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一行は寺院を出て山を降りた。
麓で休んでいたレオネ、フリックと合流し、シャットンの村へ帰る。
村でフリックの傷に応急手当をし、村長にことのしだいを伝える。
ごく簡単に、怪物は討ち倒したと。
村人たちは大喜びし、祝の宴を開くという。
ダクツたちも参加を希望されたが、砦へ戻ることを優先した。
フリックの傷は軽いやけどだという。
産獣師は外科的な医術にも長けていた。
ゲデ・スオーンが診ればすぐ治るだろう。
レオネは帰りの道中ずっと、宴に参加できなかったことをぼやいていたが、
月が高く昇るころには諦めて口数も少なくなった。
砦には夜半についた。
あたりは静かで、虫の鳴き声くらいしかしない。平穏だった。
厩に馬を収めるとダクツは言った。
「ゲデ・スオーンには俺から報告しておく。今日はもう会議を開かない。明日の早朝だ。みんなご苦労だった。休んでくれ。フリックは俺の肩につかまれ。ゲデ・スオーンに診てもらおう」
ヘズル・デンスは巨体で伸びをして、リシュワを見下ろした。
「メシを食おう。上物を一杯奢ってやる」
リシュワも乗馬でこわばった節々を伸ばす。
「奢るって、ここのメシはタダだろう?」
「特別に上物が欲しいときは払わなけりゃならない」
「そうなのか。それじゃ一杯だけもらおうか。酒は得意じゃないんでね」
ヘズル・デンスはそれ以上なにも言わなかったが、かすかな含み笑いが聞こえたような気がした。
ヘズル・デンスのリシュワに対する態度は大きく軟化していた。
やはり戦士たるもの、同じ場所で命の駆け引きを経験すると変わるものかもしれない。
主棟の広間では食事のピークは過ぎていた。
楽器を弾く者のまわりに何人かが集まって、おとなしめに楽しんでいた。
リシュワ、レオネ、ヘズル・デンスは同じテーブルについて、残り物を食べた。
約束どおり特別支払いの酒を奢ってもらう。
今までのわだかまりも解けて、会話が弾むものかと考えていたが、そんなこともなかった。
同じテーブルにつきながら、ヘズル・デンスは仏頂面でちびちび酒を飲むばかりだった。
肩透かしを食らった気分もなくはなかったが、
リシュワはこれがこの女の流儀なのだろうと、ゆっくり一杯飲み終わるまでつきあった。
その沈黙は一見すると剣呑な雰囲気に見えたかもしれない。
気をつかったようにローラがやってきた。
「リシュワさま、レオネさま、お部屋の用意は整えております。いつでもお休みになれますよ」
リシュワは答えた。
「ありがとう、ローラ。でもわたしたちは気分よく飲んでるんだ。お気遣いありがとう。今日は激しい戦いだった」
「ほかの方が見えておりませんが」
「ダクツはゲデ・スオーンへ報告している。フリックは怪我をして治療を受けているはずだ」
心配そうに眉を寄せるローラの背後から、どやどやと人が押し寄せた。
「フリックが怪我だって!」
「どんな相手と戦ったんだ?」
「聞かせてくれよ!」
リシュワたちのテーブルはあっというまに囲まれた。
ヘズル・デンスがぼそりと言う。
「おまえが呼び寄せたのだから、おまえが語ってやるのだぞ」
リシュワはしかたなく話しはじめた。
「わたしたちは名前もわからない異形の怪物を追っていき……」
話しているうちにも人が増えていった。
人間のみあらず、コドンも周りに来た。
戦士階級のほかに給仕たちも仕事の手を休めて、リシュワの話に聞き入った。
聴衆は熱い期待を込めて、吐息をつき、固唾をのむ。
ジェントル・オーダーなどといって行儀よく過ごしていても、やはり血気盛んな戦闘集団なのだった。
この手の話が三度のメシより好きらしかった。
ジェントル・オーダーの一員としての武勇譚を、ジェントル・オーダーの面々に披露するリシュワ。
リシュワがこの集団に、本当の意味で受け入れられた瞬間だった。
その夜はしばし延びた。




