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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

なんか異世界転生しちゃった

掲載日:2026/05/02

みらいさん。執行の時間です。身支度をお願いします。


「は?うそ死刑?むりむりむりむりむりぃ、!なんにもやってないのに…!」


拘置所の中の小部屋。周囲は静かで、書類をめくる音とみらいの啜り泣く声だけがする。


なぜこうなったか。

みらいの元カレが、誰かに暗殺された。

警察がみらいの家に来て、みらいはなんとも思ってなさそうな顔で説明をした。

それを怪しみ、さらには成果がほしかったクズ警察が、みらいを犯人に仕立て上げて現行犯逮捕。


そして今、みらいは死刑執行を告げられた。


みらいは、死絞刑にされた。


みらいが震える手でロープに首をかける。

足を外した瞬間に苦しみがみらいを襲う…


「あ゛っ、が……っ、げ……」


数秒後、みらいが動かなくなった


みらいが目を開ける。


(あ、あれ?あたし生きてる、?)


目を開けようとするけれど、まぶたが重くてうまく動かない。

ただ、周りがすごく暖かいことだけはわかった。

「……あら、見てあなた。とっても可愛い女の子よ」


「おぎゃあ、おぎゃあ!」

(なにこれ…アニメとか漫画でよくある異世界召喚ってやつ?ならチート能力で持ってるのかな。)


元気な産声とともに、私の新しい人生が始まった。前世の記憶ははっきりしている。冤罪、死刑、首に食い込むロープの痛み。でも、今は温かい腕の中にいて、優しい顔をしたパパとママが私を覗き込んでいる。


「名前は……そうだな、『スティシア』にしよう」スティシア。それがこの世界での私の名前。


(一之瀬みらいとしての人生は最悪だった。でも、この世界ならやり直せる。ううん、やり直すんじゃない。次は私が「支配する側」になってやるんだから!)


そう意気込んで、私は赤ん坊の特権を使い、試しに心の中で叫んでみた。


『ステータス・オープン!』


すると、視界の端に半透明のボードが現れた。

【固有スキル:解析】

・対象の能力、弱点、本質を全て見抜く。


(……きた! アニメで見たやつ! しかも「本質」まで見抜けるなんて、冤罪でハメられた私には最高のご褒美じゃない!)


私はさっそく、パパとママを解析してみた。二人はこの地方を治める優しい貴族。


(あたしの認識で言えば貴族って性格悪い悪役だけどやっぱり優しい貴族もいるよねぇ。よかった、優しい貴族の家に産まれて。)


周囲のメイドたちも、私の誕生を心から喜んでいる「善人」ばかり。


(あはは、平和。平和すぎてあくびが出るわ。でも、まずは力を蓄えなきゃ)


私は授乳の時間も、寝かしつけの時間も、ずっと魔力の操作を練習した。


普通の赤ん坊がハイハイを覚える頃には、私は屋敷の結界を解析して指先でいじり回し、言葉を覚える頃には、図書館の魔導書を全て頭に叩き込んだ。


「スティシア様は神童だ!」

「レイドール家の至宝だわ!」

周りがそうやって私を崇めるたびに、快感が走る。


(そうよ、もっと褒めて。もっと私に期待して。私はもう、誰にも不当に裁かれたりしない。このチート能力があれば、私は最強になれるんだから!)


優しい両親に愛され、何不自由ない暮らし。

前の世界と違って、幸せすぎた。罰がほしいほど、幸せだった。



あれから、十八年が経った。 


私はレイドール家の天才令嬢、スティシアとして、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていた。 


魔法の才能は溢れ、両親に愛され、このまま美しい人生を全うする――そう予定していた。 

あの日、街の広場を通るまでは。


「ひ、人殺し! 悪魔の申し子め!」 


怒号と罵声が響く広場の中央。 

そこには、ボロボロの服を着た一人の少年が、兵士たちに組み伏せられていた。


「違う……。僕は、やってない……。お母さんを助けようとしただけなんだ……!」 


少年の泣き叫ぶ声が、私の脳を鋭く突き刺す。


(……嘘。やめて。その言葉は、聞きたくない) 


脳裏に蘇るのは、冷たい拘置所。誰にも信じてもらえなかった、前世の私。 


解析するまでもない。

兵士たちの「本質」は手柄への欲にまみれ、

少年の「本質」は真っ白な絶望に染まっている。 


まただ。また「クズ」が「無実」を殺そうとしている。


「これより、大穴への投棄刑を執行する!」 


兵士が少年を突き飛ばした。 

広場の端にある、底の見えない巨大な穴。そこは飢えた魔物たちがうごめく、生きたまま貪り食われるための地獄だ。


「やめてぇぇぇ!!」 


気がついた時には、体が反射的に動いていた。 

ドレスを翻し、私は少年の腕を掴んで、力任せに陸地へと放り投げた。


「え……?」 


少年の呆然とした顔。 

安堵したのも束の間、私の足が、広場の縁で滑った。


「あ――」 


視界が反転する。 

上空に見える青い空が遠ざかり、

下からは獣の鼻をつく悪臭と、無数の「ギチギチ」という咀嚼音がせり上がってくる。


「…また」 


落下する数秒の間、私は笑った。 

善意? 慈悲? そんな高尚なものじゃない。 

私はただ、あの日の自分を助けたかっただけだ。 

――グチャリ。 

地面に叩きつけられた衝撃。 

悲鳴を上げる間もなく、暗闇から無数の牙が私の肉に食い込んだ。 

腕が引きちぎられ、腹が裂かれ、内臓を引きずり出される感覚。


(痛い…痛い痛い痛い痛い!! なんで! 私は二度もこんな目に会うの!?) 


意識が遠のく中、私の心から「無邪気なスティシア」が死んだ。

愛も、家族も、希望も、もういらない。

全てを諦めた、その時だった。私の下に変な魔法陣が展開される。

私の視界がホワイトアウトしていった。



視界の眩い光が収まった後、私の耳に届いたのは歓喜の叫びだった。 

豪奢な大聖堂、跪く魔術師たち。

そして、私を慈しむような目で見つめる白装束の聖女。


「ようこそ、異世界からの救世主様。私たちは、あなたのような気高き魂を待っておりました」 


体が熱い。強力な回復魔法によって、魔物に食い千切られたはずの腕が、腹が、見る間に再生していく。 

けれど、肉体は治っても、私の内側で何かが完全に壊れた音がした。


「なんで……。なんでよっ!」 


私は、自分の手で自分を抱きしめるようにして叫んだ。 

二度も、あんな地獄を味わわされた。

あのまま死にたかったのに。


「感情が乱れているのですね。」

「なら、救世主様。あちらをご覧なさい。この世界の清らかな自然、命の象徴ですよ」 


聖女に促され、私は重い足取りで聖堂の裏庭へ出た。


陽光が降り注ぐ美しい花畑の中に、そいつはいた。 

――スライム。 

青く透き通った、ゼリー状の体に、つぶらな瞳。

それは「ぷに、ぷに」と音を立てながら、ゆっくりと私の足元に這い寄ってきた。


(……ああ。これ、知ってる) 


前世にネット小説で見た。 

最初は弱い魔物を倒して、レベルを上げて、仲間を増やして。 

「可愛い」「癒やされる」なんて甘やかされて、主人公の相棒になるような存在。 


スライムは私の靴に触れると、甘えるようにその体を変形させ、すり寄ってくる。 

ひんやりとした、独特の感触。


「…………っ。」 


その瞬間、猛烈な吐き気が込み上げた。 この「無害そうな」感触。 


私を冤罪でハメた警察官が、取調室で「君のためを思って言ってるんだよ」と肩を叩いてきた、あの湿った手のひらの感触と同じだ。  

“善”の皮を被りながら、その実、相手を食い物にしようとする傲慢。 


このスライムだってそうだ。

私が「優しい救世主」であることを期待して、媚を売っている。


(なんで……なんで、この世界は私を放っておいてくれないの?) 


さっきまで魔物に食い破られていた内臓の痛みが、幻肢痛となって蘇る。 

助けた少年の驚いた顔。 

裏切られた期待。 

差し伸べた手の先にある地獄。 

目の前のぷにぷにとした塊が、私を嘲笑っているように見えた。


「ねえ…触らないでよ。」

 

私はじっとスライムを見つめた。

数秒の沈黙。

聖女やその周りの魔術師たちが「魔物を倒してくれるのかな」と期待する中、私の指先から、ドス黒いほどの高濃度な魔力が漏れ出す。


「汚い。不快。…消えて。」 


その瞬間、スライムの核から発火した。 

内側から爆発するような、青白い炎。 

逃げる暇も、悲鳴を上げる暇も与えない。 

ぷにぷにとした愛嬌ごときで、私の傷だらけの心を癒やせると思うな。 

スライムが蒸発し、焦げた芝生だけが残る。 

私は、その灰を冷めた目で見下ろしていた。


「…やりすぎかな。」



そして、スライムを燃やした日の夜。

私は呼び出されて聖堂へ向かう。


聖堂の奥で私を待っていたのは、まばゆい光を背負い、いかにも“清廉潔白”を絵に描いたような女だった。


「ようこそ、救世主様。私はこの国の聖女、セレナ。さあ、私と手を取り合いましょう。私たちは今日から、世界を救うための…そう、かけがえのない『お友達』ですわ」

 

女は慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、私の手を握ろうとする。 

だが、その瞬間に私の『解析』が、彼女の吐き気のするような内面を暴き出す。


【名前:セレナ・アステレヌ】

【本質:救世主を神の操り人形として思い込み、自らはその背後で甘い汁を吸い続ける独善者。民の犠牲など露ほども考えていない】


(……友達? どの口が言ってるのよ)

 

かつて、私を冤罪に追い込んだ連中と同じ顔。 

善意という名の鎖で人を縛り、自分だけが安全な場所で微笑む、最も不快な人種。


「ねえ、お友達なら、私の苦しみも分かってくれるわよね?」

「ええ、もちろんですわ。あなたの痛みは、私の……」

「じゃあ死んでよ。」 


私がどこからともなく虚空から取り出した刀を振った瞬間、彼女の喉元に赤い筋が走った。


聖女が何重にも張り巡らせていた神の加護と天使の加護ごと切り裂く一撃。 

彼女は驚愕に目を見開いたまま、言葉を失って床に沈んだ。


「…善なんて人を苦しめるものでしかないの。」

 

その時、聖堂の屋根を突き破り、黒い霧とともに魔王軍の幹部が舞い降りた。 

巨躯を震わせ、場を圧倒する威圧感を放つ魔族。


「ククッ! 聖女を自ら殺すとは、狂ったか救世主! ならばこの俺が――」


咆哮が響き渡る前に、私は彼との距離をゼロにした。 

加速ではない。世界の法則を『解析』し、自分を「そこに存在する」と再定義しただけ。

―パサリ。 

私の手刀が通り抜けた後、魔王軍幹部の首が、独り言を吐き出す暇もなく宙を舞った。

聖女の遺体と、魔族の首。 

その真ん中で、私は返り血を浴びたまま、空っぽの目で天井を見上げる。


「神様ごめんね?神様を守ってくれる大事な大事な女の子を手にかけて。でもさ、私をここに呼んだ聖女様がわるいよね。」


にっこりと、微笑んでそう言った。


聖女を葬り、魔王軍を蹂躙した私の前に、この世界の「理」そのものが姿を現した。 


天から降り注ぐ白光。実体を持たない、巨大な人の形をした「神」が、私の前に君臨する。


『愚かな転生者よ。私が与えた力を、なぜそのように振るう。世界を救う義務を忘れ、調和を乱すというのか』


 頭の中に直接響く、高圧的で無機質な声。 


私は、返り血で汚れた手をかざし、その「神」をじっと見つめた。


「義務……? 調和……? よくそんな言葉が吐けるわね」 


『解析』を開始する。 神の構成、世界のシステム、因果の糸。 すべてが見える。すべてが理解できる。


【本質:この世界を、ただのチェス盤のように弄ぶ遊戯者。人間も魔族も、その娯楽のための駒に過ぎない】


「あんたが作ったこのシステムのおかげで、私は二度も地獄を見た。無実の人間が死に、クズがのさばり、それを『運命』だと言い張る……。そんな不完全なプログラム、もういらないの。あなたはこんなに愚かで醜い世界を作ったのよ。最初からこんな世界作らなきゃよかったのに。こんな世界作らなきゃあんたもこんな結末にはならなかったでしょうね。」


『貴様に何ができる。私は神だ。私は不滅――』


「……解析終了。」 


私は指先を空に向けて、パチン、と鳴らした。 


神を形作っていた権能、その「核」となる術式を直接書き換える。 


――バリンッ! 世界そのものが割れるような音が響き、神の形が崩れていく。光が剥がれ落ち、そこにあるのはただの「虚無」だけ。


「神様って意外と弱いのね。まあいいわ。」


「今日から、私がこの世界のルールよ。善も悪も、運命も、全部私が決め直してあげる」 


私は、空いた「神の座」にゆっくりと腰を下ろした。

眼下に広がるのは、私が壊し、これから作り変える広大な世界。  


冤罪も、死刑も、孤独も。 私の気に入らないものは、すべてこの手で「無かったこと」にする。 


「…あはは。これなら、本当のハッピーエンドになれるかな?」 


「そういえば私の名前なんだっけ?」


スティシアが数秒考え込む。


「もうどうでもいっかぁ!」


一之瀬みらいとしての復讐は終わった。 

スティシアとしての絶望も超えた。 

人神となったスティシアは、返り血のついたドレスのまま、誰よりも美しく残酷に微笑んだ。

ヒーローもヴィランも紙一重

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