Change My Destiny‼︎
わたくしが目覚めますると学舎の講義室のようなところにおりました。
未だ夢見にあると思しき他の方々に面識のある者少なく。
はてさてあやしき。わたくし帝国に拐かされ実験と称した数々の忌まわしき辱め受けていたはずにございますれば。
わたくしの召物、かつて王立学園にてまとっておりました制服ににております。
「こは如何なるしらべなりや」
「始祖様でしょうか」
独りごつとともに声をいただき振り向きますれば、近くの席に座りし青年、歳はわたくしの長子たちほどでしょうか。
「わたくし27代に仕る。お目にかかり恐悦至極」
かのもの、白い髪に赤い瞳、豪胆そうな面持ちにて、わずかながらに我が背の心持あらんか。
「わたくしはその息子にてまこと光栄に存じまする」
その青年も彼と歳は変わらぬように見えます。
全てここにいるもの、二十歳そこそこの姿かたち。そして皆白髪にして赤い瞳。
思い出たちわたくしめの髪抜き調べますれば、見慣れた亜麻色ならざりてやはり白。
かのものどもの瞳にうつるわたくしの姿、やはり赤い瞳にございまする。
見渡せばわたくしめの背(※男性配偶者)がおります。
彼はわたくしを認めますと照れたように背を向けました。相変わらず武骨な方ですこと。
とはいえ、我が背にしては若うございます。
「失礼ながらあなた様は我が背にございましょうか」
「他にあるか」
幾度あなた様を想い袖を濡らしたことでしょうか。再びこの世にて出会うこと叶うなど。
彼は何も聞かずにわたくしを受け止めてくださいます。間違いなくかは我が背にございます。
「お母様。お父様もお邪魔して不粋の極みながら」
わたくしの長女が話しかけてきました。
彼女は多弁ながら声を出さぬはず。
「……お兄様方や弟や妹たちはこの場になき模様」
「面妖なことじゃな」「娘よ。どうにも面倒なことに巻き込まれたようだぞ」
お祖父様と父の面影ある若者たちまでが声をかけてきます。
お祖母様はいらっしゃるのにわたくしが会いたくてたまらない垂乳根(※母)はいずこや。
かわりでしょうか。
陪臣家当主の姿が見えます。
「夢ではない模様ですね」
我が妹などもいないのです。
飛行機乗りと思しき方々。眼鏡をかけ独りごつ研究者肌の小柄な女性と彼女を案ずる世話好きそうな男性、まさしく女王の只住まいをもつ女性と卑屈そうな小男、明るい雰囲気の女王めいた女性と好奇心旺盛な現王陛下の面影を持つ高貴な方。まさに海賊と思しき乙女とその相棒めいた方。歌劇の世界から出てきたかのような乙女とモギリの雰囲気ある青年などなど。
総勢にして男女60名。
「失礼致しまする。尊きあなたがた、乳母より伺いし通りの並外れた長身にして絶世の佳人と小柄なれども類い稀なき益荒雄なれば。おそらく我々の祖父母にあらんかと。わたくしども3代目になります」
「……これはあやしき。我々に孫はありませぬ」
「かまわん。話せ」
我が背は彼と彼女と話し出しました。
飛行機乗りめいた彼からわたくし、生涯の友となってしまった憎たらしいむすめと我が背の面影を覚えます。いえ、彼女よりははるかに知的な印象がありまするが。
そして海賊と貴婦人、その相反する雰囲気もつ彼女からは大人しかった学者肌の次男の童顔を。
「……つまり、わたくしどもの吾子たち悉く儚くなったと」
長男次男は海戦にて自爆。最も内政に優れた才能を持った次女の病死を皮切りに人望厚くも内政能力なき三男は農民反乱にて行方不明。双子の娘たちは太陽王国の市民軍によって王都陥落した際に王城と運命を共にし躯いずれも見つからず。
「あなた様が勘当なされた次男にあたる方の娘が不詳わたくしめになります。もっとも物心ついた時にはかれは王国海軍を率いた兄君共々英雄として祭り上げられており、母は……」
あなた様の母君には大変ご迷惑をおかけいたしましてまことあい申し訳ございませぬ。
「それにしてもわたくしども雑な死に様ですね。わたくしも愛しの子爵様ともども馬車で儚くなり死体いずこやもしれぬそうで」
「どうも歴代そのようだぞ」「例外は私どもくらいのようです」
3代目を名乗る方たちのものがたりに娘と祖父母が呼応し、父と陪臣家当主は相変わらず小突きあっております。
ふたりは母たちがこの場にないことが不満のようで。
娘が申すにはわたくしども妹背もまた『大迷宮』に挑んでのち行方わからずとのこと。
なにゆえに兵達を用いず領主妹背自ら赴く必要があったのでしょう。
私共祖父の代から数えて三〇代。
父ども祖父母どものぞき、ことごとく生死不明もしくは死体見つからずお隠れあそばした模様。
尤も公式記録ではその通りでも母の例もありますゆえ確定致しかねますが。
かはわたくしを抱き守りながら伏せり賜われたゆえ。
「なにゆえわたくしどもここにつどいしか、皆様ご存知のことと覚えまするが」
わたくしが話しかけますると皆様御清聴くださるさま誠に当意即妙。
「『いんすとぉる』されていますからね」
娘がいいます。
意識がはっきりしてきたため、だんだん色々わかり出しました。
「私共は帝国の陸戦型バイドゥの特別改良型のようですね」
女王の只住まい見せる彼女は正しく王国の実権を辺境から握った方のようです。
「やつがれめ、尊きかたと共にあさましき魔物として記憶と能力を持つ存在としてこの世に再び生まれ致した次第のようでございます」
卑屈な小男からは若干ながら私どもの血筋を感じます。それに見た目や態度よりはるかに知恵ものかつ武に優れたもののようです。
「誠に始祖様には心苦しいのですが、わたくしの代では異界のものどもの協力取り入れるに留まった模様」
彼女と彼はわたくしどもより遥か先の世において王妃と王を務めたとおっしゃいます。臣下の礼を取ろうとしたところ滅相もないと否定されました。
「その後、わたくしめが別件により現れいずりし転生者共を打ち砕きましたゆえ、あなた様の功績を無にしてしまい」
「あら、おかげで異教徒どものマニ車を回して純粋Buddha力を抽出できるようになりました」「あんなクズ共の気まぐれに付き合わされてはたまらん」
「ワタシも魔導甲冑を開発できました」
宰相経験のある父が議長を。
王姉としてかつて実権にぎりし祖母が発言していないものを促し祖母に味方して王国を興した祖父が発言を待つものを次々と指名し、不詳わたくしどもが至らぬところを伺っていくことで我々の立場は次第に明らかとなっていきます。
王国が興って実に700年の時が経つこと。
帝国との闘いはもはや現皇帝を退位させるに足るほどにかのものを追い詰めたこと。
そして。
そして。
「皆々さま。まこと700年の永きにわたり、血を繋いでいただき……ことばもございません」
まさに全てわたくしども妹背の責任。
永遠の平和を願いながら、700年の戦いを可能とする仕組みを残してしまいました。
闘いの宿命に幾度子孫を苦しめたことでしょう。
幾億の血と涙流され無辜の人々が散ったことでしょう。
「おもてをお上げくださいませ始祖様!」
女王である尊き方が悲嘆の声をあげ、私どもは彼女を見ます。
「なかなか面白かったですよ。異界を逆に支配してやろうと思ったのですが」
「連中の夢に付き合い、星の海に旅立つほうがおもしろかったな」
「わたくし、処女王などと実に困った通り名を頂き……この方一筋なのに」
卑屈そうな小男は頭を下げて恐縮しますが、彼もまた英雄の器なのは見て取れます。
英雄、英傑、勇士に技術者。政治家に劇団員。
詩人に剣士に銃使いに飛行機乗りに魔導甲冑とやらの操者。
娘のように三部族の踊り手もおり魔導士スキル持ちなど多彩な面々。
直系絶えた後も彼ら彼女らは血を繋ぎ、帝国との戦いを継続したのです。
「……あの子は」
「すえの子ですね。まだ幼かったですから」
わたくしの質問を娘は正しく理解しました。
わたくしの末の弟が引き取って娘として育ててくれた模様です。
27代目が口にします。
「孫娘が、彼女の直系になります」
「やまとびと、黒髪黒目と伺いました」
28代目になる前にお隠れにならざるを得なかったという男は補足してくださいました。
つまり、あの子と……わたくしめと同じ亜麻色の髪に紫のさし色ある緑の目だと。
「貴女様最後の子孫になります。彼女がもうすぐここに来るでしょう」
わたくしどもは彼女をとめる最後の砦となります。
実験と称した恥辱によってうまれたといえ、あの子には罪は御座いません。
異教の女神たちよ。『慈愛』よ『秩序』よ。
わたくしどもはあなたたちにやすらかなる未来を約束することが出来なかった模様です。
「なんと……なんとむごい!!
かような運命を我々は甘んじて受けねばならぬのでしょうか!」
ひときわ幼げな娘が慟哭の声を上げました。
28代目が呟きます。
「妻には戦う力は御座いません」
わたくしの見立てでは、私どものベルトや首輪には強力な爆薬が仕込まれております。
そして彼女のそれはおそらく特別に強力なものでございましょう。
「やつがれのこの白い忌まわしい腕を見てくださいませ始祖様。
わたくし彼女を抱いたぬくもりをこの手が覚えてございまする」
それはあなたの元となった方の記憶。
あなた自身ではないのです。
わたくしが我が背を愛するこころとおなじく。
「始祖様! やつがれも愚かではございませぬ!
この身はやつがれの記憶をもつ忌まわしきもののけにすぎませぬ。
この思ひで! 全て偽物たるやつがれに埋め込まれし偽物と頭でわかっています。
それでも……それでもあの幼かった娘をいまいちど……」
その時にこそ我が祖父より数えて三一代。
異界ひのもとより訪れ帝国との戦い続けし我らあまつちうたの民の数奇なる運命絶えましょう。
「それにしても」
居並ぶむすめども、一部殿方たちを眺めてわたくしは独り言ちます。
「わたくしどもこの美貌です。
さぞいくさにたけるとのがたの慰みとなったことでしょうね」
何人かはわたくしから目をそらしました。
「そ、そのようなことは」「ないと思われます」
真面目そうなものもいますが、我々は海賊の末裔ゆえ。
場が一気に冷え込んだところで。
「しかし」「しかり」
祖父と祖母が楽しそうに呟きます。
「孫が始祖ならばナレは」「引く二とでも申しましょうか」
「お戯れを父上」「当主様、あ、コイツが当主だっけ」
父と陪臣家当主は殿方独特の謎の友誼を見せます。すなわち拳闘にございます。
「総本家始祖様と総本家二代目様、陪臣家二代目様とか」
わたくしどもの三代目が余計なことを口にしてアッパーカットを受けました。
父と陪臣家当主はとにかく気が短いのです。
「え、あなたの子孫ですか? 陪臣家直系は絶えていますよ」
「はぁ?! ザッケンナコラ!」
3代目哀れんだものにキックまで入りました。
ですから陪臣家当主に余計なことを言うのはおやめくださいませ。とはいえ彼は叔父様のような方ゆえ止めましょう。我々の新たな掟は『殴るな』『コミュニケーションツールとして殴るの禁止』『殴るな殴るぞ』でしたよねお父様。
「やっぱりアレでしょうかお母さま」
娘が思案をおもてに出しますがしばし待ちなさい。
あなたは相変わらずおしゃべりなのですね。
「……うん? つまり年下の叔父になる俺から数えて四人目の弟とうちの二女の末裔が子爵男爵家を名乗っているって? ……あいつお前の下の娘にチ〇コ切られずに済んだんだなぁ! ……ハハハ!」
「無邪気で明るいあの娘がああなったのは俺のせいだろうな」
本来好きな相手と契りを結んで構わなかった妹。
苛酷ないくさの日々を戦い抜いた末の弟。
わたくしめがかわりに好きな殿方に嫁ぎ、彼女がおそらくもっとも仲良くしていたやさしい殿方はわたくしどもの配下となりましたゆえ彼女たちにはやらなくて良い気苦労を背負わせてしまいました。
わたくし、陪臣家当主の暴言は聞き流すこととし、愛用の扇を……ありませんでした。
我が妹背の名が浮かび上がることが出来る特別製ですが、帝国は所持品まで再現してくださらないようですね。
べらんべいで鳴らした陪臣家当主や我が父がダベリングを開始したせいで、皆様は動揺を抑えられなくなったもようで、思い思いに不安を口にしています。
かくも偉そうに申すわたくしめも、やっと巡り合えた我が背の腕を掴んでいたいのです。
それでも。
「皆様。異世界ひのもとより我が祖父たちが訪れて実に七〇〇年の月日流れ、帝国との戦いはこれにて幕を閉じます。
私共の娘がここにたどり着き、彼女が臥せっても我ら全てが滅んでもです」
ここでわたくしはあえて微笑んで見せます。
「作戦会議です! 我が背よ! みなみなさま!
さっそくカッコよく迎撃する演出を考えませう!」
「あ、あのお母さま」
「いや、そういう性格らしいとはわたくしども末代にまで伝わっておりまするが」
娘夫婦と二八代目夫婦とが死んだ魚の目で見ています。
「まず、この崖の上で八の字で布陣するという案は再考の余地がありまする。彼女たちからちゃんと見えるのでしょうか。また不用意に姿晒すのはかっこよくても危険でもあります」
我が背はわたくしめの名を呼びました。正確にはわたくしのもととなったをとめの名ですが。
「……よ。それがどうなるというのだ」
「一応、上を取るのは用兵の基本ですな」
卑屈そうな小男が知恵を見せます。
「ダメダメわかってない!」
眼鏡をつけてぶつぶつ独り言っておった小柄な娘が抗議し、彼女の相方が私共に謝りつつ下がろうとしますが、我が祖父母がそれを促します。
「カッコいいのが一番大事! 私は始祖様方歩兵が崖の下で迎え撃ち、私ども魔導甲冑が崖の上、そして飛行機乗り達がまず威嚇発砲を……」「殺してどうするんだ!!」「いや、一応殺さなければいけないしボクたちそれしかできないけど」
わたくしどもは我らの末裔を討ち滅ぼすためにつくられしもののけです。
全力を持って子孫を討つのはあらかじめ定まった『ぷろぐらむ』にございます。
すなわち劇の演目は覆せません。
「いいことを言いました! 流石魔導甲冑の開発者!」
劇団めいた娘のそばにいた、一見モギリの如き冴えない風貌の青年が言います。
「かっこいいのは大事です!」
そういってかれは指を軽く振ります。
一見冴えないのは意図したもの。
実のところなかなかの美男子ですね。
「なら、ここは一度宙返りを」「あ、スモーク焚けますかね」
「空に『くそったれ』とでも描いてやりましょうか」「孫は娘にて!」「流石に演出過剰です。敵味方……この場合逆転しますが、我々に意思があるとさとられるのは問題ありましょう」
盛り上がってきましたね。
「運命は変わらないならば、その意味を書き換えて見せましょう。皆さま」
「……相変わらずだな君は」
若き日のように我が背は呆れておりますが、昔と違って柔らかな笑みを浮かべております。
それに、わたくしめどもが出会ったときより彼は若返っておるのです。
「三一代目がこの程度の試練に敗れるなら、ナレどものこれまでの戦いなど、うたかたの夢にすぎんということじゃ!」
祖父が豪語すると陪臣家当主が応じます。
「しかりしかり。やまとびとのもののふとして、我らの生きざまを子孫に見せる良き機会よ!」
「父上もお前もアホ言うな! とはいえ……」
あ、父がキレました。
「いいな。それ。死んでからできないな」
かつて王国の白い悪魔と呼ばれたのは財政面の厳しさのみではございません。
彼は次々と極悪な案を叩き出しては子孫たちに『古い』『その戦術は破られた』と言われつつ、それでもやがて子孫ども震撼する域に。
わたくしは話を続けます。
「これは壮大なる授業参観です。我ら三〇代、その英知と武技全てを持って末裔どもとその郎党ども迎え撃ち、そして直接伝えるのです。我らやまとびとのもののふ、あまつちうたの民の心意気を!」
とはいえ、わたくしもかれらの同類ゆえ孫臏兵法を踏まえつつ闘戦経修めるもの。
なんと申しましてもこの方々、わたくしの子孫すなわち祖父の子孫にして。
「なるほど!」「いいな!」「よき趣向!」
「え~~そういえば試したかった技がある!」「あ、俺も新機能を使いたかった!」
「井伊や武田の赤揃えみたいにしたい」「この服作り直せないかな」「この場に双子の妹おれば叶ったのですが」
「ではでは皆様! 迎撃大作戦いってみませう!」
「はい! 始祖様!」
『えいえいおー』
「いいのかそれ……」「結婚はしたけどヤバすぎるだろこの一族」
我が背が近づき、小声でつぶやきます。
「……七〇〇年経っても君の一族はこんなノリなのかね」
「おそらく、基本は変わらないのでしょうね」
そもそも。あなたさまの血筋も入っているのです。
我が背にも責任はございますわ。
そういうわけでノリノリで我々はかっこいい迎撃陣を考え、資材や装備を帝国に請求し(※我らは父をはじめ補給には一家言あります。帝国の担当者は泣いておりました)、急ごしらえながら我らの子孫を迎え撃つ手はずを整えます。
二八代目曰く、わたくしども妹背が最も対抗手段確立しているにもかかわらず、最も粘り強くそして強い理由が理解できたとのこと。
はてさてあやしき。
「では、やはりわたくしどもは比翼連理のように戦うのでしょうか」
かつて皇帝と相討たんとしたときを思い出し、臥せるときはと背の元に這った記憶を思い出します。いえ、これは『私』の記憶ではございませぬが。
「いえ、始祖様がたを模ったバイドゥども、『たとえ片割れを人質に取られても人形のように表情動かさず、また一人でも生かしておけば粘り強く他のものを率いて戦うとのことで真っ先に二人とも潰せ』と伝えられており」
なるほど。おそらくわたくしめの美貌に血迷い、そのようなことを試みたものがおったいうことでしょうね。
「どちらにせよ、我々はもって数年です。この爆弾などなくとも」
二八代目が肩をすくめます。あなた試しましたか。
わたくしは我が背を見つめます。
ずっとともにいたい。
されど。
「理解しました。ではわたくし、あなた様が滅びてもなみだ一つながさぬ人形となりましょう」
「わかった。武運を祈る」
わたくしは彼を力いっぱい抱きしめたのです。
気付くと娘夫婦たちをはじめ、父と陪臣家当主ですらそうしておりました。
「……来るぞ」
崖下に相手から見て八の字を描くように布陣し、祖父たちを中心に我々は歴代左右に揃います。
殿方は敵方からみて右に。むすめたちは左にです。
風は血を孕むべく埃の臭いと共に巻き起こり、黒雲雷孕み。
くちびる震える心意気。
これぞまさにかっこよすぎる演出というべきでしょう。
「来ました。お母さま」
「……これ以降は声を出さぬこと。あなたの得意技でしょう」
彼女は微笑み、首を縦に振りました。
子孫には、我らはこころなきもののけとして扱ってもらわねば。
やさしいあの子の末裔なればこころを壊してしまいます。
剣を手に、息せきすすむすめ、まさにすえのむすめの末裔。
王家の血をもつものとおぼしき気高い男と共に肩を貸しあい、一途に我らのもとに。
ではいざいざ、みなみなさま。
ショウタイムとまいりませう。
『きてっ! レーヴァテイン!』
彼女が叫びます。
おや。聖杯はまだ残っておりましたか。
では我が愛しの半身ももしやあなたのそばに。
魔導甲冑なる巨大なゴーレムが身を起こし、彼女と一つになり、彼女とともにあった男は歩兵として援護するつもりのもよう。
飛行機たちが空を舞い、制空権を取り戻さんとし、火砲を操るものと戦います。
魔導甲冑たちは激しく討ちあいされどあちらの精鋭も強く。
剣を、固有魔法を、銃を。魔導を。
わたくしども死力を尽くし。
その力と技、そしてこころをつたえましょう。
かの高貴な男、我が背にゆずりません。
一〇の指で音楽を奏で魔導を発現する剣を巧みに操り幾度もうち合います。
「……強いっ! 強いっ!? ……なんだこの感じは……初めてだっ!」
我が背は楽しそうです。好敵手見出したゆえ。
かれは勇者の末裔ゆえ、額や剣よせることでこころを見ることができます。
思わず加勢をしかけ、目で叱られました。
とても優しくて、甘くて。
そしてそれが我が背の最後でした。
「むすめよ……」
いけない。
愛らしい少女の面影のこる彼女はゆっくりとかの最後の末裔駆る魔導甲冑に走り寄ります。
「おりてきてください! わたしの愛する〇〇〇〇!!」
魔導甲冑が止まりました。
「おかあ……さま?」
「ああ。美しくやさしくそだったのですね。わたしが最後にあなたを抱いたぬくもりはいまだ……」
わたくしは思わず駆け出しそうになり、末裔の郎党の一人に止められます。
「いかせん!」
邪魔です。あなたも私も消えますよ。
しかし、わたくしが彼女と同じ立場で、むすめとそのようになったならば。
突き飛ばされ、咽そうになります。
……紫の、バイドゥを表す体液。
倒れ伏したるはわが娘とその婚約者。
わたくしなどを守って。
「もっと、もっと近くに、おりてきてください」
「だめだっ! 罠だ近づくな!」
音楽奏でる剣持つ高貴な男、走り寄ります。
二七代目と二八代目が彼を『都合よく』ふきとばしました。
多少の私怨が混じっておるかもですが結果として彼は間に合いました。
「すまん。妻よ。すぐそちらに」
「吾は武人ゆえ舅として気苦労をかけた」
わたくしどもには涙を流す能力は設定されていないのです。
あさましきもののけゆえに。
結論といたしまして、聖杯は末裔たる彼女を守りました。
魔導甲冑は力なく膝から崩れおれます。
そこに我々の何人か、既に戦う力うしない、這ってあるくのがやっとのものたちとりつき。
……自爆すら効かないとは。
さすがですね。
わたくしは扇を口元に。
赤いリボン鮮やかで白い大きなレース揺れる黒いドレスのまま慎み忘れずされど果敢に最後まで戦います。
もはや立っているものも少なく、先程祖父母が討たれました。
九郎判官の八艘飛び破れるとは、三一代の研鑽無駄にあらず。
陪臣家当主が父を庇い、父がわたくしを庇い。
もはやここまでか。
口惜しくもあり、嬉しくもあり。
音楽奏でる剣もつ男と彼女。
確かに我ら妹背と同じこころあり。
わたくしども三〇代の悲喜劇をきっと最後にしてくれましょう。
では皆様、ごきげんよう。
わたくしは自爆を試みます。
「始祖様っ!」
魔導甲冑越しに、彼女と目があった気がします。
わたくしの、わたくしでない記憶にあるまだ幼い娘の瞳とも。
もののけとしての短きかりそめの命なれど、偽りのこころと記憶とわかれども、再び我背と共に過ごす幸せをあなたはわたくしに与えてくださいました。
あなたが好敵手でなくば我々を再びこの世にうみだそうなど帝国も行わなかったでしょう。
「始祖様。わたしにもわずかながら貴女様妹背の血が流れております。いざ尋常に」
わたくし、ただの偽物にございますれば。
わたくしはあなたがたの始祖とは違うもの。
あなたたち『謎を解くもの』には明白なこと。
Change My Destiny.
ただ、にせものゆえ、あなたがたに、我々のこころはつたえましたよ。
ダイヤモンドを守るダンビュライト。『夢を追う者』として。
さぁ。未来を変えなさい。『星を追う者』たちよ。
わたくしはわたくしの短い運命を変えました。
このつくられしばけものにも、皆様にできることを。
Change Your Destiny.
貴方の未来に。
やまとの地より流れ異界の仙境たどりつき血を繋いで七〇〇余年。
わたくしどもやまとびと、あまつちうたの民の悲願と共に歴代のいくさばかどもの戦いここに結実す。
長きいくさよ。
さらば。
【了】
『CHANGE MY DESTINY』
歌RIDER CHIPS