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彼女は異世界で王様でした  作者: オランジェ
第二章 初めての友達
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読み直したところ、何故か後半部分だけ修正が反映されていなかったようです。

文章に矛盾点があったので混乱させたかもしれません。どんな操作ミスをしたのか謎ですが、すでに読んでしまったみなさんに申し訳ないです。

 ルイースは、足早に宿屋から出ると城へと急ぐ。そろそろファイが盗賊たちから情報を引き出してルイースの帰りを待っていることだろう。今回、隣国に入ってまで盗賊の捕縛を実行したことには理由がある。一つは彼らがカーザラント王国を荒らしたこと。そして、もう一つは彼らが最近、国々で起こる不穏な動きに関係している可能性があったからだ。

 二月(ふたつき)前に、カーザラント王国で世間を騒がせる暗殺事件があった。被害者は有力貴族であるミルベリア侯爵とその家族である。ミルベリア侯爵は大臣の一人で中立派の代表をしており一目置かれた人物であった。また、高い能力に加え人徳があったため部下からは慕われていたようだ。彼の息子たちも優秀で実直。侯爵の次男をルイースの側近にと考えていた矢先の事件であった。侯爵と妻、長男夫婦とその幼い息子、侯爵の長女が毒によって死ぬ。夕食の前に出された食前酒とジュースに毒を入れられていたことが調査によって分かった。つわりが酷く夕食の席にはいなかった次男の妻とジュースを誤って溢した侯爵の次女だけが運良く助かった。しかし、彼女たちの傷は大きく、次男の妻は夫を亡くしたショックから流産。侯爵の娘は、家族が悶え苦しみ死に絶えた光景を目の当たりにしたことで食事が喉を通らなくなり衰弱していると報告を受けている。毒の成分ははっきりしなかったが、無臭であることと侯爵らの症状から、とある毒薬が使われた可能性が浮上した。実行犯はすぐに捉えられたが自害、首謀者を追えなくなってしまった。ならばと毒薬の入手経路から洗い出せないか調査を進めたところ今回の盗賊団の名前が報告に上がったのである。彼らは、周辺諸国を転々としながら盗みや誘拐などの犯罪行為を繰り返すタチの悪い集団であった。そして、盗賊団の動きを調査していく過程で彼らの行く国々で不穏な事件が未遂も含めかなりの確率で起きていることが分かったのである。彼らの居場所を突き止めると盗賊団捕獲にクイレン国にいるスィオンたちを配置した。厄介な相手だと警戒して綿密に罠を張り巡らせた。にも関わらず、盗賊団はあっさりと捕縛される。綿密な罠が無駄となってしまった。いや、悪質な盗賊団を捕縛できたのだから喜ぶべきなのかもしれない。だが、本当に彼らが報告にあった盗賊団なのかと首を傾げたくなる。




 人の波をするすると避けていく。自分の身分で護衛もなく行動するのはあまり褒められたことではないことは分かってはいる。だが、護衛なしの方が動きやすく足手纏いにならない。ルイースだけで十分な戦力になるため、護衛は邪魔になるだけなのだ。

 ルイースは城にたどり着くと、偽の身分証を見せ使用人専用の通路を使って城壁の内側へと入った。もちろんクイレン王家の者から許可を貰っている。使用人通路から王族や貴族専用の通路へと出るとマントを脱いだ。赤い絨毯が敷かれた通路の中央を堂々と歩き自分に用意された部屋へと入った。メガネをかけた細身の男が出迎える。彼こそがルイースの側近であるファイだ。ダークブラウンの髪とグレーの瞳を持ち、容姿はそれなりに整っている。

「陛下、お待ちしておりました。ーー随分と遅いお帰りですね」

 早速の嫌味である。ルイースは苦笑しながら柔らかく整えられたソファに腰を下ろした。

「悪い、昨日はいろいろあってな」

「いろいろとは?」

「不注意で変な男たちに絡まれた」

 ファイの目がすぅと細まる。

「暗殺者ですか?」

「いや、ただのゴロツキだ」

「…そうですか」

 ファイは、短く答えると呼び鈴を鳴らす。するとすぐにメイドがやって来た。

「茶器の用意を」

 メイドは無言で頭を下げて部屋を出る。そして、すぐに茶器と茶葉、熱湯が入ったポットを乗せた台車を押して戻ってきた。

「後は、私がしますから下がりなさい」

 メイドはやはり何も言わず頭を下げて去っていく。決まりきったやり取りにルイースは興味を向けることは無い。

 ファイは、まず急須とカップを念入りに拭き、慣れた手付きで紅茶を淹れる作業へと移った。しばらくすると上品な香りが漂い始める。

「いろいろ申し上げたいことはありますが、まずは報告をさせていただきます」

 まずは、と前置きがあるということは後ほどこの側近に叱られることになるらしい。小さく嘆息する。その振動でファイに渡されたカップの中身が波打った。この男の説教は長く、しかもネチネチと小うるさいのだ。報告が済んだ後のことを考えると気が重くなるが、今はファイから報告を聞くことが重要だと気持ちを切り替える。

「結論から申し上げますと、有力な情報は何も聞き出せませんでした。というよりも男たちが情報を持っていないというのが正しいでしょうか。誰も有力な情報を持っていないようです」

「では関わりはないと?」

「いえ、暗殺未遂に使われた毒を仲介していた可能性があります。リーダー格、名前はドアマン。まぁ、間違いなく偽名でしょうね。彼は情報を対価に、液体が入ったクリスタルの瓶を指示されるがまま依頼主に届けていたそうです」

「金ではなく情報か」

「はい。最初の報酬は盗品や誘拐した女子供を取り扱う闇市の情報と紹介状だったそうです。その後は、貴族や豪商の屋敷の間取り。稼ぎが増え盗賊の規模が大きくなってくると男が少ない集落などの情報が報酬になったと言っておりました」

 ルイースは眉を寄せ顎に手を添える。

「だから、転々と移動していたのか」

「そのようですね。しかもドアマンが面白いことを言っておりました」

 視線だけで先を促す。

「盗みに入る屋敷も集落も不思議なほど襲いやすかった、と」

「どういうことだ?」

「どこまでが事実かは分かりませんが、盗みに入った屋敷は金目のものが多い割に警備が緩かったそうです。しかも、部下が騒がしく暴れても警邏隊が来ないことがほとんどで、来たとしても人数は少なく返り討ちにしやすかったと。さすがにドアマンも違和感を覚え、そろそろ手を切ろうかと考えていたらしいです」

「なるほどね。それに気付いた雇い主から先手を取られ、情報を売られたというわけか」

「恐らく」

「で、ドアマンは相手の顔を見ているのかい?」

「見ていないようです。ドアマンの話によると接触は最初の一回のみで、全身をマントで覆い顔にはお面した上で布を垂らすといった徹底ぶり。その接触後は指示書と液体が入ったクリスタル瓶だけが届けられ、受け渡しに成功すると報酬の情報が書かれた手紙が届けられたそうです。この手紙については、どこに居てもいつの間にか手元に置かれていて不気味だったと怖がっていました」

「怖がっていたわりに仕事はきちんとこなしていたようだね」

 皮肉混じりの言葉にファイが肩をすくめる。

「不気味だったが、受け渡しのみで有力な情報を得られることに味を占めたようですね。要は金に目がくらんだということなのでしょう」

 ドアマンという男は、捨て駒として雇われたに違いない。液体が入ったクリスタル瓶を依頼主に届けさせるための捨て駒。

「接触してきたマントの人物も手紙を届けに来た者も恐らくその道のプロ」

「暗殺者、ですね。もしそうであれば糸を引いているのは権力者あるいは相当な資産家になりますね」

「雇い主を追うのは難しそうだな。…受け渡し相手については何か言っていたか?」

「毎回、顔ぶれが違っていたそうです」

 裏で糸を引いている人物はかなり用心深い性格らしい。始末するのではなく、ドアマンが率いる盗賊の情報を流すやり方もあの男から足がつく心配がないという表れではないかと推測する。あるいは情報の撹乱か。

「受け渡し地域については聞き出したか?」

「はい。同じ地域で何回か行われたようなので、そちらの線から調査するよう指示を出しております」

 さすが優秀な男だ。ファイはいつだってこちらの意図を先回りして行動する。だから、ルイースは些細なことに煩わされることなく動くことができた。口うるさいがなくてはならない存在なのだ。

「そういえば、瓶の中身は本当に毒だったのかい?」

 質問にファイが頷く。

「ドアマンがそう言っております。一度、中身が気になり瓶を開けてみたことがあるそうです。中身は透明で無臭。ただの水かとも思ったらしいのですが、念のため一滴垂らしたミルクを野良犬に飲ませたそうです。最初は何の変化もなかったらしいのですが、数分すると突然もがき苦しみ死に至ったと語っていました」

「無味無臭で即効性のある毒薬。断定はできないが、侯爵やその家族に使われていたもの同一かもしれない」

「『死の雫』なのでしょうか…」

 安易な名前だが、その毒薬の効き目は絶大で一滴で人を死に至らしめる代物だ。無味無臭で銀にも反応しないため毒の混入に気付ける者はいない。苦しみ始めた時には手遅れで治療する間もなく被害者は死に絶える。数年前から出回るようになったのだが、その毒の原料は知られておらず、対抗策が未だに見つけられていない。

「分からないが、もしそうだとすると事態は私たちが思うよりも厄介なことになるかもしれないな」

 ひたひたと不穏な影が近づいてくる予感にルイースとファイは無言になる。張り詰めた空気の中、紅茶の香りだけが揺蕩う。先に沈黙を破ったのはファイであった。

「調査を急がせましょう」

「ああ、頼んだよ」

「御意。私の報告は以上になります。ーーさて、ルイース様、先ほどおっしゃっていた件についてお話していただけますね」

 ファイがメガネを光らせながら言った。




 簡単に事情を説明したあとファイがため息を吐く。

 「陛下、貴方は少し警戒心が足りないのでは?」

  ファイの小言にルイースは、視線だけで先を促す。

「暗殺事件があったばかりなのですよ。まったく、あの男も、まだ自分の立場が分かっていないようですね」

 あの男とはスィオンのことだ。遠回しに、城まで護衛に着かなかったスィオンを責めているのだろう。

「スィオンの今回の任務は、私の護衛ではない。私の我儘で、あの者を責めるな」

「そう思うのでしたら、カーザラントの城で大人しく執務をしながら待っていてください」

 耳に痛い言葉だ。

「それにしてもその女性、怪しくありませんか」

「そうだね」

「その二人の男も彼女が用意した可能性が考えられますよね」

 ファイの懸念に頷く。絡まれた後に都合よく現れた鈴音。警戒しないはずがない。

「しかも例の盗賊から保護された女性。もしや、こちらの動向を探るために送られてきた者かもしれません」

 彼女の言動を考えるとファイが疑うのも仕方ない。ルイースもその可能性はゼロではないと疑っている。しかし、と左右に首を振る。

「スズの目的がなんであれ、毒薬に関わるようなことはしていないだろう」

「その根拠はなんですか?」

「彼女は、人殺しに関わっている人間のように殺伐とした雰囲気は持っていない」

 曖昧な理由にファイは納得できない様子で腕を組む。いろいろと頭の中で考えを巡らせているようで、しばらくしてから一人でに頷いた。ファイの中でなんらかの結論を見出したようだ。

「まぁ、貴方様に魅力を感じる人間は多いですからね」

「私の魅力か。権力、財産、地位とか、かな」

 自分の魅力について挙げれば、ファイが呆れた表情を浮かべて額に手を当てた。

「もう少し、ご自分のお姿に自覚を持ってください。貴方様に、迷惑な好意を抱く者は多くいるのですよ」

 目を瞬かせ、なるほどと口の端を上げる。ルイースはスゥっと目を細め、妖しげな笑みを深めるとファイに流し目を送った。

「君も、私が魅力的だと思ってくれるのかい?」

 老若男女を魅了する笑みにファイは思いっきり顔を歪ませた。

「気持ち悪い。私の忠誠心をくだらない感情と同じにしないでください。不愉快です」

 不敬罪とも取れる発言にルイースはくつくつと肩を揺らす。

「すまない」

 今のは完全にルイースが悪い。素直に謝罪したが側近は不機嫌なままだ。

「本当に悪かった。どうやら私は初めての友人に浮かれているようだ」

「友人…?なんの話ですか」

「今朝、スズから友人にならないかと誘いを受けたんだ」

 ファイの不機嫌が増す。

「ますます怪しいではありませんか。それに、ご友人でしたらクイレン国の王子がいらっしゃいますでしょう」

 ルイースは肩をすくめるだけで返事はしなかった。

 確かに王族同士なら身分も合い、共感できる部分も多い。しかし、所詮は他国の人間なのだ。近いが、絶対に相容れない存在。国と民を守る立場にありながら、他国の王族に気を許すほどルイースは愚かではない。だから、今朝の出来事はルイースに新鮮な驚きをもたらした。

「彼女はなかなか興味深い女性だよ。ファイも会えば分かる」

「会う予定はありません」

「いや、会うことになる。カーザラントへの帰路は彼女も一緒だ」

「…失礼ですが、陛下。今のお言葉は、怪しい女をご友人としてカーザラントへ連れて帰ると聞こえるのですが」

「間違っていない」

「……」

 凍るような眼差しだ。だが、ルイースは涼しげにその視線流す。

「言いたいことがらあるなら聞く」

「お側に置くつもりですか?」

「初めての友人なんだ。側に置きたくなるのは仕方がないだろう」

 面白そうに口角を上げながら言うルイースにファイの懸念は大きくなる。 

「本気ですか?」

「ああ」

 ルイースの考えを翻すのは難しいとファイは悟る。

(陛下が女性に興味を持つとは…しかも、私的な地位まで与えるとは前代未聞だ)

 ファイは、ルイースに結婚する意思がないのは知っている。それが理由なのか、女性とは必ず一定の距離を置く。相手や周囲に誤解を与えないために徹底しているのである。

(そんな陛下が、そこまで興味を示すとはいったいどんな女だ)

 不愉快ではあるが、少し興味が湧いてきた。

(一度会って確かめるべきでしょうね。もし陛下に相応しくない女であれば私が排除すればいいだけの話ですしね)

 自分の中で結論を出すとファイはルイースに向かって恭しく礼をとった。

「主君のお望みとあらば、私は従うまででございます。女性が同行するのなら、道の変更をした方がよろしいですね」

「確かにそうだな。ファイ、頼めるか?」

「御意」

 深々と頭を下げる側近を見ながら、紅茶を口に含む。

(ファイ、心配しなくていい)

 心のうちで側近に語りかける。

(もし、彼女が害になるのならーー)

 ルイースの瞳に冷ややかな色が宿る。

(消すだけだ)

 室内は、いつの間にか紅茶の香りが薄れ、無機質な静けさに包まれていた。


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