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彼女は異世界で王様でした  作者: オランジェ
第二章 初めての友達
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3

 昼食後、体が鈍ると言って鍛錬を始めたスィオンを見ながら鈴音は話しかける。

「スィオンってさ、カーザラント王国の人だったんだね」

「…ルイース様から聞いたのか?」

 ビュン、ビュンと剣を振りながらスィオンが返事をする。真剣での鍛錬なので一定距離以上近付くなと厳命された鈴音は大人しく従う。用意してもらった小さな椅子に腰を掛け膝に肘を付き、さらに手に顎を乗せるといった気だるげな姿勢で鍛錬を眺める。因みに先程までスィオンの部下も混じっていたのだが、二時間続けると付き合ってられないとばかりに次々と抜けていった。時間を持て余し午前中もずっと鍛錬していたのだ。しかも、任務を無事に終了した翌日だ。ゆっくり休みたいと思うのは当然の心理だろう。

「スンスンが、とは言ってはいなかったけどね」

「スィオンだって、スンスンってなんだーーて、そんなことはどうでもいい。何を聞いたんだ?」

「ルイがカーザラント王国出身だってこと。ルイに従っているみたいだったからさ、スィオンもカーザラント王国の人なのかなって思って」

「そういうことか。ま、出身に関してはクイレン王国なんだがな、一応」

「一応?」

「正確のところは知らん。俺は孤児なんでな」

 ぶれること無く素振りを繰り返すスィオンに鈴音は口を閉ざす。どう反応すればいいのか困ったのだ。平和な日本の普通の家庭に生まれた鈴音の周囲に孤児なんていなかった。だから、スィオンの話は予想外で返答に困るものであった。

「だが、今の籍はカーザラント王国だ」

「…移せるもんなの?」

「移せるぞー、お偉いさんに認めてもらえればな。あとは他国の人間と婚姻した場合とかにも移せる」

「そっかぁ、ルイは王様だもんね」

「そうそ………!?」

 自然に会話を続ける鈴音に同意しようとしたスィオンが突然、剣の軌道を大きくズラした。そして、動揺したように振り返る。

「それも、聞いたのか…!!?」

「あらら、やっぱりそうなんだねー」

「っ、!嵌めたな…」

「人聞き悪いこと言わないでくれるー、今のは完全にスィオンの落ち度でしょう」

「…」

 眉を寄せて黙り込むスィオンに頬杖を付いたまま苦笑する。

(それにしても、まさか本当に予想が当たるとは…あの容姿でカーザラント出身って聞いた時から王族の可能性が高いとは思ってたけど)

 「王様かぁ」と一人呟く。そんな彼女にスィオンが鋭い視線を向ける。

「お前、何を企んでいるんだ?」

「企むって、なにを?」

 思いがけないことを言われ、頬杖を辞めると背筋を伸ばした。スィオンは、険しい表情で鈴音をひたっと見据えている。

「なぜ、ルイース様の正体を暴く?もしかして、俺に近付いたのはルイース様に近付くためか」

「はい?なんでそうなるの…近付くも何も、貴方が私を助けてここまで連れてきてくれたんでしょう。忘れたの?」

「…忘れてはいない。だが、お前が何者なのか結局、俺は知らないからな」

 鈴音は目を瞬かせ、にっこりとわざとらしく笑ってみせた。

「なに、やっぱり信用できない?」

「警戒したくないさ。スズが悪い人間だとは思えない…」

 スィオンは目を伏せ鈴音という人間について考える。容姿は、まさに異国人なのに違和感を覚えさせることなく周囲に馴染み、異国のものであるはずの言葉を綺麗に使う。出身は東だと言いながら、故郷はないのだと断言する。知っていることといえば、名前と年齢と性別くらいだ。その名前すら本名なのか怪しくなってくる。スィオンは、改めて何も知らないまま彼女に気を許していた事実に驚く。職業柄、警戒心はかなり強い方だし、簡単に気を許したりしない。だが、逆に気を許してしまえば、認識が甘くなる己を知っているので自負するのは良くない。

「スィオンは、素直だね」

 関心したような声にスィオンは我に返る。鈴音に視線を戻せば面白そうに頬杖を着いて彼を見ていた。

「…考えていることが透けて見えるとは、よく言われるよ」

「あはは、だろうね!今、葛藤が見えた」

 朗らかに笑い鈴音は立ち上がる。スィオンに狭い歩幅で近付くと邪気のない顔で見上げる。

「ごめんね、いつか話す機会があるかもしれないけど、それは今じゃない。でも、心配しないでよ。私はルイを傷付けるつもりは無い。今朝、友達になったばかりだしね!!私は家族と友達は大切にすることにしているから。そうそう誕生石とか誕生花とか、何故か愛情と友情に関するものが多いんだよねー。もはや宿命みたいな?」

 ケラケラと笑う。スィオンがよく分からないという表情をしていた。

「てことで、私もルイとスィオンに着いて行くことにしたから、よろしく!」

 屈託の無い笑顔にスィオンは「そうか」と頷きそうになって、はっとした。

「はぁ!?なにが『てことで』だ!どういうことだ!!?」

「え、だから、貴方たちに着いてカーザラントに行くってこと。戻るんでしょ?」

「そりゃあ、すぐに戻ることになるだろうが…。スズにはここで、住む場所と働き口を紹介するつもりでいたんだ。俺はもともとここに住んでいたから、信頼できるところをいくつか紹介できる」

「あー、やっぱり、そうなんだ。でも、今後どうするかは、もう決まったからいいや」

「な、なにを勝手な…そもそも、そんなこと簡単に許せるわけないだろう!?」

 鈴音はスィオンの言い分に納得し頷いた。

「うーん、そうだよねぇ。分かった」

「…随分と聞き分けがいいな」

「だって、ルイは身分が身分だからね。身元が不確かな女を彼の近くにいさせる訳にはいかないってことでしょう。うん、理解した。だから、ルイたちから離れて私一人でカーザラントに入ることにするよ」

 スィオンは愕然と年上の小柄な女を見下ろした。

「スィオン、顔がすごいことになってる」

「ーー誰のせいだ!!」

 もう我慢ならないとばかりに怒鳴られる。肩を怒らせて室内へと入っていくスィオンを鈴音はポカンと見送った。しばらくして、体を小刻みに震わせて笑い出す。

(やばい、スィオン、面白すぎっ)

 こうして、スィオンの鍛錬は強制的に終了させられたのである。




* * *




 ルイースはスィオンを探して部屋を出た時、ちょうど本人と出くわした。

「スィオン、ちょうどいい所に…どうしたんだ、凄い顔をして」

「凄い顔って、どんな………いや、ルイース様にお話があるんですが、よろしいですか?」

 ルイースは器用に片眉を上げると頷く。

「かまわないよ。私もちょうど君を探していたところだ」

 スィオンを部屋に通し、席に着く。スィオンはルイースが座るのを待ってから、いまだ慣れない動作で礼をとり向かい側に座った。

「これから、城に行って暇を告げに行くところだったんだが、スィオンはどうした?」

「スズのことなんですが」

「彼女が、どうかしたのか?」

「俺たちに着いてくるつもりのようです」

 ルイースは目を瞬かせた。

「着いてくるって、カーザラントにか」

「そのようです」

 渋い顔をするスィオンを見ながら「そうか」と頷く。

「連れていけばよかったのか」

「は?」

「実は、暇を告げるついでにスズについて頼もうかと思っていたんだ。だが…そうか連れて行けば、相手に手間をかけさせることがないな」

「わざわざ王家の方に頼まなくても俺が住む場所と働くところは紹介するつもりでしたよ」

「ああ、分かっている。だから、時々、様子を見に行ってもらい私に知らせてほしいと頼むつもりだったんだ。スズと私は友人になったらしいからな」

 どことなく嬉しそうな声音にスィオンは頭を抱える。まさか、この主は新しい友人が出来たことに浮かれているのか。

「…それ、本当のことだったんですね。俺、絶対ファイさんに睨まれる…」

 ファイとは、ルイースの側近で今回の旅に同行してきたのだ。真面目が服着て歩いているような男で、自分にも他人にもかなり厳しい。報告書が遅れた時の絶対零度の蔑むようなあの眼差しは何度見ても慣れる気がしない。

「ファイは、仕事はできるが頭が固いからな」

 苦笑を返す。彼をそんなふうに言えるのはルイースだからこそだろう。スィオンは口が裂けても言えない。

「ファイさんは、絶対反対されると思いますよ」

「そうだな」

 と今度はルイースが苦笑を浮かべた。

「陛下のこと大好きですからね…」

「…そうだな」

「それでも、連れて行きますか…」

「本人が望んでいることなんだろう?」

「はい…同行を断れたら一人でも来るつもりです」

「なら、是が非でもファイには、同行を許してもらおうか。女性の一人旅は危険が多すぎる」

「交渉はルイース様がしてくださいよ」

「ああ」

 ルイースは、首肯すると立ち上がる。

「では、私は城へ行く。これ以上ファイを待たせて機嫌を悪くさせたら交渉が難しくなる」

 スィオンが深々と頭を下げるのを見てから出口に向かう。途中、足を止めて小さく笑みを漏らした。

「ルイース様?」

「この帰路は、賑やかになりそうだ」

「俺も、そう思います」

 楽しそうな君主の様子にスィオンは同意する。


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