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軍師と気弱な神官

七話目


「なぁ……ありゃなんだ?」

「怪我でもしたんじゃね〜の」


 一人の冒険者が、受付に並ぶ少年に目をやる。

 小柄な少年の腕には、不自然に膨らんだ包帯のようなものが巻き付けられていた。

 

「いや、なんか布の下動いてんだよ」

「はぁ?うわっほんとだ、気持ち悪っ!」


 隣にいた男も、うぞうぞと動いた包帯に目をやると顔を引き攣らして声をあげた。


 別に俺に言われてる訳じゃないけど、ドン引かれるとそこそこショックだな……なんて思いながら、ロアはその片腕に縛り付けたソレに【拘束魔法】を掛け直した。



 

「おかえりなさい、迷宮はどうでしたか?」


 依頼から帰ってきたロアの姿を見ると、ミランダは、パッと花が散るような笑みを浮かべた。


「楽しかったですよ〜!……でも、火を吹くドラゴン像も、針山の罠もなかったな」

  

 もちろんどちらも、ロアの迷宮に対する勝手な偏見である。

 勝手に期待しといて勝手に落胆する、紛れもない自業自得だ。

  

「ドラゴ……?まぁ、楽しめたなら良かったです」


 後半の独り言のような呟きは、ミランダの耳には届かなかったらしい。


「その……依頼はどうでしたか?」

「ふふふ、ちゃんと達成できましたよ」


 得意げな表情で、ロアは鼻を鳴らした。

 

「えっ……と、まさかとは思うんですけど、それですか?」


 一方、ミランダは唖然とした表情で、ロアの右腕に巻かれた包帯を凝視する。


「あ、ちゃんと目で見た方がいいですよね」

「ちょ……っま、まっ……!」


 焦るミランダの静止も聞かず、ロアは腕の包帯を解いた。

 

 牙を剥き出しに、ロアの腕に噛み付く古本の魔物。

 見た目に反して、右腕は強化魔法により石のような硬さをしているため、ちょっと牙が食い込んで出血しているだけだ。


 絵面はともかく、怪我は大したことない。


「依頼の古文書回収ってコレのことですよね?」

「だ……」

「ん?」

「誰かーー!!神官様を呼んでーー!!」


 蒼白な顔のまま、ミランダの悲痛な叫びがギルド内に響き渡った。




 ◆


 「何か言いたいことは?」

 「ない……といいたいところですけど、強いて言えば、アレが依頼内容のものじゃなくて、報酬のグレードが下がったってところですね」

 「それでも銀貨二十枚は入ったじゃないか、文句を言うな」

 「それもそうですね」


 にこにこと笑みを絶やさないロアに、ニコラスは額に手をあててはぁぁ〜と長い溜息を零した。


「ま……っったく反省の色が見えないんだが」


 ロアはキョトンと瞬きをしコテンと首を傾げる。

 

「反省する点、ありましたか?」

「魔物を腕を噛まれながら、ギルドに持ち込む馬鹿がいるか!!」

「ここにいますけど」

「だから馬鹿だと言ってるんだ!!」


「あのー……応急処置は終わったのですが」


 そこに、気弱そうな神官が遠慮がちに声を掛ける。

 ニコラスはハッ……とした顔で大人しく、浮かせていた腰をそっと元の位置に戻した。


「えっと……、『魔導書の魔物』に噛まれた腕の傷は、そこまで深くなかったので止血だけしておきました。……というか、噛まれたとは思えないほど浅すぎるくらいでしたし……」


 神官はロアの白く細い腕を擦りながら、訝しげに首を捻った。

 ……そんなにまじまじと見られると恥ずかしいんだけどなぁ。

 

 「こほん……っ、自然治癒するまで安静にしておいて下さいね」

 「は〜い」

 「わざわざありがとなリーヴ」


 のんびりと返事をするロアに、ロアの頭をわしっと掴んで頭を下げさせるニコラス。

 この絵面では、ほぼ保護者のようだ。


 ニコラスにリーヴと呼ばれた神官の男は、恐縮した様子で被りを振った。

 ニコラスはどちらかといえば強面寄りだし、がっしりしたガタイだし、纏う雰囲気が熟練の剣士のそれだ。

 神官が怖がるのも頷ける……べつに、ニコラスを悪く言っている訳ではないが、だって俺は怖くないし!


「そういえば言ってなかったな、リーヴは元俺のパーティメンバーなんだ」

「えっ」

「い、いえいえ!!私はほぼ途中参加みたいなものですし……!!」


 予想外の関係に、ロアは目をぱちくりとさせてリーヴに目を向ける。

 視界の先には耳の先まで真っ赤になって必死に首を振るリーヴの姿があった。

 

「こう見えても元Aランク冒険者なんだぞ、先輩なんだからちゃんとは敬えよ?まぁ俺もだけど」

「私は前線に出ないしがない神官ですから……!!そういうのはやめてください、ニコラスさん……ッ!!」

「お前だってアンデット討伐のときはちゃんと前線に出てるじゃないか」

「アンデットは光属性魔法が特攻ですから仕方なく、ですよ!!」


 確かにアンデットは闇属性の魔物の為、相反する光属性とは相性が悪い。……が、アンデット系の魔物でもロアが遭遇したもののように剣や斧を持った魔物がいる。

 近接戦闘も考慮しないと、基本的には魔法使いや神官は前線には出れないのだ。


(杖術とか嗜んでいるのかな、見てみたいなぁ)


「む、むむ、無理です……っ!!そういうのは、ニコラスさんにお願いします!!」


 おっと、声に漏れていたらしい。

 リーヴは首が取れそうな勢いで断られてしまった。

 これ以上頼み込んでも、リーヴの首が本当に取れそうだし……今回は諦めようかな、残念だけど。


 

 

「で、お前は次の依頼でも受けに行くのか?」


 そろそろ戻ろうかと席を立ったところ、ニコラスに声を掛けられた。


「んー……そうですねぇ、資金も少しは入りましたし、装備と旅支度を進めようかと」

「もう街を出るのか、向かうのは王都か?」

「取り敢えずはそうなりそうです」 


 もし仮に、ここが周辺諸国の何処かなら、王都なら一度は外交で訪れたことがあるはず。


 出来れば、大使館にいる皇国の外交官と会うことが出来れば皇国とも連絡が取れるんだけどなぁ……この姿じゃ入ることすら無理か。




 なんなら派閥争いの激化でピリピリしているし……間違いなく間者だと思われて、うちの優秀な部下に牢屋にぶち込まれるだろうな、うん。


 

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