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軍師とシゴデキ冒険者②


 封石の迷宮上層五階

 拠点、作戦本部・救護所――。


「ここが今回の迷宮攻略における作戦本部だ。負傷者の救護所に加えて、補給品の物資倉庫も配備されている。俺らが用があるのはこっちだな」


 迷宮内には、簡易組立式の真っ白いテントが所狭しと立ち並んでいた。

 中央にある一際大きな天蓋が、おそらくレンのいう作戦本部なのだろう。だとすれば、ニコラスもあの中にいるのだろうか。いや、あの男のことだ、細かい指示は自分の部下に丸投げして自分は前線で剣を振るっているに違いない。


 『ロア、俺もそろそろ……』

 『どこに敵陣に突っ込む皇帝がいるんですか……ダメですよ、……メッ!』


 (陛下も率先して前に出るタイプだったからなぁ……宥めるのが大変だった)


 在りし日のアルベルト陛下の姿を思い出し、くすりと笑みを浮かべる。

 嗚呼……でも、今は彼のストッパー役がいないんだっけ、じゃあ誰が代わりに――。


「おいチビすけ?」

「わー……すみません隊長殿、ちょっと緊張してぼーっとしてました」


 『チビすけ』と呼んだ声の主は、いつの間にか俺の前に立っていたレンだった。多分子供だから『チビ』って呼んだんだろう。俺の名前は知らないだろうし。


「ぼーっとしてるとその辺のレイス共に取り憑かれちまうぞ、知ってるか?レイスに取り憑かれるとこわぁい女の霊が影から這いずって来るんだぜ」

「あははっ、その女性って隊長が泣かせた女の人ですか?それはたしかに"こわぁい"ですね」


 にこり、と。悪意の欠片もない笑顔を浮かべるロアに、レンの額にぴしりと青筋が浮かんだ。


「……お前なぁ」

「冗談ですよ〜」


 ひらりと肩を竦めると、レンは深い溜息を吐いた。


 「……たくっ、減らず口叩く余裕があるなら働け。チビだからって俺は容赦しないからな」

 「了解です、隊長殿にくっついていますね」

 「いいぜ、せいぜいこき使ってやるよ」


 ちょうどその時、隣のテントから数名の冒険者たちが木箱を抱えて戻ってきた。

 弓兵の女性と魔法使いの女性がこちらに気づき、軽く手を振る。どちらも『疾風の旅団』の団員だ。


「レンー!こっちの仕分けは終わったわ、そろそろ供給地点に運んだ方がいいんじゃない?」

「お〜、ありがとなーヴァレッサ!!」



「ね、隊長殿」

「ん?」

「弓兵の子と魔法使いの子、どっちを泣かせ――へぶっ」

「ははっ、マセガキに改名するぞ」


 言い切る前に、レンから容赦のないげんこつを食らった。 

 子供相手になんてことを……!!まぁメリケン付けてないだけいいかな……あれで殴られるとめちゃくちゃ痛いんだよね。


「……うぅ、ただ若い子の話をつまみにしたかっただけなのにぃ」


 痛みに悶えていると、ドスンッ、という音を立てて目の前に木箱が現れた。

 中身は、魔力回復系統のポーションがびっしりと詰められている。


「お、重……」


 試しに持ち上げて見るが、ロアの……子供の腕力には重すぎるのだろう。持ち上げた細い腕が、ぷるぷると子鹿のように震えていた。


「落とすなよ、落としたら自己責任だからな」

「まじか……」


 『やっぱチビには重すぎるか、こっち持て』とかって言葉をちょっと期待してたんだけどなぁ……。

 

 世の中そんなに甘くない、……とほほ。



  

◆◇◆



 『疾風の旅団』隊長のレンが率いる七班は、三手に分かれて行動することとなった。


 『封石の迷宮』は、下層へ進むにつれて道が幾重にも枝分かれしていく構造を持つ。

 上層ではまだ一本だった道も、中層に差し掛かる頃には蜘蛛の巣のように分岐し、さらに下層では迷路の如く複雑に絡み合う。

 正しく下層へと向かう道を選び取れば最深部へと辿り着けるが、一本誤れば、また同じ階層へと引き戻される。

 ゆえに、今回の攻略では主戦力を三隊に分け、それぞれ別の進行ルートを同時に攻略していく作戦が取られていた。 

 ――必然的に、補給地点もまた三か所ということになる。


 そして、ロアが向かうのはその内の一つ、偶然だが、A級パーティである『白狼の牙』とニコラスが率いる第一班だった。


「各階層ごとに冒険者が配置されているとはいえ、魔物はそこらじゅうに湧いているからな、気ぃ抜くなよ」


 先頭を歩くレンが片手剣で横からひょっこり現れたスケルトンの首をスパッと切り落としながら、そう口にする。

 あ、転がった頭も蹴飛ばした。スケルトン……自分の頭どっかいっちゃって困ってんじゃん……。


 今のところ、現れた魔物はすぐにレンが対処してくれているため、正直ロアたち新人冒険者が出る場面はない。

 まぁ、どっちにしろアンデット系の魔物に物理攻撃は効かないから意味は無いのだが……。因みに、レンの持つあの片手剣は仲間の魔法使い……ヴァレッサが退魔の力を一時的に付与してくれたものだ。さっき本人がそう得意げに言っていた。


「そろそろ中間地点くらいだな」

「結構歩きましたもんね」

「お〜い、お前ら大丈夫か〜」


 レンは、ゼェ……ハァ……と息を吐く冒険者の方へと振り返った。

 ロアは樽しか持っていないが、後ろの冒険者たちは前で戦うレンの分の荷物も担いでここまで歩いてきたのだ。


 (正直、初めて子供でよかったなぁって感じたな)


 元々、そんなに力のある方ではないし……。

 あくまで皇帝の補佐役だしね、うん。


 



 

 ――封石の迷宮・中間拠点(中層15階)


「「「やっ……と着いた〜」」」


 各々、担いでいた荷物を拠点にいるギルド職員へと引き継ぐと、そのままヒンヤリする床の上へと倒れ伏した。

 あぁ……いいな、このまま眠ってしまいそう……。


 「おい……てめぇら、そんなとこで伸びてんじゃねぇよ」


 ドスッ


 「んぐ……っ」


 その辺に転がっていた天パの冒険者が、レンの足蹴りによって壁と衝突する。

 うわぁ……可哀想。


「おい、チビすけ」

「な、なんですか。隊長殿は子供を甚振る趣味がおありで?」

「ねぇよ。お前は別件、ちょっとこっちこい」


 真顔で手招きするレン。

 "お前は別件"……?誰かに呼ばれているのか、とすれば相手は……。


 大人しくレンに着いていくと、拠点内にあるテントの中へと入れられた。

 

 そこには一人のギルド職員が縮こまって座っていた。


「あー……そういうことか。だよね、俺も気になってたけど」


 ギルド職員は、ロアに気づくとガバッと立ち上がり直角九十度を超える勢いで頭を下げた。


「ほ……っ、本当に申し訳ありません!!!」

「ど、どういうことだ……」

「あはは……事情は俺から話しますよ、隊長殿」


 正直、この職員さんに経緯をお願いしてもしどろもどろになって話にならなそうだし……。

 まぁ、何となく予想はつくから『……ですよね?』って聞きながら頷いて貰えればいいかな。


「で、俺を呼んでるのはニコラスさん……ギルドマスターですよね?」


 職員はうんうん、と頷く。レンは『ギルマスが……?』と困惑気味だ。 


「貴方はニコラスさんに『あのロアとかいう子どもは俺のいる前線に連れてこい』って指示されていたんでしょう。でも、うっかりそのことを忘れてしまってニコラスさんから怒られてしまった。そして、再度指示されてここにいるんですね」

「は、はい……その通りです」

「ちょ……ちょっと待て、なんでこいつが前線に行くんだ??」


 レンの言うことはごもっともである。ただのD級冒険者……ましては子どもとギルドマスター、繋がりが見えないのは確かだ。


 (でも、所々機密ぽいところがあるし……『テトラ遺構群』については話が長くなるからなぁ)



「実は、俺……」


 ロアはスゥー……と深呼吸をすると意を決したように口を開いた。

 

 

「め……っ、迷宮の声が聴ける"迷宮の妖精さん"なんです!!」

 

「め、"迷宮の妖精さん"……!」


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