5話 スピンスター その1
回る歯車には一寸の狂いもない
回る日常には同じ日々を
回る時間には正確を
回る星には迷宮を
好天の星 スピンスター
ここはスピンスター地下観光エリア。スピンスターの入口的部分である。スピンスターの特徴としては生活基盤が地下に置かれている。つばめ号を降りて地下に繋がる入口を発見、階段があり降りると直ぐに地下観光エリアが広がっていた。入口前に見取図があったのでチラっと見たが、地下は大きな円状になっていてこの地下観光エリアは円の外周部分に位置する。今見かけたスピンスター名物激安ドーナツの生地部分が丁度地下観光エリアに相当する。地下観光エリアは観光客専用エリアでもあり、お土産屋さんや食事処が多く並んでいる。
そんな観光エリアは今非常に混乱していたのだった。
小春達が進む先からは観光でやって来たであろう人達らが大勢走って来る。小春達が入って来た大きな入口に向けてだ。擦れ違う人皆、切迫した顔だった。
「スティールスターの奴らが攻めて来た」
「外部の者は直ちにスピンスターから立ち退いて下さい。スピンスター住民は中に避難して下さい」
所々で悲鳴混じりの声が聞こえる。スピンスターは現在、非常事態により混乱していたのだった。スティールスターによる襲撃。
そして、小春たちも混乱していた。
「どういうことッスか?」
「ちょっと? 聞いてないんだけど? サプリメントスターを攻め落としたと思ったら、何でここにもいる?」
「あれだけ期待しろと言ったッス。時子がスティールスターの連中全員何とかするッス」
「強星外の話よ。ていうか、私もスティールスターには関わりたくないの」
「使えないッス、せめて組長連中全員は受け持てッス」
「それってほぼ全員じゃない? ぶっ飛ばされたい?」
想定外の事態に二人共焦りで言葉が荒々しくなるも、喧嘩腰の態度は改めない。二人に協力の二文字はないのだった。
「騒がしいけど何のお祭りだ?」
留衣ちゃんは非常事態をお祭りの一興と勘違いしているし。
「留衣ちゃん。お祭りも騒がしいけどさ、血相変えて逃げたりしないでしょ? だから、お祭りではないのだよ」
お祭りに対する認識の訂正。すると、
「よく分かった。これはお祭りではないんだな」
物分りが良いようで。
「偉い偉い」
小春は留衣ちゃんの頭を撫でる。
「そこのバカ二人。事態は最悪な方向に移ったッス。もっと緊張感をッス」
弥ちゃんには言われたくない言葉だった。
「小春! スティールスターの連中は野蛮だから気を抜かないで」
「時子も十分野蛮、ぷうぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
弥ちゃんが時子ちゃんに殴られ吹っ飛ばされる。お決まりのパターンである。
「スティールスターの連中はね、目が合った瞬間に戦闘が勃発するという超野蛮な連中なの。戦う為だけに生まれてきた奴らの集まり。力だけが信じる全てと考えている、関わりたくない星ナンバーワン」
「棚に上げて言っているッスけど、時子もッスから、ぷぎゃぁぁぁぁぁぁ」
舞い戻って来た弥ちゃんがまたリングアウトした。リングアウトと共に地下観光エリアに大きな鐘の音が鳴り響く。
カーン カーン カーン
「ここからだな」
隊長が止まった場所は地下観光エリアが広がる末端、またしても大きな入口だった。入口奥には先が見えなくなるまで通路が続いていた。
「ん?」
鐘が鳴り止むと、通路が動き出した。直線に伸びる通路が上に下に左右に壁や地面が変形する。
あった通路は直線ではなかった。いくつもに枝分かれする道が続いていたのだった。
「隊長?」
通路が動いた。
「別名を巨大迷宮」
迷宮ですと?
「弥! 地図は?」
隊長が弥ちゃんを呼ぶと、背中を摩りながら言う。
「ちゃんと用意したッスよ」
弥ちゃんは束になった紙の中から一枚を選別して隊長に渡す。
「地下に都市を築き、迷路のように道を入り組ませる。対敵侵入者用の防衛システムだ。スピンスター本部に行く為には、この巨大迷宮を通らなければならない」
隊長が広げる地図を横から眺めると、円の中にクモの巣のように張り巡らされた線が沢山。多分中心が目的とするゴールだ。しかし、スタートである外周から中心のゴールまでの道のりは複雑であった。小春は既にお腹が一杯だ。
「地図があっても辿り着ける気がしない」
小春の本音だ。
「迷路が紙一つだけならまだ良いッスけどね」
「一つじゃないの?」
「二十四通りの迷路が存在するッス」
「二十四?」
驚きが声に出る。
「さっきの鐘は迷路のパターンが変わった合図だ」
鐘に合わせて通路が変わっていた。
「巨大迷宮は一時間置きに姿を変えるッス。四つの巨大歯車の内、本軸歯車が一回転すると日軸歯車が一五度回転する。十五度回転すると巨大迷宮の地形が変わり、それが二四回で周期の一日ーー」
「待って待って、意味が分からない」
説明が難しすぎてついていけない。頭がショートしそうなので弥ちゃんの解説を中断させた。
「簡単に言うと、一時間以内にゴールに辿り着けッス。一時間経つと地形が変わるので、地図を持っていようと迷子になるッス」
「一時間で辿り着ける距離なの?」
外周の観光エリアはとてつもなく広かった。いくら内部にあるからって一時間で辿り着けはしない。
「無理ッスよ。最短ルートを選んでも一時間以内は無理ッス。だから、所々にある住居エリアで一旦パターンが変わるのを待ち、そこから新たにスタートするッスよ」
「地図の書いてある丸部分が住居エリア?」
「そうッス。住居エリアだけは変形しない安全エリアッス」
よく分かりました。
「スピンスターの地図って超極秘機密でしょ? あんたどこで手に入れた?」
「ネットの裏オークションでーー」
「あー、もういいわ」
時子ちゃんが頭を抱えて息を漏らした。
「それと迷宮内は強力な電磁波が飛び交っているッスから無線機程度の電波だと通らないので肝に銘じておくッス」
「留衣はな、迷路が好きだ。楽しくなってきた」
「くれぐれも離れないようにね! 留衣ちゃん」
「人の話聞くッス」
弥ちゃんの話を無視して留衣ちゃんの目が今回一番に輝く。留衣ちゃんに注意を促すも小春自身も十分に気をつけなくては。
「丁度今の鐘できっかり一時間だ。もたもたしている暇はない。行くぞ」
隊長を先陣に巨大迷宮に足を踏み入れた。
巨大な石造りの通路は右に左にと分かれ道が多数。少し歩くとまた道が分かれる。しかも、迷路は平面上と易しくはなかった。階段があり上と下にも分かれる立体迷路。
十分も歩くと完全に自分の現在位置が分からなくなった。前進しているのか後退しているのか、完全に巨大迷宮に遊ばれていた。先頭を切る隊長がいるので安心だけど、続く同じ光景は小春を不安にしていった。
「こっちで合ってますか?」
不安を打ち消す為に取り敢えず声を出す。無言の状況がかえって不安を煽るのだ。地図もあるので間違う筈はないが、小春の心理状況の不安を紛らわす為に聞いたのだった。
そしたら、
「弥? この地図は本物か?」
はい? 予想もしていなかった回答が返ってきた。
「変な冗談は止めて下さいッス。本物の地図ッスよ」
弥ちゃんの表情が消える。
「この地図には、ここに分かれ道はないんだ」
そして、弥ちゃんは慌て出す。
「そんな馬鹿な? ちょっと見せてッス」
隊長から地図を奪い凝視する。
「最初は左に曲がって、また左、右、右、下、下、上、上・・・・・・」
もしや通った道を全て暗記していたのか? 凄すぎである。弥ちゃんは地図上を指でなぞり確認していく。
「・・・・・・ウソ・・・・ッス。いや、ありえない」
弥ちゃんの手からヒラリと地図が下に落ちる。油汗と一緒に。
「弥地図を間違ったんじゃないか? 二十四枚の地図があるんだろ?」
「今は九時ッス。この九番目の地図で間違いはないッス」
「ちょっとやめてよ。この状況で迷子って洒落にならないから」
「部外者は黙っているッス」
「いいから落ち着け! まだ迷ったワケじゃない」
隊長が一喝して、
「道を覚えているなら残りの地図と照らし合わせればいい話しだ」
場を静めた。
「おぉ、弥ともあろう者が取り乱したッス。時間もあるし焦る必要はないッスね」
弥ちゃんは額の汗を手で払う。
「今から弥は通った道を、分かれ道を含め地面に書き写すッスから、他の皆で一致する地図を探すッス」
困った時の天才ここにありだ。弥ちゃんの記憶力を少し分けてほしいもんだ。
弥ちゃんが早速スタート地点から道を地面に書く。
瞬間
カーン カーン カーン
鐘の音が鼓膜を叩いた。最初に聴こえた鐘の音と同じ音色。
意味するものは一つだった。
「全員離れるな!」
隊長の叫びと同時に地形が動き出した。対敵侵入者用防衛システムが牙を向いた。小春達を敵と認識したのだろうか。小春の目に写るのは、口を開けてしゃがみ込んでいる弥ちゃんの床が抜ける一瞬。壁に凭れていた時子ちゃんがクルリと壁と共に姿を消す一瞬。留衣ちゃんが立つ床がエレベーターのように上に上がる一瞬。隊長と小春の視線がぶつかった一瞬であった。
小春の立つ場所が後ろに傾く。そして、抵抗する間もなく自然の成り行きで傾斜になった床を転がっていったのだった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
☆★☆★☆★
「完全に迷った」
私は自分がどこを進んでいるのか分からなくなっていた。突然の迷宮の変化は私達を分断させた。それから、三回の地形の変化にゴールに辿り着けるかさえも怪しくなった。
弥、小春、留衣、そして時子の四人と合流するよりゴールに行った方が確実だろうと判断し先に進む。が、ゴールまでの道のりが分からないんじゃ結局どうしようもないな。
「これだけ入り組んでいて住民の人らは覚えているのか?」
進んでも進んでも代わり映えしない景色に私の独り言が多くなる。対敵侵入者用防御システムの効果は抜群と言ったところか? 敵を中枢部まで近づけさせない効果に精神攻撃。一日も迷宮に入り浸っていたら気が滅入りそうだ。
しかし、
「迷宮に入ってからの地形の変化が4回」
意図的に動かしている。私達に向けてかスティールスターに向けてか・・・・・・。どっちにしても動かさないと高を括った私の責任だ。
何故なら、動かす時間帯を変えるとは考えもしなかった。弥から聞いた話では、歯車を動かすと地上での地形も大きく変わるらしい。私達がいる場所が地下で人の生活スペースなら、地上は作物の栽培所となっている。一つの歯車でスピンスター全体に変化が生じる。無闇に動かすと地上の作物栽培の流れが変わると言っていた。
「まっ、非常事態なら普通動かすよな」
私達はともかくとして、スティールスターの襲撃もある。私達が来る前に防衛システムを起動していたんだな。弥が用意した地図が合わない訳だよ。
それにしても、スティールスター、一つの懸念する要素だ。
スティールスターは何故スピンスターに来た? サプリメントスター襲撃と関係があるのか? 今回の騒動の原因にスティールスターが一枚絡んでるとしたら?
「想像以上に厄介になりそうだ」
考えるだけでも嫌になる。確か、スピードスターの側近侍者の時子も関わりたくないと言っていたな。
リンクスターと同じ強星の一つがスティールスター。異常なまでに戦争に好戦的な星で間違いはない。元々スティールスターはそこまで名のしれた星ではなかったと聞く。しかし、持続戦争当初の争いが活発化する時代に、ある人物が悪名を轟かせた悪人達を引き連れてスティールスターを侵略。そこまから始まった凶悪スティールスターの時代。ことあるごとに実力行使を繰り返し周辺の星を黙らせた。何事も力で解決する姿勢、そして絶対的な力はいつしか人はスティールスターを強星と呼んだ。手を出すべからず、っと。まぁ、強星と呼ばれている他の星達も力で黙らした形はあった。だが、スティールスターとは比にならない。それ程好戦的な星。
「破邪心」
スティールスターの名を全宇宙に知らしめたスティールスターの長。こいつが一番厄介な人物だ。実力から五星王とまで呼ばれている、加えとても攻撃的と聞く。出来れば会いたくはない。
思う私は、進む道に階段しかなかったので仕方なく足を上げた。現地点が分からない私でも一つ分かることがある。それは、目指すゴールは下にあるということ。実はさっきから下に降りる階段が見つからず、でも来た道を戻るのも時間の無駄なので、気にせず上り階段があれば上っていたのだ。そろそろ地上に出るかもしれない、そんなことも考えながら階段を一歩一歩上がるのだった。階段の先を眺めると、
「チッ、まいったなぁ」
人工的な光りが続く巨大迷宮に温かい光が見える。
「外に出てしまった」
階段の先には太陽の光が眩しい地上であった。地上でも私達がつばめ号で降り立った場所ではなく、野ざらしになった草や木が生い茂る広い土地だった。周りを見渡すと空高くに十一区と看板が上がっていた。
私の口から溜息が自然と出る。
「来た道を戻るのはなぁ」
やれやれと肩の力が抜けた。
しかし、直ぐに上がることになった。
「別に戻らなくてもいいんじゃない?」
目線の先には一人の女が見えた。
「リンクスター長。草葉緋香里ね。そして、五星王の一人」
私の名前を呼ばれた。呼んだ人物は、
「破邪心か、私もつくづくついてない」
会いたくないと思ったらこれだ。でも、
「幸運だったかもしれない」
「何故?」
破邪は聞き返した。何故かって、それは、
「他の奴らでなく、私で良かったよ」
不幸中の幸いだ。どうなるかは別として、向かい合うなら私だろうよ。
「フフッ、そう。私もよ。この迷宮、あなたに会えるか不安だったけど、引き合う運命なのかしらね?」
「そんな運命私は御免だがな」
「なら、私が望んだ結果かしら?」
望んだ?
「どういう意味だ」
私は破邪に問い詰める。破邪は私の言葉を聞くと鼻で笑い言う。
「そのまんまの意味よ。一回あなたの実力を肌で感じて見たかったの。だから、望んだ。草葉緋香里に出くわすことを」
噂通りの奴だった。だが、私が聞きたいのはそこじゃない。
「サプリメントスター、スピンスターの襲撃と私とは関係はあるのか?」
「関係した、が正確かしら?」
「関係しただと?」
要領を得ない返事は疑問が増すばかりだった。
「あなた達が来たことで相対する理由ができた」
「お前らはスピンスターに何の目的で来た?」
「潰すため」
「それが何故私達と関係するんだ」
破邪の目的はあくまでスピンスターの襲撃が名目だと言う。その為にこの星にやって来たのだ。少なくても私達と戦う理由はない。噂通りに戦いを好むスティールスターなら偶然鉢合わせになり、戦闘になったなら分かる。でも、こいつの言い方だとそれも違うようだ。私達との戦闘を望んでいた口振りだ。
「理由いる?」
破邪はとぼけた返しをする。
「ここまできて言わないつもりか?」
「私がここに立つ理由はさっき言った言葉で全てよ」
「何故私達がスピンスターに来たのを知っていた?」
「アナウンスで流れてたわ。そして」
破邪は腰にある刀の刃を鞘から抜いて私に向ける。
「リンクスターの侵入を止めろと」
破邪は私に向かい走り出した。走る動作に刀を構える動作はなかった。持つ手を下にプラプラとぶら下げながら突っ込んでくる。私と破邪の距離はほんの数秒で縮まり、私も攻撃に備えようと破邪の刀の矛先に集中した。相手が相手、一瞬たりとも気が抜けない。
「!!」
思った矢先の出来事であった。地面に向けられてた刃が消えた。消えたように見えたのだ。刀の位置は既に破邪の攻撃モーションの中にあった。右手で持った刀を、左から右で振り払うモーション。それは凄まじく速かった。動作の転換の速さ。下に向けた刀を構えるまでの速さと、切る対象を定め実行する速さ。二つの動作は瞬きの一瞬で行われ、あたかも消えたと錯覚させるほどだった。
回避ができない。
私は握った拳を解いた。回避が無理なら取れる動作は受けるか受けるかの二つだった。刀を体で受けるか、刀を受け止めるかの二つ。受け止める、咄嗟に取った行動は刀の刃を掌二つで受け止めること。私はすかさず掌で刀を包み込むようにして挟み込む。
真剣白羽取り
「気が短いぞ? まだ話は終わっていない」
間一髪だった。よく受け止めれたと自分でも驚いた。後少しでも遅かったら私の体が真っ二つになっていた。
「あなたの眠気を覚まさせて上げたの。あなたのスタイルに受け止める動作はないんじゃない? とてもぎこちないわ」
そうだな、運が良かったのかもしれない。
「手加減しといて良かったわ。本気で切っていたら勝負はこれで終わっていたもの」
運ではなく、生かされたということか。
「ありがたい限りだ」
「次は本気で殺しにいくから不完全燃焼だけは止めて頂戴」
「肝に銘じておく。だが、その前に」
私は破邪を睨み付ける。
「スピンスターに寝返ったのか? 強星が聞いて呆れる」
「冗談。スティールスターは誰にも屈しない。次その言葉を言ったら殺すわ」
「どうも理解に苦しむな。はぐらかしているのなら大概にしとけよ」
刀を挟む手に力が入る。
「フフッ、やっと本気になった? でも、いいの? 腕吹っ飛ぶわよ」
破邪の言葉に刀が黒いオーラを纏い始める。星の力。しかもとびっきりヤバイ奴だな。確か名前をディストラクションクリスタル。なんでも、触れた物全てを破壊する力かどうだったか。
私は受け止めていた刀を離し後方に大きく飛ぶ。刀が離され自由になった破邪は今度は刀を横に構える。構えた動作の後には刀を振るう。横一閃に斬撃を飛ばしてきたのだ。空中にいる私は、ボムを足下に出現させた。そして、爆発。爆風に乗って更に上に舞い破壊の斬撃を回避した。
「今度は良い判断だわ」
私は破邪と離れた位置に着地。後ろには破邪の放った斬撃に、生い茂る木々が文字通りに破壊された跡。斬撃に当たった箇所がクッキリとなくなっていた。
「油を売っている場合ではないんだがな。悪い冗談なら今すぐ引け」
「まだ理由にこだわる? なら理由を知ったら私と相手してくれるの?」
返答に詰まった。理由を聞けば無条件に戦うしか道がなくなる。破邪はあくまで私と戦う姿勢を崩さない。私は戦わない理由を探して問い詰めたが、破邪は戦う理由を求めている。理由次第では何とかなると考えていた私にとって淡い期待となった。
「私達スティールスターはサプリメントスターと共栄条約を結んだわ。知っている?」
不意打ち同然の発言に私は言葉を失った。
「経緯はどうであれ結んだ条約に嘘はないわ。そして、私達が差し出したものは力。サプリメントスターを力で保護すると約束したの」
共栄条約あってのスピンスターへの攻撃。サプリメントスターの欠片の偽物はスピンスターが元凶であった。そう判断したスティールスターは条約の元に実行した。理には適っている。
だから私は言う。
「理に適っていない」
条約を実行したなら私達にかまっている暇ない。
「大体の事情は察しているのね」
「お前こそ油を売っている場合じゃない筈だぞ」
「あなた達が来て事情が変わったの。実は私達もこの迷宮には悪戦苦闘していてまんまと分断させられたわ。そこであなた達の登場」
破邪は首を横に振りながら言った。そして続ける。
「聞くとサプリメントスターの欠片は出荷準備が整っているそうなの。偽物の、しかも毒物が含まれた欠片」
「毒?」
「そう。さっきアナウンスで言っていたわ。真実かどうかは知らないけど。でも、そんなの流れたら食料輸出星は全滅するんじゃないかしら」
「おいおい、一刻の猶予もないじゃないか」
私が破邪に言うと、微笑する。
「リンクスターの登場で大きく事態が変わった。スティールスターがリンクスターを迎え撃てと。さもなければ直ちにサプリメントスターに潜り込んでいる工作員達に連絡を入れると言っていたわ」
連絡を入れて毒入の欠片を流す。流れれば大半の星が再起不能。毒によってではなく、毒による二次災害だな。止むを得ない行動だったか。しかし、
「明らかにの時間稼ぎだ。スティールスターとリンクスターの行動を止める為の」
「でしょうね。なら、あなたならどうする? 輸出星の共倒れを望むなら関係なしに攻めてもいいわ」
返答しにくいことを平然と言う。
「破邪、命令に従うだけでは解決はしない。待っているのはスピンスターの一人勝ちだけだぞ。今も私達を殺す手段を行なっているかもしれない」
「それ、私の台詞じゃない? 他の星なんて私には関係ないとか」
「そんなことを言っているのではない」
私は叫んで否定した。
「このままだと待っている結末はあなたの言う通りに私達の全滅。あれを見て」
破邪は指を指した。見ると、
「カメラ」
至るところに設置してあった。
「監視されている。下手な行動ができない状態だわ。毒の欠片を流されでもしたら、いくらリンクスターでも止められない」
「くっ」
「私達は会ってしまった。戦うしか道は残っていない」
「だがーー」
「賭けてみましょうよ。私達を足止めして何かを企んでいるスピンスターが勝つのか、それとも両者が共倒れするのか、それとも私達の部下がどうにかするのか、その前に私とあなたの決着が付くのか」
それまで本気の殺し合いでもしろって言うのか?
「私の部下に隠密が得意なのが一人いるわ。あなたの部下にだって天才が一人。どちらかが敵の監視を掻い潜って止めてくれることを願って」
スピンスターは多分私達二人の共倒れを一番望んでいるだろう。決着が付かなくても私達二人、もしくは侵入したリンクスター、スティールスターを全滅させる手段を用意する筈だ。巨大迷宮、人を迷わせる他に絶対に侵入者を撃退する手段がある。なければ、わざわざ時間稼ぎをスティールスターに強制はしなかった。だから絶対に手段がある。だが、食料輸出星を人質に取られては動けないのも確かだ。後は、仲間を信じて待てか。しかし、突き付けられた現状はあまりにも残酷だ。まず、弥、小春、留衣、時子の四人はこの事実を知らない。加えて、監視があり、スティールスターの連中と出会したら強制的に戦闘。最後に時間制限もある。
「厳しい現実だ」
「厳しい結末にならないことを願って」
破邪は私の心境に構わず言った。破邪はこの状況にも一切動じていない。むしろ、楽しんでいるようにも見える。
「この事態に何故そんな表情ができる?」
「私にとってスピンスターの言い成りになる必要はなかった。毒の欠片が出回ろうが知らないわ。いくら共栄条約を結んでいようが簡単に工作員の侵入を許したサプリメントスターの自己責任。ただ、私達を利用したこの星が許せなかった。だから、潰しに来た。脅してこようが私達には関係なかったわ」
次の言葉は聞かなくても分かった。
「草葉緋香里が来たことで事情が変わったと言ったわね。あなたと殺り合う口実ができたの」
戦いを楽しんでいる顔だ。間違いない。こんな奴に敵対する口実を与えやがって。
「エクスプロージョン」
本気を出さないと一瞬で死にそうだ。私の動作を見ると破邪は口元が若干緩む。
「ようやく本気で戦えるのね。次は手を抜いて刃を振るうことはしないから、全力で逃げなさい」
「困ったやつだよ」
私は回りにボムを展開、破邪も刀を構えた。
☆★☆★☆★
「おーい、留衣ちゃーん、隊長~、時子ちゃーん、ついでに弥ちゃーん」
一時間歩きっ放し、叫びっ放し、疲れてきた。歩いても歩いても同じ道ばかりで頭がおかしくなりそうである。
ぐぅー
「お腹も減ったし」
緊急事態のオニギリの出番かな。他の星に降り立つ時は必ずオニギリを持参している。ようやく役に立つ時がきたか、とショルダーバッグに手を掛ける。
「留衣ちゃんもお腹空いているのかなぁ」
留衣ちゃんの存在が小春の行動を踏みとどまらせた。そうだ、休憩している暇があったら皆と合流しないと。
「でもさっ、適当に進んでも辿り着けるもんなのかねぇ」
グダグダ言っても足を止める訳には行かなかった。留まる選択もあるが進んだ方が可能性は高いと思う。確か地図を見してもらった時に住居エリアが何ヶ所かあったのを小春は覚えている。そこか、ゴールに運良く辿り着ければ合流の手立てを立てることが出来ると踏んでいる。
小春は自分の弱音に鞭を打って気合いを入れた。進むしかないんだ、と何回も唱え自分を保ったのだった。
それから数十分、止めることがなかった足取りが止まる。目の前に開けた場所が見えたのだ。
思わず、
「きたきたきたきたぁぁぁぁぁぁ」
高鳴る感情が表に出た。抑えることのできない感情は体にも影響した。先に見えるオアシスであろう場所に向けて走り出したのだった。進む毎に見飽きた景色が初々しい景色に変化していく。それが完全に未知なる空間に変貌すると、
「おっしゃぁぁぁぁぁぁ」
またしても心の声が口から出た。
十区住居地と書いてあるのを発見。ここが目指した住居エリアだった。スピンスターの住人が住むエリアはリンクスターの市街地となんら遜色がなかった。岩や土の家を想像していたが、普通の家々が建ち並ぶ風景。違いは空があるかないかだけであった。
「着いたけど・・・・・」
目指した目的地点に辿り着いた達成感を堪能したかった。
「誰もいない」
束の間の喜びで終わったのであった。あったのは無人の街。人が居た形跡はあるも、まるで街全体が神隠しにでもあったかのようにすっぽりと人が抜けていた。
「住民全員が避難したんだ・・・・・・」
人がいた温もりがまだ残っている。だけど今は居なくなってしまったこの空間は不気味以外の何者でもなかった。更に小春の期待も外れた。
「住民に迷路の攻略法を聞こうと思ったんだけどどうしよう」
人生そんなに甘くはないよなぁ。完全に力が抜けてしまったのである。弥ちゃんでもあるまいし次のやるべき行動が思い付かない。十区住居地と書いてあったので最低でも地形の変化が及ばない、安全地帯とでも言えるエリアは十個存在する。ここも一つの合流ポイントではあるのでじっと待つの良いだろう。しかし、最低でも十個あるんだよなぁ。
「進んだ方が良いのか?」
いや、進んでゴールに到着しても合流しないと・・・・・・。小春の目的はゴールに到着ではなく合流が優先なのだ。だって、運良くゴールしても小春一人でスピンスターの長と何を話せばいいか分からない。
「そう考えると進んでも意味ないのかなぁ?」
「うん、意味ないよ」
「!?」
小春の独り言に反応あり。誰? 小春の耳に届いた声は初めて聞く声音だった。
「誰か居るの?」
「ここだよ、ここ」
声のする方は上? 小春は上を見上げる。
「お前リンクスターの者?」
家の屋根にいる人影が小春に話し掛けてきた。その者は小春に訊ねてきたので、
「リンクスター一番隊の桃井小春だけど」
答えた。
「おぉー、そっかそっか、これは汚名返上のチャンスだね」
「汚名返上のチャンス?」
「トゥッ」
屋根の上にいる人物は飛び降り、小春の目の前に着地した。
「そうなんだよ。前の任務で失敗しちゃってボスに殺されかけたのだ」
「へぇー、それなら小春も今回の任務で失敗しちゃって」
「同じじゃん」
「同じだね」
変な格好をした女の子と意気投合した。変な女の子は、変なヘルメットに不釣合いなマフラーにスカートにジャージみたいな物を着用していた。
「この迷宮本当参っちゃったよ。歩いても歩いても同じ道ばっかりで」
「小春も心が折れそうだったよ」
「そうなんだよ。ようやく着いた街にも誰も居なくてさっ」
「こんだけ広い街に一人も人が居ないと気味が悪いよね」
「だね~、だけど先に進むとまた迷うし困った挙句の待ち伏せだったんだ」
「やっぱ小春も先に進まないでここで大人しく待っていた方が良いのかね」
「その必要はないから大丈夫。だって僕達は会えたワケだしさ」
小春は万辺な笑を浮かべる女の子を見てちょっと考える。会えたってどういう意味? の前に汚名返上とか言ってたこの子は、
「君誰?」
小春は少女に問い掛ける。
「僕はスティールスター副長、偽造恋」
・・・・・・。
ガポーン
出会ってしまった。しかも、弥ちゃんが関わるなと言っていた副長に。
「お前の屍をもっていけば皆に自慢できるだろう。リンクスター一番隊の屍はレア中のレアだし」
人をレアアイテムとして見るのはやめてほしいものだ。
「小春は君と・・・・・・」
えーと、
「恋ちゃんと戦う理由ないのだけど」
「れんちゃん?」
目を見開き聞き返してきた。
「だって名前が恋って言うんでしょ?」
「気に食わないなぁ。人を勝手にちゃん付けとは」
恋ちゃんの表情が突然変わり、
「お前調子乗っているね」
小春の背筋が凍った。恋ちゃんから漏れる冷たいオーラに小春の第六感が反応。これは間違いなく殺気だ。恋ちゃんの殺気に押され小春は一歩後ろに下がる。
「逃げる気?」
恋ちゃんの刺す視線。
「お、お、落ち着いてよ」
小春はさり気なく腰付近にあるナイフに手を伸ばすと、
「その手何? 僕は正々堂々と真正面から戦おうとしているのにお前は姑息な手を考えているんだ?」
バレた。でも断じて姑息な手を考えていたのではない。
「違うって! 恋ちゃんが今にも襲ってきそうだったから」
万が一の為の予備動作である。
「また恋ちゃん言った!!」
「呼び方ぐらいで怒らないでよ」
どんだけ短気なんですか。恋ちゃんの目は取り返しのつかないぐらいに血走っていた。
「くっそぉぉぉぉ。僕をこんだけ侮辱して絶対に許さないからな」
「許さないって、最初意味なく小春を殺そうと発言していた人が言うセリフ?」
理不尽の域を軽く超えている。
「そうだ忘れていた。僕はお前の屍を持ち帰る為に戦うんだった。また、私情で動くとこだったよ。教えてくれてありがとう」
恋ちゃんが小春に向かいおじぎをする。結末が全く変わらない。
「だから、どうして小春と戦おうとしているの?」
小春は恋ちゃんに向かい叫ぶ。
「僕の汚名返上の為だ!」
恋ちゃんは言うと、いきなり拳を握り小春に向かって振り落としてきた。攻撃に伴い恋ちゃんのヘルメットが光り出す。
これは星の力だ。この感じ、クリスタルだ!
小春は即座に後方へジャンプしてよける。恋ちゃんの拳は小春を空振り、勢いのままに地面に衝突する。小春の判断は正しかったようで、衝突した地面はメキメキっと亀裂が走り、粉々になって割れたのだ。凄まじい破壊力。
攻撃に全く躊躇いがない。本気で小春の命を狙った行為だった。
「ハチャメチャだって!」
時子ちゃんの話に偽りはなかった。
「戦いはいつも理不尽に起こる。分かれ」
「分からない」
「お前に戦う理由がなくても僕にはお前と戦う理由がある。戦いなんてものはいつも片方の都合によって起こる。だから僕の都合によって戦いは成立した。分かった?」
「そんな都合分かりたくもないわ! 自分の都合で宇宙が廻っていると思わないでよ」
「人は不都合の廻り合いの中で生きているのだ。それに立ち向かおうと、存在しない合理的な宇宙に近付こうと、強く歩いていくんだ。お前は自分に不都合が立ちはだかった時逃げるのかい? 不都合しかない宇宙で不都合から目を背けたお前はもはやこの宇宙で生きてく資格はないよ」
恋ちゃんが小春に向かって走り出した。
「僕に大人しくやられろ」
言いくるめられた感があるも戦闘回避はどう頑張ってもできない。言い返したいことは山程あった。しかし、暴走列車の如く走り出した恋ちゃんは止めれない。
小春は仕方なく腰にあるナイフを抜こうとした時に、背後からコツンコツンと足音がした。
「言わせてもらうけど、不都合が目の前に立ちはだかったらあなたの言葉だとぶち壊せって意味でしょ?」
時子ちゃんが小春の視界を遮って登場した。
「あなたがここで死ぬ理由が出来た」
時子ちゃんは肩に担いでいた布製のケースを下ろして、中からロッドのような物を取り出した。目測一メートル以上のロッドの先端には長針と短針だけが取り付いてある丸い時計。
時子ちゃんは突進してくる恋ちゃんに取り出したロッドを向ける。
何かをしようと考えているのだろう。だが、時子ちゃんは恋ちゃんのとんでもない攻撃力を知らない。だから、
「時子ちゃん! 恋ちゃんの攻撃は受けちゃまずいよ」
と説明した。すると、
「心配してくれてありがとう」
とだけ。
「見覚えがある顔だけど邪魔だ。どかないと怪我ぐらいでは済まないよ?」
恋ちゃんが時子ちゃんに向かって再び凶器の拳を構えた。対象的に時子ちゃんは動かないでロッドをそのまま恋ちゃんに定める。
「そっくり言い返す」
ピカーン
瞬間にロッドからは光が放出した。突進する恋ちゃんは時子ちゃんに向けた拳を振るう前より先に光を浴びる。すると、恋ちゃんは不思議と態勢を崩し地面に倒れ込んだのだ。足を絡めた訳でもなく、石ころにつっかえた訳でもなかった。まるで地面に立った丸棒がバランスを崩して倒れる具合で、簡素な具合で倒れたのだ。
「私相手に突っ込むバカがどこにいるの?」
時子ちゃんは倒れた恋ちゃんに足を引き、迷いなく顔面を蹴り飛ばした。
「むはっ」
時子ちゃんの蹴りは大きく恋ちゃんを吹っ飛ばし、一軒家に直撃させた。一軒家は恋ちゃんとの衝突で音を荒立て崩れ落ちる。
今何が起きた? 突っ込む、転ぶ、吹っ飛ぶ、壊れる、映画のワンシーンでも見ているのか? スムーズな綺麗な流れに小春は見入ってしまう。
「小春? 大丈夫?」
時子ちゃんが心配そうに小春の顔を覗いてきて、現実に戻る。
「あ、あぁ、うん。小春は大丈夫」
どうやらまだ頭が混乱していて上手く言葉を返せなかった。
「ねっ、スティールスターの奴らは野蛮だって言ったでしょ?」
「う、うん」
恋ちゃんもだけど、時子ちゃんも転んだ相手の顔面を普通蹴るか? ていうか時子ちゃんつえぇぇぇぇ。ようやく頭が回転しだした。
「時子ちゃん只者ではないね。すごいよ」
最初に浮かんだ言葉が時子ちゃんの感想であった。
「そ、そう?」
時子ちゃんは照れくさそうに髪を弄り、
「そうじゃなくて、小春は今のうちに先に行って」
頭を横に振って言った。
「先に? 折角合流したのに? また迷子になるよ」
「私はまだあいつの相手が終わっていないから。小春は先に行ってて。どうもスピンスターの挙動がおかしいと思うの。モタモタしている暇はないと私の勘が言っている。一刻を争うと。誰かがスピンスター中枢部に行って、このおかしな防衛システムを止めないと」
対敵侵入者用防衛システムは止まる気配はなかった。むしろ、地形の変化の回数が増えている。最初は何回地形が変化したか数えていたが、変化が多すぎてやめたのだった。それを止める?
「止めないと不味いの?」
「分からないけど荒ぶる地形の変化は只敵を迷わすだけとは言い難い。何かあると思う」
敵が何かを企んでいたら呑気にしている場合ではない。実際誰が真の敵かは分からないけど。
「いったいなぁ」
奥では生き埋めになっていたと思っていた恋ちゃんが、声と共に瓦礫を吹っ飛ばした。
「ほらっ、またあいつが来るから。スティールスターの副長は、あぁ見えて結構な実力の持ち主だと聞く。私が足止めするから」
恋ちゃんは鼻から血が出ているが、思った以上にピンピンだった。とてもタフである。尚更ここは、
「二人で闘った方がいいんじゃない?」
時子ちゃんが心配だ。
「小春をこんな危険な奴と戦わせたくないし、それにご飯のお礼もあるし。私に任せて先に」
「でも・・・・・・」
なかなか踏み切れない小春に時子ちゃんが言う。
「私を信用して。私も結構強いから」
そこまで言われたら、
「分かった」
思い定めるしかなかった。その前に、せめて
「これ」
小春はショルダーバッグからオニギリを取り出し時子ちゃんに渡す。
「お腹空いたら食べて! 小春も頑張るから時子ちゃんも頑張って」
小春のやるべきことが決まった。対敵侵入者用防御システムを止める。決心した小春は再び巨大迷宮に向けて走り出した。その後ろでは、ポツリと、
「ありがとう」
時子ちゃんの小さく呟く声が聴こえた。
☆★☆★☆★
弥は巨大迷宮をさ迷い続けて、ある少女と対峙していた。名前は分かる。こいつは宝舟舵機。弥とは対照的に凄腕の操縦テクの持ち主。
羨ましいッス。ちょっと嫉妬しちゃうぞ?
そんな奴が弥の前から動こうとしない。
「そこどくッス」
弥が言うと、見下ろす形で舵機が答えた。
「ここを通りたければ私のメカメカ三号を倒してからです。弥さん」
メカメカ三号? 今舵機は変な自称メカに乗って通せんぼしている。
「一応聞くッスがそれは子供の工作ッスか?」
「酷いです。これでもれっきとしたメカです」
いやいや、どこをどう見ても工作ッス。舵機の乗る工作はメカとは言えない。形は確かにメカっぽい。二本足で支えるふくよかな胴体に腕も二本付いている。胴体の上半分が剥き出しになっていて、そこに舵機が座っている。だから、形はメカに見えなくもない。しかし、形だけであった。足は自動歩行システムはなく、胴体に足っぽい鉄板を取り付けただけ。足裏にタイヤが取り付けてある。移動は自動車の要領で動くのね。そして、腕部分も只それっぽい物を付けただけ。固定された腕の先には機関銃が雑にテープでグルグル巻き。機関銃のトリガーにはワイヤーが掛けてあり、舵機の指に結んである。
滑稽なメカに乗る舵機を可哀想と思ってしまうぐらい残念メカッス。
「せめてテープはやめろッス。溶接ぐらいしろッス」
弥が哀れみの言葉を舵機に掛けると、
「だってだって、しょうがないじゃないですか。独学で勉強もしたんですが作れないんだもん。でも私がメカと言ったらメカでいいじゃないですか」
涙目になりキレだした。弥にキレられてもッス。
「勉強してそれッスか?」
「これでも上手くいった方です」
「因みにどう勉強したんス?」
「本屋で売っている夏休みのーー」
「それ工作ッスからね! 逆によく車輪走行機能を組み込めたッスよね?」
何なんだこいつは? 弥が驚いていると舵機は言う。
「別にいいんです。私がこのメカメカ三号で弥さんのメカに勝てば、私が宇宙で一番になりますから」
「一番って何の一番ッスか?」
「メカ部門一位です」
小春みたいなことをいいやがる。
「作る人と使う人は全くの別者ッスよ?」
メカ部門って、機械類を一色単にまとめるなッス。
「そんなの分かっていますって!」
だからいちいち涙目になりながらキレるなッス。
「私が言いたいことは、私が作ったメカと弥さんが作ったメカのどちらが強いかってこと」
「そうッスか。じゃー弥の不戦敗で舵機の勝ちでいいッス。おめでとうッス」
「わぁーい。って違います。おちょくるな」
いちいちうるさいッスね。
「弥は忙しいんッス。そこどくッス」
「私は昔ロボットウォーで弥さんにコテンパンにされてからリベンジの機会をずっと望んでいたのです」
何か語りだしたし。
ロボットウォー、宇宙で開催される自作のロボットで競う大会。様々なジャンルで競うッスが、弥は出た覚えがない。昔の弥は家から殆ど出なかった。そんな人混みの山に自ら足を進めることはしないッス。
「人違いッス」
「違います」
違うって、本人の記憶にないのに。
「弥さんは覚えてないですよ。だって、弥さんは会場にいなかったですから」
ん? ちょいまって。
「会場にいたのは弥さん自作のロボットだけでした」
あぁ、あれか。適当に作ったロボを暇だったから大会に送り付けたやつだ。それは覚えてなくても仕方がないッス。弥自体は参加してないし、結果も知らない。そもそも興味なかったし。
「操縦者がいないロボットに負けた私の気持ち分かりますか?」
「知らないッスが、弥が送り付けたロボはどうやって競技に参加したんスか?」
「係員がロボットを競技のステージに置いただけです。そしたら自動で動き出して私のロボを引きちぎったのです」
「引きちぎった? 確かそんなにパワーはなかった筈ッス。どうやったんスか?」
「私のペーパーロボは操作性は抜群でしたが耐久力が紙レベルでしたから・・・・・・」
「それ機体が紙ッスよね? もしや糸で動かしていたとか?」
「よく分かりましたね」
「もう傀儡師でもなれッス」
舵機には付き合ってられん。無視して進もう。弥は舵機の横を通り過ぎようとした。
「どこ行くんですか?」
ババババババババ
舵機が弥に向かって機関銃をぶっ放してきた。
「あぶねーッス」
本当に撃つ奴がいるか!
「早く弥さんのメカを出して下さい。さもないと次は当たりますよ? 今のは運悪く外れただけですから」
あぶねーな。運が良かっただけかよ! 威嚇射撃だと思ったッス。
「ほらほらワイヤーでトリガーを引っ張る仕組みなのでうっかりが多いのです。次は当たるかもですよ?」
「機関銃をうっかりぶっ放すなッス」
舵機と話していると頭が痛くなるッス。だけど、次うっかり機関銃を撃たれ当たったら洒落にならない。はぁ、と弥は溜息が出る。
「後悔するなッスよ? 弥の新型メカに手加減機能は付いていないッス」
「・・・・・・」
舵機の顔から汗が落ちるのが見える。
「おいっ、あれだけ挑発しといて無言になるなッス」
疲れる、本当に疲れる。小春や留衣と話すより疲れる。
「べ、別にビビってないですから。私のメカメカ三号に敵う敵はいないですから」
どこにメカメカ三号に自信があるのやら。こうなったら一回痛い目に合わせておいた方がいいッスね。
「泣いても知らないッスからね」
弥はポケットからリモコンを出す。
「泣くのは弥さんです」
わからず屋にはお仕置きをッス。弥はリモコンのボタンを押す。
弥は言う。
「いつ作られたか不明、どこで作られたか不明、誰が作ったか不明、何で動いているか検討中、言語理解能力は不思議。しかし、胸に刻まれた最強は伊達じゃない」
舵機の表情が明らかに固まった。ビビリMAXッス。
「その名は」
ためーーーーーーーて、
「機人!」
弥は超カッコイイポーズを決めた。片足を上げて腕を交差する。ヤッベ、超カッケェッス。
そして、ここで機人がドーーーンっと、
~十分後
「・・・・・・」
「・・・・・・」
来ないッス? ん? どうした?
機人にはこの程度の電波妨害は問題はない。しっかり通信電波は届いている筈ッス。
「タイム」
「どうぞ」
弥は懐からノートパソコンを取り出して、内蔵してあるマイクに向かって話す。
「どうしたッスか?」
「この迷宮内で通信は使えませんよ?」
「弥のメカにはしっかりジャミング対策が搭載されているッスからね。周波数などを変えてって、ちょっと近いッス」
隣には弥のパソコン画面をしっかり凝視する舵機がいた。
「減るもんでもないしいいじゃないですか」
「もぅ離れるッス」
舵機の顔を手で退けようとするも、舵機も意地になって対抗してくる。そんなことをしていると画面上には機人のメッセージが送られてきた。
[道に迷いましたマスター]
道に迷った?
「バカッス。そんなの壁をぶち壊してくればいいッス」
[一枚二枚なら問題ないですがマスターの所に着くまでは相当多くの硬い壁を壊さなければいけません。着く前にエネルギーが切れます】
「・・・・・・」
[もう少しのお待ちを。勘頼りですが必ずマスターの元へ、行き止まりだ。戻なければ]
「・・・・・・」
[クソ、こっちはさっき通った道ではないかーい。しょうもねーな。・・・・・・機人の接続が切れました]
何こいつ? しょうもねーのはお前ッス。
「弥さん? 来れないみたい?」
「うん」
「・・・・・・そうですか」
「ごめんッス」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「コーヒー飲みます?」
「貰うッス」
舵機からコーヒーの差し入れ。恥ずかいッス。穴があったら入りたいッス。
「どのくらいで到着しますかね?」
「・・・・・・」
「迷宮ですからね、しょうがないですよ」
舵機に慰められる。泣きたくなってきたッス。
「トランプ持って来ているので一緒にしますか?」
「しないッス」
「・・・・・・そうですか」
居た堪れない空気。どうしようッス。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙。物音もなくただ時間だけが無情に過ぎる。舵機に貰った差し入れのコーヒーも飲み干した。舵機も何時の間にか弥の隣に来て座って居るし。何なんでしょう。
体感時間では一時間が経ったッス。しかし、パソコンを眺めると十分しか経っていない。体感時間恐るべし。
「あの~、弥さん」
沈黙に耐え切れなくなったのか舵機が弥を呼ぶ。
「何スか?」
「もし良かったらですけど、お願いと言いますか、暇潰しと言いますか・・・・・・」
「言ってみるッス」
「私のメカメカ三号を改造してくれませんか?」
はい? 突拍子のないお願いにしばし弥は混乱するッス。
「何で弥がーー」
「コーヒー上げたじゃないですか?」
「ぶはっ」
思わず息を吐き出してしまった。舵機の差し出したコーヒーにどんだけ価値があったんスか? コーヒー以前の問題ッス。いい性格しているなっと感心してしまうぐらいッス。
「敵に塩を送れと?」
「はい」
いい性格しているッス。
「弥さんにバカにされてメカメカ三号に乗っている私が恥ずかしく思ってきました」
「弥にお願いする発言を恥ずかしく思えッス!」
「背に腹はかえれないといいますか」
「それ弥にお願いしている態度ッスか?」
スティールスター、常識外れの星だと再認識したッス。一般常識がまるで通用しない。
「お願いします」
舵機は頭を下げるが、
「嫌ッスよ」
手を貸すバカはいないッス。
「そこを何とか」
「嫌」
「嫌を反対から読むと?」
「やい?」
「二回続けて言ってみて下さい」
「やいやい」
「ぶはっ」
舵機が笑い出す。意味が分からないッス。
「ふざけるなッス!」
弥が叫ぶと舵機は真顔に戻る。そして、
「冗談です」
ぶん殴りてぇ。一発ぐらい殴っても罰は当たらないッスよね? むしろ今後の宇宙の為に殴るべきだ。
「冗談はこれぐらいで、では交換条件ではどうでしょう?」
舵機はゆうゆうと言った。こいつの話を泰然と聞ける自信がない。今にも爆発しそうッス。
「スピンスターの目的とスティールスターの置かれた現状の説明でどうでしょう?」
結構まともな提示に弥の体温が常温に戻る。今まで抱いていた怒りとも言えるイライラが吹き飛んだのだ。弥の頭の中でスイッチが切り替わる。舵機の差し出す話が本物なら条件を呑んでもいいと。リンクスターの置かれた現状は敵の手の平で踊っているにすぎない。圧倒的に情報が少ないのだった。ここでの情報の取得は願ったり叶ったりだ。
だから慎重に判断しないといけないッス。
「真偽の判断材料があれば呑んでもいいッス」
舵機とはここで初めて顔を合わせた。付き合いがなかった者の言葉を鵜呑みにする程弥はバカじゃない。そうでなくても会ってからのくだりで弥の中での舵機の評価は最低ラインを切った。本当か嘘かの判断は弥に任せると言った時点で決裂ッス。
「本当か嘘かの判断は弥さんに任せます」
「ないのかーい」
流れで舵機にツッコミを入れてしまった。
「私が言うことは全て本当なんです。でも、真偽と言われると証明できる物がないんですよ」
「真面目に考えていた弥がバカだと思ってきたッス」
「弥さんは天才ですから、私が保証します」
「疲れた。話すのが疲れた」
適当に変な乗り物を改造して、話を適当に聞いて立ち去ってもいいと考えてしまう。弥をここまで疲労させるとは一種の才能ッス。
「わかったわかった」
弥の心が折れた。舵機の情報の審議はどうでもよくなったッス。当たっていればラッキーぐらいに考えるッス。
「ヤッタァー」
早く解放されたい。任務より私情を優先した。
こうして弥は交換条件を呑んだッス。弥はメカメカ三号の改造で舵機は情報を教えるという公平? な交換条件が成立したッス。
☆★☆★☆★
先が見えない迷宮に迷い混んでどのくらい時間が経ったのだろう。ボス達ともはぐれちゃったし、いるのは後ろに続くはあたいの部下二人。双子の兄妹で兄を善知♂、妹を善詩♀。頼りない。ここで敵の大群にでも見つかったら終わりだ。
「元気ないですけど大丈夫ですか? 悪流さん」
善知♂があたいに言う。
「大丈夫じゃない」
サプリメントスターではあたいを置き去りにして逃げるし。本当にあたいの部下か?
「もしやサプリメントスターで撤退したのを根に持っているとか?」
「兄貴、あれは悪流さんが自ら撤退と言ったのですよ」
「それが違うならば・・うーん・・・・・・、分かった! お腹が空いているのですね?」
「バカか? お前らだけでこの先心配なんだ!」
お気楽部下二人にあたいの不安が高まる一方だ。悪組の組長としてあたいがしっかりしなければ。無能な部下にはやれやれだぜ。
「悪流さん?」
善詩♀があたいを呼び止めた。
「ん? なんだようるせーな」
「前方に誰かいます」
「!?」
早く言えよ。この二人は何で慌てもしないんだ? 危機感をまるで持っていない。今流行りのゆとり部下か?
「後方に撤退だ」
あたいは即座の判断で回れ後ろをする。あたいぐらいのレベルになると即断はお手のも。今の世の中には決断をグダグダ言い訳して出来ない奴が多いがあたいは違う。決断の結果は一定とは限らないのだ。結果は時間で良くも悪くもなる、いわば時価。それをまるでわかっちゃいねぇ。
敵がいるであろう前方に背を向け片足を上げると、
「待ってください」
あたいの体が宙に浮く。
「何すんだ! 離せバカ。早く撤退だ」
体を強引に持ち上げられ行動を止められた。
前に進めねぇ!
「早く逃げないとーー」
「ですから状況をちゃんと確認してからでも遅くはないです」
「確認している時間は止まっちゃくれねーんだよ」
「だから、ちゃんと前を見て」
あたいを持ち上げた善知♂が回れ後ろをする。あたいは掴まれた体を解こうと藻掻く。
「あぁ、もう敵がそこまで迫っているーー」
「倒れているのですって。前に人が」
あ? 倒れている? あたいは前方奥を恐る恐る見る。
「ね?」
善詩♀があたいに水を向けた。善知♂が向ける視線の先には人が倒れている。なーんだ。
「早とちりは早死にしますよ?」
言う善知♂があたいの体を降ろす。自由になったあたいは、
「早く言え!」
善知♂の頭をどつく。
「お前ら二人は本当に使えねーよ。いいか? 正確な判断を下す為には詳細な状況の説明が不可欠なんだ。めんどくさいからって説明を省くな。分かった?」
『はい』
二人は声を合わせて言った。
返事だけはいいんだ、返事だけは・・・・・・。
「それで?」
あたいは前方に倒れている誰かを観察する。
・・・・・・、
「クソ餓鬼じゃねーか」
餓鬼如きに驚きやがって、まだまだこの二人は一人前には程遠いな。
「餓鬼一人で大袈裟過ぎるんだ」
「どうします兄貴?」
「お前らの上司のあたいが見て来てやるからそこで待っていろ」
「そうだな、罠かもしれないから触れない方が」
「あたいを無視するな!」
あたいを何だと思っているんだ? んな餓鬼一人に警戒する必要はない。
「待って下さい。危険です」
「ビビってんじゃねーよ。スティールスターの名が廃れる」
ビビる二人の代わりにあたいが近付く。上司たるもの部下の前に立つことは当然である。流石あたいだ。
「えーと」
ちっこい餓鬼だなぁ。遊んで迷子になったとかだろう。スピンスターの置かれた現状も知らずに呑気な奴だ。自分の住む星がなくなると言うのに。
「おいっ! 寝てないで起きろよ」
あたいはうつ伏せで寝ている餓鬼の頭を足でつつく。
「うー、お・・・・・・」
反応した。寝ぼけているのか? あたいは最初より強く力を入れ餓鬼の頭を蹴る。
「ぶっ殺されてーのか?」
「いたっ」
餓鬼はムクッっと頭を上げて、
「お腹空いた」
顔がげっそりしている。腹が減って動けなくなったとかって、どんだけ間抜けなんだよ。
「空腹よりも先に自分の命の心配しろよ。お前の命はあたいが握っているんだからよ」
「食べ物を留衣に・・・・・・」
バタッ
言うと再び倒れる。この状況を理解してないのか? 餓鬼だからって自分の置かれた状況も関係ねぇーってか? じゃーあたいが世の中の厳しさを直々に教えてやるよ。
「クソ餓鬼」
あたいは地面に写る影に手を伸ばす。
シャドークリスタル。あたいの影の中に自由に道具を仕舞える力。常に出し入れ自由な無限倉庫を持っている状態。中には武器等などいろいろ入っている。あたいは事前に仕舞っていた物を腕を突っ込み探す。
「うーんと、・・・・・・、あった、これこれ」
あたいは中から食べ物を取り出す。サプリメントスターの商店で奪ったオニギリ。袋に包まれているので丁寧に剥がし中身のオニギリを取り出す。
「おいクソ餓鬼。お前の言ってた食べ物だぞ? ほれほれ」
あたいが餓鬼の顔付近でオニギリをちらつかせると、匂いに釣られたのか顔を上げて、
「留衣にくれるのか?」
餓鬼はオニギリを見るとヨダレを垂れ流す。きったねーな。
「やらねーよ」
パクッ
オニギリを口に放り込み餓鬼に見せびらかす。それを見ると餓鬼の目がウルウルしだす。
「悪流さんは悪そのものですね。子供にも容赦しないという」
「私達の鏡です」
あたいを褒める善知♂と善詩♀。世の中甘くはねぇーってことを教えてやったまでよ。
「餓鬼だからって甘えるな、バカが」
「むー、留衣は餓鬼じゃない。それに小春が知らない人から物を貰ってはダメだって言ってたし。留衣はいらないもん」
今にも泣き出しそうな餓鬼が。
「強がんなバーカ。負け惜しみを言うなよ」
「いいもん。留衣は後で小春の超美味しいオニギリが待っているし。お前のなんかと比べ物にならないくらい美味しいオニギリが待っているし」
「あ? 小春? 誰だそれ? そいつが作ったオニギリが美味しいって? クソみたいな名前が作ったオニギリが美味しいワケないだろ。名前からして不味いわ!」
ママが作った料理が一番ってか? 反吐がでるわ。
「今何て言った?」
「は? もう一度言ってやろうーー」
バタッ
あれ? あたいの足から力が無くなった。餓鬼の目を見た瞬間にお尻が地面に着いた。何だこれ?
急に体が震え出す。
「悪流さん後ろに下がって下さい」
「兄貴、私達で悪流さんが逃げる時間を」
異常な気配を察知したのはあたいだけじゃなかった。二人があたいと餓鬼の間に駆け込んだ。
うちのボスと同じ雰囲気の空気が一瞬あたいの回りを漂った。目だけで場を支配する力。それは強者が持つ独特の空気とも言えるもの。圧倒的力の前には立つこともままらない重圧。
感じた。間違いではない。
「小春のオニギリは超美味しいんだからな。そんなこと言うな」
間違い? 再び見ると餓鬼はやっぱり餓鬼だった。
グゥー
緊張感のない餓鬼のお腹の音が鳴り響く。善知♂と善詩♀はお互いの顔を見て頷くと、
「これ食べます?」
善詩♀が餓鬼に飴を差し出す。何やってんだよと言いたかったが言葉が外に出なかった。
「いらない、小春が知らない人から貰うなって」
「そうですか? えーと、君は迷子?」
「皆とはぐれた」
「皆とは誰です?」
これでもかってぐらいに慎重になり餓鬼と話す善詩♀。前を立つ二人の手は小刻みに震えていた。
「小春と隊長と弥と・・・・・・嫌な奴一名」
隊長と弥? もしかして・・・・・・、
「悪流さん」
善知♂が耳元に近付き言う。
「多分リンクスターの者だと・・・・・・、しかも一番隊」
あ、あ・・・・・・。そういえばリンクスターが侵入したと、ここのアナウンスに入っていた。確か撃退しろって。
「アナウンスでは撃退しろと言ってましたが正直危険かと。私の記憶によりますと一番隊にこんな子供はいなかったと思います。が、新人の可能性もあります。見たところまだまだ子供ですけど様子を見た方が無難でしょう。スピンスターが本当に警戒しているのは、リンクスターの長とボス、天才の弥さんに恋さんだと思っています。加えて、この子が新人ならスピンスターに気づかれていない可能性が高いです」
「・・・・・・」
会うとは思っていなかった。どうりでやばい目をしてる。
そうだな。善知♂の言う通りに様子を見た方がいいかもしれない。下手に動いたら殺されるかもしれない。
「う、うん。そうしよー」
あたいは頷いた。