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3  『human』


 小学生の世界にも当然のことながらヒエラルキーというものがあり、そこには上下の関係があった。大人の世界にあることは子どもの世界にもあるのだ。教室という空間では強い者が威張り、弱い者を虐げる。弱い者は怯えて過ごすか、強い者に服従し、自身に危害が及ばないようにする。でも大人の世界と違ってわかりやすいのは、子どもの世界のヒエラルキーを決めるのは立場や経済力などではなく、腕力だ。つまり喧嘩が強ければトップに立てた。そして小学生における喧嘩の強さというのは、そのまま体の大きさに表れるものだ。体が大きく、弱者を虐げようという意思さえあれば、支配者として君臨することが出来る。


 塚田さんは女子にして、我がクラスの支配者だった。普通そういうのは男子がなりそうなものだが、塚田さんはどの男子より体が大きく、そして強かった。柔道をやっていて、全国大会でもかなりのところまでいったそうだ。もちろん中学生や高校生になったらさすがに男子にも負けただろうが、小学生のうちにおいては、彼女は強者だった。だから誰も塚田さんに逆らえなかった。彼女の機嫌を損ねて投げられたり締め技を食らったりするのは誰もが嫌だったからだ。彼女は一部のクラスメイトからは「塚田様」と呼ばれていた。いや、そう呼ばせていた。


 しかし男子のほうにも体の大きい子がいた。島崎くんと言ったが、彼は塚田さんとは逆に誰にでも優しく、小学生らしからぬ包容力でもって弱い子をやんわりと塚田さんから守っていた。今どうしているのかは知らないが、ああいう人が上司でいてくれるとそのチームはよく回るだろうなと思う。離職率も低くなりそうだ。決してかっこいいというわけではなかったが、知性的な面と少年らしい面があって、好きな人はとことん好きになるような個性的な子だった。そんな風に表面上は塚田さんが支配しているように見せかけて、実際は島崎くんがバランスを取っているというのが小学六年生のときの状況だった。


 あのまま多少のいさかいはあれど、何事もなく卒業を迎えられたらどんなによかっただろうと今でも思う。だがもうすべては過去だ。終わってしまったことだ。いや、まだ終わっていないのかもしれない。こうして語らなければ自分がどうにかなってしまいそうなほど、私はまだ小学六年生の、十二歳の世界に、取り残されているのだから。


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