5:太陽と、銀髪少女。
遅れました・・・。
いろいろありまして。いや、言い訳するつもりはけっとうありません。
いや、その・・・すみません・・・。
月夜たちを連れて自分の教室である3-1へ入ると、もう奈波が情報を流したのか、教室は騒然としていた。ちなみに俺、月夜、花恋、鹿彦は共に同じクラスである。クラスに入ると月夜、花恋は女子の輪に混じっていき、鹿彦は教師に捕まった。涙目で助けを求めてきた彼に、最上級の微笑を返してやった。どうせ勉強をことだろう。
俺はささっと自分の席へ移動した。俺の席は一番窓側の一番後ろ。居眠りにもってこいの席である。
「よお、太陽。」
丁度席に着いて教科書類を準備していた前の席の男子が声をかけてきた。こいつは俺の親友の高宮蓮。男バージョンの月夜と思ってくれてよい。ようは、完璧超人なイケメンサッカー部という、女子が憧れ男子が妬む存在だ。無論、性格も優しい。
「おう。ところで蓮、この様子だと転校生のことは・・・」
「ああ、知ってるぞ。どんな子かなぁ・・・」
「さあな。」
「何だよ、いつもにまして淡白な反応だな。ひょっとして知り合いか?」
何やらあくどい笑みを浮かべてくる。こいつは俺の苦悩を笑って楽しむ楽観主義的性格があるからな・・・。
「いや、違う。ただ奈波が俺の知り合いかもって言ってきただけだ。」
「んだよ、知り合いじゃねえか。」
「いや、まだ決まったわけじゃ・・・ねえ。」
「そんなこといったってなぁ・・・。七条の情報だろ?」
「・・・」
確かに奈波の情報が外れたことはない。テストの点も、恥ずかしいエピソードも、彼女には筒抜けなのだ。絶対敵にしたくない人ナンバー1だ。
「・・・寝る。」
よって現実逃避を決め込むことにした。
「おう、いい夢見ろよ。」
ニヤニヤしながら言ってくる親友を最後に俺の意識は闇へと堕ちていった。
懐かしい夢を見た。幼い俺と、誰かが遊んでいる夢。遊んでいるのは可憐で、珍しい銀髪の少女だった。どれだけの時間か分からないが、少女と俺は一緒にたくさん遊んでいた。少女は気弱なのか、あまり会話が得意ではなかった。でも楽しそうだった。
それも突如終わりを告げた。
少女は言った。
「私・・・ね。・・・外国へ・・・行くことになったの。」
「え?」
「だから・・ゥッ・・ヒック・・もう・・会えないの・・・」
少女は泣いていた。感情変化の乏しい彼女が泣くのを、俺ははじめて見た。だから彼女を泣き止ませて安心させたい、幼いながら俺はそう思った。
「・・・大丈夫だよ。」
俺は彼女を抱きしめた。思ったより小さく、細く力を入れてしまえば容易く壊れそうな体だった。
「きっとまた会える。いつになるか分からないけど・・・きっと会える。」
「・・・・・・・・ぅん。」
確証はなかった。でも彼女を安心されるのには十分だったらしい。
それから二日後、彼女は旅立った。
彼女の名前は・・「た」・確か・・「太よ」・・・・・
「太陽ってば!!」
ふいに現実へ引き戻された。重い瞼を開くと、目に映ったのは月夜、花恋、蓮の姿だった。とりあえず挨拶。
「・・・はよ、皆さん。」
「はよ、じゃねよ。もう昼だっつうの。」そう言う蓮は呆れ顔だ。
「え?」
我が腕時計で時刻を確認。十二時四十五分。
「まじかよ・・・」
がっくりと机にうなだれる。学校の半分を眠りで消化してしまった。
ま、いっか。
「じゃあ飯食おうぜ。」勢いよく立ち上がる。
「それでいいのかよ・・・。」
俺のポジティブな考えに皆苦笑していた。
そう言って俺たちは屋上へ向かった。屋上は解放されているので、生徒は自由に出入りできる。だから俺たちはいつも屋上で昼食を食べる。
あ、そういえば。俺は歩きながら軽く後ろを見て月夜に聞いてみることにした。
「月夜、一ついいか?」
「何?太陽。」
月夜は花恋との話を止めてこちらを向いた。
「転校生って結局どうなったんだ?」
そう、転校生が見当たらないのだ。クラスを出る前、見慣れない顔はなかった。
「ああ、転校生ね。何か用事で遅れて来るって…」
いや…遅れて来るって…もう昼じゃん。ホントに来るのか?と疑問に思いながら俺は屋上の扉を開けた。
すると先客がいた。別に生徒出入り自由だから人がいてもどうってことはない。しかし、その後姿はあまりにも奇妙だった。
銀髪なのだ。銀髪の腰くらいまであるストレート。いくらなんでもウチの学校に銀髪はいない。だが彼女はウチの学校の制服に身を包み、フェンスにもたれて街を眺めている。すると、彼女が転校生なのだろうか?
「誰だろう?」
「誰だ?」
月夜と花恋はそろって首を傾げている。
「なあ、太陽。まさか「言うな、おそらくは間違いない。転校生だろう。」
だが、何故ここにいる?校長室とかに行くはずだが。てか月夜の話じゃ遅れてくるって・・・。
疑問が次々浮かんでくる。月夜たちも同様のことを考えているのだろう。思案顔になっている。
しかし考えたってどうにもならない。理由は本人に聞くのが一番だろう。
「なあ。」
1人彼女の二歩くらい後ろまで近づき呼びかけてみた。
誰かに声をかけられたのが分かったのか、彼女は振り返った。
美少女だった。高い鼻と碧眼、小さい唇。プロポーションも月夜とかと負けず劣らずで身長が女子にしては高い。だとすると美人といったところか。
「・・・何?」
声をかけたのに黙りこくった俺を不思議そうな目で見つめる女子。といっても表情に変化はないが。
「いや、なんでもない。ところで君が転入生か?」
コクリと頷く転入生。どうやら口数の少ない人らしい。
「何故こんなところに?」
「・・・・迷った。」
・・・・マジかよ。
「そう・・・か。何なら案内してやろうか?俺、太陽って言うんだ。よろしく。」
「・・・・・・え。」
案内しようと扉のほうへ向かおうとしたら銀髪の子から驚愕の声が上がった。
「今・・・太陽って・・・。」
「ん?ああ、俺は陽気太陽だ・・・・が」
振り返ると、彼女からはあふれんばかりの涙。
「太陽・・・太陽・・・会いたかった!!!」
そのまま彼女は抱きついてきた。
・・・え?
俺、硬直。月夜たち、硬直。銀髪の子、涙。
しばらく時が止まったかのように固まった俺たち。
その間聞こえてくるのは俺に抱きついている子の嗚咽だけだった。