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彼女は異世界で王様でした  作者: オランジェ
エピローグ
30/30

事件のその後

 「な・ん・だ・と!!?」

 晴れ渡る青空の下、男の声が響き渡る。同時に楽しそうな笑い声が満ちる。

「よしっ、連勝!!」

 雄々しい声は鈴音のものだ。彼女の前にはルイースたちとしたボードゲームが置かれてあった。どうやら、スィオンたち騎士とゲームをして暇を潰しているようだ。

 鈴音も楽しそうに笑っていた。

「今度こそ、勝つ!」

「たいちょー、その宣言何度目?」

「うるさいっ」

 部下に指摘され一喝するスィオンは、とても隊長を務める人間には見えない。

「スズ、もう一度だ」

「えぇー、またぁ?」

 不満げな声を上げながらも、得意そうな表情を隠せていない。鈴音は腕を組み「ふふん」と笑う。

「ま、いいけど。でも、結果は同じなんじゃないかな?私に勝とうなんて百年早いよ」

「…お前の強運は百年先まで続くのか」

 ガクリと肩を落とすスィオンの腕を鈴音がポンポンと軽く叩いた。

「シオ」

「スィオンだ」

「大変不本意なんだけどもね」

「なんだ」

「私とあなたは、同種の人間なんだ」

「同種?」

 不可解だと言うようにスィオンが繰り返す。

「そう。私とスィオンは、猪突猛進型の人間」

「…なにが言いたい」

「あなたは筋肉、私は運。そして、私たちの共通点は野性的直感!」

「…要は、俺とお前は、頭でものを考える前に動いてしまう人間ということか」

「そう!」

 大きく頷く。

「スズ。奇遇だな。俺も大変同じ気持ちになった。…かなり不本意だ」

 部下たちから同情の眼差しを送られながら頭を抱えるスィオン。

「そういうことだから、かなり運に恵まれた私にこのゲームで脳筋スィオンが勝つことは一生無理。ルイ並に運と実力が伴えば別だけど」

 胸に手をやり鼻を高くして言い切る。

「脳筋…くそっ、否定できないのが悔しいっ」

 自覚はあったらしい。

 得意げな鈴音と悔しさに悶えるスィオンに笑みを漏らしルイースは視線を転じた。

 コンコン

「入れ」

「ーー失礼致します、陛下」

 畏まった様子で現れたのはファイだ。

「首謀者は吐いたか?」

「いえ。ですが、恐らく他国の人間かと思われます」

「そうだろうな」

 ファイには、襲撃の首謀者を探るよう命じていた。しかし、恐らく特定は出来ないであろう。襲撃者たちはよく訓練された魔術師であった。どんな拷問にも決して口を割ろうとはしない。

「せめて、協力者の名前が分かればいいんだが」

「…申し訳ございません」

「お前の落ち度ではない。恐らく上手く手引きしたのだろう。それに、だいたいは予想がついている」

 ファイが視線を鋭くさせた。

「と、言いますと?」

「恐らく魔術省の人間だ」

「…もしや、結界でございますか?」

 察しのいい部下にルイースは頷く。

「森の結界は、私が張ったものが殆どだが全てではない。私が張った所は破かれた形跡はなく、他の者に任せた所もなかった」

「なるほど。誰かが一度結界を解き招き入れたということですね。承知致しました。その線から当たってみます」

 頭を下げるファイから視線を外し、再び窓越しから下の様子を見た。鈴音たちはまた対戦を始めたようだ。駒を見る限り鈴音の方が劣勢のようだが、なんらかの奇跡を起こして勝利を納めるのだろう。ルイースはそんな彼らに目を細めた。

 ファイは、優しく微笑む主君を黙って見つめる。それから徐に主を呼んだ。

「…陛下」

「なんだ?まだ、なにかあったか」

 ルイースが表情を引き締め聞く。

「現在、他国ではきな臭い話が絶えません」

「ああ」

「そして、この国では国王たる貴方様が他国から命を狙われております」

「そうだな。まるで、誰かが戦争を始めたがっているようだ」

「ええ、私も同じ意見でございます」

「ーーファイ、何が言いたい」

 ファイはルイースに鋭い視線を送る。

「現在の状況で、身元が分からぬ者をお傍に置かれることはおやめください」

「…スズか」

 ルイースの目が細まる。今度は笑みの為ではない。鋭く尖った視線にファイは冷や汗が出る。

「ご無礼は承知の上で申し上げます。あの者は、あまりに謎が多く得体が知れません」

「得体が知れないか。私にこそ相応しい言葉だな」

「陛下っ」

「君の忠誠心は分かっている。スズの正体が掴めず、怪しいことも。だが、取り敢えずは泳がせてみるつもりだ」

「し、しかし」

 ファイは尚も続けようとして、言葉を失った。冷徹な目が続けることを許さなかったのだ。

「ファイ、これは決定事項だ。何度も言わせるな」

「…御意」

 深々と頭を下げ、歯噛みする。ファイは、本心からルイースの身を案じているのだ。彼を失ってはこの国は立ち行かなくなる。ファイ自身もこの主を失うわけにはいかなかった。それでも、ルイースの言葉には逆らえない。

「今後も他国の情勢には目を光らせといてくれ」

「かしこまりました」

「もう用はないな。私は、少しの間庭に出る」

 ルイースはファイの傍らを通り過ぎた。庭から鈴音の明るい声が聞こえてくる。彼女たちの元へと向かうのだろう。ファイは苦々しい気持ちのまま主の背を見送った。




 ルイースは、庭へと出るためのテラスで一度足を止めた。メイドたちがすぐに王の存在に気付き頭を深く下げる。それを横目に、ルイースは鈴音の元へと再び足を進めた。

 ファイが言いたいことは分かっている。彼が危惧していることも。だが、ルイースの中に光が生まれたのだ。孤独の荒野で生まれた光。ルイースの乾いた心に、彼女の言葉が雨のように染み込んで、壊れそうな何かを支え包んでくれた。彼女の手は温かく、旧友に久しぶりに会ったかのような懐かしさに泣きそうになった。何故か帰ってきたのだと心が震えた。孤独だった自分の傍に彼女が立ってくれたのだ。だからーー

「あ、ルイっ」

 鈴音がルイースに気付いて嬉しそうに手を振る。自然と笑みが浮かぶのが分かる。暗かった道に光が輝き満ちるような気がした。

「ねぇ、聞いてよ!シンシンがね」

「スィオンだ!」

 二人が戯れる様子に笑みが深くなる。


 ーーたとえ、この先、裏切りが待っているのだとしても、私はこの時を大切にしたいんだ。




* * *




くるくる回る


くるくると歯車が回る


それは、運命というもの


規則正しく、くるくると


あらら、ポトリと一つ落とされた


大切な運命を紡ぐ一つの輪が落ちた


でも、誰も気づかない


歯車は回り続ける


くるくると


そして、少しずつ壊れてーー


壊れかけの運命の中で再開した二つの光


光が辿り着く先は、喜びか悲しみか


ーー救いようのない絶望か







       『彼女は異世界で王様でした』第一作/終


 『彼女は異世界で王様でした』は、ここでシリーズ一作目は終了です。

 毎日、投稿できて良かった…最後の二話は高熱のせいで危うかった…

 さて、二作目開始は、まだ未定ですがすでに執筆を始めているので、来年の一月二月あたりに投稿できると思います。というか、できたらいいなという感じですね。

 年末年始は予定が詰まっているのでどうなるかは分かりせんが頑張ります。


 ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

 長編を本格的に書いて投稿したのは初めてです。ある意味処女作であるので、拙い部分も多かったかと存じます。シリーズ二作目も読んで頂けたら幸いです。

 投稿再開は、ブログにてお知らせしたいと思います。

 それでは、皆様良いお年を。


                    オランジェ

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