軍師は黒歴史を暴露される
「申し訳ありませんが、迷宮内での異常は感じられませんでした。俺は魔法使いなので魔力の流れには敏感なのですが、魔物の群れがあるような魔力反応は上層から下層三十階辺りまではなかったと思います」
ロアの言葉に、ニコラスはグッと押し黙り、周囲の冒険者たちまでもが落胆の色を見せた。
談話室には重苦しい沈黙が流れた。
「――……しかし」
暫くして沈黙を破ったのは、他でもない、ロアの声だった。
「あくまで仮説ですが、今回の件について似たような事案が過去にありました。お話できる範囲でお伝えしようと思うのですが――」
「実態は一刻を迫っている。言ったはずだ、些細なことでも伝えろと」
言葉とは裏腹に、その表情に焦りは見えない。どちらかといえば、安堵しているような……ほっとしているような。
ニコラス的には、やはりロアが何も知らないことなど有り得ないと予想していたのだろう。
良くも悪くもこんな小さい子どもに期待しすぎだ!……まぁ中身は中年のおじさんだけどね。
「では……皆さんは『四神王朝期魔導文明遺構群』というものをご存知ですか?」
「……すまない、何といった」
「四神王朝期魔導文明遺構群……まぁその跡地ですね、四神王朝期魔導文明遺構群跡地。
――かつて、『神殺し』が起こる前、この世界は四柱の神々によって治められていました。東の『日の神』西の『月の神』南の『海の神』そして、北の『地の神』……この神々による統治時代を四神考古学では『四神王朝期』と呼び、その遺跡跡地を『魔導文明遺構群』というのです」
神は万物の祖であった。
幾千年の時が流れ、神々による統治時代――『四神王朝期』が終焉を迎えた今なお、人類はその文明域には達していない。
失われた黄金の都。
神々の残した叡智。
そこにあるのは、金銀財宝か。
あるいは、神々が滅びゆく世界で残した"呪い"か――。
実際に、発見された遺構群の多くは、未解明の魔法陣や残骸もどきの遺跡守衛によって、その先が封じられていると記録が残されている。
故にその最深部までには、人類は到達していないのが現状だ。
――……
「では、長ったらしいので『テトラ遺構群』と抄訳しますね。
――皆さん薄々勘づいていると思いますが、今回の『封石の迷宮』には『テトラ遺構群』のある可能性が高いと思われます」
「しかし……その、『テトラ遺構群』は何千年も前に失われた神話の都だろ?なぜ今になって……」
「そうですねぇ……まぁさっきも言ったように『似たような事案』があったんです。……そこはここのような迷宮ではなく、とある邸宅の地下でしたが」
それは約十年以上も前の話。
とある国の一人の魔法使いが、自宅の地下深くで『遺構群』を発見したことであった。
地下といっても、数メートルや数十メートル規模の深さではない。何百キロもの深さである。
その魔法使いの言い分としては、曰く……『魔法の練習をしたかったんだが、地上に影響を出さない為にはこうするしかなかった』との事だ。
全く、飛んだ頭のネジが外れた魔法使いだ。
「懐かしいな、それは皇国のヴァルター軍師の話だろう?」
「え、ニコラスさん……なんで知って……」
「その話なら俺も聞いたことあるわ、父さんに」
「あー、たしか地下遺跡を火の海にして魔法省と大喧嘩したっていうあの伝説の……」
「それなら、捕獲した古代ゴーレムを勝手に改造したとかで錬金魔法協会とも喧嘩になってたよな……」
ロアは言葉を失った。
まさか、まさか自分の黒歴史の一つがこんな遥か遠い異国の地にまで届いているなど、出来れば信じたくはなかった。
というかどれも、やれ何とか省と大喧嘩したや何とか協会と不仲になっただ……そればかりである。もっと『皇国の軍師ヴァルター』の逸話なら!!輝かしい戦績や英断があるだろうが!!
「ンン……ッ、話を戻しますが、その『テトラ遺構群』には魔力を遮断する結界と転移魔道具が発見されたと……記録に残されていました。
まぁ……転移魔道具いっても一瞬で移動できるような代物ではなくて、少しずつ転移地点に吸い寄せられていくような微弱なものですけどね」
「つまり、行方不明になった冒険者たちは知らず知らずのうちにその遺構群に辿り着いて、戻れなくなっていると?」
「その可能性は高いです。戻るには転移魔道具を解除しなくてはいけませんから」
あえて『解除』にしたのは、それこそ過去に魔法省から口煩く文句を言われたからだ。うっかり燃やして破壊してしまえば、今度こそあのジジイ……おっと失礼、局長殿に訴えられかねない。
「ちなみに……その遺跡守衛はD級パーティでも倒せるか?」
「んー……遺跡守衛一体を相手にするなら問題ないと思いますけど……」
ロアは言葉を濁した。
――D級パーティでは荷が重い、囲まれれば全滅もあり得る。
だが、そのような判断をただの子供が口にするのは、反感を買いかねない。彼らには彼らなりの冒険者としての誇りがあるのだ。
談話室の視線が、じわりとロアに向く。
「――建前はいらん、今は率直な意見が欲しい」
ニコラスが小さく息を吐いた。
横から差し込まれた言葉だったが、そこに責める響きはなかった。
「濁すな、結論を言え」
(あぁ、たしかに……これなら俺も言いやすい)
ニコラスなりの優しさに一瞬頬を緩ませ、直ぐに真剣な表情へと切り替える。その瞳に迷いは無い。
「確実に、死にます」
そうとなれば早かった。
ニコラスは席から立ち上がり、周囲の冒険者達へと視線を走らせる。
「よし、お前ら半刻後に迷宮に集合だ、俺は街にいる冒険者に緊急召集令を出す!!」




