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9:太陽と友人の家。

朝方、とある道場にて。

二人の男女が相対していた。

一方は木刀を振りかざして数多あまたの斬撃を繰り出し、もう一方はそれをよけつつ合間に蹴術を組み込む。あまりにもその姿は綺麗で、二人は踊っているかのように見えた。


しかしそんな舞踏も終わりを迎える。


「やっぱり強いな、太陽は」

そう言って花恋かれんは苦笑し、木刀を持った手をもう一方の手を共に上へ上げて降参の意を示す。そこでようやく俺は彼女の顔の前で止まっている左足を下ろした。


「男なんだから当然だろ。むしろお前が女にしては強すぎるの」

先程の流れるような斬撃。舞い踊るように立ち振舞うその姿は、まるで戦神いくさがみ

「でも太陽は全部よけるきったじゃないか。だから君の方が強い」

不満そうに唇をすぼめる花恋。

「いや、だからね」

思わずため息をこぼしそうになる。

妙なところで執着するのは彼女の悪い癖だ。少なくとも今俺の強さは関係ない。

「しかしこのままだとな~。嫁の貰い手がなくなりそうだな」

男より強い女。男である身としてはその気持ちはよくわかる。プライドを傷つけられる危険性があるからな。


しかし花恋は暫く考えたあと、うっすら赤く染まる頬で告げる。

「うん。もしそうなったときはよろしくな」

「・・・いやいや。俺とじゃ釣り合わないって。花恋が可哀想だしそれにあんまり俺は顔も良くないし」

「ふふふっ。顔赤いぞ」

からかうように花恋が言う。

「うるさい」

くそっ。ダメだ。やっぱり月夜とか薫以外の異性には弱い。今まともに花恋の顔見れないって。

俺は視線をさまよわせる。すると花恋は微笑して、俺の頭を撫でる。

「やっぱり太陽は可愛いな」

「・・・」

見るな。いくらエロいからってみずしたたっている二つの水蜜桃を覗くんじゃない。乱れた彼女の胸元からのぞくそれは、俺を本能を刺激する。必死で目を背けようとして、





「じぃー」


「じぃー」

不意に視線を感じた。

見下ろすと、いつの間にか俺の腕に幼馴染らしき人物が抱きついていた。

「どうした?月夜」

月夜は花恋を恨めしげに見つめて、抱きつく力を強めて言う。

「花恋ちゃん。太陽は私のだよ」

「いや違えよ」

咄嗟とっさにつっこむ。

「ふふふっ。そのとおりだよ。太陽は月夜のものだ」

「本当に?」

「勿論だ」

月夜はそう言う花恋の目の奥が笑っていないことに気づく。暫く二人は視線をあわせ、

「絶対負けないよ」

「私もだよ」




こっそりと道場を抜け出した俺は着替えを済ませ、家の廊下を歩いていた。ちなみにこの家は花恋の家。

代々続く由緒正しい家柄らしい。俺は花恋との鍛錬のため、しばしばここに訪れていた。今日もその一環だ。しばらく庭園を見ながら歩いていると、

「おお、太陽君じゃないか」

「竜真さん」

声が聞こえた方を見やると一人の男性が歩いてきた。姉柴竜真あねしばりゅうま、花恋の父親だ。黒髪をオールバックにし、後ろで束ねている。そして着物姿。なかなか時代錯誤なお人だ。

竜真さんは俺の目の前で立ち止まり、

「また花恋と鍛錬かい?」

「ええ。流石竜真さんの娘ですね。手こずりましたよ」

「ふっ。それでも勝ったのだろう?」

「まあ、一応」

「うん、流石だ。これなら安心して娘を任せられる」

「いやいやいや。俺にはあんな美人もったいないですって」

どうやら俺は家族公認の花恋の嫁の貰い手らしい。

「そうかそうか。君も中々強情だな」

そう言ってポンポンと俺の肩を叩く竜真さん。そして、

「では、私はこれで御暇するよ。ゆっくりしていってくれ」

そう言って去っていった。


その後、俺は月夜たちと合流し(一瞬妙な緊張感があったのだが気にしないことにする)、暫く居間で談笑したりしてくつろいだあと、二人と別れた。今日は2人で遊びに行くそうだ。俺も誘われたが、丁重に断っておいた。流石に美女2人を連れて遊ぶときの野郎の殺意の視線はキツイ。


そんなわけで俺は蓮の家へ行ってみることにした。俺の家から徒歩10分程のところにある彼の家は、所謂いわゆる豪邸だ。西洋風の屋敷を想像してもらって構わない。プラスで広い庭とレンガ造りの壁が周囲を囲んでいる。

高宮蓮。イケメン、サッカー部、金持ちの御曹司、性格は優しい。・・・ひょっとして彼が主人公なのでは?蓮が主人公ならきっと王道ラブコメディを進むだろう。ちっ。


密かに殺意を向けつつ、蓮の家のインターホンを押そうとする。すると、

「太陽様ですね。ようこそいらっしゃいました。本日はどのような要件で?」

「蓮はいるか?・・・・・・おいおい此奴こいついるのかよ(小声)」

「御子息様でしたら今日は出掛けております」

「そうか」

「一服していかれますか?」

「いや、止めとくよ」

「一服していかれますか?」

「いや、だから止めと」

「一服していかれますか?」

「・・・」

「一服していかれますよね?」

俺は素直に頷いた。そりゃそうだ。俺の背中に引き金がついているであろう硬い物の感触がある。そうそう、鉛玉が出るやつ。世の中渡るために時には脅しに屈することも必要だ。



先程俺の背中に銃を突きつけていて、現在俺を従えて屋敷へと向かっている彼女は、この家のメイドさんである。本名蔵橋玲くらはしれい、年齢未詳(おそらく20代後半?)、彼氏なし。

「一言余計ですよ?」

あと、何故が俺の考えがわかる。

メイド服にヘッドドレスといういかにもな格好をしている、黒髪ロングの美人さんだ。


玲さんに連れられて、時々すれ違う使用人に会釈しつつ、通されたのは彼女の部屋。

「どうぞ、紅茶とクッキーです」

「はあ、どうも」

そう言って俺はクッキーを口にする。・・・うまい。流石高級品。

「ところで、何か用ですか?」

「用?ありませんよ」

「ないんすか?じゃあ何で俺を呼んだんです?」

「いえ、ただ最近太陽様が私に構ってくれないので」

「いやいやいや。玲さんは蓮の専属メイドでしょう?」

「はい。そして太陽様の妻でもあります」

「ありません」

「では、愛人ということで」

「そういうことじゃないです」

「むう。じゃあ何がいいんですか。私は貴方のなんですか?」

「友人のメイドです」

「まだランクアップできないんですね。分かりました。もっと頑張らせていただきます」

そう言ってペコリと頭を下げる玲さん。ちなみに彼女は口のみを動かしております。無表情キャラということで薫と息が合うかもしれない。


え?それよりも何で好意を向けられてるか?いやいや彼女の冗談だって。





そうして俺は豪邸でメイドと優雅な昼の一時を過ごしたのだった。



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