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かたつむりの精霊マツユのおつかい

᙭(旧ツイッター)で

#でんでんむちむち

というタグにてイラストを募集しております!

(でんでんむちむちなかたつむりがみたいという私の欲望から生まれました。むちむちは「ばぶぅ」から「ないすばでぃ」まで幅広くふくまれます)

こちらは

᙭@house_yamato さまのイラストをもとに

書かせていただいた物語になります。


「でーんでんむーちむち、かーたつむりー」


 ペタペタと足音を鳴らしながら歩く女の子。大きな巻き貝のリュックを背負い、触角のカチューシャをつけたカワイイ女の子。彼女の名前はマツユ。彼女はおつかいの途中でした。


「オレンジいーろのおにぎりとー」

「角あるサザエのカラみっちゅー」


 マツユが諳んじているのは、おつかいの内容。なんだこりゃ、と思いますでしょうが、これで合っているのです。なぜならこれは、魔法薬に使う材料なのですから。




 マツユが暮らしているのは丘の上にある細くて大きな二本の煙突と、二股に伸びている塔が目印のお屋敷です。そこで魔法使いの少年ソートとふたりで暮らしていました。


 マツユはかたつむりの精霊です。どこで生まれたか、誰も知りません。ただ彼女が梅雨のジメジメしたある日、ソートが気まぐれに拾ってきたのです。


 ソートはマツユに言葉を教えました。食事も与え、小さな部屋も与えました。マツユはかたつむりの精霊ですが、寝床にしていた巻き貝のリュックにおさまらないほどからだが成長してしまったからです。


 マツユはソートの役に立とうと思い、言葉以外に計算を覚えました。魔法使いのことも勉強しました。そして今ではソートの立派な助手というわけなのです。




 今日はソートの魔法薬の実験に必要な材料を買うべく、マツユは一人で町に降りてきました。ソートには「オレンジ色に腐らせたおにぎりと角のあるサザエの貝殻を三つ」と何度も言い含められました。マツユはそれがどんな形をしているのか、そしてどんな魔法薬になるのかを知りません。しかし「町のいつもの薬屋で買える」と言うので、マツユはソートの言葉を信じて町へ向かいました。




 今日は春のあたたかな日差しが降り注ぐ晴天でした。かたつむりの精霊であるマツユには少し息苦しい暑さでした。


「でんでんむちむち、かたつむり。オレンジ色のおにぎりと、角あるサザエの貝殻三つ」


 汗をかきながら歩くマツユ。町の西の端まで行くと、海辺を背に立つ小さなお店が見えてきました。ここがソートの贔屓にしている特別な薬屋でした。


 カランコロンと軽快な音が鳴る扉をエイヤと押し開けると、中からムッと苦い香りが鼻をつきました。


「おじちゃん、おつかいにきまちたよ」


 しかし人の気配はありません。


「おーじちゃん、いまちぇんかー?」


 マツユはカウンターに飛び乗って声をかけます。


 シンとした店内。息苦しい香りとじっとりした暑さ。


 マツユは次第に意識が遠のいていきました。




「でんでんむしむし、かたつむり」


 低く小さな鼻歌が聞こえました。マツユはゆっくりと目を開くと、目の前には大きな背中がありました。


「だ、だぁれ?」

「僕だよ。……マツユ。晴れた日は水筒を忘れるなといつも言っているだろうが」

「その声……主ちゃま!」


 大きな背中はふと立ち止まりました。そしてゆっくり顔を振り返ります。やはりソートでした。


「まったく。僕が来たらおつかいの意味も練習にもならないじゃないか」


「ご、ごめんなちゃい……」


 マツユは眉をへの字にすると、背中に顔をうずめました。ソートから小さなため息が聞こえると、また歩き出しました。


「マツユはおつかいにちっぱいちたのね?」

「…………」


 ソートはしばらく何も言わず、マツユを背負ったまま丘の上の屋敷に続く坂を登っていきます。


「主ちゃま……」


 マツユは顔をクシャクシャにしてソートを呼びます。しかし返事がありませんでした。ソートは呆れているのだろうか? マツユがおつかいのできないダメな子だと思っているのだろうか? そんな不安な思いでいっぱいのマツユはなにも言えないまま、気づけば屋敷に着いてしまいました。


「マツユ、下ろすぞ」


 ソートはマツユを下ろすと、しゃがみこんで彼女の顔をのぞき込みました。


「もう、大丈夫か?」


 マツユはコクンとうなずきました。


(怒られる? ダメな子だってため息をつかれるかちら?)


 するとソートは優しい顔で言いました。


「そう言えば、僕はマツユのことで頭がいっぱいで、必要なものを買い忘れてしまった」


「…………?」


 マツユは首を傾げました。ソートは続けます。


「マツユ。おつかいを頼んでもいいか? オレンジ色に腐ったおにぎりと、角のあるサザエの貝殻を三つだ。できるか?」


 マツユは顔をパァッとかがやかせると、コクコクとなんどもうなずきました。


「それなら、今度はこれを持っていくように」


 ソートは魔法で水筒を出現させると、マツユのリュックの外側ポケットに入れました。


「暑いと感じたらすぐに飲みなさい。水筒には魔法で空にならないようにしてあるからね」


 マツユはうんうん、と何度もうなずくと坂に向かって駆け出しました。


「転ぶんじゃないぞ!」


 ソートの声を背に受け、マツユは「はーい!」と手を振りました。


 マツユは五歳。まだ知らないことばかり。でもいつでもソートが見守ってくれるから、おつかいでもなんでもへっちゃらです。


「でーんでんむちむち、かたつむりっ!」


 春の澄みわたる青空に、マツユの元気な歌声が響くのでした。


ソートはマツユに「主様あるじさま」と呼ばれていますが、それはマツユが呼び出したことでした。

ソートがなぜマツユを背負っていたのかといいますと、水筒を忘れたことに気づいて追いかけてきたからです。

このあと、マツユは無事におつかいをすませ、ちゃんと寄り道してスイーツを食べたりお花見をしながら帰ってきました。

なのでオレンジ色に腐ったおにぎり(想像上の食べ物)はみどりのカビがまだらに生えたものになってしまったそうです。


あと、マツユはサ行が上手に言えませんが、なぜかサザエは言えたそうです(笑)

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― 新着の感想 ―
さすがさとみさん!情景がありありと思い浮かべられるような世界観と、くるくると表情が変わるような可愛いカタツムリの精霊マツユちゃんが想像できました。 ソートくんという優しい主様もいてくれて、これからも助…
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