリを御馳走と勘違いしているッスから」

 「勘違いじゃないよ。オニギリは御馳走です」

 「どっちでもいいッスけどね」


 今朝から思っていたんだけど、今日の弥ちゃんはいつものキレが全然ないような感じがする。さっきの言い合いの時でも、先に引いたのは弥ちゃんだった。いつもなら、小春をコテンパンにして更にコテンパンにする。そんな弥ちゃんなのに、今朝は新聞から目を離そうとせずに、新聞を夢中で読んでいた。

 とても内容が気になる。弥ちゃんの生き甲斐でもある小春弄りより優先する情報がそれには書いてあるというのか?

 小春はオニギリを片手に持ち、弥ちゃんの後ろまでそーっと忍び寄る。そして、弥ちゃんが読んでいる欄を後ろから眺めた。


 どれどれ、


 「サプリメントスター・スピンスターにて強星大暴れ?」


 そう書いてあったのだ。

 小春の呟きに反応するように弥ちゃんも喋る。


 「強星スティールスターがサプリメントスターを侵略したのち、スピンスターへ強襲する。しかし、スピンスターでまさかの強星鉢合わせ。リンクスターも同時刻にスピンスターへ攻撃を仕掛けていた。そこで、一つの星を巡り強星同士の戦争が勃発した。以下省略するッス。んで、被害を受けたスピンスターは新長しんちょうを筆頭に立て直しを図っている」


 ん? 弥ちゃんが朗読した記事には身に覚えもない事実が沢山書かれていた。


 「捕捉ッス。スピードスターの側近侍者も同時刻にスピンスターにて目撃されている。強星同士の同盟の線も無視はできない。果たして、真相は?」


 だって、食料不足の問題をリンクスター、スピードスター、そして結果的にはスティールスターの三星で解決したのだ。確かにスティールスターとの戦闘がスピンスター内で勃発したけど、それはスピンスターが仕組んだことで、ああするしか方法がなかった。


 「ちょっと酷いね」


 正直な気持ちが外に漏れた。


 「情報機関なんてものは、どれもこんなもんッス」

 「だけどさ~」


 弥ちゃんは小春の声に言葉をかぶせて言う。


 「だけど、これはちょっと無視出来ないかもしれないッスね」


 弥ちゃんの顔は後ろからでは見えないが、言葉に重みを感じた。多分、小春以上に怒っているんだと思う。だから、今朝はいつもと雰囲気が違かったのだ。


 「どこの新聞?」


 前まではコスモ社の新聞を取っていたと言っていた。しかし、新作追々(しんさくおいおい)と言う悪い新聞記者がいたことに腹を立てて、コスモ社の新聞を取るのをやめたと。


 「ネプチューン社ッス。いい噂は聞かなかったッスけど、試しに取ってみたら想像以上だったッス。こんなデタラメ記事を見るぐらいならコスモ社の新聞の方がいいかもしれないッスね」

 「コスモ社の方がいい?」


 あいつのせいで留衣ちゃんが酷い目にあったんだ。


 「小春はコスモ社は嫌だ!」

 「情報機関の善し悪しではなく、情報の信用はコスモ社が断然高いッス。あそこの特徴として事実しか流さないという信用があるッス。新作追々の不祥事も事実に沿って情報が流されたし、現に不祥事があっても売上数はまんまり減ってはいないッスよ」

 「何で?」

 「たとえコスモ社のイメージが最悪でも情報が正確なら、会社のイメージをくつがえせるってことッスね。憎いことに、コスモ社の新聞媒体に関しては星の性質から、書かないことは出来るけど、嘘は書けないッスよ」

 嫌でコスモ社の新聞を変えた本人でも、信用は高いのは何故? 小春が考えているとエスパー弥ちゃんが察して言う。


 「コスモ社はッスね、大体発行日から三日~四日遅れで他星に着くッス。何故か分かるッスか?」


 いきなりの質問・・・・・・。


 「分かりません」


 分かる訳がない。弥ちゃんも小春が分からないと分かっていて聞いてくるのだ。いやらしいぜ。


 「知っていたッス」


 ほらね。知っていたなら聞くなよ!


 「他の情報機関はそれぞれの星に子会社的なものが存在するッスが、コスモ社はないッス。情報は速さと正確さが売りッスからね、速さの面では親会社がある星で新聞を刷って輸送するより、親会社から内容を子会社に電波で飛ばしてそこで新聞なら新聞を刷った方が断然速いッス。だけど、コスモ社に関してだけで言えば、その方法を取るとマイナスになるからしない」


 うんうんっと、分かっている素振りをするが、全く分からない。ちょっと今回の説明は会社とかいろいろ出てきて難しすぎるのではないだろうか? 


 「コスモ社が自星じせいで新聞を発行して輸送するから価値ある信用になるッス。例え他の情報より遅れても、情報が正確なら必然的に信用を得るってことッスね。現宇宙間では、デマや偽りの情報が多く飛び交っていてどれが真実かを判断するには難しいッス。そう、今のネプチューン社の新聞のように」


 小春は弥ちゃんの話を理解するのが難しいよ。


 「コスモ社が何故自星で刷る新聞が信憑性が高いかは置いといて、ネプチューン社の情報のせいで一~二週間前の事件が掘り返され再び炎上しているッス」


 あれ? そういえば、コスモ社の情報が正確とか言っていたけど、


 「今更ネプチューン社の情報に踊らされることってあるの? あれから二週間ぐらい経っているんだからコスモ社の新聞も他星たせいに届いているんじゃない?」

 「そうッス。とっくにコスモ社の新聞は発行済ッス。でも、コスモ社の新聞には一つの欠点があって、分かっていることしか書けないッス。つまりッスよ、争いがあった、新長に誰かが任命されたとかの事実は載せれるッスけど、それ以外の偽りの事実などは全く書けないッス。今回の食料事件の真相は弥達みたいな当事者は分かるッスけど、部外者から見れば争いの理由は知らないッス。真実を知っているか察している記者などもいるッスが、その情報を新聞やらネットやらに公表しても、他の偽の情報がありすぎて埋もれてしまうッス」

 「だったらさ、ネプチューン社の情報も埋もれたりはしないの? 気にしなくてもいいんじゃない?」


 弥ちゃんの説明だと偽の情報が飛び交っていて真実すら埋もれてしまうと言っていた。なら、逆もあるのだろうと思う。偽の情報が、偽の情報で埋もれてしまうこともある筈だ。それなのに、何故ネプチューン社の情報を注目しているの?


 「言い方が違ったッスね。埋もれる筈だったと。スピンスターなどで起きた事件の記事はどこの情報機関でも取り扱ったッス。が、リンクスターが侵略しようとする為攻め入ったなどの詳細を書いたのはネプチューン社だけ。いつもなら、いろんな憶測をいろんな情報機関が書くので、実際の真実がちゃんとした形で分かるまではデタラメな記事など注目されないッス」


 実際の真実と言う言葉に小春は思う。


 「真実って言えばスピンスターの金田定男かねださだおって言う人が仕組んだことじゃん。捕まった事実もあるのにネプチューン社は嘘を書いたの? それに、他の情報機関もそれを書かないのはおかしいんじゃない?」

 「この広い宇宙ッス。いちいち誰が捕まったとか把握しきれないッス。それを把握する、広めるには、首謀星であるスピンスターの新長しんちょうが会見を開けば事態は簡単に収束はするッスが、体制がきちんと整うまでは開かないかな? 一番の被害者であるサプリメントスターの証言でも十分ッスがね」


 真相が分からないから宇宙は混乱している訳で、


 「何で隠すの? スピンスターなら隠したい理由がある。だけど、サプリメントスターが隠す理由はないでしょ?」

 「あれだけの事件ッス。中もぐちゃぐちゃなのに、加えて外からの非難や問責が起こった日にはスピンスター自体が崩壊するッスね。それを理由に攻めいる星もきっといるッスから。あの事件を隠し通すことはしないと思うッスが、外の攻撃に耐えれるまで回復してからッスね。まぁ、一番の被害者であるサプリメントスターも真相を表に出さないってことは、スピンスターが立て直すまで待とうと考えているんじゃないッスか? スピンスターの崩落は少なからず宇宙に影響を与えるッスからね」


 サプリメントスターの長も考えがあってそうしているのか。小春には分からないが、宇宙での争いは勿論のこと、戦後処理の仕方もきっと複雑なのだろう。


 「それで被害を受けているのはうちらッスがね」


 そう吐き捨てると、懐からパソコンを取り出し八当りするように、ドン、と強く机の上に置いた。


 「ネプチューン社のせいでバッシングが酷いこと酷いこと」


 弥ちゃんは小春にパソコンを見せてくる。モニターには何やらリンクスターやスティールスターに対しての中傷的なコメントがいっぱい。


 「え? こんなに?」

 「強星が絡む事件は注目されやすいッス。スティールスターやリンクスターの評判を落としたい輩は少なくないってことッスね。ネタとして、こうだったら面白い展開になるだろうと読者の願望が一人歩きした結果がこれ。スピンスターの一件をリンクスター、スティールスターの横暴な振る舞いとして広まったみたいッス」


 弥ちゃんは頭を落として続ける。


 「他にもッス、他星たせい達がリンクスターとスティールスターの行いを重く見ているみたいッスね。何やら各星々で厳重警戒態勢を敷いているとか」

 「厳重警戒態勢? そこまで? それってリンクスターが攻撃されるとか?」

 「そこまではないッス。ただ、警戒態勢は敷かれているッスよ? 他の星に用事があって行くことになった場合、入場拒否されることもあるッス」


 大問題でなくても小問題ではあるのか。困った問題でもあるが、隊長もこの事態を耳に入れているだろう。しかし、とりわけ騒ぎ立てないということは、そういうことなんだろうと思った。


 「でも、取り敢えず様子見でしょ?」


 弥ちゃんが小春の言葉を聞くと同時に、バタン、とパソコンを閉じ懐にしまう。そして、立ち上がり小春の方を見る。


 「弥は情報操作するのは好きッスけど、されるのは大っ嫌いッス。分かるッスか?」


 弥ちゃんの瞳に闘志たる灯火が宿っているのが分かった。


 「今から隊長を連れてネプチューン社に抗議に行くッス」

 「抗議って今から? しかも弥ちゃんが一人で行くんじゃなくて隊長も一緒に?」

 「弥みたいなひ弱な人間が抗議に行っても門前払いッス。だけど、隊長が隣にいるだけで相手が自然と土下座をするという不思議な現象が起きるッス」

 「いちいち考えていることが酷いなぁ」

 「酷いのはネプチューン社であって弥ではないッス」


 一理はある。あるのだけれども、実力行使をするってことで間違いはないんだよね? 偽りを書かれることは小春だってそりゃぁ嫌だよ。カチンとくるよ。だけども、一番隊が動く程のことか? 隊長だってそんなことで動くとは到底思えないんだよねぇ。動かなくても時間が解決してくれるから大人しくしているんじゃない?

 小春が考えていると小春の心理を読みとったのか、弥ちゃんがニヤリと笑い言う。


 「今隊長はそんなことで動かないと考えていなかったッスか?」


 鋭い! 本当に人の心を読むのがうまい。


 「それだったら問題はないッスから安心を! 隊長は小春には甘いッスから、小春が今回のデタラメな記事について猛抗議をすれば隊長は落ちる」


 言葉も出ない。天才の発言とは思えない。詰めが甘すぎるよ弥ちゃん!


 「弥ちゃんはバカなの?」

 「天才ッス」


 きっとあまりの怒りでおかしくなったんだ。


 「今日は疲れているんだよ! 寝たほうがいい」

 「全然疲れていないッス。失礼ッスよ」


 小春に向かってプンプン怒る弥ちゃん。


 「昨日あまり寝てないんでしょ? 今日の朝早かったみたいだし。一旦睡眠を取って、それから抗議しに行くか、行かないかを決めても遅くはないよ?」

 「小春は本当に記憶力が乏しいッスね。さっきその話はしたじゃないッスか」


 聞捨てならないセリフだ。


 「さっきの話を覚えているから、一旦寝ようって言っているの! 記憶力は乏しくないわぁ!」

 「どう考えても乏しいとしか言いようがないッス」

 「だって、昨日夜遅くまでゲームしていたんでしょ? そこから導き出される答えは、寝不足で決まりだよ」


 名探偵顔負けの推理で、弥ちゃんに人差し指を向ける。もう逃げれないぜ!


 「やっぱり小春はバカな子ッスね。泣けてくるッス」


 急に小春に向けて哀れみの目を向ける弥ちゃん。


 「バカじゃないから」


 しっかりと訂正をするが、


 「もういいッス! 弥が悪かったから」


 肩をポンポンっと二回叩き弥ちゃんは自分の涙を拭く。弥ちゃんは全然訂正要求を聞いてくれなかった。


 「おーい、弥ちゃん? 小春はバカではないよ? 聞いている?」


 そして、小春が喋り掛けると「大丈夫。弥がついているッスから」と頭を何回も撫でてくる。


 「ねぇねぇ、もういいからさ。戻ってきてよ」

 「うんうん。弥は小春の味方ッスから」

 「話し聞いてよ」

 「いつかきっと記憶力を手に入れられるから諦めちゃダメッス」


 ムカッ


 「それまで小春の記憶力は弥が受け持つッス!」


 ムカッムカッ


 「大丈夫ッス! 弥は小春と違って記憶力は通常の人と比べて十倍以上あるッスから」


 プチン


 「うおぉぉぉぉぉぉぉ」


 抱きしめる弥ちゃんを力一杯突き飛ばした。


 「うるせーわ! 小春だって記憶力ぐらい人並みにあるわ!」


 突き飛ばされた弥ちゃんはそこに留まることはなく、勢いよく立ち上がり小春の前に戻り叫ぶ。


 「うるせーのは小春ッス! 三十分前に話した内容も忘れているのに!」

 「忘れていないです! 夜遅くまでゲームしてたって言った」

 「弥がいつ夜遅くまでゲームしていたって言ったッス?」

 「いつもしていないって言って、しているじゃん!」

 「でも今回はしていないッスから、していないッス!」

 「いーや、嘘をついているね!」

 「何で嘘をつかないといけないんスか? 現に弥は起きているじゃないッスか!」


 「え?」

 「え?」


 いつもの茶番劇がヒートアップしようとした時、弥ちゃんの一言で一気にクールダウンした。

 言われてみれば今日は小春より早く起きている。


 「本当に昨日の夜遅くまでゲームしていないの?」

 「いつも嘘ついていたのは弥だから謝るッスけど、昨日はしてないッス! 証拠に弥が朝早く一人で起きる軌跡あると思うッスか?」


 弥ちゃんの顔色も良く、目の下にはくまも出来ていない。


 「小春も最初から人を疑ってかかるのはよくなかったことだから謝るけど、それなら留衣ちゃんは?」


 「え?」

 「え?」


 時間にして僅か一秒。二人の顔を見つめ合いながら沈黙になる。悪い予感だけが脳裏をよぎり、足元から震えが増してきた。勘違いであってほしいという願望だけを祈り、事実を自ら忘れる。しかし、非情にも無言になった小春の代わりに、弥ちゃんが事実確認を進める。


 「今朝小春の布団に留衣は?」

 「・・・・・・」


 いなかった。


 「毎日欠かさず見ていた子供番組を今日は見ていた?」

 「・・・・・・」


 見ていなかった。


 「昨日の夜、小春の布団に留衣が潜り込んできた痕跡は?」

 「・・・・・・」


 なかった。


 聞きたくない事実確認は、否定したくなる事実だった。


 「も、もしかしたら今日に限って留衣は自分の部屋で寝ていて、たまたま起きるのが遅いだけかもしれないッス」


 そう考えたい。普通ならたまたま起きるのが遅い、朝一人で何処かに遊びに行っているなど、そう考えるのが、それこそ普通であり、一般的な考えだろう。


 しかし、彼女は違う。純粋なる子どもであると同時に彼女は、

 星砕きの留衣である。

 星砕きの通り名を持つと同時に彼女は、

 純粋なる無託な子どもである。


朝姿が見えないだけで事態は急展開を向かえる。純粋な無託な子どもであるが故に状況の選択ができない。星砕きの通り名を持つが故に、力の使いどころが分からない。


 そして、桃井留衣を利用しようとする輩はきっと一人ではない。


 小春は受け入れたくない事実を確認するために留衣ちゃんの部屋の前に立つ。

 コンコンコンと三回ノックをして、


 「留衣ちゃんまだ寝ているの?」


 声を掛けると同時に部屋に入る。

 留衣ちゃんの部屋には物などが一切なく、とても殺風景な部屋である。あるのは、ベットだけであり、それ以上の物はない。その代わりに、小春の部屋には二人分の家具や衣類や物が散乱している。だから、留衣ちゃんの部屋には何もなく、勿論隠れる場所もない。隠れられる場所がないのだ。だから、入った瞬間に分かるのだ。もしかしたら、どこかに隠れているかもしれないという淡い可能性の期待もなく、分かるのだ。


 留衣ちゃんがいない


 小春は「いない」事実だけを手で握り締め、ただその場に立ち尽くすのだった。そして、追い打ちを掛けるようにもう一つの事実が聞こえる。


 「誰かが侵入した痕跡があるッス」


 弥ちゃんの声が地下深くから届いた。

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