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2-4

 リシュワとレオネは砦のなかへ通された。

 中庭はほうぼうに松明が掲げられていて明るい。昨晩の倍も明るかった。

 リシュワが逃げ出したことで、警備体制が見直されたようだった。


 ダクツはリシュワたちを中央の建物へ導いた。

 樫の分厚い扉を開くと広間となっている。

 広間には大小のテーブルが並べられて、食堂と化していた。

 石を積んだ柱のそこかしこに燭台が置かれ、なかは明るい。

 食べ物と酒の匂いが充満している。物資は豊富なようだった。


 この食堂にいるのは三十人くらいか。

 大まかに人間とコドンにまとまっているが、両者がひとつの部屋で和んでいるのは間違いない。

 楽器を鳴らしているものもいた。


 人混みを縫うようにして、ダクツは中央の階段を登っていった。

 リシュワたちは好奇の視線に晒されたが、話しかけてくるものはいなかった。

 テーブルの上は食べ物が載って雑然としていたが、床にも、部屋の隅にもゴミは落ちていない。

 かなり清潔な状態だった。

 リシュワは階段を上り終わると、ダクツの背中へ聞いた。

「掃除が行き届いているな。とても砦のなかとは思えない」

 ダクツは首だけ振り返った。

「気をつけてるのさ。かなりな。ここは人類とコドンの寄せ集め所帯だ。みんななにか腹に含むものはある。それを飲み込んでお互いつきあっている。なにか機会があればそれが吹き出すかもしれない。たとえば住居が不潔で不満だったりしたらな。住処の荒れは心を荒ませる。掃除と食い物には気をつけてるのさ」


 ダクツはひとつの部屋へ入るよう言った。

 その部屋は簡素な作りで、壁の一画に大きな地図がかかっていた。

 広いテーブルと、大きめの椅子が数脚あった。

 椅子は新しいもので、コドンもゆったり座れるサイズだった。

 壁に燭台が灯されていた。やや暗いが、新鬼人やコドンには不自由ない明るさがあった。


 ダクツは言った。

「荷物をおろして、腰かけて待っててくれ。ここのリーダーを呼んでくる」

 リシュワは背嚢をおろした。

「あんたがリーダーじゃないのか?」

「俺は副官だな。テーブルの上にはジュースが残っている。飲んで待っててくれ」

 ダクツは出ていった。

 リシュワとレオネは一息ついて椅子に座った。


「ジュースだって!」

 レオネがテーブルの上のピッチャーを取り、カップへ中身を注いだ。白い液体だった。

 レオネは少し匂いを嗅いで、口をつける。

「甘い! ぶどうジュース! こんなの何年ぶり?」

「何年ぶりってほどじゃないだろう。一年はご無沙汰だったけど」

 リシュワもカップへ注いで飲んだ。

 甘く芳醇なフルーツの味がする。

 戦いと警戒の一年では味わえなかった、懐かしい味がした。共和国では似たようなものをよく飲んでいた。


 味覚が刺激されて食欲が湧いた。リシュワは背嚢から食べ物をとりだした。

「きっと話は長くなる。少しつまんでおこう」

「うん」


 ふたりでチーズと干し肉をかじっているとドアが開いた。

 リシュワたちはドアを正面に見る位置に座っていたので、ダクツが入ってきたのがわかった。

 続いて赤い髪をした漆黒の肌のコドン。

 女だった。ローブを着込んでいるところからして産獣師だろうか。

 ドアは鎧を着た人間が通り抜けられるよう幅の広いものだったが、それでも窮屈そうだった。

 大柄で身長は二メートルを超える。

 その後ろから新鬼人が入ってきた。

 もうすでに会ったことがある。

 長い金髪で四肢がすべて寄生肢の男だった。金髪の男はドアを閉めた。

 これで全員らしい。


 リシュワの左、椅子一脚ぶんをあけてダクツが座った。

「彼女はゲデ・スオーン。この砦のリーダーだ。金髪はナッシュ。俺の相棒だな」

 ダクツの左、リシュワの正面にゲデ・スオーンが腰を下ろす。その隣にはナッシュが席についた。


 ナッシュは金髪をかきあげて、歯を見せて笑った。

「ここにいる新鬼人はぼくとダクツだけなんだ。きみたちが暴れると二対二で厳しい戦いになるね」

 リシュワは口元だけ微笑み返した。

「リシュワだ。こっちは妹のレオネ。本当に血の繋がった姉妹だ」

 レオネが軽く手をあげて挨拶する。

 ナッシュは眉を寄せた。

「本当に子供だな。こんな子供の身体をいじるなんて、なんてやつだ」

 リシュワが言った。

「見殺しにされるよりはよかったかもしれない。いまも生きていられるんだからな。最初の混乱時には、ほかにも子供が施術されたんだが、みな身体が溶けて死んでしまった」

「ま、いろいろ地獄だったよな、コドン侵攻時は」

 ダクツがそのまま続ける。

「だが、こちらの世界に転移してきたとき、コドンの子供もほとんど死んでしまったそうだ」

 リシュワは聞いた。

「この世界に転移してきた? どういう意味だ?」

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