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パニック☆スター  作者: モエLOW
パニック☆スター2
14/26

   スピンスター その2

「っと言うワケです」


 信用ない舵機かじきの説明を聞いて良かったと思ったッス。全てが繋がる。

 スティールスターによってのリンクスターの足止め。本当に足止めにすぎないッス。巨大な迷宮もゴールがあるならいつかは辿り着くから。スティールスターに対しての、リンクスターに対してとも言えるッスが、いつかは辿り着くならスピンスターに勝ちはない。

 逃げる為の時間稼ぎでもない。逃げるなら対敵侵入者用防御システムの起動は行きすぎている。逃げる分にはそこまで発動させる必要はないッス。

 対敵侵入者用防衛システムは迷い込んだ弥達を絶対に殺す為。算段があるッス。


 「弥さんこれでいいですか?」


 舵機は弥に内容の説明をしてもらいつつ、監視用のカメラも同時に探してもらった。馴れ合いの映像を送る訳にはいかないッスから。

 舵機が隠しカメラを発見すると細心の注意を払い弥の指示に従ってもらう。


 「配線をちゃんと繋いだッス?」

 「はい」


 弥はノートパソコンを開きキーボードを打つ。


「映像の受信元へ不正アクセスをして・・・・・・出来た」


 防犯カメラはスピンスター個別のネットワーク回線を引いている。だからカメラに繋いである配線からメインコンピュターに侵入。まずは、弥達を監視している映像を静止画にすり替えるッス。これで行動を監視している奴らの目を一時的に誤魔化せるッス。


 「ひとまずは安心ッスかね」

 「監視カメラがあるってよく気付きましたね」

 「普通に気付くッス。スティールスターの行動次第で毒の欠片を流出させると言っていたんスよね? 行動を把握できないのに条件を出す筈がないッス」


 しかし厳しいなぁ。何より時間がないッス。自由に動けるのは今の所弥達と後は・・・・・・。弥のノートパソコンは今スピンスターの全監視カメラを統制するメインコンピューターにリンクしているッス。パソコンを弄り他の状況の確認ーー


 「弥さん約束です。メカメカ三号の改造を」


 時間がないときに・・・・・。まぁ、約束だからしょうがないッスけど。


 「今やるから」


 考えることはメカを弄りながらでもできる。弥はメカメカ三号に近付き機械弄りを始める。作業をしながらも思考は止めない。二つの動作を同時に行う、弥しかできない荒技ッス。

 弥は手を休めることなく置いたノートパソコンの映像を見る。えーと、いたいた。隊長と、


 「えぇぇぇぇぇぇ、隊長と破邪はじゃが戦っているッス!」


 流れる映像には隊長とスティールスターの長の破邪が拳を交えていた。

 すると舵機も顔を出して画面を見る。


 「ボスだ! 頑張れ頑張れ」


 お気楽野郎め。


 「頑張れじゃないッス。考えていたことよりもずっとずっと良くない状態ッスよ」


 既に隊長と破邪が顔を合わせていたとは。見る感じ隊長は結構本気で戦っている。時間が更になくなったッス。二人の決着が着く前にどうにかしないと・・・・・・。


 「舵機次の映像に切り替えてくれッス」


 弥は手が離せないので舵機にパソコンの操作を頼む。


 「このボタンですか?」

 「そうッス」


 舵機が押すと次の監視カメラの映像が流れる。


 「時子ときねれんも戦っているッスね。戦闘勃発じゃないッスか」

 「恋さん張り切ってますね」

 「これはこれでいいや。時子が副長を抑えているのはでかいッス」


 ちょっとは役に立っているッスね。で、


 「次ッス」

 「あれ? メールが来てますよ?」


 どれどれ。弥は画面の下に告知されたメール表示を見る。機人きじんからッス。


 「ちょっと下のメールをクリックお願いッス」

 「はーい」


 舵機が押すとメッセージが画面に表示される。


 [衣類をチャイナドレスと判定。パンツが白]

 [衣類を魔女のコスプレと判定。パンツが黒]


 「どんなメッセージを送ってきているッスか?」

 「チャイナドレスは多分 風香ふうかさんで魔女っ子は祐巳ゆみさんかと」

 「醜人拳しゅうじんけん藪医者やぶいしゃか?」


 本当にロボとは思えない発言ッス。頭が痛くなる。


 「弥さん風香さんに醜人拳と言うと怒りますよ? 祐巳さんにも藪医者言っちゃダメです。あの人腕は確かですから」


 機人の発言は置いといて、頼みの綱の機人も好戦中とは弥の希望が絶たれたッス。これで機人は弥の元には来れないだろう。


 「突破口が見つからないッス」

 「弥さん? この人は?」


 舵機が勝手に次の映像に切り替えていた。画面には一人迷宮を走っている少女がいたッス。


 「小春ッス」

 「リンクスターの一番隊さん?」

 「一応。ここでフリーなのが小春だけか・・・・・・。あーまだ光は完全には消えていないッスがね」


 どうしましょう。動けるのは弥達と小春だけ。ゴールに辿り着いても事態を片付けられるのか? いないよりはマシだけどッス。


 「悪流あくるさんはっけーん。後ろの二人は善知さんと善詩さん。もう一人は誰でしょう? 小さい子供のようですが」


 舵機は監視モニターを見て楽しんでいる。状況をしらない訳ではないのに楽しんでいるッス。


 「留衣るいッスね。そいつは一番隊ではないッスから、戦闘要員に入らないッス」

 「そうなんですか?」


 留衣は小春との約束で攻撃禁止令が出ている。悪流達と行動を共にしているってことは約束を守っている証拠ッスね。偉い偉い。

 とか言っている場合じゃないッス。


 「うーん、あっ」


 スティールスターに後一人厄介な奴がいた気がする。


 「スティールスターにはもう一人いなかったっけ?」

 「音々(ねね)さんですね」

 「それだ」


 舵機は監視モニターの映像を何回も切り替えているが、その人物の名前が上がってこないッス。弥は気になったので舵機に訊ねようとするが、


 「音々さんはやっぱり見つけられないですね」


 独り言を呟いた。


 「見つからない?」

 「音々さんは隠密を得意としてます。前に聞いた話なんですが、隠しカメラなどのトラップ類に超敏感なんです。自然と避けて行動するのがもう体に染み付いているとか」


 スゲー特技をしれっと説明するッス。もしや光が見えたのでは? 弥は舵機に訊く。


 「隠密大好きな音々がスピンスター長をぶちのめしたりするッスか?」


 スティールスターもスピンスターの言いなりに何時いつまでもなっている事態を面白いとは思わないッス。スティールスターはリンクスターとスピンスターの両方を敵と判断している。ならばスピンスターへの攻撃も頭に入っている筈ッス。音々の射程にスピンスターが入ってくれることを願って。


 「どうですかね? 最初はスピンスターを潰すと気合い十分でしたが、リンクスターが出てきましたので意識が全部そっちにいった可能性があります。ボスと恋さんは間違いなくリンクスターに意識が飛んでいます。音々さんがどっちに動くかは半々ぐらいでしょうか? 一番可能性があるのは音々さんですけど正直何考えているか分からない部分がありますので断言はできないです。皆個々の気分で動く癖がありますからねぇ」


 本当好き勝手に動きすぎッスよ。


 「まとまりねーッス」

 「自分勝手に動きますが目的は一緒なので毎回結果はでてますよ?」


 きっと協力という文字が存在していないッスね。チームなのに個人技を重視する。野蛮な星だ。スティールスターに期待を持つ方がおかしかったッス。残された人材で何とかしなくては。

 まずッス。敵は何の策を練っているか? これはスピンスターの巨大迷宮対敵侵入者用防御システムの仕組みが分かれば自ずと導かれるッス。

 スピンスターは四つの巨大歯車から成り立っている。そして、人が住むエリアと作物を栽培するエリアの上と下の二つに別れている。エリアを説明するにあたって歯車の補足をした方が分かりやすいのでそっちから説明するッス。

 スピンスター中枢部にある歯車を本軸歯車ほんじくはぐるま。スピンスターでは毎日本軸歯車を一時間置きに一回転させる。一回転させると本軸歯車と同期した日軸歯車にちじくはぐるまが15度回転。日軸歯車は一日で360度回り再び0度から回り始める。日軸歯車が一周すると今度は月軸歯車つきじくはぐるまが動き出す。月軸歯車は日軸歯車が一周する毎に約1度回り、一ヶ月で30度回転。一年で一回りの計算。最後に年軸歯車ねんじくはぐるまだが、月軸歯車が一回転すると30度回転する。これが一二年で一周期である。


 何でこんなにも歯車があるかと言うとそれぞれの歯車にはちゃんと役割があるッス。


 スピンスターは円の形をした街で、内部に仕組まれた歯車によって生活基盤を回す。

 日軸歯車の主な役割は一日二十四回の防御システムの発動と、作物栽培所の育成の効率化を図っている。一日の作物の世話、例えば水やりなどを本軸歯車を回すだけで自動でやってくれるのだ。効率化はこれだけに留まらない。連動した月軸歯車は今度は月毎に行う作物育成の世話をする。土地作りから収穫までを月軸歯車で行う。

 最後に年軸歯車の役割。この年軸歯車は作物栽培エリアと深く関係している。地上にある作物栽培エリアは十二区に別れている。円を丁度十二等分した感じだ。十二区にはそれぞれ名称があり、一区を野菜区、二区をその他区、三区を芋区と。そして、四~十一区を植生区、十二区を終わり区と。因みに、地区は変わらないが土地は一年毎に変わるのだ。例えば一年が経つと一区にあった土地が二区へ、二区にあった土地が三区へ、十二区にあった土地が一区へと移動する。移動とは、その名のとおり土地の移動。円状の土地が一年毎に30度回転して、地区を跨ぐのだ。

 効率だけを考えた生産方法には無駄なコストがまったく掛からないッス。本軸歯車だけを回すだけで0から十まで機械でやってくれるッス。人の手いらずッスね。安く大量に生産できる方法ッス。コストを極限にまで減らした農業方式だからこそできる価格パフォーマンスッス。

 この場合問題なのが農業方式にあるッス。この農業方式によって弥達はピンチになっているッス。

 そう、スピンスターが取り入れている農業方式は焼き畑農業。森林を焼き払い残った灰で土地の栄養の確保といった具合で作物を育てる方式ッス。土に栄養がなくなったら植生区に回し土地を休ませ草木が生える頃にまた焼く。こうして半永久的に循環させるッス。

 そんな変わらない一定の周期を繰り返す歯車が今まさに狂い始めているッス。故意に狂わせ、動かしている。目的の為に動かしているッス。目的とは無論焼き畑農業に向けて、焼き畑の際に用いられる火炎によって侵入者を灰にしようとしているッス。火炎は十二区だけではなく、弥達が迷っている迷宮通路にも及ぶと聞いたことがある。年一回行われる焼き払いの火炎を迷宮にも取り入れることで大掃除の意味をなしているッス。ゴミやチリなど一気に灰にする。それが最終防衛にも繋がるとかどんだけ効率中なんスか?


 導かれた答えはまずいの一言に尽きるッス。


 早く対敵侵入者用の防御システムを止めなければ全員が灰になるッス! 動ける人材で手を打たないと・・・・・・、結局は堂々巡りになり時間だけが刻々と迫る。


 「弥さんすごいです」


 弥が夢中になり頭の中で考えていると舵機が感想を言ってきた。あぁ、つい力を入れてしまったッス。当初思い描いていたメカよりも何倍も手の込んだ作品に仕上げてしまった。うっかりッス。

 いや、折角使えるメカに改造したッス、不満ッスが舵機には弥の手となり足となり働いてもらうッス。


 「舵機、メカメカ三号改めメカメカデラックスは思った以上に手間が掛かったッス。最初に要求したスピンスターの情報だけでは足りないッス」

 「はぅ?」


 舵機は弥が出した追加料金の申請に驚く。


 「足りない分は現ナマで払ってもいいッスが、弥の口からはちょっと言えない金額になるッス。後で請求書を送り付けるッスからーー」

 「待って下さい。ずるいですよ。聞いてないです」

 「払えないと?」

 「いくらなんです?」


 弥は舵機に耳打ちをする。すると、


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」 


 泡を吹いて昇天する。そして、一気に畳み掛けるッス。


 「払えないんなら働いて返す方法もあるッスが」

 「はっ!」


 勢い良く起き上がり弥の顔に近付く。元気ッスね。


 「体で返します。どんな内容で?」 


 誤解を生む言い方ッス。でも、単純で良かったッス。行動は野蛮そのものなんスが、意外と律儀な部分もあるみたいッス。


 「弥をメカメカデラックスに乗せ迷宮のゴールまで運んでくれッス。ついでにゴールに着いたら無茶苦茶に暴れて本部を破壊しろッス」


 舵機は聞くと顔に明るさが戻り、手で胸をポンッと叩き言う。


 「お安い御用さ」


 簡単に引き受ける舵機。弥の認識が甘かったかもしれない。もしや、いい奴なんじゃねぇ?


 「時間がないッス。早速お願いするッス」


 弥は改造したメカメカデラックスの後方座席に座り、続き舵機も操縦席に座る。


 「今回は特別にメカメカデラックスの解説もお付けするッスよ」

 「いらないです」


 何? 舵機はハンドルを握る。


 「こっちが手を動かして、下の踏み込みで足を動かす。手元にあるトリガーで銃を発射」


 説明なしで動かせるんスか? 難しい操作はないッスけど、簡単な操作でもないッス。前とは違って足と手を同時に動かせるようにしたッス。上ハンドルで手、下のアクセル等で足を動かす。加えて、銃器も内部に搭載。決して説明なしに動かせる代物じゃないッスけど、舵機は弥の説明なしで機体を動かした。しかも、スムーズに。


 「凄いです。動作に寸分の狂いもないです」


 初めての動作で寸分の狂いも分かるのか? 逆に凄いッス。


 「それでどこに行きます?」


 舵機から行き先の要求が来る。


 「適当に前に進んでッス。地図があっても地形が変わるんじゃ意味ないッス。今はできるだけ距離を稼いでゴールに到達する確率を上げるッス」

 「了解です。全速力で行きますのでしっかり掴まっていて下さいね」


 舵機はメカメカデラックスを動かした。スピード全快で。弥も出来ることをやるッス。小春が先に到達する可能性もあるッス。だから、小春に向けられた監視カメラも妨害するッス。

 それ以上のことを考えてもしょうがないッス。やるだけやってやるッス。


☆★☆★☆★


 私は瓦礫から這い出でるスティールスター副長の恋をじっと見る。いつでも対処できるように。


 「思い出したよ。スピードスターの副長、止枝時子とめえときねだったね」


 正確には側近侍者そっきんじしゃね。恋は言うと私の方へ足を進める。


 「だったら?」

 「リンクスターの奴に逃げられても、それ以上の代わりがいて良かったよ」

 「私にぶっ飛ばされるのが良かったと? 何? 私のファン? 気持ち悪い」

 「違うよー! 僕の相手に相応しいって言いたいの」

 「違くないじゃん。自分だけが相応しいって、気持ち悪い」


 寒気がする。ファンに執拗に追い求められるアイドルの気持ちが分かった。こいつは自分の世界でしか生きていない勘違いヤローだということね。


 「おいおい、その冷めた目は何? 僕はストーカーじゃないって」

 「気持ち悪いから喋らないで」

 「クッソォォォォォォ。あいつにも侮辱されお前にも侮辱され、とんだ一日だよ」


 恋は顔を真っ赤にして足を踏む鳴らす。恋の何気ない行動は地面にヒビを入れた。星の力ね。自身のパワーを底上げする力とかそんな所でしょう。要は攻撃を食らわなければ問題ないと。


 「相手に力を見せつけて考える時間を与えるバカがどこにいる」


 恋が余所見をしているうちに私が先に前に出た。底知れないパワーを持つ恋には攻撃を受けない距離で戦うのがセオリーだけど、あいにく私には遠距離の攻撃がない。私の攻撃手段は手に持つロッドでコンボーのように相手をタコ殴りにする他はなく近接戦を主体として戦う。恋も見た目近接タイプだろう。そして、足踏みだけで地面にヒビを入れるほどの力、一撃一撃に必殺級の攻撃力があると見て間違いはない。近接戦主体同士、拳の打ち合いなら私が負ける。躱しながらの攻撃も難しい。相手も名のある副長だ。全てを躱すのは不可能。部が悪いのは私かな? 

 それでも私は足を緩めない。遠距離攻撃がないんじゃ攻撃が届く範囲まで接近するしか方法がないのだ。

 私が前に出ることで不抜けていた恋の表情も締まる。恋は私との間合いを見定めると片足を一歩引いて右の拳を後ろで溜めた。恋が言う。


 「次は当てる」


 お互いの射程範囲に突入した。恋は体を捻り、溜める拳を私の顔面に向けて発射した。

 顔面を蹴られたことを根に持っているのね。 

 恋の初撃は大方予想は出来ていた。絶対ではないが顔を狙ってくると思っていた。それでも撚けれる自信はなかったが。


 「当てさせない」


 撚けなくてもいい、当てさせなければいい。私はロッドを恋に向けて、星の力を発動した。

 ロッドの先端からは眩い光が恋を照らした。


 「またこれだ」


 光を浴びた恋の拳が止まった。ほんの一瞬だがピタっと止まる。

 ストップクリスタル。物体の移動速度をゼロにする力。光を浴びた全ての対象がどんなに速くてもきっちりゼロにする。速さをゼロにするだけで止めれる訳ではないので、進む方向に力が働いているのであれば再び加速していく。拳を放った恋の速さもゼロになったが、力自体が失われた訳ではないのでゼロになった場所から動き出すのだ。だから、恋の拳はありえない方向に空振った。

 脳と体の相違である。突然の相違に反応しきれない結果だ。結果は恋の拳を空振らせ態勢を崩させる。何かに躓いた感じになり恋は前に傾いた。

 私は前のめりになった恋の顎に向けてヒザ蹴りをお見舞い。


 「くぅ」


 悲痛を漏らした恋の顔が私のヒザ蹴りで持ち上げられて昇天を向き、勢いは止まらずにそのまま仰け反る形になる。

 私は手を休めない。続けて後ろに倒れそうになる恋の腹部に向けておもいっきりロッドを振った。ロッドが恋に強打し、私はロッドを力一杯振り切った。


 「どらっせぃぃぃぃぃ」


 力の篭った私の声は恋を吹っ飛ばす。恋は地面をバウンドしながら奥の木造家屋に激突した。


 「今のはいい感じに決まった。どう?」


 私は崩れ落ちる木造家屋に聞いた。聞こえてないでしょうけど。

 崩壊と共に土煙も上がり家屋を包み込む。


 「少しは弱ってくれると楽なのだけーー」


 そうもいかないね。私の言葉が途中で絶たれた。私に向かって土煙の中から無理矢理剥ぎ取られたであろう屋根が飛んできたのだ。

 私はロッドの先端を向ける。

 無駄だと。ストップクリスタルの星の力が当たってしまえば遠距離攻撃も意味をなさない。

 教科書通りに一つ一つ攻撃を丁寧に防いでチャンスがあればカウンターを。派手なパフォーマンスいらない。

 私は投擲物とうてきぶつに向かって星の力の発動。投擲物の速さがゼロになり地面に落ちる。

 はいっ、私には遠距離攻撃も効かないと。一つの攻撃手段を潰した。次はどうくる?

 

 「最初はさ、態勢を崩すとかそんな力を想像していたんだ。二回目の接触で違うと分かったけど。動きを止める力だね」


 声が近い。私は回りを見渡すと、飛ぶ投擲物の後ろに影があった。その影は投擲物を回り込み今、私の真横に姿を表した。


 「力が届く範囲も短いみたいだね」


 恋は私に飛び込んだ。

 投げ飛ばした屋根の後ろに隠れて私に近付いてきたのだ。

 機転が早すぎる。バカと思わせておいて戦闘に関しては高い分析力があるようだ。多分、二回目の攻撃は私の力を測る為にわざと誘い込んだ。だから、一歩も動かなかったのだ。大きく態勢を崩さない為に足を固定していた。星の力が当たり態勢を崩したが転びはしなかった。きっちり分析させられていた。加えて届く範囲までも知られたか。力の内容はいずれ知られるのでいいとして、範囲まで一気に知られたのは失敗だったかも。ストップクリスタルの力が及ぶ範囲はたいして広くはないのだ。五メートルとみていい。これは、今のように接近できるチャンスがあると知られたも同然だ。投擲物を投げて背後に隠れて詰め寄る。しかも、一回星の力を使えば一秒くらいの待機時間がある。連続では使用できない。

 たった二回で対処策を練ってきたか。流石私と同じ副長。

 私は素直に感心した。でも、


 「甘い」


 ストップクリスタルだけで対処し続けるのには限界があると分かっていた。いずれ恋は対応してくると思っていた。若干早かったが、この程度でテンパる程私は弱くはない。

 私はもう一つの星の力を発動。靴にはめ込んであるスピードスターの欠片を解き放つ。

 効果は名前の通りにスピード強化。私の動く速さを底上げする力。片方の靴に一ダースはめ込んであり両足合計で二十四個の欠片。一回で右、左の一個づつを使用。回数にして十二回使えるのだ。そのうちの一回を使った。

 恋の拳が私に当たる直前で加速。後ろに回避した。急加速によって恋の攻撃を今度も難なく撚けれた。

 加速した私は勢いを殺す為に足底を地面に擦りつけて停止しようとする。


 「僕を舐めすぎだよ」


 恋が私に言った。


 は?


 恋の言葉の真意は物理的な答えだった。


 「うっ!」


 私の肩に何かが直撃した。肩から転げ落ちる物は石礫だ。恋が空を切った逆の手を使い指弾で石礫を飛ばしたのだった。私は小さな石礫の衝撃によって後ろに倒れる。


 「追い詰められれば絶対にスピードを上げてくると思っていたよ。僕の動きを止めた力は知らなかったけど、スピードスターの欠片の存在は知っていたんだ」


 相手の攻撃手段を潰していく作戦が逆に私の行動パターンが詰められていたってこと? 

 私は地面に這いつくばって前を見る。恋は間髪入れずに私に詰め寄ってきた。両手を使い起き上がろうとするも、


 「いったぁ」


 左肩に力が入らない。完全に骨が折れているわこれ。にしても、たかが石礫ごときにしては威力が高い。単純に自身のパワーを上げるだけではない?

 私の疑問に走る恋が応えた。


 「気付いた? 僕のドーピングクリスタルは筋力を上げるという単純な力ではないのだ。もっと単純さ。僕の行なった攻撃自体を上げる力。見誤ったね」


 岩石にでも当たった感触。骨だけで済んだ私の頑丈さに驚きだ。

 正面に立った恋が倒れる私に拳を向けた。


 ストップクリスタル


 星の力で恋の速さをゼロにした。が、読まれていた。

 ストップクリスタルの弱点は相手が慣れたり、完全に力を使うタイミングを合わせれば反応は十分に出来る。

 恋は私が使うタイミングに合わせて行動を一瞬止め、そこから再び攻撃の動作に入ったのだ。恋の適用能力が抜群であった。

 それでも一瞬の隙が出来た。私はもう一度スピードスターの欠片を使い、無理矢理その場から脱出。


 「だから?」


 恋は言葉通りに驚いたりはしなかった。

 私は一先ず距離を取ろうと離れようとした。

 読まれていたのだ。透かした拳を振り切ることはせずに地面に叩きつけ、その際に弾け飛んだ岩を突いた片手で倒立をして宙に浮いた足で飛ばしてきたのだ。

 複数の岩が私に放たれた。

 当たってしまう。スピードを上げた私より岩の方が速い。


 「クソ」


 私は自分自身にストップクリスタルの星の力を使いスピードをゼロにして一時停止。そして、スピードスターの欠片を使って九十度ターンで岩を回避した。


 「今回は欠片のストックを持ってきてないから、回避だけに二回も使いたくなかった」


 残り九回。だんだんと追い込まれてきたか。

 投げた岩の間からは恋の姿も見える。


 「ダメだ。無難に攻めていては私が殺られる」


 プラン変更。戦闘を熟知している相手に基本的な戦術は通用しない。言いたくはないが、こいつは相当強い。無茶な無謀な戦い方も頭に入れないと。

 私はスピードスターの欠片を使い、詰め寄る恋に向かった。その間に恋はまた岩を私に殴り飛ばした。


 ストップクリスタル


 飛んでくる岩を止め、それを足場にして残り八回のうち一つのスピードスターの欠片を使う。

 同じ進行方向において二回目の加速。更にスピードが上がる。


 「僕相手に真正面の特攻が効くと?」


 恋がいる手前の岩場に足を乗せ、


 「超特攻だ」


 スピードスターの欠片の使用。三回のスピードアップ。目の前での急な加速についてこれるもんか。

 超スピードの飛ヒザ蹴りを恋の顔面に食らわす。


 「ぐっ」

 「顔面狙ったことは許してね」

 「許さねーよ」

 「?」


 恋は後ろに吹っ飛びはしなかった。地面に着いた足二本で耐えたのだ。


 「やっと捕まえた」


 恋の顔面に受け止められることによって私のスピードが止まった。同時に私の足を掴まれる。

膝が離れると恋の顔は真赤に染まっていた。鼻からは血がドバドバと地面に落ちている。


 「食いしばれ」


 げっ!


 私の顔面に恋の強パンチが火を吹いた。


 「つッ!」


 打たれた瞬間は痛みはなかった。アドレナリンが出まくっているのか、私の脳に痛覚がまだ届いてないのか、それとも・・・・・・。


 「もう一発」


 拳を振るった恋はまだ私を離していなかった。サンドバック状態である。


 「離せバカ」


 私は持っているロッドで足を掴んでいる恋の手を殴る。同じタイミングでもう一発恋の強パンチが私の顔面を強打した。

 咄嗟の判断は功を成した。

 喰らいはしたが、緩んだ手から私の足が解放。恋のパンチの威力で私は吹っ飛んだ。


 「ぐはっ」


 衝撃、それは私の背中にあった。ほんの一瞬だけど意識が飛んだ。

 状況を確認すると、どうやら私は隅まで吹っ飛ばされ住居エリアの壁に激突していたようだ。

 顔からは血が滴り落ちている。鼻は確認するまでもなく折れているわ。


 「・・・・・・」


 私は地面を握り締める。


 「あったまきた」


 頭の中で考えがぎった言葉なのか、外に出た言葉なのか分からない。

 だけど、


 「あったまきた」


 私は膝を地面に付き今度は叫んでいた。


 痛いし痛いし痛いし痛いし痛いし痛いし・・・・・・。


 それよりも怒りが私の脳を支配している。


 「乙女の顔になんてことをする」


 私が睨む先には、恋がサッカーボールのように家を私にシュートしてきた。

 どうせまた家の背後に隠れてたりするんでしょ?

 起き上がり横に躱そうとしたが、見た現実は違った。私に向かって五つの家ボールが飛んできてたのだ。

 

 「ハハハハハハ・・・・・・」


 ストップクリスタルで一気に五つは巻き込めないわ。範囲が狭いんだなぁこれが。


 「上等だぁぁぁぁぁぁ!」


 叫んだ私はスピードスターの欠片の三つを解放。一気に速度を上げる。

 飛んでくる家も私と比べたらスローモーションに見えるだろう。

 僅かに空いた家と家の隙間を抜ける。

先には恋が構えていた。


 「そこで構えていたってことは私が突っ込んでくると予想していたの?」

 「お前単純だからさ」


 こんな奴に、こんな奴に・・・・・・。


 「ぶっ殺す」

 「お前は僕に勝てないよ? 毎日死と隣合せで歩いてきた僕とお前では経験が違いすぎる。全てにおいて僕が上だ」


 立場逆転とは。


 「全てを力だけで潰す」


 私はロッドを構えて、残り欠片の二つを使用。加速から加速。恋が反応出来ないぐらいのスピードで突っ込む。

 恋の顔面に向けてロッドを振ると、


 「ほらね、スピードだけで僕に勝てるとでも?」


 私の目の前から恋が消えた。


 「え?」


 次の瞬間私は躓いて前に倒れそうになった。


 恋だ。


 恋が咄嗟に下にしゃがみ込んでいたのだ。


 「速すぎて自分の視界も狭くなっているよね?」


 悔しいが当たっている。加速は目の前ではなく常に先の向こう側を見てなくては対応が間に合わない。先の先の予測で動いていると言っても等しい。恋とぶつかる間際、体では攻撃を実行、脳では恋の向こう側の停止地点を見ていた。

 恋の声が耳に聴こえた時、私が反応した時には遅かった。

 恋はしゃがんだ態勢から上に向けてジャンプし、そして倒れそうになった私の体に恋の背中をぶつけてきた。

 ドーピングクリスタルの星の力の発動だ。

 私の体半分全体に倍増した攻撃を受けた。体の嫌な悲鳴だけが虚しくも聴こえる。

 私は恋の背中による打撃で大きく宙に持っていかれた。


 「げほっ」


 咳には血も混じっていた。

 恋によって空中を浮かぶ私の真下には、


 「スーパー」


 叫ぶ一人の影。


 「恋恋アッパー」


 恋の空を切る重い拳が下から這い上がってきて、私の腹部を打つ。


 「げほっ」


 私の吐血した血液がまるで無重力状態にでもいるかのように思えた。血だけが宙をさ迷い、私だけが血を置いて空にかけ昇る。

 そして、血の下にはにっくき相手の顔が。口を吊り上げてしてやったりの顔。

 こんな重い一撃を受けたのは初めてだった。

 頭が働かない。何も考えられない。

 けど、私の思考が停止した脳にははっきりと文字が書いてあった。


 「不愉快」


 それだけが消えなく刻み込まれていた。

 ここは地下を掘り空洞を造り住居エリアにしている。

 空を駆け上がる私にも限度がある。

 つまりは上には天井が存在しているのだ。だから私は天井に足を向けて着地。着地した瞬間に軋み音がエリアを響く。私の体の軋みなのか、着地した天井が軋んだ音なのかは分からない。

 分かるのは、不愉快になった私。不愉快な思いは、怒りの感情を内では抑えきれない程に暴れさせている。


 「ラスト一個」 


 スピードスターの欠片の使用。

 天井から恋に向けて超降下。

 私は降下の勢いに任せて、空を落ちる恋に怒りを握った拳を振り落とした。

 着地の態勢を整える恋に頭上からの攻撃。恋もあれで終わったと思っていたのだろう。見上げた恋の動作が遅れる。

 私は恋の顔面を地面に叩きつけて着地。


 「いっーー」

 「まだ喋れる余裕があるんだ?」


 地面に減り込む恋を蹴り上げる。私の蹴りで起き上がる恋に続けて頭部に回し蹴り。


 「がはっ」


 食らった恋の体は傾き、すかさずロッドを横腹辺りに叩き当てて吹っ飛ばす。


 「時子エンドレス発動」


 時子エンドレス。私が手を休めることなく攻撃を永遠に繰り返すコンボ。永遠に攻撃をするということは相手にも永遠に攻撃を受けてもらわなければ成立しない。だから、相手のブレイクタイムを奪うのだ。相手が息をする暇も与えない超コンボ。

 小技、中技、大技で相手を吹っ飛ばす。常人ならこれで限界だ、てかこれでも必殺コンボと名付けても誰も文句は言うまい。 

 しかし、私は違う。

 大技で相手を吹っ飛ばす瞬間に、


 ストップクリスタル


 止めるのだ。ぶっ飛びを止めて、また小技~大技にもっていき、


 ストップクリスタル


 繰り返す。永久コンボの成立である。


 「抜けられない時の狭間でくたばりやがれ!」


 一クール、二クール、三クール、私の体力が尽きるまで力を緩めない。


「どらっせいぃぃぃぃぃぃ」


 合計にして十二クール。いい頃合かと思い殴り続ける恋を見る。


 「はぁはぁはぁ・・・・・・、伸びてる?」


 攻撃の中止で恋が地面に転げ落ちた。時子エンドレスは恋を再起不能まで追いやっていたのだ。そこから恋は再び立ち上がることはなかった。


 「うしっ」


 つまり私の勝利だ。辛い戦いだったからこそ勝った時の喜びも大きい。自然の流れに任せて、らしくないガッツポースをする。


 「おっとととととと?」


 腕を小さく振り上げると同時に私のお尻が地面に着いた。


 「私も限界だったのね」


 初めて副長と手を合わせたけど予想以上に強かった。いやぁ、ギリギリだった。


 「すぐにでも小春の後を追いたいのだけど・・・・・・、さすがに休憩しないと死ねる」


 ポタポタと顔から血が吹き出てくるので、拭き取る為にハンカチが入っているスカートのポケットに手を伸ばす。すると、ハンカチと一緒に何かの塊も落ちた。


 「あぁ、そういえば小春に貰ったっけ」


 この大きさはオニギリかな? お節介というか、バカというか、


 「私のことを知って、普段通りに接してくれたのは小春が初めてかも」


 スピードスターの連中は私を腫れ物みたいに扱うし、他の星の連中も私と知ったら逃げていくし。


 「友達、なれるかな」


 私はそんなことを考えながら、貰ったオニギリの包み紙を開けて口に運ぶ。一口食べると、


 「いったぁぁぁぁぁぁぁ」


 口の中や顔が傷だらけで噛むごとに痛みが伝わってくる。


 「まともに食べれないじゃない。恋の奴、人の顔を散々殴りやがって」


 それでも無理矢理オニギリを口の中に放り込みしっかり噛む。多分、私の目からは涙が沢山流れていたと思う。

 痛みと共に味わったオニギリの味は辛味噌でした。

 

☆★☆★☆★


 「フフッ」

 

 私は十字に放たれた破壊はじゃ斬撃ざんげきを躱し、破邪の手前でボムを爆発。

 煙幕で姿をくらまそうとするも、


 「そんな中途半端な戦い方では簡単に死ぬわよ?」


 破邪は破壊の斬撃で爆炎を二つに割る。割った煙の間から破邪が私に向かって突進。


 「もっと必死に、死物狂いで戦いなさい」

 「結構本気なんだけどな」


 気は抜いていない。必死に撚けて、死物狂いで躱している。

 破邪の放つ星の力が桁外れに強すぎる。喰らえば即死で、掠っても重症は避けれない。どうしても、逃げの姿勢になるのは仕方がないだろう。

 加えて破邪の剣技。片方だけでも悪戦苦闘しているのに、破邪の剣技でも翻弄させられている。

 まいったよ。


 「きなさい」


 破邪は走りながら、手に持つ石を光らせた。

 これは・・・・・・、

 スティールスターの欠片だ。鉄を生成する力。

破邪はスティールスターの欠片を使い、もう一本の刀を作ったのだ。

 両手に刀が一本ずつの二刀流。


 「戦い方を変えましょうか?」


 右手で持つ刀に黒いオーラが纏わり付く。ディストラクションクリスタルの発動である。

 破壊の力は強力だが一つ分かったこともあった。それは、力を発動してから溜めの時間があるということだ。溜めてから放つまで二~三秒掛かるらしい。

 せめてもの救いだった。

 撚ける為の準備時間をこちらも取れるので、油断さえしなければ飛んでくる斬撃に当たりはしない。

 今は逃げてばかりだが、きっと反撃のチャンスも生まれる筈だ。今が我慢どころ。

 直後に破邪が動いた。


 「!?」


 刀が私に向けて飛んできたのだ。

 突然飛んできた刀に冷汗が流れる。刀には黒いオーラが纏わっていたのだ。

 普通メインウェポンである方の刀を投げるか? 破邪はディストラクションクリスタルの方の刀を平然と捨て投げた。

 私は飛んでくる刀を大きく横に躱した。考えるよりも反射神経が上手く働いた。しかし、思いもよらない攻撃に一つの失敗をした。

 破邪から意識を外してしまった。破邪によって外されたのだ。


 しまっーー

 「遅い」


 スパッ


 もう片方のスティールスターの欠片によって作られた刀で切られた。

 刀で上半身を縦に振り切られたのだ。

 咄嗟に私の目の前にボムを放ち、爆破。爆発によって私自身も巻き込まれる形になったが、破邪の次の攻撃も止んだ。これ以上の攻撃を防ぐ為の苦しい策だった。

 傷は浅くない。結構深く切られた。


 「チッ」


 私の視界は爆炎で前が見ない状態。しかし、破邪の気配もない。破邪は爆発で後ろに引いたのだろう。

 後ろ? 

 違う、前だ。

 思う私は爆炎の中から外に出る。外に出ると爆炎に向けて破壊の斬撃が迫っていた。


 「爆発如きで後ろに引く玉ではないな」

 「勘が冴えてきた?」


 破邪は爆発の隙に投げた刀を拾い上げて、それを使い斬撃を飛ばしたのだ。

 私は前方に飛び込み、今度は間一髪に躱す。前転を利用して直ぐに上体を起こし、顔だけを後ろに引く。

 これも間一髪。首を破邪の刀が掠めた。

 速い。

 私が斬撃を躱す間に破邪が詰め寄ってたのだ。私が上体を起こすタイミングに合わせて、急所である首を狙う。

 付け入る隙がない。

 続けて双剣での攻撃を破邪は仕掛けてきた。

 躱せない。破邪の剣技は達人の領域を簡単に超えている。達人程度の実力なら躱すこともできなくはない。しかし、破邪の刃は無理だ。予測での回避も、反射神経での回避も、剣先に合わせての回避も全て出来ない。

 そう判断した私は急所部分だけに的を絞り、そこだけをガードして後退する。


 「喰らい続ける気? どっちみち五分ももたないわよ?」


 急所である部分だけをガードしても他ががら空きだ。足に腕に体に顔に切り傷が増えていくのが分かる。ゆっくり後退しているも、破邪も一定の距離から離れない。近付きず、離れすぎずを保っている。


 「くっ」


 大胆に攻めたり、堅実に攻めたりと、状況に応じた戦い方をしっかりと使い分けている。今、この戦況で確実に私を殺す為の戦い方と言った方が確かか。

 もしここで私が下手に引いたら隙が出来て、そこを狙われる。破邪もジワジワとなぶる戦い方で私の行動を制限している。

 いっそうのこと大胆に急所を狙ってくれた方が状況が変わるチャンスなのだがな。来る場所にある程度の予測が付けば狙いを定めて躱せる。私は急所に絞ってガードをしているので、そこを狙ってくれさえすれば躱して、次の行動に移れる。

 だが、破邪も分かっている。だから、敢えてちまちまと攻撃を繰り返している。

 五分か。破邪の言う通りでこれ以上の出血は私の命に関わる。

 仕掛けるなら今を逃してはないな。色々と手遅れになる前に。


 作るしかない。少々強引にだが・・・・・・。


 後ろに後退していた私は破邪との間合いを詰める為に、前に突っ込む。


 「焦った? それが分からないあなたではないでしょう?」


 私の行動に反応した破邪の攻め方に変化があった。そう、確実に命を摘むひと振りに変わった。


 「だろうな」


 破邪が刀を振れる間合いを潰せばいい。離れるか、近付くかだ。刀を振れる間合い外に出てしまえば良いのだ。逆に外に出ようとしたところが破邪にとってはチャンスでもある。私に隙が出てしまうから。

 だから、私は喰らう覚悟で間合い外の前を目指した。破邪の仕留めの一撃を喰らう為に。

 破邪は私の心臓目掛けて左手で持つ刀で突いてくる。

 予測通りだ。急所を狙った一撃を仕掛けてくると思っていた。

 だが、この近距離だ、撚けることは既に不可能。


 グサッ


 予想通り私に刀が刺さり、私の体を貫いた刀に血が流れた。


 「狙ったの?」


 私に対して初めて見せた表情。破邪の綺麗な肌にシワが入った。


 「半分はな」


 破邪の突きで私の肩に刀が刺さった。心臓ではなく肩にだ。回避は無理だったが、急所を当てにくると分かっていれば外すことは可能。強引ではあるが・・・・・・。

 私は刀を掴み言う。


 「腕一本は覚悟していた。まぁ、私の狙い通りにはならなかったようだ」

 「舐めた真似をーー」

 「ようやく廻って来たチャンスだ。活かさせてもらうぞ」


 私は破邪をおもいっきり蹴り飛ばす。


 「ッ!」


 吹っ飛ぶ破邪に、複数のボムを出現させリンクスターの欠片でワープさせる。

 ボムのワープ先は、破邪が吹っ飛ぶ予測軌跡上の直線に一個づつ並べる。


 「チェーンボム」


 言葉と共に破邪は最初のボムに接触して爆発。立て続けに、並べてあるボムに被爆していく。

 合計にして十六爆破。

 縦一列に並んだ爆発の連鎖。


 「ハァハァ、これでイーブンかな」


 私は肩に刺さった刀を引っこ抜く。そして、血が付着した刀を地面に投げ捨てる。

 思った以上に血を流しすぎている。私の立つ地面には自分の血で出来た水溜まりが赤く染まっていた。


 「手当てしている余裕もない」


 私はボムを展開。


 「今度はこっちが優位に立たせてもらう」


 私が起こした爆発は破邪の姿を煙で見えなくしていた。だから、私はボムをリンクスターの欠片でワープさせる。破邪がいるであろう範囲にまんべんなくだ。


 「百花爆裂ひゃっかばくれつ


 広範囲の爆破。

 この範囲の爆発だ。破邪も逃げれない。それでも、くたばる奴ではないだろうが。

 私は続けて攻撃に移ろうとした瞬間に、爆炎の中から何かが迫っているのに気付いた。

 爆炎の中から一つの薄黒い点。次第にその点はどす黒くなって、


 「!」


 爆炎を突き破った。破壊の力をレーザービームのように飛ばしてきていたのだ。先程までに飛ばしてきた斬撃とは比べようもなく速い。

 それは私から三十センチ横を通り過ぎていったが、動けなかった。

 危なかった。

 もし、爆炎の中で破邪が私の位置を把握していたなら終わっていた。私の額からは血が混じった汗が下に落ちていく。

 血で出来た水溜まりに、汗がポチャリと落ちた音と共に私は動く。

 上には刀を構えた破邪が私を狙っていた。処々火傷などによって赤く染まって、服もボロボロになっていたのだ。私の攻撃をもろに食らった証拠であった。

 しかし、破邪の顔からは傷など微塵にも感じていないと思わせる程の威圧的な迫力があった。

 破邪の迫力だけで地にひれ伏してしまいそうな。


 「いいんじゃない? 楽しすぎてうっかりこの星ごと壊してしまいそうだわ」

 「お前だったら壊せるだろうよ」


 私は攻撃を躱して、破邪の頭上に無数のボムを連続でワープさせる。


 「流星爆裂弾りゅうせいばくれつだん


 頭上にワープしたボムは破邪に連続で降り注ぐ。


 「修羅型しゅらがた


 破邪は空から降る私のボムを斜め前方に躱す。ヒラヒラと蝶のように可憐に舞っているみたいだ。自然の流れに身を委ねた動きは滑らかで、かつ大胆であった。

 破邪の動きに合わせて頭上付近にボムを送っているのだが尽く躱される。破邪の一歩一歩には後ろに下がる一歩がない。着実に距離を詰めてくる。

 私はワープを中断させて、目の前にボムを一点集中。

 集まったボムの塊を指で弾き破邪に向けて吹っ飛ばす。


 「ストライクボム」

 「餓鬼型がきがた


 私の声に遅れて破邪の声が届く。私がボムを弾く動作に合わせて、破邪は人間砲弾のように飛び立った。

 ボムの塊に一太刀。

 まるでボムが破邪に道を譲ったように、真ん中から二つに分かれた。破邪の一太刀に星の力はなかった。自分の剣技だけでボムを切ったのだ。

 分断されたボムは時間差で爆発。


 「焦点爆破」

 「畜生型ちくしょうがた


 私は破邪の刀にボムを当て爆発させる。爆発によって振り遅れた刀の先端を素手で受け止める。しかし、振るう刀に力は入っていなかった。代わりに、空いた方の腕が伸び私の首を掴んだ。

 破邪は首を掴む手に力を入れることなく言う。


 「なかなか決まらないわ」


 私は破邪の刀にボムを当てた際に、私と破邪の顔の間にボムを設置しといたのだ。


 「決まっては困るんだよ」

 「あなたまだ力を残しているでしょ?」

 「そんなことはない」

 「私の見立てだと、もう少し強い気がするのだけど」

 「ご期待に添えなくて悪かったな」

 「それとも、自分の命程度では本気を出せないヒーロー気質かしら?」

 「こんなに血に染まったヒーロはいないさ」

 「リンクスターの民は少なくともヒーロだと思っているでしょ? 楽印らくいん襲撃人しゅうげきびとさん」


 破邪の嫌味に応えたのはスピンスターだった。

 私達が立つ地が轟音と共に動き出した。


 「ここまでね」


 ひと息ついた破邪は私の首から手を離す。私も破邪の行動に釣られて刀から手を離した。


 「何が起こっている?」


 空に浮かぶ十一区の看板を置いて地面だけが動く。


 「知らないわ。だけど、決着はすぐ側まで迫っているのじゃない?」

 

☆★☆★☆★


 小春は時子ちゃんと別れて、再び途方もない迷宮を彷徨いていた。


 「ぜぇぜぇ、小春が何としてでもゴールに着く」


 早くこの対敵侵入者用防御システムを止めないと。早く、早くと気持ちだけが先走り、走りっぱなしの小春の足はクタクタであった。


 「ぜぇぜぇ」


 走っているのに歩いているスピードと変わらない。


 「うわっと」


 フラフラな足取りは凹凸部分も何もない平坦な道で躓いた。

 不慮の事故とも言える事態についつい力みが出てしまった。これまで上手く抑えていた星の力が外に漏れたのだ。


 「うぁぁぁぁぁぁあ?」


 クルッと一回転。正面から地面に激突する瞬間に小春の体が回り、足で着地した。


 「おりょ?」


 無意識の前宙。


 「オーケーオーケー、一旦考えましょう」


 考えるまでもなく星の力が小春を救った。小春の意識を無視した星の力の誤作動は今までは仇になったことしかない。でも、今回は助かりました。


 「スピンスター。物体を回転させる力だよね? ふむふむ」


 応用が効くかもしれない。考える小春の頭に一つのアイディアが浮かんだ。

 小春は両手を横一杯に広げて足も大きく開く。


 「えーと、回転する向きを横にすると?」


 小春の視界が回転する。横を向く小春の視界には壁が回りだし、そして元の位置に戻った。


 「小春はもしや天才かもしれない」


 歩かなくても良い方法を思いついてしまった。


 「えへへへへへへへ」


 口からは心の声が抑えきれない。

 小春は深呼吸をして心を落ち着かせた。小春体内にあるスピンスターの星の力を存分に感じる。


 「スリー、ツー、ワン」


 自分でカウントダウン。


 「小春カー発進、ーーうひょひょひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 発進した。

 小春カー、小春自身を星の力で連続回転。

 車のタイヤの要領で前に進む。それは、回転する力が強ければ強い程にスピードが上がる。

 小春の視界はグルグルと回り自分が上を向いているのか下を向いているのか分からない。

 だけど、進む距離は走っている時より上がっている。

 発想の勝利というやつで、


 「オロロロロロロロロロロ」


 方法的には大失敗だァァァァァァ。目が回って、内蔵も上に下に左右に揺られて、小春の胃が勝どきを上げていた。


 「とっとっ、止まらんーーオロロロロロロロロロ」


 頭が回りすぎて星の力が制御出来ない。星の制御も手馴れたものだと思っていたが、まだまだでした。手に染み付いている訳ではなかった。不慮の事故的なものには反応が出来なかった。身をもって体験しているのに、バカなのか? 小春はバカなのか?


 「ああああああ、気持ち悪りぃぃぃぃよぉぉぉぉぉぉ」


☆★☆★☆★


 人間で言う視覚部分から外部の情報をデーター処理、分析、検証する。導き出された答えは私の前に生物反応が二つ。更に細かく分析することで人と判断出来る。そこから更に分析しなくてはならない訳で、これが結構面倒である。

 人間は、男と女の区別がある。その区別が私にとっては凄い難しい。いまいち明確な区別がつきにくいのだ。


 困った困った。


 最初は性別の判断材料として髪の長さで識別していたが、どうやら違うらしい。男でも髪が長い人もいれば、女でも短い人もいる。因みにマスターは髪が短い。

 しょうがないので、次の判断材料を探すとする。私の語り口調がだんだん人間身を帯びてきているのは触れないでほしい。ロボットぽくないと言われても弁解が難しい。飼い犬は飼い主に似るという現象で、マスターの知性に大きく影響されてきている証拠だ。


 ん? その前に私は誰かって?


 まず、今喋っている奴は誰だと言うことの説明が先だったかな? 


 私は機人きじん


 以上説明終わり。それ以下でもなくそれ以上でもないので、これ以上の説明が出来ないのだ。だって私ロボットだもん。まぁ、人で言う器用貧乏と言う分類に当てはまるのではいか? 人のように知能はあるが、それは脳ではない。人のように思考が出来るが、人ではないのだ。だって私ロボットだし。マスターはそれを人口知能と言っているが。人でない私は、人と同じようなメンタリィーがない。そんな訳で、私は今非常に悩んでいた。目の前にいる人についてだ。

 この人の区別が、私の人口知能をショートさせていた。私の前に立つ生物、あらため人は男と女どちらだろうと分析中。


 「スピンスターの兵器?」

 「知らんさ。いいから障害物は排除するさね。行け風華ふうか!」

 「何で私に命令するネ」

 「私は戦闘向きじゃないさ」

 「堂々と宣言することじゃないネ。ふん、言われなくても排除はするけどネ」


 前に立つ人は、私の頭部目掛けて上段の蹴りを食らわしてきた。ゴツン、っと足と私の頭部が接触した際に生じた鈍い音が聴覚器官に反応。続けて、人は上段から下にシフトさせて胴体部分を蹴る。

 私には痛覚と言う器官がないのでどのくらいの威力かは分からないが、聞こえる接触音から相当な威力と分析。

 視覚センサーと聴覚器官に反応有り。

 空調に異常有りと。今まで一定の流れを保っていた空間に激しい乱れが。観測するに空気が人の手を中心に集まり出し、


 「風人拳」


 暴風が発生。暴風によって私の体が風にもっていかれた。風が吹くままに私も吹っ飛ばされる。

 距離を測定。十二・五メートル。私は通路奥の丁字路部分の壁に衝突した。


 「やったさね?」

 「機械如きに私は遅れはとらないネ」


 損傷部分確認。ピピピピピピピピピ・・・・・・、異常なし。

 私は足部に信号を送り、倒れる体を持ち上げる。


 「!」


 分析完了しました。前に立つ人は女と識別。解析内容、暴風が吹き荒れる際に衣類が乱れたのを確認。着用する下着を女性ものと判断。暴風を起こした本人は白で、後ろが黒。解析内容は即座にマスターに報告。


 [衣類をチャイナドレスと判定。パンツが白]

 [衣類を魔女のコスプレと判定。パンツが黒]


 どちらも女性であったと補足。

 分析が完了したことで次の行動に移行する。

 前に立つ人の行動を分析。結果、明らかに私に対しての敵対行為であると判断。解析内容は一打目と二打目の足蹴りは私を狙ったものであった。決定打は星の力の使用。星の力で私を排除しようとした。

 全てを私の判断で行うのはとてつもなく時間を食う。人で言う頭が痛いとはこのことである。

マスターの命令だけを聞いて動いていた時期が懐かしい。面倒な手順を踏まないと次に進めないのはロボットの定めだと言うのか。

 それはいいとして、私の行動が決定した。

 プランAからプランBに変更。進行除外者と判断して速やかに撃退する。

 そう、人ではなくロボットだが人と同じように自己判断が出来るのだ。


 「全然効いてなさそうさ」

 「只の機械ではないネ」


 攻撃対象をロックオン。パンツが白の方を攻撃対象その一。黒の方を攻撃対象その二とする。

 攻撃方法を選択・・・・・・、


 [機人砲 機人ソード 機人爆裂パンチ 機人ショットガン 機人キャノンY・F 機人連帯責任 機人超級チョップ 機人ジェット 機人フェイント 機人ホイール 機人最終兵器etc]


 多い。ちょっと多すぎではないか?

 しかも、前の戦闘でマスターに燃料を消費し過ぎる技は極力控えろと命令されていた。この選択肢にある技はどれも大量の燃料を消費してしまう。マスターの元に着く前に燃料が切れてしまう恐れ有り。

 だって、俗に言う必殺技ですから。一回の使用で半分以上の燃料をもっていかれてしまう。

 結論は、この選択肢以外の技が良さそうである。


 「機械でも私の風を食らって立っているとは評価するネ」


 攻撃対象その一は言うと私に向かい走り出した。


 「まぁ、メカに風って・・・・・・、普通効かないさね」


 攻撃対象その二の言葉で転ぶ攻撃対象その一。


 「なんてこと言うネ。私の風は刃よりも鋭いネ」

 「だから効いてなかったさ」

 「次ネ次次。最初の風は様子見ネ。ただ強い風で吹っ飛ばしただけネ」

 「よし、いってこい。私はここで見といてやるから」

 「つー、最悪ネ。まぁ、行くけど」


 攻撃対象その一が立ち上がり再び私に拳を向けて走り出した。それに合わせて私の腕に信号を送り腕を振り上げる。攻撃対象その一との距離が一メートルに接近した瞬間に振り上げた腕を振り落とす。振り落とした腕を地面に当てる。


 「盲ましか?」


 盲ましである。地面を割った衝撃で、破片が空中に飛ぶ。私と攻撃対象その一の間に地面の欠片が散漫した。

 攻撃対象その一が一瞬引いたのを確かめて、私の腕を後ろに引く。私の腕部分は人のように物を掴む指がない。代わりに、円柱の手と、先端に炎が飛び出ている。その炎の火力出力を上げて、前に散漫する欠片に構わず突進。そして、攻撃対象その一を殴り飛ばす。


 技名を「すっとこどっこいパンチ」と命名。

 あれ?


捉えたかに見えた攻撃対象その一に当たらなかった。攻撃対象その一は上半身だけを後ろに曲げて私のすっとこどっこいパンチを躱した。


 「人っぽい攻撃をするネ。どういうこと?」


 伸ばし切った腕の真下に攻撃対象その一がいる。


 「まるで呼吸があるよう」


 攻撃対象その一は反らした態勢を振り子のように振り、上半身だけを前に出す。そのままの流れで、両手を私の胴体に突き出した。

 またしても鈍い金属音が鳴り響く。


 「風人双拳波ふうじんそうけんは


 胴体部分がドリルで抉られたような。掠れた音が激しく振動する。攻撃対象その一の手が高速に回転した風に包まれていたのだ。

 私はもう片方の腕部分で攻撃対象その一を殴ろうとすると、


 「吹っ飛ぶネ」


 高速に回転する風のドリルは本来の姿に戻る。ドリルではなく暴風に変わり私本体ごと吹っ飛ばした。

 地面に激突した私はすぐさま確認作業に移る。

 損傷部分確認。ピピピピピピ、ピー。ピポン、ピポン、ピポン。

 異常有り。左手エネルギー回路損傷。

 起き上がる私の左手からは、炎がプツリと消える。

 胴体燃料タンクから、各部位にエネルギーを循環させるくだ。それが損傷したことにより、左手にエネルギーを送れなくなった。

 つまり、威力が半減した。

 人で言う心臓部分が私の胴体。胴体部分は私を動かす上で最も重要な部品等が詰め込まれている。それを守る為、コバルト合金で中身を覆っている。とっても固い物質の筈だが、胴体部分に野球ボールぐらいの大きさの穴が二つ。

 あの風には直接触れない方がいいと判断する。

 判断した私に、攻撃対象その一が壁を蹴り、私の背後に跳ぶ。人にしては無駄のない、機械のように満点な跳躍。いえ、生き物だからこそ出来る動きです。空中で体を捻りながらの回転ジャンプは、空気抵抗をなくし風を切る動作。機械のような、と例えたのはあまりにも正確だったから。壁を蹴り高く跳ぶ動作、跳躍最高到達地点からの体の体重移動、着地点の正確さ。壁を蹴った地点から、着地した地点をプログラム上でシミュレーションすると、攻撃対象その一と私が用意した仮定データー上からなる仮想人物の動きが一致する。始点から終点の間に障害物、両脇には壁。一番早く終点に到達する軌跡を割り出すと一致したのだ。加えて、仮想人物のカクカクの動きと比べてとても滑らかだったと分かる。生き物だけに許された柔軟な体はデーターを超越しているとも言えた。


 「大体の強度は分かったネ」


 解釈するに、次も同程度の威力かそれ以上の威力を持った攻撃。

 胴体後部を開放。後ろにいる攻撃対象その一に、開放された背中からエネルギー弾を連射する。


 「風人気流ふうじんきりゅう


 小さなエネルギーの塊。それは弾丸ぐらいの大きさ。攻撃対象その一に向かって放ったのだが、聴覚器官から人に当たった接触音の反応はなし。代わりに、壁に激突する衝突音が多数。

 分析すると、エネルギー弾は攻撃対象その一から放たれた風の気流に乗って、見当違いの場所へと誘導させられた。

 次の行動に移ります。

 胴体後部にエネルギーを増大。攻撃対象その一から攻撃を受ける前にビームを発射した。増大させた時間を0・5秒。


 「後ろにも目がついているのか?」


 いいえついてません。

 ビームを出したと同時に、私の足に何かが接触する音が聴覚器官に入り込む。そして、視覚からは風景が反転する映像。足払いをされて直立が困難になったと解析。

 地面と私の体が接触する音。視覚からは倒れた衝撃で舞う砂ほこり。

 次に映る映像は私の上に股がる攻撃対象その一。人で言う、マウンドポジションを取られた。


 「風人落拳ふうじんらくけん


 片腕に風が高速回転する。目標を私頭部。

 視覚部分にエネルギーを移行。

 視覚からレーザーを発射します。攻撃対象その一に向けてレーザーを放つと、上体を反らして回避された。しかし、まだ攻撃対象その一の腕には風が纏わりついている。

 私は頭部から噴出されている炎にエネルギーを貯める。そして、攻撃対象その一が拳を振り落とすと共に、頭部から最大出力のエネルギーを放出。


 頭版あたまばんジェット。


 攻撃対象その一の股下から緊急脱出。股下を潜り抜けて、後部からもジェットを噴射。

 私は直立して攻撃対象その一に振り返る。私が倒れていた場所は攻撃対象その一によって抉られた地面があった。

 結構危なかった。


 「よく動くし、判断も良い。これは機械と思わない方がいいかもしれないネ」

 「ヒィーヒッヒッヒッヒッ」

 「祐巳ゆみ! その引き笑いは不気味だから止めるネ!」

 「いやねぇ、私から見ても面白いメカだなぁって思ったんさね。スピンスターにしては凄い兵器を持っているさ」

 「本当にとんでもない兵器ネ。これがスピンスターによって製造されていると思うと頭が痛くなる。こんなのが量産されたらーー」

 「違うさ。今の宇宙ではこんなメカを生産出来る技術はない」

 「ん?」

 「一人を除いて」


 何やら私を挟み会話をしている。スピンスターの兵器とかと。しかし、断言して違う。私はスピンスターの兵器でも何でもない。

 音声機能が付いていたら叫びたかった。


 「リンクスターの藤原弥ふじわらやよいが作ったメカさ」


 そうそう、私はそれが言いたかった。そして、マスターでも実は私の構造を半分も理解してないと伝えたかった。加えて、本人である私も自分のことなど一切知らないと。


 「なるほど。それなら合点がいくネ」

 「だろ? リンクスターもここに来ているって聞くし」


 その言葉を聞いて人の記憶の愚かさのように思い出す。ロボットである私が本来なら忘れていけない使命をだ。

 ロボットであるが故の完璧なる記録システムが、人のように判断出来る故のあやふやな自己判断能力によって、最重要行動が自己判断の選択の末に埋もれてしまっていた。

 進行除外者と判断して速やかに撃退する。これはあくまでマスターの元に行き着くための判断。自己判断は私の残りHPを減らしていた。

 現状分析を怠ってしまっていた。


 「なら、私達はまんまとスピンスターの手のひらで踊っていることになるネ」

 「風華が考えなしで戦ったことによって、バカみたいにスピンスターの手の平に収まっちまったんさ」

 「手の平を返して言うな! 祐巳もやれって言ったネ」

 「あーあ、スティールスターがこう何回も利用されるとはーー宇宙の恥になるさ」

 「利用された、されないの話は置いといてネ。あの場面で逃げろと? どうすればよかったネ?」

 「どうすればよかったのかはこの際いいさ」


 私を挟む攻撃対象その一と、その二を交互に見る。今まで傍観者だった攻撃対象その二が行動に移る。手に持っていた用具、名前はほうき、の先端を私に向けた。


 「落とし前はきちんと払ってもらうさ。スピンスターとリンクスターの悲鳴で」

 「祐巳も結局は戦うのネ」

 「風華がいつまで経っても倒さないから見兼ねたさ。このままじゃ本当にスピンスターの思い通りになるさ」


 攻撃対象その二が持つ箒の先端が光る。クリスタルの使用。

 箒の先端から、無数の細い針が私に放たれた。キンキンキン、と針が金属に当たる音が聞こえるが、細い針に威力はなく弾き返す。


 「毒煙」


 次に箒から紫の煙が放出される。煙は私を包み込む。空気中を漂う気体をそこそこ高い成分が含まれる毒と分析。

 しかし、呼吸器がない私にとって毒は無害。効かない。


 「風華! メカは私にとって相性が悪い。毒が効かないさ」

 「知っていたネ」

 「後は任せた」

 「さっきの威勢が台無しネ」


 攻撃対象その一の周りに風が集まるのを確認。それを通路全体に吹かせた。

 呼吸をする人にとって私の周りを漂う気体は毒。攻撃対象その一は毒を風に乗せて器用に通路奥まで持っていった。


 「手間が増えただけネ」


 すると、攻撃対象その一が私に向かって直進的に走り出す。私が振り返り攻撃に備えて行動を選択しようとすると、後ろにいる攻撃対象その二が動き出す音がした。

 攻撃対象その二には私に与える有効打がないと判断して、脅威はないと私の行動選択から除外した。その矢先の行動だった。

 攻撃対象その二の手に持つ物はビーカー。ビーカーを下に落として、地面に落ちる前にもう片方の手に持つ箒で打ち飛ばしてきたのだ。ビーカーの中身には液体が入っているが、液体の種類は分析不能。不能であるビーカーを食らうのは危険と判断。

 私は後ろに下がろうとする。


 「騙し討ちとは汚いネ祐巳」

 「ヒィーヒッヒッヒッヒッ。油断する方が悪いさ」


 攻撃対象その一が私の円柱の腕を掴み引っ張った。私は後ろに下がる動作を中断させられ、飛ぶビーカーが私の顔に向かいくる。掴まれていない損傷している腕部分でビーカーを受け止めようとすると、左手に暴風が襲う。腕を上げてガードしようとした動作を遮られ、腕が風によって後ろになびく。行動手段を全て中止された私の顔、左視覚部分にビーカーが直撃。

 損傷部分確認。ピピピピピピ、ピー。ピポン、ピポン、ピポン。

 左視覚部分損傷。視界の半分が損失。

 液体内容は、


 「毒は効かなくても塩酸ぐらいは効くんじゃないさね?」


 塩酸。しかも、比較的強度が弱い視覚部分を狙われた。

 続いての攻撃。攻撃対象その一は掴む私ごと振り回し、風の塊を当てて攻撃対象者達がいない後方へ吹き飛ばした。

 塊は最初に放った強風で私を吹っ飛ばしただけにすぎない。吹っ飛ばしたーー距離を開けて次の攻撃に移ったと判断出来る。

 攻撃対象その一は両手を後ろに引き何かを貯め出した。後ろでは、空気の流れが刃のように形を成してくる。

 この攻撃に対して私の耐久力ではもたないだろうと予測。バラバラにされるのが落ち、即座に対処しなくては。


 [機人フェイント 発動します」


 残り燃料八十パーセントから半分超えの使用。足部分に五五パーセントのエネルギーを送る。


 「カマイタチ」


 幾つもの風の刃が私に向かって飛んできた。同時に私は足踏みを開始する。徐々に足踏みの回数を増やし、足の上下運動はトップスピードに到達。瞬間に足踏み固定位置からの切り離し。

 戦闘になっている通路の横幅は約十五メートル。その十五メートル間左右の移動をサイドステップで繰り返す。


 「!?」


 放たれた風の刃の数は二十個。それをサイドステップによって可憐に回避。加えて、地下通路の電気を肩から発射する小型ミサイルで破壊。外の光が一切入ってこない、ここ通路を真っ暗にする。


 「残像?」


 トップスピードで繰り広げるサイドステップは残像をも創り出す。これぞ機人フェイント。

 攻撃対象その一の視界には私が五機映っている筈だ。


 「残像効果を利用しているさね」

 「残像効果?」

 「横の反復を繰り返すと同時に、あの機体から一定の光を点滅させるさ。人の視覚は強い光を見せることで光が消えた後も余韻が残る。それを利用して残像を見せているさね」


 まさに科学と人間の視覚を利用した技だ。残像によって相手をかく乱させる。機人フェイントに欠点はない。


 「本当ここまで私を手こずらせるとはやるネ」

 「まったくさ」


 残像を創り出している私の次の行動。

 使命を実行します。

 このまま戦っていたらマスターの元に着く前に燃料が切れてしまう。これも、人のように自己判断出来る私の長所だと言える。現場での判断を状況によって変えれる臨機応変な頭脳。


 潔く戦場から脱退。


 サイドステップを止めると共に、足からのジェット噴射。機人フェイントによって次の動作に身構えている攻撃対象者達からは、逃げれる隙が十二分にある。


 「あっ!」

 「逃げたさ!」


 私は長い廊下を低空飛行で飛び立つ。後ろにいる攻撃対象者達を置いて逃走した。


 「逃げるなんて卑怯ネ。まてぇぇぇぇぇ」

 「あぁ、走るの面倒くせー」

 「いいから追うネ」


 二人は私を追ってくる。残り燃料から、マッハ2で飛ぶ「機人ジェット」は使えない。だから、私はそのままの速度で逃げるのであった。離すのは難しいにしても、この速度を保っていれば追いつかれはしないだろう。


 それにしても、戦闘で大きく損傷してしまった。

 マスターに後でどやされること決定である。


 

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