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彼女は異世界で王様でした  作者: オランジェ
第一章 ただいま異世界
7/30

6

一度投稿しましたが、違和感がある言葉遣いなどがあったので書き直しました。何度も読み直しているはずなのですが、文章を書くのは難しいですね…

 改めて肉屋にお礼を述べて、鈴音たちは場所を移すことにした。宿屋に向かうことになったのだ。鈴音は今度こそ逸れないようにサニーに着いていく。

「サニエル、もう少し歩く速度を落として」

 背後から歩いて来ていた旅人がサニーに言った。

「あ、はい」

「その速度では、小柄な彼女には早い」

「あ、そうなんですね!すみません」

 サニーが眉尻を下げて謝る。流れがあるので立ち止まれないが、先程よりも幾分歩きやすくなった。

「いえいえ、私も遅くてごめんね」

「そんな!俺も女性の歩くペースを考えられないなんて、男としてまだまだですね…」

(え、そこまで落ち込む?)

  大袈裟なほど肩を落とすサニーに鈴音は苦笑した。

「これを機に学べばいいよ。それに、恋人ができれば変わるって言うし」

「そ、そうなんですね。早く恋人を作ります!」

 キリッと表情を改めた青年に和んでいるとあっという間に目的地に着いた。意外と近い場所にあったようだ。ということは、そろそろ到着というところで逸れたことになる。心配させて悪かったなと気のいい青年に対して申し訳なくなった。

「ここです。宿場屋の人にスズさんの部屋も用意してもらうように言いますね。あと…」

  チラッと旅人の方に視線を向けたサニー。

「私は、ここで待たせてもらってもいいか?できれば、スィオンに言伝を頼みたい」

「も、もちろん、です!」

 妙に畏まるサニーの姿にやはり変だなと思いながらも黙ってやり取りを眺める。

「で、では、中でお待ちください」

 そう言って、扉を開ける。

「あれ、隊長?」

 つい先程、話に出てきた人物が既にいた。彼は落ち着かない様子で待っていたらしく、鈴音たちの姿を見るなり近付いて来た。

「よかった、ご無事でしたか」

 スィオンは、鈴音には目もくれず丁寧な口調で旅人に話しかける。

「ああ、だが、なんでここに?城の方に行ってしまったと思ったんだが」

「行きましたとも!ですが、知らせを待つはずの貴方は不在。事情を聞けば、俺たちの仕事を労うために先に出迎えに向かったと聞いて慌ててこちらに…なのに、着いていないご様子。焦りました…」

「すまない。本当は、途中で落ち合うつもりでいたんだ。…近道したのが悪かったな」

 表情は見えないが、その声音から本当に申し訳なく思っているようだ。スィオンの態度から、やはり身分が高い人なのだろうと鈴音は観察しているとスィオンと目が合った。

「そういえば、どうしてサニーとスズと一緒なんです?」

「ああ、彼女に助けられたんだ」

「助けられた?」

 スィオンから不審な目を向けられ首を振る。大した事はしていない。

「裏路地で、男二人に絡まれてね。彼女が機転を効かせて助けてくれた」

「いや、助けるというほどのことはしてないんですけど…」

「どういうことだ、サニー?」

「す、すみません!俺、途中でスズさんを見失ってしまって…事情を知らないんです」

  スィオンが眉を寄せる。

「スィオン、違うよ。私が余所見して逸れたの。サニーは悪くない」

「だがな…」

  スィオンが渋い顔でサニーを見ている。だから、サニーの前に出てスィオンを見上げた。

「スィオン」

「はぁ、いいだろう」

 渋々ではあるが、スィオンが鈴音の言葉を受け入れてくれたことに安堵する。

「サニエル、今回はスズに免じてお咎めなしだ。だが、反省をしろ。護衛対象に庇われたことについて、よく考えろ」

 サニーが小さい声で返事した。それを見て鈴音は余計なことをしたと後悔する。今のは庇うべきでは無かったのだ。心の中でサニーに謝る。声に出してしまえば余計にサニーを落ち込ませることになるだろう。

「さて、俺は仕事の話がある。スズは部屋に言って旅装を解いてこい。サニー、女将にスズの部屋の場所を聞いて案内してやれ」

「はい!」

 新たな任務、といってもただ部屋に案内するだけなのだが、サニーは気を取り直した様子で元気よく返事した。

「よろしくね、サニー」

「はい!」

 微笑ましい気持ちでサニーを見て、彼に着いて行こうと一歩踏み出した時、腕を取られた。

「待って」

「えーと?」

 驚いて腕を掴んで来た旅人を見上げる。相変わらず、フードのせいで顔が見えない。

「私はルイース、貴女は?」

「鈴音です」

「スズネですか、不思議な響きの名前だ。その容姿、東方の産まれですか?」

「あ、はい。呼びにくいと思うので、皆のようにスズで良いですよ」

「スズさんですね」

 旅人改めルイースの丁寧な呼び方に苦笑した。

「ただのスズでいいですよ。略称にさん付けは変でしょう?」

「分かりました。それなら、スズ、私のこともルイと」

「ルイ、ですか…」

  ルイースは、どう考えても身分の高い人間だろう。日本にはあまり身分とかは存在しなかったから抵抗感はないが、いいのだろうかと疑問に思う。スィオンの方を見れば彼はハラハラとこちらの様子を伺っていた。

「その方が、公平でしょう?」

 公平さが必要なことだっただろうかと首を傾げたくなったが、鈴音は曖昧に笑う程度に留めた。

「スズ」

 柔らかく名前を呼ばれ、不覚にもドキリとした。ルイースは、鈴音の腕から手を離すと流れるような動作で右手をそっと掌に乗せて持ち上げ、顔を寄せる。

「っ!!?」

「勇敢なレディに最上級の感謝を」

 フードの奥でルイースが微笑む気配がした。だが、鈴音はそれどころではない。呆然とルイースを見上げるしかできない。

「それでは、スズ。また後で」

 スマートに立ち去るルイース。スィオンが心配そうに何度も振り返っていたが、反応を返せる余裕がない。柔らかい感触を受け取った指先が妙に熱い。男慣れしていない鈴音は、手を抱えたままサニーに呼ばれるまで立ち尽くしていた。



  (なっっんちゅうキザさ!)

  部屋に案内され服を着替えた鈴音は先ほどのことを思い出し悶えていた。まさか、自分が手にキスされる日が来ようとは驚愕である。

コンコン

  部屋の戸がノックされて、鈴音は悶えるのを止めて返事をした。

「そろそろご飯の時間ですが、準備は整いましたか?」

  サニーの声だ。

「うん、出来てる。すぐに出るね!」

立ち上がり慌ててフードを被り直す。ドアを開ければサニーが待っていた。

「スズさん、食堂へご案内しますね」

「サニー、私のことはスズでいいよー。さっきも言ったように略称にさんは付けないもんでしょ」

「ですが…」

「本人がいいって言っているんだから!それに、そんな畏まらなくても私はただの異邦人で、身分とかも、この街の人たちと同じだよ」

「…年上の女性です」

「あはは、そうだね。でも、スズでいいよ」

「…分かりました。では、スズと呼ばせてもらいますね」

「うん」

 和やかな雰囲気で食堂にたどり着けば、スィオンの部下たちが既に揃って食事を始めていた。皆、鈴音に気付くとそれぞれが軽い挨拶をしてくる。それに答えながら席に着こうとした時、クラークに呼ばれた。

「スズ」

「クラークさん、なんですか?」

「団長、いや正確にはルイース様がお呼びだ。一緒に食事をしたいらしい」

「え、」

 何故、と戸惑う。だが、質問する前にクラークが背を向けたので着いて行くしかない。隊員たちが興味深そうに鈴音に視線を向けていた。

「あの」

「ん?」

 鈴音は食堂から出るとクラークに声をかける。

「私、その身分低いんですけど…その、ルイース、さんってかなり身分が高い人なんじゃ?」

 同じ席で食事して粗相があっても責任を取れない。不安に思って言ったのだがクラークは明るい笑顔で「大丈夫だ」と言った。

「あの方は身分を気にしない。気を楽にして食事を楽しめばいい。きっと美味しいもんを食べさせて貰えるぞ」

 子供ではないのだから、その言いようはどうかと思うがクラークからすると鈴音は子供同然なのかもしれない。スィオンに対しても、時々子供扱いだ。

「隊長、スズを連れて参りました」

  一つの扉の前で立ち止まりノックをするとクラークは言葉遣いを改めて中に声をかける。

「通せ」

 スィオンが答えるのを聞いて、クラークがドアを開けて体を横にずらす。それから、視線で中に入るように促された。

「…お邪魔します」

 面接会場に入る時のような心境で中へと入り、軽く頭を下げた。

「そんな畏まらなくていいんですよ、スズ」

 苦笑混じりの声はルイースのものであった。軽い口調に鈴音は肩の力を抜いて顔を上げる。


 ーーそこには極上の男がいた。


 柔らかい眼差しと視線が交わる。サファイアブルーの瞳と蜂蜜を溶かしたような琥珀色の柔らかそうな髪。その男は、まさに美の結晶。目鼻立ち、唇から輪郭、全てが整った彼は美を司る女神によって創られた最高傑作。鈴音は、目を見開き動けなくなる。見惚れたわけではない。

 懐かしさと喜び、罪悪感と恐怖ーー湧き上がる感情は、あまりに複雑で鈴音自身を翻弄する。立ち尽くす鈴音に、彼は怪訝そうに顔を曇らせた。

「スズ?」

 不思議そうな声に彼がルイースなのだと気付く。


『ーー、俺と共に来い!』


  遠い記憶が弾ける。前世の自分が手を差し伸べた相手。しっかりと握り返してくれた温かい手。

 記憶の奔流に鈴音は飲み込まれる。懐かしさとともに理不尽な気持ちが湧き上がった。

(ああ、もう…どうして)

 そんなのありか?と内心頭を抱える。どうすればいいのだろう。こんな状況だれが予想できる。あらゆる感情に雁字搦めにされ鈴音はどんな表情を浮かべればいいのか分からない。だから、笑みを作った。他者から見たその表情は苦しげで切なげだったのだが、本人が気付くことは無い。

 戸惑うルイースの姿に鈴音は唐突に帰ってきたのだと実感した。


(ーーただいま、異世界)


 苦々しい懐かしさを胸に、この出会いを受け入れた。ここではないどこかで、かちりと何かが動き出す。


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