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6-3

 ラーヴ・ソルガーが座ったまま身体を反らして笑った。

「ここはコスモだぞ。腕力など無意味。おまえたちとわれらが対等の立場で話しあえる唯一の機会だったというのに!」

「クッ!」

 リシュワは自棄になって刃をひねりこんだ。

 生きているものが相手なら効果的な手段だったが、フリックは動じない。

 片手でリシュワの頭を弾く。たったそれだけで、リシュワは無様にしりもちをついてしまった。

 フリックは両手を広げた。

「これまでのよしみで、速やかな死を約束してあげよう。では、さらば」


 空間が凝縮して、黒い点となった。


 気づいたときには、ラーヴ・ソルガーの工房にある自分たちの寝室へ戻っていた。

 時間が止まっていたように、リシュワは剣を抜いたところで、レオネは弓矢を構えたところだった。

 

 幻ではない白光が部屋を満たしていた。窓の外の人型から光が発せられている。

 空中に支えもなく浮かび、光を放っているのは、神柱フリック=ラーヴ・ソルガーだった。

 白く、幾何学模様が走る筋骨隆々とした巨体。

 ドラゴンの身体だった。

 まず目と鼻のないワニのようなあごがあり、のどの部分にはフリックのうつろな顔があった。

 そこからドラゴンの身体に同化されつつあるようにフリックの身体が埋まっている。

 フリックの身体の腹にはラーヴ・ソルガーの禿頭があった。


 フリックは無表情だったが、ラーヴ・ソルガーの顔がにやりと笑う。

「この身体で最初に引き裂くのは女の身体よ。それも善き哉。さあ、どちらが最初の栄誉を担う?」

 ラーヴ・ソルガーたちの身体は、窓からそのまま入ってくるには大きすぎた。

 両腕と尾を振るって壁を破壊する。壁はひと振るいで粉々になった。

 だが、少しの猶予ができた。


「レオネ!」

 リシュワは動けないでいるレオネの腰を抱きあげ、部屋から飛び出した。

 ラーヴ・ソルガーたちはゆっくり、身体をかがめて部屋へ入ってくると、

 どっしりした太い足で、出口へ向かってきた。

「ふふふ、狭い、狭い。ここはおまえたちにとって有利だろう。なぜ逃げる……」


 ラーヴ・ソルガーたちが部屋の出口に立ったとき。


「うぉおおおおおッ!」

 剣をまっすぐ構えたリシュワが突っこんだ。

 逃げるふりをして陰に潜んでいたのだった。

 リシュワの剣はラーヴ・ソルガーの頭にめりこんだ。

 しかし、全体重をかけたというのに、切っ先だけしか入らない。

 傷はつけられる。

 だが、浅い。

 それを希望ととるか絶望ととるか。


 どちらにしろリシュワは止まらなかった。すぐに剣を引き、乱撃を浴びせる。

 傷はつく。

 浅いものだったが。

 ラーヴ・ソルガーたちの白い体液が飛び散る。


 階段の下からはレオネが射掛けていた。

 矢はフリックの顔と胸に突き刺さる。それでも動じない。


「もっと本気を出さんか」

 ラーヴ・ソルガーの顔が笑い、無造作にリシュワを突き飛ばす。

「ぐっ!」

 リシュワは背中から壁に当たった。

 壁が崩れるほどの衝撃で、一瞬息ができなくなる。


 レオネの矢がさらに突き刺さる。

 フリックのうつろな目がぐりっと動いてレオネに向けられる。悲鳴があがった。

「いやっ! 動けない!」


 リシュワは立ちあがってレオネを見た。

 弓を手にしたまま、立ちすくんでいる。

「レオネ、まずは逃げろ!」

「姉さん、動けない! なにかが……」


 リシュワは剣を構えてラーヴ・ソルガーたちちに向かいあった。フリックの目がこちらに向けられる。

 その瞬間、身体の自由が効かなくなった。

 なにか太い縄のようなもので四肢が締めあげられている。

 目には見えない透明の力があった。

 新鬼人の腕力でも太刀打ちできない。


 フリックの頭の上で、目と鼻のないドラゴンの首がごろごろと喉を鳴らした。

 ラーヴ・ソルガーの顔が愉快そうに歪んだ。

「最初の勝利、最初の生贄。与えうるかぎりの苦痛を与えて、苦悶の絶叫をもって祝福としようか……」

 腕を持ち上げて、鋭い爪をこすり合わせる。


 無表情のフリックが口を開いた。

「再処置を施し、首を切り落として身体だけ配下としよう」

「それも一興よの……」

 ラーヴ・ソルガーの口からよだれが垂れた。

 そのとき、ラーヴ・ソルガーたちの身体がのけぞって、大きく弾き飛ばされた。

 背後から衝撃に襲われたかのようだった。

 ラーヴ・ソルガーたちの身体は階段を転げ落ちた。


 部屋の出入り口にはふたりの人影が立っている。

 金の外骨格を持ったウェルネッタと、解けて流れる身体をしたフィスマだった。

 ふたりが体当たりを食らわせたらしかった。フィスマの軽口が聞こえる。

「神柱にしちゃ感覚が鈍いんじゃないか。こんな奇襲が効くなんてさ。頑丈さだけが取り柄かよ」


 リシュワの身体は自由を取り戻した。

 いま、ラーヴ・ソルガーたちは階下にいて、レオネに近い。

 リシュワは迷うことなく襲いかかった。階上から剣を突き立てるべく、飛び降りる。

「喰らえぇーッ!」

 筋肉が盛りあがって畝になっている背中へ落下し、切っ先を刺す。それでもやはり傷は浅かった。

「愚か者め!」

 ラーヴ・ソルガーが叫んで振り落とす。リシュワは床に転がった。


「姉さん!」

 レオネが駆けつけて助け起こしてくれた。

 リシュワはすぐ立ちあがり、レオネをかばいながら後ろへ下がった。

 ラーヴ・ソルガーたちとリシュワたちのあいだに、フィスマが着地した。

 ウェルネッタは姿を消している。


 フィスマは嘲るような調子で話しかけた。

「頭がみっつもあるなんて大変じゃないか? あんたは誰なんだ? 名前を教えてもらえるかい?」

 ラーヴ・ソルガーたちは悠然と立っていた。いま足元を救われたのをすでに忘れてしまったように。

 ラーヴ・ソルガーの顔が答える。

「死にゆくものに名乗っても詮なきこと」

 フィスマは言った。

「あんたが主人なのか、ラーヴ・ソルガー。俺たちは初めて会うわけでもないんだぜ。覚えているかしらないが」

 フリックが初めて口を開いた。

「われわれに主従はない。すべてが一体なのだから。われわれは合体者シンフォネフシー。名乗るならば神柱シンフォネフシーといおう。珍しい身体をもっているな君は」

「俺は意識してないが、どうもこの世にふたりといないようだね、この身体は」

「われらが配下としていただくとしよう。死ね」

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