4話 ブレイブリースター
人に不可能はない
あるのは言い訳だけ
あるのは諦めた心だけ
あるのは捨てた根性だけ
諦めん星 ブレイブリースター
☆★☆★☆★
小春と留衣ちゃんが歩くのはブレイブリースターの街中、勇気のアーケードという名前の場所。
二人だけの行動を余儀なくされた。
やはり留衣ちゃんを大事な会談に同席は色々と不味かったらしい。リンクスターの面目が潰れかねないと言うことで小春が面倒係りになった。
「なぁなぁ、どこでご飯食べような?」
「そうだねー・・・・・・」
アーケード内は少なくもなく多くもない人混みで活気が溢れていた。ちょっと不思議な雰囲気の商店街だ。飲食店も程よくあり、スーパーなどの商店も並んでいる。見た目は普通の商店街かな。ただ、食材の物販店がリンクスターと比べて多いぐらいの商店街。ブレイブリースターの特徴としては食料輸出星二位の星で、農作物を多く栽培しているらしい。弥ちゃん情報だが・・・・・・。だから、野菜などの農作物が多く並ぶのは必然であり、八百屋などの食材専門店が多いのは分かる。しかし、並ぶ商品数は少なかった。これも、コットンスターの事件と関係しているのだろう。この星も不作で頭を悩ませているんだね。弥ちゃんの予想が大当りしていた。
「元気だ」
留衣ちゃんが呼び込みの店員に目をやり言った。今は昼時、飲食店では書入れ時だ。客の呼び込みに精を出している店員がちらほら。その店員達が元気というか、うるさかった。お客を入れる為に自分の店をアピールするのは分かるが、
『おっしゃい。そこの方々、うちの料理はうまいよ』
『今日は野菜の天ぷら御膳がオススメだ』
『うちの店では大した物は出せないが、取り敢えず寄ってきな』
『不作がなんぼのもんじゃー』
『いあっしゃいませ』
それぞれの呼び込み内容が違くてとてもうるさい。力の限り叫んでいる感じだった。
「何かアウェー感が半端ないね」
小春と言うと留衣ちゃんが、
「アウェー?」
聞いてきた。
「小春と留衣ちゃんが置いてきぼりな感じだよ。だってさ、小春達とあの人達では温度がありすぎるよ」
「そうか? うーん、言われればそうかもしれない。なんでだろうな?」
経験上から大体の想像が付く。明らかに人が持つテンションじゃない。とすれば、
「星の力だね、ほらあれ」
丁度発見した店に欠片が売っている。読むと、
「元気の源、勇気の欠片。多分あれの効果っぽい」
グーの形をした欠片だった。この欠片を使用するときっとああなるのだろう。
「あれ使うと楽しくなるのか?」
留衣ちゃんがワクワクしだした。
「小春の勘だと楽しくならないと思う」
「でも、あいつら楽しそうだぞ?」
そうか? 場を無理矢理盛り上げようとしているけど滑っている感じだよ。この星の人達は当たり前の風景かもしれないけど、小春にとっては乗り切れない空気があるよ。どうやら、慣れるまでには時間が掛かりそうだ。
「それより、ご飯食べるとこ探そうか」
なので、話を反らす。
「小春、ご飯の前にあれ一回やってみようよ」
反れなかった。完全に興味が星の欠片に向いてしまった。これは不味いなぁ。
「絶対やらないほうがいいって。後悔しか残らないって」
「留衣は後悔しないタイプだ」
どんなタイプだよ。てかね、
「少しは後悔をしてよ。人は後悔する生き物なんだからさ。後悔して初めて成長するんだよ」
「後ろを見てばかりだと前に進めないって言ってた。大切なのは今、未来だって」
「同じ過ちをしない為にも後ろは見ないといけないのです。そんなことだと、また隊長に説教されるよ?」
「それは困る・・・・・・」
「でしょ? じゃー行こうよ」
留衣ちゃんは頷く。そして腕を組み「うーん」と考え、何かを思い付く。
「小春、まだ後悔はしてないぞ? 後悔する為にもあの欠片は使うべきだ。留衣は後悔するタイプにチェンジする」
たまに賢くなる留衣ちゃん。小春が留衣ちゃんに言い負かされることだけは・・・・・・避けなくては。
負けられん。小春は留衣ちゃんに言う。
「いい留衣ちゃん? 後悔をしない行動をするのが大事なのね。後悔をしない為に後悔するの」
「後悔しない行動を取るには?」
「失敗して経験を積むしか、ハァッ。しまった」
やられてしまった。無託なとぼけ方しやがって。何も分からない子供だと油断した。そう見ると憎たらしい顔付きに見えるぜ。
「留衣は経験を積む必要がありそうだな」
負けた・・・・・・のか? くぅぅぅぅぅ、留衣ちゃんに負ける日がこんなにも近いとは。
「小春? どうした?」
姉の威厳が早くも壊れた。
「むー、分かった分かった。小春の負けです」
「うんうん。あそこで買って来る?」
小春の了承にさっそく向かおうとする留衣ちゃん。急いで向かう手を掴み、進行を止める。
「待って待って、小春がいるから買う必要はないんだって。前に説明したの覚えている?」
星の中心にある星の力を小春の体内で吸収して放出が出来るのだ。説明したつもりだったけど、
「そうだった、弥が小春は変体なんだって説明していたのを思い出した」
よし、後で弥ちゃんを縛り倒そう。何て補足をしてくれたんだ。
「弥ちゃんの説明は全部がデタラメだから無視していいよ」
「弥は嘘つき?」
「嘘つきではないけど、嫌な奴」
「小春は弥が嫌いか? 留衣は弥が結構好きだぞ?」
そうきたか。
「嫌いじゃないよ。小春も弥ちゃんは好きだけど、やっぱり嫌な奴なんだよ」
ニュアンスが難しい。何て言えば理解してくれるのだろうか。嫌な奴とは性格が素晴らしく捻じ曲がっていると示したのであって、好きとか嫌いとかの表現ではないのだ。うーんっと、つまりは、
「そう、変人と言いたかったんだ」
「弥は変人か。うんうん、それなら納得だ」
納得してもらえて光栄だ。この例えはあながち間違っていないと思う。弥ちゃんが変人じゃなかったら誰を変人と呼べばいいんだ。
「それよりも、早く星の力を留衣に使って」
「はいはい、ちょいお待ちを」
まったく、存分に後悔するがいいさ。
小春は目を瞑り神経を星の力に集中する。最初の任務は小春の力を大きく成長させた。今ではある程度の星の力の制御が初めから出来るようになったのだ。昔は新しい星の力に当てられると勝手に暴れ出したが、今はそんなことはない。成長したのである。
「ふぅー」
小春は息を吸い感覚を最大限にまで研ぎ澄ます。留衣ちゃんに狙いを定める。そして、
「ハックチュン」
まさか・・・・・・、まさか、やってしまった。やばい、やばい、やばい。放出先が留衣ちゃんから小春に・・・・・・。
放出した星の力が外に漏れ出したことで力が解放する。星の力が発揮したブレイブリーパワーが小春の体内に流れ込む。早く放出を止めなければ。
何だこれ?
冷めた心が温まる。熱い熱い熱い熱い。早く冷まさないと・・・・・・。
違う。
込み上げる熱き思いをどうして抑えている。何を恐れている? 怖いのか? 何に怯えている? 自分の熱き心を自分で否定してどうする。自分を愛してやらないでどうする。自分に正直になれ。何も怖いものなんてない。怖いのは自分を嫌いになった時だ。
『ファイアァァァァァァァァァァァァ』
今の小春を動かしているのは情熱だ。
「小春? どうした?」
『うるせーバカヤロー。どうしたじゃねーよ。今を、この一秒を一生懸命生きているのか?』
こいつに足りないのは熱さだ。冷めた心を平然と小春に見せてくれるぜ。
『小春の熱きソウルを受け取れぇぇぇぇぇぇ』
気合の拳をこのヘッポコヤローの胸に届ける。星の力を注入!
『おう、きたきたきたきたぁぁぁぁぁ』
『小春の思いが伝わったか? 相棒ーよ』
『ファイアァァァァァァァァァァァァ』
隣にいる相棒から情熱がしっかりと伝わってくるぜ。
『この熱さ、早く何かをしないともったいないぜ』
『そうだな小春、まずは飯を食うぞ』
『いい熱さだ。よっしゃー、飯を食う場所を全力で探すぞ相棒』
『あたぼうよ、いくぜ小春』
小春と相棒は真赤に染まる太陽に向かって走り出した。
熱き走り込みは空腹を更に刺激する。自分の体に鞭を打っているようだ。熱いぜ。
『そこのお熱いお二人さん、昼はうちの店でどうだ?』
熱い店員が走る小春達を呼び止めるが、
『熱さが足りねぇーよ。出直してこい』
まだまだ足りねぇー。熱さはそんなじゃねぇーだろ。
『くぅぅぅぅ、お前さん方の熱さは家の店じゃもたねーな。熱すぎて火事になっちまう。出直すぜ』
『その潔さ、熱いぜオヤジ』
相棒が去り際にオヤジを喝采する、熱いぜ。
全力疾走は熱き勲章の汗を噴き出させる。これ以上ない勲章だぜ。
小春達は熱き店を探しアーケード内を駆け回る。しかし、これだと言った店はなかなか見つからない。代わりに勲章だけが増えていった。そして、走ること十分、一人の只者ではない熱さの男に遭遇した。
『そこの二人、熱さを求め駆け回っているらしいじゃねぇーか』
『だったらどうしたッ!』
小春は叫んだ。
『オレの店に入っても自分の熱さに自信が持てるかな?』
何だと? ヒートアップした小春達に張り合うという気か? 無謀かそれとも自信か?
『おい、小春。このオヤジからは他とは違うソウルを感じる」
沸騰した血が蒸発しちまいそうだぜ。熱いハートをぶつけるには丁度いいかもな。
『やってやるぜ、オヤジの挑発乗ったぜ』
『行き場のない熱さを受け止めてみろ』
『受けてたとう』
熱きバトルが始まった。熱きソウルを持つ同士、この勝負は必然的な出会いだった。会うべくして会ったのだ。避けられない戦いとも言う。熱いぜ。
オヤジに先導された試合会場はカウンターにお座敷が三席、汚ねぇー造りだ。オヤジは小春達をお座敷に案内する。
『熱さが冷めちまう、メニューをだしな』
無意味な会話など必要ない。必要なのは熱さだけさ。オヤジはすかさず持っているメニューを差し出す。
『ふん、お前らの実力を見してみろ』
小春達はメニューを受け取り早速熱き選択をする。
『どれどれ』
ラーメン類に餃子、チャーハン、丼物が少々。ラーメン屋かーー熱いぜ。
『留衣はラーメン定食Bを頼む』
ラーメン定食B、ラーメンと半チャーハンにデザートの杏仁豆腐でリーズナブルな価格。流石、熱いだけはあるな。それを選択した相棒も熱いぜ。なら小春は、
『麻婆豆腐丼を頼もうか』
オヤジは二人の注文にピクリとも動じない。小春達の熱き注文のラインナップを聞いても自信ある表情は崩さない。
そうでなくてはつまらない。
『そんな物はねぇ。食材不足で出せる物は一つしかねーんだよ』
オヤジは小春達に告げた。
『安心しろ、それでもオレの店に入った客をただ帰すワケにはいかねぇ。野菜丼二つ、待ってろ』
オヤジは言うと厨房に向かう。小春と相棒は声を揃える。
『クソやろーがぁぁぁぁぁぁ』
叫び散らした。
☆★☆★☆★
「こーはーるー」
「何も言うな」
小春と留衣ちゃんの二人は仲良くテーブルにうつ伏せで寝ていた。星の力が切れたと同時にのしかかった疲労に似た喪失感。注文したご飯が予想以上に不味かった。その二つの結果は小春達の心をやつれさせた。うつ伏せた頭が上がらない。
「留衣はきっと悪い夢を見ていたんだ」
「そうだね、小春も悪い夢だったと思うよ」
「それにな、楽しくなかった。意味が分からない感情に、不味いご飯は最悪だった」
「一応まだ店の中なんだし不味くても不味いって言っちゃダメ」
腐った野菜の切れ端を小麦で絡めて揚げた物をご飯に乗せる。かき揚げ丼は最悪の味だった。星の力が作用していなかったらきっと食べれなかったと思う。良くもまぁ、それをお客に出そうと考えたのか。あぁ、そうだった。不作の影響は仕方なかったな。
「こーはーる」
「ん?」
「喋るのも面倒くさい」
ダメだこりゃ。完全に活力を失ってしまっている。怠そうな顔は覇気の欠片も感じられない。小春も同じだけど。
「ねぇーねぇーるーいちゃーん」
小春も非常にだるい。
「どーしーたー?」
「後悔した感想は?」
「小春の言った通りに止めとけばよかった」
「だから言ったでしょ?」
「ごめんなさい」
謝る態度とは言えなかったが、反省はしているので許そう。
「次は気を付けてね」
「ん」
お腹は一杯になったけど何もする気が起きない。食事は失った活力の補給を行う行為だけど、食事で活力が消失してしまっては本末転倒である。ちょっと休憩だ。時間が経てば無くなった活力が少しは戻ってくるだろう。
今回の任務は災難続きだーー大半は自業自得だけどね。はぁ、上手くいかないもんだね。留衣ちゃんという妹が出来て小春も少しは大人になったと思ってたのになぁ、全然ダメだ。失敗する数は昔と大して変わらないし、小春は成長しているのだろうか? ・・・・・・してないね。留衣ちゃんに言っといて小春は全く成長してない。
はぁー、凹むなぁ。
どんどん嫌な方向に考えてしまう。いつもは背伸びをして振舞ってきたが、実際足のかかとが地に着くと小春の未熟さを実感する。
小春がそんなことを考え落ち込んでいると、隣の席が騒々しいのに気付いた。
「あれ? 小春達しかいないと思っていたのにいつの間にかお客が入っていたのか」
ガランとした店内に小春達と隣にもう一人の客がいた。怠い腰を上げ隣の席に目をやる。
隣のテーブルには小春達と同じ器が置いてあり、中身は空だった。食べ終わった後だと分かる。帰り仕度でもしているのだろうと思うも、ちょっと違った。椅子に立て掛けてある長ひょろい布製のケースの中身をガサガサと漁ったり、テーブルの下に潜り床を見回したり、何回もその動作を繰り返していた。お客の顔を確認すると、女の子だった。色白の肌に、黒く染まったロングの髪で片方の目を覆っている。女の子はちょっと焦っていた。
「あれ・・・、確かに入れたと思ってたのに」
独り言を言って何かを探している。
何を探しているのかは明白であった。きっと財布を落としたか、忘れて食事をしていて、いざ会計の時に財布の存在に気付いた。そんな所だろう。
見ていて可哀想に思えてくる。
「留衣ちゃん起きて、出るよ」
ぐったりした留衣ちゃんを起こし、小春達も身支度を整える。
そして、厨房にいるおじさんを叫ぶ。
「お会計でお願いします」
すると、
「あいよ」
奥からおじさんが伝票を持って、のそのそと歩いて来た。
「いやー、何か悪いね。騙したみたいで」
みたいじゃなくて完全に詐欺である。しかし、ブレイブリースターの事情も知っているので、
「しょうがないです」
愛想笑いをしてそう言った。大人な対応である。
「次来た時は沢山サービスするからさ。あっ、お会計ね。二人分一緒で?」
小春は財布をショルダーバッグから取り出す。
「いえ、あっちの人の分も一緒にお願いします」
小春は三人分の料金をおじさんに手渡す。おじさんは一瞬戸惑うも、「まいど」とだけ言って後は何も言わなかった。
「ごちそうさまでした」
会計を済まし、おじさんに声を掛けて、留衣ちゃんを引っ張り店の外に出る。同時に、
「ねぇねぇ、ちょっと」
女の子が飛び出てきて小春達を止める。女の子はさっきまで店内で財布を探していた子。長がいケースを肩に担いでいる。
「誰も頼んでないんだけど?」
女の子は不機嫌な顔をしている。余計なことをしちゃったかな?
「誰こいつ?」
留衣ちゃんが不機嫌になった女の子に言った。
「分かんない」
恩義せがましいので名前も聞かずに立ち去ろうとしたので分からない。結局は立ち去ることは出来なかったので恩義せがましくなってしまった。それで気分を害しているのなら小春のお節介が原因だ。なら、
「余計なことしちゃったね、ごめんごめん」
謝った。
「何であんたが謝んのよ? で、私に何をさせようとしているの?」
そっか、何か裏があると勘違いしているんだね。助けたのをいいことに莫大なお金を要求したりする人もいる。
「何もさせないよ。じゃー小春達は忙しいから行くね」
勘違いを訂正させる為には、小春達がいなくなるのが手っ取り早い。だから、小春は留衣ちゃんの手を引っ張り通り過ぎようとする。
「話しが終わっていない」
小春の肩を掴み再び止める。続けて口調を強くして言う。
「余計なことしといて逃げるなんて許されるとでも思ってんの?」
余計だったかもだけど、そこまで言われる筋合はないんだけどなぁ。
「だからごめんって」
「だから何であんたが謝んの?」
「むー、じゃーお金をここで小春に返してくれれば解決だよね」
小春は開き直って、手の平を女の子の前に突き出す。
「くっ、今財布を落としてないのに、やはり私に何かをするつもりね?」
女の子は歯噛みして小春を睨む。
うわー変なのに引っ掛かった。
「しないしない。小春達は忙しいから勘弁してよ」
「しません」
何で小春が問い詰められないといけないの? どう考えてもおかしいよ。そう思うと怒りが沸く。
「どーすればいいのさ?」
小春は地面を踏み鳴らす。
「お金は必ず返すから名前と住んでる星を教えて」
名前を聞きたかったのなら最初からそう言ってってば。
「リンクスター一番隊所属の桃井小春だよ。もういいでしょ?」
「リンクスターの一番隊?」
女の子は虚をつかれたように驚いた。リンクスターは強星だからね、プラス一番隊だからビツクリしたんだね。
「一番隊にはあなたみたいな人はいない」
疑ってたのかよ。
「最近入隊したんだ。期待の新人だよ」
「ジー、怪しい」
女の子は小春の顔を舐めるように見てくる。
「本当だって、今日も任務でブレイブリースターに寄ったんだよ。不作かどうかで」
「ならあなたは今、何でここで油を売っているの?」
ごもっともですけど、
「前の星で失敗しちゃったから、同行できなかったの。お留守番、分かった? こんな恥ずかしいのを小春の口から言わせないでよ」
顔から火がでそうだ。本当羞恥プレイだよ、まったくもう。
小春の残念な話を聞くと硬い表情の女の子が緩む。
「プハッ」
息を漏した。そして、
「アハハハハハハッ」
笑い崩れた。
「何で笑うのさ」
「アハハハハハハ、ごめんごめん」
手を合せて笑いながら謝る女の子は柔らかい表情になっていた。
「あなたは悪い奴じゃなさそう」
小春の残念話と引き換えに誤解が解けたようだ。
「どうしても立場上人を疑っちゃうの。悪気はなかったから許して」
「立場上?」
小春は聞き返す。
「紹介が遅れたね。私はスピードスターの側近侍者、止枝 時子。お礼も遅れてた。ありがとう」
深々とお辞儀をする。
「時子・・・・ちゃん? 側近侍者?」
「アハッ、時子ちゃんだなんて初めて言われた。益々面白い子ね。そう、それで、側近侍者はね、あなた達で言う副長が正しいかな? 若干違うけど一番近いと思う」
「その時子ちゃんは副長だから人を悪者みたいにしていたのね」
「ごめんって、良からぬ輩が絶えないの。でも、あなた、うんと、小春は違うみたい。こんな面白い子を疑っていた私が愚かだった」
もう一度手を合わせて小春に謝る。面白いって若干失礼な気もするけど小春は気にしない。
「いいけど・・・・・・。良からぬ輩が絶えないって誰かに追われているの?」
「違う違う。誰に襲われてもおかしくない立場って感じ? リンクスターの長と似ているかもね。あの人だって長な理由なだけで、命を狙う輩は少なくない筈だけど、違う?」
言われればそうかも。イリュージョンスターでは隊長が長だからと理由だけで命を狙ってきた。
「時子ちゃんも大変なんだね」
「アハハハハハハッ」
小春が心配すると時子ちゃんはまた急に笑い出した。一軒クールなイメージの時子ちゃんだけど、結構感情が豊かな人なんだと印象を改める必要がありそう。
「私に向かって大変と心配してくれるのは小春ぐらいしかいないよ」
「そうなんだ」
「普通、私と会った奴の殆どが自分の心配をするんだけどね」
「?」
時子ちゃんの言葉が何を指しているのか理解出来なかったが、言う時子ちゃんの表情は読み取れた。草原に咲く一輪の花のように、どこか寂しげな顔を。
「小春?」
小春と時子ちゃんが話をしていると服の袖が引っ張られる。
「ん?」
留衣ちゃんだ。放りっぱなしでした。
「早く行くぞ」
放置していたので留衣ちゃんがツムジを曲げている。そして、留衣ちゃんの頬が一杯に膨らむ。
「ごめんね留衣ちゃん」
何か今日は悪いことをしてないのに謝ってばかりである。膨らんだ頬をツンツンと突っつきながら小春は言う。
「そんなにふくれないでよ」
「別に膨れていない。小春が知らない奴と仲良くしてても留衣は大人だからふくれません」
「ふーん、ふーん、もしかして嫉妬かな?」
意地悪な笑を浮かべて時子ちゃんが間に入ってきた。
「留衣は嫉妬なんかしない」
「そうなんだ」
時子ちゃんはにやつきながら小春に目線を移す。
「それでこの子は?」
「留衣ちゃん。小春の妹だよ」
時音ちゃんは「へぇ」と相槌を打ち、留衣ちゃんを見る。
「似てない」
ピンポイントで痛い部分を突いてくる。何て説明すべきか考えていると、時子ちゃんが続けて言う。
「私小さなおこちゃまは苦手なのよね。そこんとこよろしく」
留衣ちゃんに向けて軽く片手を上げて言った。会ってまもないのにはっきりと発言する人だ。留衣ちゃんはというと、時子ちゃんの発言に更にツムジを曲げる。
「留衣はおこちゃまじゃない」
「私は留衣のこととは言ってないよ? もしかして自分でガキだと認識してた?」
「ガルルルルルルル」
毛を逆立てて威嚇を始めた。
「こいつはきっと留衣の敵だ。初めて見た時から気に食わなかった」
「ほほぅ、ちびっこのくせに私に立ち向かう度胸はたいしたもの」
時子ちゃんと留衣ちゃんの目線がぶつかり合う場所に火花が散る。
「留衣ちゃん止めなさい。時子ちゃんも大人げなさすぎるよ」
小春は今にも飛び掛かっていきそうな留衣ちゃんの体を後ろから抱き込む。
「ごめん。小さい子見ると、ついね」
「留衣は小さくない」
「時子ちゃん!」
小春は時子ちゃんの名前を強く呼ぶ。
「悪かったって」
軽く謝罪をするも、留衣ちゃんの怒りのボルテージが上昇している。小春の腕の中でシタバタ暴れている。
「小春離せ。留衣は、留衣は、こいつを始末しないと」
「なんてことを言うのさ」
「留衣のお願いを聞いてくれ。一生のお願いだ」
「ダメだって」
一生のお願いをこんなことで使うなと叫びたい。
「留衣だっけ? 悪かったって。これ上げるから仲直りしよ?」
時子ちゃんは暴れる留衣ちゃんに飴玉を差し出した。
「お?」
暴れていた留衣ちゃんの目付きが一瞬で変わり、
「くれるのか?」
「うん、上げる」
沈静する。飴を受け取ると早速袋を開けて口に放り込む。とても単純であった。
飴を舐める留衣ちゃんの顔がほころんだのは一時で、味を堪能するにつれ顔が青ざめていく。
「まっず、ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
口から飴を吐き捨てて悶え苦しみ出した。
「この星人気の青汁デラックス・デススペシャル味の飴。留衣は大人だって言ってたから、喜んでくれると思ったのに残念ね」
「時子ちゃんも流石に怒るよ?」
「ちょっとやりすぎました。反省します」
ちょっとではなく、かなりやりすぎだ。
「小春、水水水水!」
「ちょっと待ってね」
ショルダーバッグから水を取り出して留衣ちゃんに渡すと一気に飲み干す。相当不味かったようで涙目になっていた。
「まったく、あまりからかわないでよ」
「気をつけるから、そんなに怒らないで」
「頼むよ時子ちゃん」
「了解」
留衣ちゃんが暴れだすと大変なんだよ。自分では大人だと言っているけどまだまだ子供なんだから。
「やっはりこいつはわるいやつた。きけんしんふつ」
ベロを出しながら喋る留衣ちゃんは滑舌が悪くなっていた。再び後ろから抱き上げて手で口を押さえる。だって、爆発寸前なんだもん。
「もふもうおおおお」
「よしよし、どうどう。それで、時子ちゃんは何でブレイブリスターに来ていたの?」
「小春達と目的は同じ。実はスピードスターもブレイブリースターと貿易を行なっているのよ」
「それで来ていたのね」
時子ちゃんは腕を組み、神妙な顔付きになる。
「来てみたらまさかの非常事態でびっくり。スピードスターはさ、ブレイブリースターからの輸入に大きく依存しているワケ。約五割ぐらいかな? このまま不作が続けばスピードスターにも影響が出る。あと、友好条約も結んでいるし、原因解決の力添えが出来ればと考えていたのよ」
この問題を解決したい星はリンクスターだけじゃなかったらしい。
「考えた結果は、私じゃ力になれないとまとまったのがさっき。ここで立ち往生していても時間だけが過ぎていくので、一旦報告も兼ねて帰ろうとしていたとこ」
「じゃー時子ちゃんはもう帰っちゃうんだ」
「もう少し小春とお話ししたかったんだけど、ん~。でも待って」
話の途中で急に考え込む時子ちゃんは、何かを閃いたのか顔を上げた。
「私も小春達に同行してもいい?」
思いがけないお願い事に「はい?」っと場が沈黙する。
「農業なんて私じゃ力になれないけど、もしかして裏があるんじゃない? リンクスターもそのことで来たんでしょ?」
ドキ
なかなか鋭い。弥ちゃん曰く真実が分かるまで伏せろと命令されているので、
「調査でだよ。状況の改善に力を貸せればだって」
自分でもナイスな言い方だと思う。時子ちゃんの反応は、
「無理でしょ。いくらあの天才がいようと長年に渡り積み上げてきた技術と知識に力を貸せるとは到底思えない。元々知らないでこの星に寄ったんだったら分かるけど、不作と聞いてわざわざ寄った。普通は切羽詰っている状況では訪問は邪魔になると遠慮する筈だけど。でも、何か掴んでいるから確かめる為に寄ったんだ。そんなとこだと私は思う。どう?」
ドキドキ
疑いの目が四方から突き刺さる。
「黙秘権を発動します」
「あぁ、口止めされているのね。だったら、直接私が天才と長に頼むから居る場所まで連れて行ってくんない? そのぐらい大丈夫でしょう?」
悪い人じゃなさそうだけど、小春が勝手に判断して連れて行っていいのだろうか。また、勝手な行動して大目玉食らったら嫌だしなぁ。
「小春、こいつは連れていってはダメだぞ。危険だ」
塞ぐ手を払いのけて留衣ちゃんの口が動いた。腕も交差して拒絶している。
「悪い方には絶対いかないから。むしろ、やばい案件程力になれると思うからさ。私も出来るなら改善に協力したいの。お願い」
腰を落とし手を合わせ、上目遣いで必死にお願いする。
「本当に悪い方にはいかない? 本当の本当に今回は失敗だらけで、時子ちゃんが想像するよりやばいんだよ」
「恩を仇で返しはしないと約束する」
ちょっと心配だけど、そこまで言うなら信じてもいいかな。
小春は渋々だけど言う。
「うん、分かった。本当に問題は起こさないでね」
「ありがとう小春」
「ガルルルルルルルル」
留衣ちゃんの威嚇が止まることはなかった。
☆★☆★☆★
長との軽い会談も終わりサプリメントスターの欠片を使用している肥料を見せてもらうことになったッス。
状況はコットンスターとは比べものにならないぐらいに深刻だったッス。
星の生産量の約六割の農作物が育たなくなっていた。原因はコットンスターと同じでサプリメントスターの欠片に頼りきった栄養の欠如。そして、欠片を微塵にも疑わないサプリメントスターの信用と信頼。原因は直ぐ目の前に転がっているのに見えず、違う可能性ばかりを思考する。
どつぼに嵌っているッスね。
今肥料を保管している倉庫まで隊長と長に続いて長い道のりを歩いている。道のりの外、農業地には熱い熱気がひしひしと弥に伝わってくる。
視界には入らないように工夫しているが存在の大きさからか自然と目に入る。
「うざいッス」
広がる土に精を出して働いている人々。溢れ出る熱いオーラは弥は苦手だ。そう思っていた。
人間の手と汗で丹精込めて育てた作物は一級品で人気も高いッスがね。人間の手と汗と言ったのは決して例え表現ではないから困る。ブレイブリースターの欠片を使って人間が持っている熱い感情を最大限にまで引き出し、その言葉通り気合いで作物を育てているッス。言うならば体育系ノリ。見ているだけでも吐きそうになるッス。
「弥もこの星にひと月でもいれば腐った根性が少しはマシになるんじゃないか」
前を歩く隊長が後ろも見ないで弥に言ってきた。お見通しッスか。
「ひと月もいれば弥は腐敗して地に帰るッスよ」
「違いない」
認めるなッス。
「でも、弥がブレイブリースターの欠片を使用したらどうなるのか興味はあるな」
「人を実験台にしないでほしいッス。今回は隣に小春がいなくて助かったと心底思うッス。いたら、何時ものバカで弥にまで迷惑が掛かるッスからね」
正直自分でも弥にブレイブリースターの欠片を使用したらどうなるのか、興味はあるッスが残るのは後悔だけッス。分かりきった後悔をするほどバカじゃないッス。
「小春達は大丈夫だろうか」
隊長は溜め息混じりに心配する。
「どうッスかね? 星の力を使用して後悔ぐらいはしているんじゃないッスか?」
「はぁ、小春はまだいいけど、留衣が問題を起こしてなければいいが」
「問題を引き寄せる体質ではあるッス。二人共」
二人だけじゃないッスが。一番隊は何故か問題が擦り寄ってくるッス。小春の件にしても、留衣の件にしても、実は前を歩くこの人が一番の張本人ではないかと最近は思ってきているッス。
「なら、私もかな」
あら、本人に自覚ありッス。
「弥を巻き込むのだけは避けてほしいッス」
切実な願いッス。
「弥は巻き込まれる体質だろうよ」
弥も実はそうではないかと疑っていたッスが、
「巻き込まない努力はしてもいいと思うッスよ?」
この人達は平気で当然のように弥を巻き込みやがるッス。
「努力した結果がこれだ。諦めろ」
「努力を感じられないのは弥だけッスか?」
「気にするな」
最悪である。返しが適当すぎてそのうち泣いちゃうッスよ? 気にしてないのは隊長と小春と留衣じゃん。
隊長との雑談もそれからは特になく、ひたすら倉庫を目指した。
目の前にそれらしき倉庫が見えてくるも、一旦進行が止まる。
一人の男が後ろから弥と隊長を追い越し先頭を歩く長に声を掛けたのだ。弥は長と男の話に聞き耳を立てる。
「サプリンメントスターの輸送船が先程到着しました」
「そうか、荷物の引き受けは任せた。私はこの方達を案内する仕事がある」
ふむふむ、サプリメントスターからの輸入物が届いたってことッスね。またとないチャンスじゃないッスか。
形振り構っている暇もない。非常識な態度も大目に見てくれるだろう。
「聞き耳を立てて申しワケないッスが、弥達も引き受け場所に同行してもいいッスか?」
「ん?」
弥の要求に二人は当惑する。
「構いませんが・・・・・・、納品現場など見ても退屈だと思いますよ?」
当然の反応ッス。物を輸送船から引き下ろす現場なんて見ても一分で飽きるッス。
「輸送船から荷物を降ろす作業、人同士の手渡しリレーはブレイブリースターの影の人気名物ッス。敢えて運搬具を使わないブレイブリースターの精神は感動物だと噂が絶えないッス。是非弥も拝めておきたかったッスよ」
弥は泣きながら熱演した。
「もうちょっとマシな動機はなかったのか。キャラじゃないぞ?」
弥に耳打ちする隊長。言われなくても分かっているッス。恥ずかしいのでツッコムなッス。
「そうですか。分かりました。弥さんがそこまで気合の運搬リレーに興味をお持ちだったとは。それなら是非見ていって下さい」
弥の言葉に長は上機嫌になる。
「弥さんも内に秘めたものがあったんですね。私は感動しました」
はい?
「見るだけとは遠慮せずに体験も受け付けていますよ」
長は弥の肩を無理矢理組んだ。
「邪魔になってはーー」
「良かったな弥。前々から参加したいと言ってた願いが叶ったぞ」
は? 隊長? それは弥に死ねと言ってるッスか?
「技術など必要ありません。必要なのは熱きソウルだけです。弥さんなら既に熱きソウルを持っているので心配ないです。一緒に汗を流しましょう」
デス、デス、デス、デス、デス、DEATH、DEATH、DEATH。
「DEATH」
「嬉しさの余り興奮を抑えきれないようだな」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
☆★☆★☆★
「ヘルプ、ヘルプミーー」
『ヘルプミー』
「これは掛け声じゃないッス」
『ッス、ッス、ッス、ッス』
「バカにしてんだろう」
『バカ、バカ、バカ、バカ』
「もぅ、弥は無理ッス。隊長助けてぇぇぇぇぇぇ」
『ヘルプミー』
遠くでは弥の掛け声と共に荷物の運搬リレーが行われていた。本当に数多くある荷物を百人近くいる人達で運んでいた。中心が弥なのが笑えたが・・・・・・。
弥が命懸けでつくってくれたチャンスだ。失敗は許されない。納品が進む中、隅っこでは両方の責任者同士が書類の確認作業をしていた。
「あいつか」
帽子を深く被っている方がサプリメントスターの者だ。大事な作業中に間に入るのは気が引ける。しかし、相手の反応を見るにはいい機会だな。
私は作業中の二人の元へ足を運ばせた。
「作業中すまない」
二人に声を掛けた。
「リンクスターの長さんではないですか? どうかしましたか?」
最初に声を返してきたのはブレイブリースターの者。そして、
「ど、どうも」
どもりながら帽子のつばを下に向ける。
「見学と言ったところか。ほら、うちの弥も」
私は弥を指差す。
「あぁー、今日は一段と気合が入っていると思ったら、弥さんがあちらで働いているからですか」
一段とか。不運だな。
「こちらはサプリメントスターの?」
私は聞いた。
「は、はい」
なお私に帽子で隠した顔を見せようとはしなかった。胸に一物ありそうな態度だ。強硬手段に移るべきか。慎重に対処するべきか。私は考える。
「あの~、用がおありで?」
ブレイブリースターの者が私に問い掛けた。騒ぎだけは避けたい。強硬手段は却下だ。ここは慎重に相手の腹を探るのベストだな。
「近頃宇宙で輸送船が襲われる事件が多いんだ。先日、うちの輸送船も襲われて。サプリメントスターも十分気を付けたほうがいい」
「はい、き、気を付けます」
「サプリメントスターの知人に聞いたんだが、そちらも先日危ない目に合ったとか」
「そ、そうなんですか? サプリメントスターは輸送先で管轄がいくつも分かれておりますので細かい情報は入ってこないことが多いんです」
私も襲われたかは適当なので真実は知らない。だが、これで本題が切り出せる。
「知らないなら尚更だ。私達は今安全な輸出を確保する為に情報のネットワークを広げているんだ。よかったら参加をお願いしたい」
「え、えーと」
すかさず進める。
「輸送者の情報を登録することにより、輸送者同士で個人情報の確認が取れるというワケだ。輸送船のすれ違い間際に襲われる事件が多発している。それは、偽の輸送船と判断がつきにくいことから起こる。そこでだ、弥が発明した情報交換システムを搭載している輸送船同士では、広範囲で位置関係が分かるようになった。これで、偽の輸送船と不用意に接近しなくても良くなった」
「わ、私達はそのような事態は想定済で、宇宙間では輸送船に限らず宇宙船全般から距離を取って飛んでいます。ですからーー」
「宇宙間での物品の受け渡しがあるだろ? そう、小さな中間業者との取引は宇宙内で輸送船同士で行うのが主流だな。しかし、個人同士での安全面は現在は整っていない。お金も掛かる為に疎かになっているんだ。だから、私達は自らの失敗を教訓に宇宙全土で統制を図ろうと行動を起こしている。協力の数だけコストが減り中間業者にも呼びかけられるというワケだ。まずはあんたらみたいな大きな輸出星に入ってもらいたい」
「す、すみません。私個人の判断では」
もうひと押し。逃げれない状況をつくる。ついさっきの話で細かい情報は知らないと言った。
「サプリメントスターにいる何人かは快く承諾してくれた。これはあくまで、星同士の条約ではなく個々人の輸送者に任せられる。輸送者が集まり結束して安全な航路を築き上げようという試みだ。広まれば広まる程安全になる」
ブレイブリースターの者もいる。逃げれば怪しまれるぞ。
「わ、分かりました。そ、その情報交換システムを輸送船に積めばいいのですね?」
成功した。これで弥も浮かばれるだろう。
そして、私は言う。
「身分証明書を写させてもらっても」
私の言葉を聞くと態度に変化が起きた。
「み、み、身分証?」
「あぁ、情報交換システムを積んでいる者同士の個人情報が確認ができるワケだ」
「は、はい」
急に慌て出す。見た感じこいつは黒だ。しかし、穏便に済ます為にそれ以上は何も言わずにただ待とう。身分証明書を持っていない筈がない。納品の際に必ず見せる必要があるのだ。だから、最初に見せた筈だ。隣にいるこのブレイブリースターの者に。信用と信頼がサプリメントスターにあろうが、物品を持ってきたこの男にはないのだ。サプリメントスターの者と信用させるには身分証明書の提示はなければならない。
私はじっと腕を組みただ待つ。
「・・・・・・」
探す素振りを一生懸命にしていたが、無言の圧力に肩を下げた。
「こ、これを」
私は渡された身分証明書を受け取り、
「コピー機を借りても?」
ブレイブリースターの者に聞いた。
「どうぞ、あちらの部屋にあるので御自由に使って下さい」
「悪いな」
情報交換システムなんてものは最初からないけど、後日そちらに送ると話を切った。でも、輸送船に関わらず全宇宙船に取り込めば強奪やらの事件は極減すると思う。宇宙全土での賛同が条件だけど。いつか、そんな時代が来るといいが・・・・・・。
私はサプリメントスターの者と言う輩から個人情報を手に入れることに成功した。早速、情報の分析に取り掛かってもらいたいので、片隅で死んでいる弥を担ぎつばめ号に向かった。丁度小春からも連絡が入ったのでこちらに来てもらうことになった。
一先ず手掛かりらしき物も手に入り事件に進展が起きそうだ。
☆★☆★☆★
つばめ号船内
「ただいま戻りました」
小春が先導してつばめ号船内に入る。後ろを留衣ちゃん、時子ちゃんが続く。中からは、隊長と弥ちゃんの声がする。贅沢な安らぎで話をしているみたいだ。
小春は贅沢な安らぎに続く扉を開けると、
「小春帰ったか」
椅子に座る隊長が小春に声を掛けた。片隅では、あれ? ぐったりして真っ白になっている弥ちゃんが弥作業用スペースで機械を弄っていた。
「どうしたんですか?」
隊長に尋ねると、
「ブレイブリースターを満喫していたんだ」
「誰が満喫するッスか。ん? え? わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
弥ちゃんが小春の方に体を傾けると絶叫した。何かに気付いたような顔。
「お初にお目にかかります。って、今私を見て叫んだでしょ」
時子ちゃんが挨拶をした。
「どどどどどどど、どうしているッスか? 違うッス。弥は慣れない力仕事をして疲れているッス」
「スピードスターの側近侍者の止枝時子です。小春には無理を言ってここに来させてもらいました」
「聞きたくない。聞きたくない」
弥ちゃんは両耳を塞ぎ目を瞑る。しかし、弥ちゃんのこの慌てようどうしたのだろう?
「私に用があってか?」
隊長が時子ちゃんに訊ねた。
「そうです」
そこで、弥ちゃんが小春の胸ぐらを掴み部屋の片隅に引っ張る。ぐったりする弥ちゃんは元気が戻ったようだった。
「小春はなんて奴を召喚してくれたッスか?」コソコソ
弥ちゃんがコソコソ喋り出したので小春も合わせて小さく喋る。
「知り合い?」コソコソ
「知り合いなワケあるか」コソコソ
「時子ちゃんは悪い人じゃないから安心して。変わっている人ではあるけど」コソコソ
「小春は常識を知らなさすぎるッス。いいッスか? 強星の副長連中には絶対に関わるなって鉄則の掟があるッス」コソコソ
「へぇ、スピードスターって強星だったんだ」コソコソ
「このバカ。ちゃんと勉強しろ」コソコソ
鳩尾を本気で殴られた。
「うっ、痛いって。でもさ、弥ちゃんの話だと弥ちゃんもその中に含まれるよね?」コソコソ
リンクスターの副長は藤原弥だった。
「弥は例外ッス」コソコソ
「都合の良い掟だね」コソコソ
小春達が角でコソコソ話をしていると時子ちゃんが小春達に向かって言う。
「そこ、コソコソ話しない。それと、小春に余計な知識を教えないでよ」
余計な? 時子ちゃんは続けて隊長に言う。
「あのそれで、私を今回の事件解決に協力させてほしいんですけど」
ゴツン
弥ちゃんが小春の頭を殴り、
「誰にも言うなって言ったッス」
「痛いって。小春は口が裂けても言ってない」
「ふーん、やっぱり。裏があるんだ?」
時子ちゃんが弥ちゃんの言葉に頷いた。
「騙しやがったな」
「あんたが勝手に口滑らしたんでしょうが」
今のは弥ちゃんが悪い。
「協力と言ったが理由はあるのか?」
隊長が話を進めた。
「ブレイブリースターは私達スピードスターとも貿易を行なっています。関係上、手を貸すのは当然かと」
「実は?」
弥ちゃんが言うと、
「問題解決出来ずに帰還したら私の沽券に関わる」
堂々と応える時子ちゃん。
「問題はリンクスターで解決するッス。とっとと家に帰れ帰れ」
「そうだ、そうだ。帰れ帰れ」
弥ちゃんの煽りに留衣ちゃんも便乗する。
「帰ることが問題なの。問題があるのに手立てがないからって放棄し帰還して、後日リンクスターがあっさり解決しましたじゃ私の立場がないでしょうが」
「もし解決出来なかったら怒られるの?」
心配の目を向ける。
「小春は優しいね。けどそれはないから安心して。あくまでも私個人の問題。ノコノコ帰るなんてプライドが許さない」
「超自分勝手ッス。プライドが許さないなら自分で解決してみろッス」
「無理だから協力させろって言ってんの。話聞いてた?」
時子ちゃんは本当にハッキリ物事を言う人だなぁ。
小春が感心の目をうんうんっと向けていると、またまた弥ちゃんが緊急コソコソ会議を開始させた。
「小春見たッスか? あれ連れて行ってもろくなことがないッスよ」コソコソ
「そうかなぁ? ハキハキしていて小春まで清々しい気持ちになるよ。ふっしぎー」コソコソ
「どう見たらあの野蛮人をそう見れるのッスか?」コソコソ
「思ったんだけど、どうして副長だけを恐れているの? どちらかと言うと長だと思うのだけど」コソコソ
「それはッスね、強星の長は五星王と呼ばれているんスけど、その連中らは人外の生物ッス。人間の頭では測ることさえ出来ない、何に注意したらいいかも不明ッス。神話的存在」コソコソ
いろいろと酷い言われようだった。中に隊長も入っているのに。聞かれていたら弥ちゃんの命は危ないだろう。
「で、ッス。人間が思考出来るギリギリラインにいるのが強星の副長達ッス。思考出来るから対処策も練られた。先人達が残してくれた唯一の遺産とも言えるッス。それが、関わるなの一言ッス」コソコソ
それで、時子ちゃんは心配する小春を不思議と思っていたのね。
「時子ちゃんって見た目通りに凄いんだね」コソコソ
「私は小春の言葉に感動して泣きそう」コソコソ
「いつの間に」
いつの間にか時子ちゃんが会議に参加していた。隣にいる弥ちゃんの肩に手を乗せ。
そして、
『余計な事言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇ』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
弥ちゃんを掴み巴投げをして吹っ飛ばした。
「はぁはぁ、リンクスター長!」
時子ちゃんは乱れる息を整えて言う。
「裏があるなら話し合いで解決は難しいのでは? 私は誰が犯人か分かりませんが戦力は一人でも多いに越したことはないと思います。リンクスター一番隊も早期解決をお考えではないでしょうか? 私がいたら早期解決に助力出来ると自負しておりますが」
「隊長? 今の行為見ていたッスよね? こいつがいたら助力どころか死人続出ッス」
弥ちゃんは吹き飛ばされても尚頑固として拒否する。
「留衣も反対。こいつは危険だ」
留衣ちゃんも拒否する。
「大体の事情は分かった」
隊長が頷き、
「理由はどうあれ問題を解決したい気持ちは本物らしいな。ブレイブリースターに一刻の猶予もないのも確かだ」
答えた。
「にしては超元気だったッス」
「あれは逆光にも負けないという心の表れだ。すぐ後ろに絶望が迫っている中でも、諦めない志しを持ち続けるのは並大抵のことじゃないんだよ」
弱音を吐いている人は一人もいなかった。街は暗いどころか住人達の頑張りで明るかったのだ。
「時子と言ったな、解決までよろしく頼む」
「ありがとうございます」
協力関係が成立した。
「カーン」
「カーン」
弥ちゃんと留衣ちゃんは同時に口をあんぐりさせていた。
「弥、遊んでいる暇はないだろ? 分析はまだなのか?」
「えぇ、今やっているッス。やっているともさ」
弥ちゃんは不満全快であった。
「分析とは?」
小春も気になる。小春達と別行動の間に何か進展したのだろうか。
「あーはいはい」
弥ちゃんは言いながら作業スペースに戻る。
「作物が育たない理由はサプリメントスターの欠片が問題だったッス。そこまでは把握していたッスか?」
投げやりな回答に時子ちゃんは驚いた。
「え? サプリメントスター? 嘘でしょ?」
「信じないなら別にいいッス。早く星に帰れッス」
「そうだ、帰れ帰れ」
「何? まだ文句があるなら裏で聞くけど?」
時子ちゃんの脅し言葉に、
「暴力は良くないッス。ちゃんと説明するッスから」
あっさり屈した。
「無駄口はいいから早く説明」
「偉そうに・・・・・・、協力させてもらっている身なのに上から目線。こいつろくでもねぇーなッス」
仲が悪いね。初対面なのに犬猿の仲みたいな? 留衣ちゃんともだけど、弥ちゃんとは更に仲が悪い。
「弥ちゃん? 分析って?」
いつまで経っても本題に進みそうにないので小春が二人のいがみ合いを止める。
「はいはい。まず弥達はサプリメントスターが怪しいと思って調査していたッス。実際にサプリメントスターの欠片は偽物だったッスからね」
「偽物?」
「話進まないッスから質問は最後でッス」
「えぇ」
「弥達がブレイブリースターを訪れてたのはその欠片を調べる為だったんス。が、調査の途中で幸運にもサプリメントスターの欠片引渡し現場に落ち合うことに成功したッス。そして、弥の頑張りで相手の身分証明書の写しをゲットしたッス」
身分証明書が手掛かり?
「関係あるの?」
「大ありッス。手に入れた身分証明書が本物だった場合はサプリメントスターにカチコミッス。間もなく身分証明書の分析が完了するッス」
「弥ちゃん物騒だよ」
「本物だったら直接サプリメントスターの者に白状させるしか手が残っていないッス」
弥ちゃんは言い終わると小春達とは正反対の方向を向き、パソコンを弄り始める。
「分析完了」
弥ちゃんは一言。途端に皆の肩に力が入ったのが伝わる。弥ちゃんの次の言葉に生唾を飲み待つ。
「サプリメントスターの線は薄くなったッスね。身分証明書は真っ赤な偽物だったッス。サプリメントスターにこのような者は存在していないッス」
「だったら?」
時子ちゃんが次の言葉を急かした。
「同時に顔認証もかけていたッスが、代わりに線が強くなったのはスピンスター上に存在する住民ッス」
「スピンスターか」
隊長は俯く。
「サプリメントスターと比べると随分と殴りやすくなった」
「時子ちゃんも物騒だよ」
「いいの。サプリメントスターと聞いた時は戸惑いを隠せなかったけど、スピンスターなら納得する」
「納得?」
「競争相手をケチ落とすとかそんな動機でしょう。最近表に出てきたスピンスターは安さだけが売りの星。だけど、安さだけでは限りがある。そして、考えた策が食料輸出星を抹消する。一番確実な方法だ」
時子ちゃんは胸を張って言った。
「何か手柄を横取りされた気分ッス。何で時子が誇らしげに言うッスか?」
「言ったもん勝ちよ」
そこで隊長が立ち上がる。
「サプリメントスターに行くよりはスピンスターに行く方が堅実かな」
「行ってどうすんスか?」
「スピンスターの長に会って話を聞こうじゃないか。取り合ってくれるかどうかも怪しいがな」
「はぁ、いつもの実力行使ッスね」
「ほら、私がいた方が良かったじゃん」
呆れ顔の弥ちゃんに、得意げな顔の時子ちゃん。隊長は普段通り冷静だった。留衣ちゃんは長い話に飽きたのか角でテレビを見ていた。
「小春? サプリメントスター」
留衣ちゃんがテレビから目を離さずに言った。
「留衣ちゃん、次はサプリメントスターじゃなくてスピンスターに行くことに決まったよ」
「違う。サプリメントスターの名前がテレビに映っているぞ」
会話にちょくちょく名前が出てきたから気になったんだね。それにしても画面に近付きすぎである。
「留衣ちゃん? もうちょっと離れてーー」
なんだこのニュース!
小春はテレビの画面に目を奪われた。正確に言うと画面を流れる文字、内容だ。
緊急速報。ブレイブリースター発信の放送にテロップが流れる。
「・・・・・・サプリメントスター、スティールスターに降伏」