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彼女は異世界で王様でした  作者: オランジェ
第二章 初めての友達
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5

 スィオンと別れて宿屋周辺を散策していた鈴音は面白そうな子供を見つけた。ひそひそと話している十歳くらいの二人の子供だ。良からぬことを企んでいそうな様子に、鈴音はとても興味がそそられた。背後からこっそりと近付いていく。かなり大人気ない行動だが、それが鈴音なのである。

「だから、これをこうして、こうすると…ほら」

「おお!すっげぇ!!」

 いかにも賢そうな子供の話にわんぱく坊主が感心したように声を上げる。

「これなら、肉屋のおやじにも勝てるな!」

「そうだね。ただ、これだと周囲にも被害が」

 肉屋と聞き、昨日、包丁片手に助けに来てくれたごつい男を思い出す。あの男を敵に回そうとはなかなかの勇者だ。

「一人になったところを狙うしかねぇか」

「うん。なら、おやじの行動を把握しとかなきゃ」

「この爆弾なら、絶対勝てる」

(今、すごく不穏な単語が聞こえた…)

 子供のする事だから、大したことにはならないと思うが念のために確認すべきだろうと音を立てずにさらに近付く。子供は目の前のことに夢中で気付く様子がない。並んで座る二人の死角から子供の手元を覗き込んだ。そこには丸いサッカーボール大の丸いものが一つ。周囲には、白い粉と黒っぽい粉が疎らに散らばっていた。一瞬、本物の火薬を警戒したが、それが日本で言うところの麦粉と胡椒であることが分かり気が抜けた。

「ようやく、これで僕達が勝利できる。ずっと負け続きだったからね」

 悔しそうに頭脳派っぽい方の子供が言う。なるほどと鈴音は密かに笑った。何度もチャレンジしては負かされているのか。肉屋の男も苦労する。鈴音は、両膝に手を着くと、自然な感じに会話に入る。

「でも、不意打ちは卑怯じゃない?」

「何言ってんだよ、不意打ちじゃなきゃ、あのおやじには勝て、な、い…!?」

 わんぱくな見た目の方の子供が言葉の途中で飛び上がり振り返る。もう一人の子供は話しかけられた時点で気付いていたので、すでに離れたところにいた。

「びびびっくりしたぁーー」

「ふふふ、驚かせてごめんねー」

「お姉さん、だれ」

 大きく驚きを表す子供と冷静に聞いてくる子供。両極端な性格の二人だ。鈴音は立ち上がりニッコリと笑う。

「昨日から、あの宿屋でお世話になっている者です。名前は、鈴音。スズと呼んでね」

 愛想良く言ったのに、子供は警戒したまま動かない。

「二人の名前は?」

「答えると思ってんの?名前を言ったら大人にバラすつもりでしょ」

「私も大人なんだけど……まぁ、いいか。でも、それはちょっと礼儀知らずだね。女性に名前を聞いておいて名乗らないなんて、男の風上にも置けない。というか性別関係なく失礼かな」

 鈴音は、上品ぶって片頬に手をやり小首を傾げてみせた。お嬢様風「困ったわ」だ。すると頭脳派の子供がぐっと言葉を詰まらせ、わんぱく坊主は胡散臭そうな視線を向けてきた。

「それで、なんて名前?」

「「……」」

「名前は?」

 笑みを大きくして名乗らない子供二人に強い視線を向ける。

「…ジャス、です」

 最初に折れたのは頭脳派の子だった。わんぱく坊主が慌てたように振り向く。

「お、おい、ジャス」

「…」

 不貞腐れたように、ふいっと顔を背けるジャス。気まずいのかもしれない。

「ジャス君と、君は?」

「…カールだ」

「カール君ね!よろしく」

 笑みを深めるが、二人は答えない。その様子が可笑しくて堪らない。

 性格もだが二人の容姿も両極端であった。ジャスの方はうねるダークブラウンの髪をしていて上手くまとまらないのか顔の周りを覆っている。綺麗な顔立ちをしているのでもったいなく感じる。前髪の隙間から覗く緑の虹彩が混じったグレーの瞳には理知的な輝きがあった。一方、カールの方はオレンジがかった明るいブラウンの髪を短くカットしており顔がすっきりと見える。鼻と頬にはそばかすが散り、口はやや大きく笑顔が似合う容姿をしていた。若葉色の瞳は好奇心に満ち溢れている。

「それで、ジャスとカールは悪巧みしていたみたいだけど」

「違う!悪巧みではないよ!」

 キッと睨みあげてくるカールにジャスが同意するように頷く。

「そうだよ、これは子供の悪戯とは違うんだ。立派な戦いだ」

「…もう、俺達は負けられねぇんだ」

 凛々しく言い放つジャスも、悔しげに顔を歪ませるカールも真剣そのもの。二人の姿にむず痒さと懐かしさを感じた。

(大人にとっては遊びでも、子供にとっては本気だったりするんだよね。こんな時が私にもあった)

 目を細めて、子供時代を思い出す。友達数人と冒険に出ることを決意して山に入ったり(遭難しかけた)、空き地に穴を掘って地下秘密基地を作ろうとしたり(深さ十センチになる前に飽きた)、忍びになるんだ!と屋根に登ってみたり(親にめちゃくちゃ怒られた)、映画〇トリックスの真似をしたり(後ろにあった鉢植えに頭をぶつけてたんこぶを作った)と本当にいろいろしたものだ。

「そっかぁ。ちなみに何をしようとしたの?」

「胡椒粉爆弾をしかけるつもりだったんだ!」

 勢い良くカールが答えて、ジャスが慌てる。さすがに何をするかまでは話すつもりはなかったはずである。

「こしょうこ爆弾…なんとなく分かったけど、一応、その爆弾がどういったものか聞いてもいい?」

「胡椒と小麦粉が詰まったこの玉を地面に叩きつけると、爆発して中身が飛び散り大変なことになる!」

 なるほど、確かにそれは大変なことになりそうだ。主に後片付けが。でも、と鈴音は首を傾げた。

「叩きつけるだけじゃ普通爆発しないんじゃないかな。その玉が割れて、地面に粉が散らばるだけだと思うけど」

「ーーそんなこと僕にも分かっているさ。だから、風の力を使うんだ」

「風の力?」

「そう」

 最初、説明を渋っていたジャスは鈴音が興味を示すと得意げに話し始めた。

「風を起こす魔法文字をこの内側にたくさん書いておくんだ。そして、魔力を込めた石を強い衝撃で割るガラスに入れて文字の上に貼り付ける。それから、中に胡椒と麦粉を入れて完成」

(そういえば、この世界は普通に魔法が存在してたね)

 鈴音の産まれた世界、地球にある科学がない代わりにこの世界では魔法が存在していた。地球のように発展した文化はないが、ファンタジー好きが憧れる剣と魔法の世界なのである。前世では自由自在に魔力を扱えていたが、今は使えないだろうと少し落ち込む。鈴音の体には魔力を蓄積させるための部位がないのだ。

「なかなか面白い仕組みだね」

 本心から言った。すると、ジャスが照れくさそうに鼻の下を擦る。

「簡単そうでも、実は調整が必要なんだ。文字はたくさん書かないと爆発を起こせるほどの風を起こさないし、魔法石に込める力も少な過ぎるとうまく発動しなくて、やっぱり爆発しない。逆に力を込めすぎると文字を焼いて燃える玉になるだけなんだ」

 燃える玉の方がかなり危険な気もするが、鈴音は頷くだけに留める。

「なんだか、それを聞くと難しそうだね。文字を書くのはいいけど、魔力量とかどうやって分かるの?」

「それはーー」

 と言ってジャスは手頃にあった枝を掴み文字を書き始める。

「文字の大きさが、だいたいこれくらいだとして、この十文字分がこの石くらいの大きさで発動するんだ」

 そう言って見せてくれた石の大きさは、鈴音が人差し指と親指を輪っかにしたくらいのものだった。

「なるほどねー。ねぇ、これ試したことある?」

「まだだよ。これ一つ作るのがやっとだったんだ…」

 先ほどのまでの自信が嘘のように、不安そうな表情をするジャス。そうだろうなと鈴音は思った。

「じゃあ、ここで試してみたら?」

「で、でも…」

「だって、本番で失敗したんじゃ、意味が無いでしょう。カールもそう想わない?」

「確かに、そうかも」

「失敗しても成功しても、また作ればいいじゃん」

 鈴音は、だんだん自分が悪さを唆す悪魔になったように思えてきた。でも、彼の発明はなかなか面白いと感じたのだ。

「…分かった」

 悩んでいたジャスが意を決したように顔を上げる。そして、置いていた玉を手に取ると立ち上がる。鈴音とカールは、距離を取りジャスもすぐに逃げられるように構える。

「いくよ。いち、に、さん、それっ!」

 離れたところの地面に玉が叩きつけられた。三人は惨状を予想して屈み込む。だが、想像したようなことは起こらず、ボールがぶしゅぅと音を立てて敗れ、中の粉が僅かに散らばるだけだった。

(…やっぱりね)

 鈴音は内心苦笑して、自分の予想が正しかったことを確認する。

「そ、そんなぁ。どうして?僕の予想は間違ってないと思ったのに」

「…ジャス」

 落ち込む友人にカールはなんと声をかければいいのか分からないようだ。気まずい沈黙が降りるなか鈴音だけは別のことを考えていた。

(この子達が使っている魔法陣は、風を『生み出す』のではなく『引き寄せる』ものだと思う。『生み出す』ための魔術は高度な技術が必要だったはず。まぁ、千年も経っているなら一般人に普及している可能性もあるけど。どちらにしても風の魔法陣を使うよりも密閉した空気を温めて膨張させた方がーー)

 テレビ番組で見たペットボトルの実験を思い出す。ペットボトルにお湯を入れて密閉。そして、それを振り急速に中の空気を温めると爆発を起こした。空気は温めることで膨張するため、密閉した状態だと空気の逃げ場がなくなり爆発が起きるというものである。鈴音は、がっつりの文系だが、理科の実験などは好きだった。

(あとはガラスは使わない方がいいかも。ガラスが割れてもそれが魔法陣と石の間に残って遮ったままになれば魔法が発動しないかもだし、何より爆発の時に破片が飛んでかなり危険だ。それなら、布とか柔らかいものを間に挟んで、それを引き抜く方が確実だし破片の心配はなくなる)

 この方法で上手くいくかは、もっと魔法陣や魔力を込める石について詳しく知らなければならないが方向性は間違っていないだろう。基本的な魔術についての記憶は前世から受け継いでいるようだ。

「ねぇ、ジャス、提案なんだけどーー」

 とアドバイスを口にしようとして止めた。鈴音が考えついたことは、幼い二人にさせるには危険だと思いとどまったのだ。それに、あまり広がっていい知識とは思えない。

(でも、まぁ、自分の身を守る分にはいいよね)

 鈴音は一人納得すると、落ち込む二人に微笑んだ。

「爆弾は失敗しちゃったけど、発明計画?に混ぜてほしいな。それで、悪戯じゃなくて生活に役立つ物を作れたらいいよね!」

「役立つ物?それよりも、俺達は…」

「勝ちたいんでしょう?本当の勝利は相手に『お前たちは、凄い!』って認めてもらうことだと思うけど?今のままでは、子供の悪戯の範疇から出られないよ」

 目線を合わせて言う。ジャスとカールは戸惑ったように視線を交わすが、やがてうんと頷き合った。

「分かった。スズにも協力してもらう」

「決まりだね、今日からスズも俺らの仲間だ!」

 真っ直ぐとした視線は、真剣そのもの。鈴音は、幼い頃、友人と秘密計画を立てた時のことを思い出し胸が高鳴るのを感じた。自分たちで、凄いものを作り出し大人達をあっと言わせるのだと高過ぎる目標に胸を膨らませた幼い頃。懐かしさと楽しさで鈴音は満面の笑みを返したのだった。


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