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軍師と迷宮②


「ここが、『封石の迷宮』」


 パトレアの街から荷車に乗せてもらい数刻。

 森の中に埋もれるようにしてそこにあったのは、地下へと続く神殿のような建物だった。

 石造りの外壁はところどころひび割れて風化している。その隙間を蔓草が生い茂り、今にも緑で覆われてしまいそうだった。


「中は……なんか皇城の地下に似てるなぁ」


 薄暗い通路には、ぽつぽつと松明が置かれているのみ。

 時折、魔物の鳴き声のようなものが反響して耳に入る。


「んー……、もう少し進んだ先かな、三体?」


 ロアは魔法使いだ。

 魔法使いは総じて、魔力を扱うことに長けている。

 姿形は分からなくともそこに魔力反応があれば、何かいることくらいは感じるのだ。


 予想通り、暫く歩いたところでそれと鉢合わせた。


「レイスか」


 手のひらほどの大きさの、青白く光る物体がふよふよと空を彷徨っていた。


 アンデット系の魔物には、物理攻撃や魔法攻撃が効きにくい。

 対抗手段としては、一つは、聖属性魔法と呼ばれる女神の魔法を使うこと、二つ目は、聖なる力が込められた武器を使うことだ。

 基本的に、多くの人は前者を選ぶ。

 初歩魔法である【聖光ルクス】や【浄化ピュア】程度であればすぐに習得出来るからだ。


「【聖光ルクス】」


 ロアの手の平から、白い光の線が飛び出て、真っ直ぐにレイスを貫いた。

 ……なんというか、もはや弾丸だ。


「【聖光ルクス】ってこんなんだっけ……」


 なんかもっと、手の平から光が溢れ出るような感じだった気がするが。

 ……まぁ細かいことは気にしても仕方ない。大分久しぶりに使ったから記憶違いの可能性もあるし。

 残りのレイスも【聖光ルクス】で貫いて倒した。


 ロアは更に奥へと進む。

 途中、下に降りる階段を見つけると、徐々に下層へと潜りながら迷宮探索は順調に進んでいた。


 カラン……カラン……と、すぐ近くで音がした。

 音はどこからだろうか、と立ち止まったところ、真横の通路から剣先が飛び出す。


 人骨の身体に、手には赤く錆びた剣を握った魔物。

 『スケルトン』だ。


「【風刃エアスラッシュ】」


 生み出された大きな風の刃が、スケルトンの骨だけとなった身体を粉々に粉砕した。


「ギ……ガガ」

「まだ動くんだ……」

 

 しかし、流石はアンデット系の魔物。

 属性魔法では効き目が薄いのか、散らばった骨の残骸がガタガタと小刻みに震えて、身体を修復しようとする。


「【聖光ルクス】」


 スケルトンの残骸に【聖光ルクス】を浴びせると、骨は砂のように細かくなって、サラサラと消滅した。

 


「なんでアンデット系って聖属性魔法でしか倒せないんだろう……」


 普通の魔物ならいくら相性が悪くとも、倒せないということはないのに。

 アンデット系の魔物には魔石がないということとも関連しているのだろうか。


「……【風刃エアスラッシュ】で砂になるまで切り刻んだら、さすがに修復出来ないのかな」


 【聖光ルクス】を浴びたスケルトンは、砂となって消え去ったが、もし【風刃エアスラッシュ】でその状況を作り出したら再生するのか、それとも消滅するのか。


「お、あそこにちょうど一匹いるじゃん、試してみよ〜」


 ロアの視界に、カシャカシャと骨を鳴らす一匹の『スケルトン』が……。

 こんな思いつきで実験の犠牲になろうとは。このスケルトンも運がない。


「【多重魔法陣発動《マナオーバーチェイン リリース》】」


 スケルトンを囲むようにして、いくつもの魔法陣が空中に描かれる。


「【風刃エアスラッシュ】」

「ギ……ッ!?」


 無慈悲にも、スケルトンが気づく頃には、風の刃はすぐそこまで迫っていた。

 音速の不可視の刃はスケルトンの身体へと降り注ぎ、原型が無くなるまでその身体は切り刻まれた。


「さて、どうかな〜再生するかなぁ」


 スケルトンの残骸の前にしゃがみこむと、暫く様子を見てみる。

 このまま「ギギ……」とか喋ったら面白いのだが。


 残骸に変化はない。

 魔力で身体を結合するような反応もない。


「なんだ……倒しにくいだけで、やっぱり属性魔法でも倒せるんだ」


 アルベルト陛下への土産話がまたひとつできた、とロアは上機嫌で鼻歌を鳴らす。


 まぁ、実際には同時に多数の魔法を発動させる『多重魔法陣』というイカサ……、高度な魔法技術を持ってしないと倒せないのだが、そんなことはロアの頭からすっぽり抜け落ちていた。


 結局のところ並の魔法使いでは、やはり属性魔法でアンデット系の魔物を倒すことは出来ないのである……。



 ――――


「あ、」


 ロアは何かを見つけて声をあげる。

 視線の先には数冊の『本』が。

 

 ただし、まるで意志を持ったかのように、通路をふわふわと進んでいる。


 もしかして、これが『依頼』に書いてあった『古文書・遺物の回収』のやつか……?


「あぁ、なるほど、それであの報酬金額だったのか」


 ロアは納得したように呟いた。

 この『本』も魔物の一種なのだろう。

 ロアは初めて見るタイプだが。


 なんか、よく見ると口も付いているし……もしかしてあの本噛み付くのかな。

 いやいやまさか、ミミックじゃあるまいし……。


 試しに後ろから捕まえられないかと、気配を消して手を伸ばす。


 (慎重に……、そー……と本を閉じて)


 ロアが本を掴もうとしたその瞬間。

 グワッと、本の背表紙に鋭利な歯を剥き出しにした口が開いた。


「……っ?!」


 そのままガブリ!!とロアの腕に本が噛み付く。


「おいコラ!!」


 ブンブンと腕を振り回すが、なかなか離してくれない。

 全く……っ、俺の腕は食べ物じゃない!!あと歯がくい込んで痛い!!


「ん、待てよ……」


 たしか、依頼内容って『古文書・遺物の回収』だったよな……。

 それなら、この状態のままギルドに持っていけば依頼完了なのでは……??

 

「――……よし」


 そうと決めれば早かった。

 拘束魔法で魔物を固定し、本(?)の回収作業を進める。

 傷が付かないようにと、保護魔法まで掛けてやった。


 本は「ギギギ……!!」と不満そうに暴れているが、ロアの頭の中は沢山の銀貨でいっぱいだ。


「大丈夫。ギルドマスターなら、たぶん許してくれる」


 ――多分。

 


 


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