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彼女は異世界で王様でした  作者: オランジェ
第二章 初めての友達
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 時は少しだけ遡る。

 呆然とする鈴音と別れた後、スィオンはフードを取った男と向き合い報告を行っていた。ルイースと名乗った男の本名はラークス・ルイース・カーザラント、スィオンの新しい上司…いや君主だ。名前にある通りルイースはカーザラント王国の王家の出だ。というよりも彼こそが国王であった。二十九歳と国王にしては年若いが、国王になってこの数年の実績は目を見張るものがある。千年を超える歴史を持つカーザラントは大国である。だが、古い歴史を持つからこそ中側から老い、衰退の憂き目にあった。そんな時に即位した若き王、ルイースによって再び盛り返す。これまでの古い慣習を取り払い新しい風を生んだ国王。最初は、反発も多かったが結果が伴い始めると重鎮たちも渋々ながら認めざる負えなくなった。

 最近知ったばかりの知識を思い出しながら、目の前の主を見る。スィオンがルイースの家臣ーーといっても、まだ正式に決まったわけではないーーになったのはつい最近のこと。ルイースは、国王のくせに城に留まることをよしとはせず、積極的に外に出ているようであった。それだけならば、まだ許容範囲だ。だが、国まで出るとはどういう事なのか、頭を抱えたくなる。ルイースとの出会いはカーザラント王国とクイレン王国の国境沿い、傭兵としての任務を遂行している時であった。スィオンは、雇われ傭兵である。一応、国籍はクイレン側であるがスィオン自身自分の出自がどこなのかは知らない。孤児院で育ち、幼い頃から腕っ節が強かったこともあり傭兵ギルドに入った。スィオンは、ギルドの中で強い部類に入り次々と実績を残す。そうすると、仕事の依頼がどんどん入ってくる。そして、そのうちの一つの仕事をこなしているときにルイースと出会ったのだ。何があったかは省くとして、その時にスィオンとその部下たちの戦いぶりがルイースのお眼鏡にかなったらしい。カーザラント王国の騎士にならないかと誘いを受けたのである。当初、その話を聞いた時は不審感しかなかった。身分を聞いてからは尚更である。スィオンが疑うのは当たり前だろう。大国の王様が国境沿いに一人で来ているなんて常識的に有り得ない。だが、ルイースの言ったことは真実であった。そう分かって、今度は疑念が生まれた。国王でありながら城を空けて国境沿いにまで来るのは無責任ではないかと思ったのだ。だから反発しーーいつの間にか、ほだされていた。ルイースは良くも悪くも人の目を集め魅了する。国王として必要な資質を十分に兼ね備えた人物であった。ほだされた後は早く、部下ともどもカーザラント王国に入ることを決意。クイレン王国からカーザラント王国へ籍を移し、今回は傭兵としての最後の任務であった。

「ーーなるほど、では奴らは雇われただけで真実は知らぬと言うことだな」

 スィオンは頷く。

「そうか、無駄足を踏ませたな。だが、奴らを捕まえた実績は大きい。スィオンたちが騎士になることに文句を言う者も減るだろう」

「…そうですかね?実績というには、まだ足りないように思いますが」

「大丈夫だ。お前たちにはこれまでのもあるからな。それよりも、私は一人でも多く才ある者が近くに欲しい」

 ルイースの言葉に照れ臭くなりスィオンは頭をかく。

「さて、スィオン自身は私に何か聞きたいことがあるのではないか?」

「…」

 目を細め形の良い唇の端を上げた主に黙り込む。

「なんだ、遠慮はいらない」

「俺、そんな顔に出てましたかね…遠慮が要らないなら聞きますけど、なんでスズに対してあんなことを?」

「あんなこと?」

「えーと、スズの手に、その…キス?したことです。いや、俺はお貴族様とかの礼儀作法がどういうものか、まだ勉強中なので間違っていたらすみません。ただ、あれは貴族間の挨拶で貴族の男が平民の女にする挨拶ではないと認知していたんですがね」

 ルイースの部下になるために、スィオン達は必要な礼儀作法を学び始めている。慣れないことばかりなのでなかなか身につかないが、そんなスィオンでもルイースの行動には違和感を憶えた。

「確かに君の言う通りだ。だけど、彼女には相応しいと思った」

 スィオンは首を傾げる。

 スィオンには不遜な態度をとることはあっても基本的には丁寧な態度をとる鈴音は確かに育ちは良いのかもしれない。しかし、そこには洗練さはなく少し裕福な商人の娘程度の礼儀正しさである。助けられたとはいえ、貴族の礼をとるほどの事とも思えなかった。

「そうですかね?」

「彼女は立派な女性だ。洞察力に優れ、賢い」

 少し過ごしただけでそこまで分かるものだろうかと再び首を捻るスィオンにルイースは苦笑した。

「表情がくるくると変わって面白い。それにあのまっすぐな目には性格が現れている」

 机の上に置かれたグラスを手に取り、ルイースは琥珀色の液体を眺める。鈴音のことを思い出しているのだろうか。その様子に懸念を抱いた。

「ま、まさか、一目惚れってやつですか」

 ルイースほどの男があんなーースィオンはこれ以上考えるまいと首を振る。図太くガサツな面があるにしても鈴音は一応女性だ。失礼なことを考えてはならない。それに恋というものは人の目を曇らせる、と部下に聞いたことがある。残念なことにそんな経験がないスィオンには理解できないが。

(ルイース様自身美しい容姿をしている。周りにもきっと美女ばかりだろう。だから、美形は見慣れ過ぎていて逆にスズみたいなタイプに惹かれるのかもしれない)

 複雑な気持ちになっているとルイースが笑う。

「なかなか面白いことを言うね」

「面白い、ですか?」

 スィオンからすれば、まったく面白くない。鈴音は悪い人間には思えないが素性が知れない女だ。しかも、故意に出生を隠している。スィオンだけならば何が起きても対応しやすいが、ルイースまで関わってくると事態が大事になりかねない。それだけの身分をルイースは持っているのだ。

「その考えは私の中にはなかったな。魅力的な女性だけどね」

「魅力的ですか?俺、最初は生意気な子供かと思いましたよ」

「確かに小柄ではあるね。だが、話してみると分かる。彼女は成人女性だよ」

 ちなみにカーザラント王国他、近隣諸国の成人年齢は十八歳である。

「…二十五歳らしいですよ」

「そうなのか。そこまで年上だとは思わなかったけど、あまり女性の年齢を公開すべきではないよ」

 紳士的なルイースの言葉にスィオンは項垂れる。

「どうせ、俺は万年彼女なしですよ」

「?」

「いえ、独り言ですのでお気になさらず…ともかく、惚れたとかでないならいいです」

 言った後に自分が口出すことでは無かったかとスィオンは慌てる。ルイースの身分に慣れていないため線引きが難しい。

「すみません、俺が口出すことではなかったですね」

「いや、思った事はきちんと言葉にして言って欲しい。王だからと遠慮されたり言葉を選ばれてはお互いに誤解が生じるだけだ」

 穏やかな表情で首を振る主人にほっと安堵する。

「スズの性格的に勘違いするタイプではないと思いますけど」

 安心ついでに鈴音のフォローもしておく。

「彼女が何者か分かっているのか?」

「…あー」

「どうかしたのか?」

 報告しないわけにもいくまい。彼女から聞いた説明や曖昧な言動、気になる点など余すことなく伝える。

「なるほど、それはなんとも怪しいな」

 怪しいなと言いつつ面白そうな表情を浮かべているルイースからはどこまで本気なのかが伺えない。

「ますます、興味が湧いてきた」

「…」

 嫌な予感を覚え今すぐにこの部屋から出たくなったが、主の許しもなく退室は出来ない。そんなスィオンの様子に気付いていないのかルイースは楽しそうに目を細めて言った。

「ーーということで、スズを食事に招待しようかと思う」

「は?」

 何が「ということで」なのか意味が分からない。

「本人のことは本人に聞くのが一番だろう?上手くやればもっと聞き出せるかもしれない」

 優雅な微笑みにがっくりと肩を落とした。唐突な展開にスィオンは、考えることを放棄する。



 夕食の時間、ルイースと共に席に着く。しばらくして鈴音がクラークに連れられて現れた。彼女はルイースの姿を見ると驚きの満ちた表情で立ち尽くした。それを見てスィオンは「スズもか」と苦笑した。というのも、ルイースを初めて目にする人間は皆、鈴音と同じ反応をするからだ。最初は驚き、そして少しの間、見惚れ立ち尽くす。人とは美しいものを見ると皆同じ反応をするようだ。スィオンも含めて。だから、今回もそうなのだろうと思い、すぐに立ち直らせようと鈴音を呼ぼうとした。

「ーーー」

 その時の彼女の表情をなんと例えればいいのか。怒ったり笑ったり、時にはスィオンをからかい意地悪い顔をしたりと出会った当初から表情豊かな鈴音の顔から全てが抜け落ちーーくしゃりと顔を歪めた彼女。苦しくて、泣きそうで、困ったような嬉しそうな笑み。人とはこんなにも複雑な表情が出来るのかとスィオンは初めて知った。

 一方、ルイースは彼女の反応に困惑した。鈴音の反応が久しぶりに会った旧友に対するものであるように感じたのだ。だが、ルイースには彼女と会ったのはこれが初めてだ。鈴音の容姿は、異国人そのもので一度会えば記憶に残るだろう。それとも、一方的に相手が自分のことを知っているのかもしれない。ルイースは、国王だ。己が知らなくても、相手が知っていることは多々ある。しかし、鈴音の反応からしてそんなことではない気がした。何度も何度も記憶を浚うが、やはり鈴音に関するものはなかった。


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