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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

身つくろい

掲載日:2026/02/24

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 グルーミング、という行いをつぶらやくんは知っているだろうか? そう、一般に身づくろい、毛づくろいと呼ばれるような行いのことだ。

 衛生や機能維持のために行われる仕草のひとつで、自分で行うときもあれば集団で互いに行うこともある。人間が風呂に入るのと似たような感じだろうかね、清潔にしていないと体調不良につながる率が高いし。

 とはいえ、それは多くデータを集めた上で分かってきたこと。いつだってデータに載らないようなマイナーでイレギュラーなことは、ちらほらある。それをどのように再現性向上させていくかは、研究畑のひとつの楽しみだろうけど、明かされないうちは厄介だよね。

 少し前に、友達から聞いた猫のグルーミングの話なのだが、耳に入れてみないか?


 数年前。友達の実家は唐突に猫屋敷となってしまった。

 そう聞いて、屋内のどこへ行くにも猫を目にしないときはない、みたいは高密度領域を想像してしまうかもしれないが、注目はむしろ屋外だ。

 実家は昔ながらの武家屋敷に近いつくりらしいが、その屋根とかしっくいの壁の上で頻繁に猫の姿を見かけるようになったというんだ。

 これまでに猫をまったく見ない、ということもなかったものの、その時期は異常だった。毎日、数匹が必ずそれらの場所に腰を下ろしながら、毛づくろいをする様子を見せていたというんだ。

 その時間もまた長く、自分の首の斜め後ろあたりを、器用に頭をひねりながら熱心に舐め続けている。やはり、どの猫も例外なくだ。


 純粋なグルーミングの域を越えている。友達も、そう思ったらしいんだ。

 なにせ彼らは人や他の脅威になるだろう存在の気配を察知しない限り、延々と続けるためらしい。なんでも休みの日に観察してみたのだが、彼らのうちの一匹は午前中から夜の闇が迫るまで、片時も陣取った場所を離れることなく毛を舐め続けていたとのことなのさ。

 一ヶ所を執拗に舐め続けるというのは、猫がどこかしらに不調などを抱えているがため……という話は聞いたことがあった。友達もそれかと思い、猫たちの動向へより気を配るようになったそうなんだ。


 家が猫屋敷、というか猫のたまり場になってしまって、一か月以上が過ぎたころ。

 友達はようやく、新たな異常に気が付いた。そのときは観察していた猫がやけに小柄かつ、後ろ足をけがしているのが分かったらしい。血が流れている。

 しかし猫はそれを意に介していないのか、張り出した屋根の上で、他のものがしているように、一心不乱に自分の毛を舐め続けていたのだけど。

 ふと鳴き声とともに、空から一羽のカラスが舞い降りてきた。

 猫にとって、自分の図体を上回る大きさのカラスというのは、十分な脅威だろう。その猫もカラスが降り立つかというタイミングで身を起こし、逃げ出そうとしたのだが、友達は見てしまう。

 猫が口を離した、首の斜め後方。そこの毛がごっそりと抜け落ちてしまったんだ。それは友達のこぶし大ほどもあり、かの猫がなめていたあたり一帯がまとめて被害にあったくらいだった。

 猫の身体は黒毛。カラスはというと、自らの身体と同じ色に惹かれたのか、あるいは猫を挑発する意味合いもあったのか、その猫がくわえ落とした大量の毛の山の上へ降り立って猫を見下ろさんとする格好だったが。


 友達が見たのはまず、猫の首後ろが「からっぽ」だったということ。

 毛のはがれた下にあるべき地肌が猫にはなく、ただ空洞がそこにあったらしいんだ。

 そしてカラス。着地からほどなく、短い悲鳴をあげたものの、すぐにその声は詰まってしまう。

 友達が目をやったときはすでに、カラスは縛られていた。猫の毛はいつの間にか細い綱、いや蛇の身体のごときものとなって、カラスを足から頭の先まできっちり締め上げていたのだから。

 骨の折れる音とともに、カラスの身体はふくらみを失い、どんどんと細まっていく。アナコンダなどは馬に巻き付いて、骨を砕いていき呑み込みやすくすると聞いたが、まさか目の前でこのような形で展開されるとは、友達も予想外。

 あっけに取られている間に、いよいよカラスの身体は細い管みたくなったかと思うと、ぐにゃりと折れ曲がりながら、猫の空洞へ向かって殺到。たちまちその穴を埋め尽くすや、猫の黒い肌は毛もろとも、元へ戻ってしまったらしい。

 しかも、足の出血も止まるどころか、怪我の痕跡もなくなっている。猫は先ほどの毛づくろいへの熱意もどこへやら、軽々と跳ねて、屋根の下へ消えていってしまったのだとか。

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