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4-3

 リシュワも剣を抜いた。

「ダクツ、頭の管を切れ! こいつらの弱点だ!」

 ダクツは左の剣と右腕を器用に繰りだしながら答えた。

「そうはいうがな! こいつは使い手だ!」

 リシュワは好機とみて、敵の管を狙って切りつけた。

 しかし、敵新鬼人は信じがたい態勢に身体をひねり、回し蹴りを放ってきた。


 予想外の攻撃をまともに食らってしまって、リシュワは転がされた。

 そこへ上から、異形の脚が踏み潰そうと降ってくる。

 転がって避け、跳ねあがりざまに斬りつける。

 異形の脚は裂けて血をほとばしらせた。だが、こんな一撃、たいしたダメージにはならない。


 もうひとりの新鬼人はヘズル・デンスが相手をしていた。

 怪我こそしてないが、飛んだり跳ねたりするトリッキーな新鬼人に翻弄されている。

 そこにも異形の脚が襲いかかった。

 リシュワは強化された脚力で、一気に跳び寄った。

 ヘズル・デンスは脚に蹴飛ばされて転がる。

 そこへ新鬼人が襲いかかった。

 だが、間に合ったリシュワの剣が防ぐ。

 ヘズル・デンスはすぐ転がり起きた。


 なんとも決め手に欠く戦いだった。

 どちらかといえば、リシュワたちは防戦寄りだった。


 薄暗い山寺の境内に、剣戟の音が響き渡る。

 乱戦に近かったが、リシュワは冷静に状況を分析した。

 六本ある脚のうち、攻撃に使われるのは同時に二本まで。

 はるかな高みの胴体の上では頭が揺れているが、爆発する光線は放ってこない。

 リシュワたちは至近距離にあった。

 自らが傷つくからだろう。そこまで狂っていないらしかった。


 しかし、このままでは消耗する。


 そのとき突然、一条の光線が疾走った。

 光線はきらめいて半円を描き、異形の脚一本を切断した。大きな肉の塊がドーンと落ちる。

 凄まじい威力だった。

 それはフリックの攻撃法の発露だった。

 魔法陣の輝きに包まれたフリックが、境内の入り口に立っていた。

 二撃めを見舞おうというのか、さらに腕を振るっている。


 そこへ今度は異形の光線が放たれた。

「うわぁーっ!」

 フリックは顔をおさえて仰け反る。

 異形の光線は爆発する前でも熱湯ほどの熱さがある。

 新鬼人なら耐えられるが、普通の人間を怯ませるにはじゅうぶんだった。


 爆発する。


 その直前、レオネがフリックを抱きかかえて飛んでいた。

 レオネも遠方から矢を放っていたのでフリックに近かった。

 爆音が鳴り、土砂が吹き飛ぶ。


 リシュワは敵新鬼人の剣を防ぎながら、そちらを見た。

 フリックはまだ顔を覆っているが、レオネが抱き抱えている。無事のようだった。


 異形は悔しげに雄叫びをあげた。

 脚が一本失われたために、攻撃の頻度が大幅に落ちた。

 攻めるならいましかない。リシュワは大声で言った。

「ヘズル・デンス、ダクツ、ラッシュをしかけろ! そのあいだにわたしが異形にしかける!」

 返事のかわりに怒声があがった。

 ヘズル・デンスもダクツも応じるように手の回転を速くしている。

 敵新鬼人は応戦に手一杯となった。異形までの道筋が通る。


 リシュワは一気に接近し、異形の脚へ左腕を伸ばした。

 脚の上部をつかむと腕を縮めて、飛びあがる。

 脚の上に達すると、身を弛めて跳んだ。

 危うい跳躍を終えて、異形の胴体の上に立つ。顔の潰れた首は目の前だった。

 そこでリシュワは再び跳躍した。

 胴の瘤から多数の腕が突き出されたが空を切る。


「これで決めるッ!」

 昏い力が凝縮する。殺戮への一閃を目指して。


 リシュワは高みから落下し、その勢いで異形の頭部を縦に割った。

 狙いは外さなかった。

 異形の頭部は赤い血柱を吹きだして激しく痙攣していた。

 胴体は地上へ落ちていく。

 しかし、それで絶命ではなかった。


 胴体から出てきた多数の腕が、リシュワの身体をつかんでいた。

 腕はものすごい力で、リシュワの身体を引き裂こうとしてくる。


 くそ! 最後でしくじった!


 ここまでやって殺されるのか!


「うわぁぁぁーっ!」

 リシュワは絶叫した。

 身体がこれ以上の暴力には耐えられない。

 そう覚悟した直後、腕の力は緩まった。

「ざまがないな新鬼人よ!」

 ヘズル・デンスが地に落ちた異形の身体を切り裂いていた。

 食肉にナタでも振るうように、何度も剣を振り下ろす。

 その刃は異形の身体を真っ二つにしていた。

 そのおかげで腕の拘束が緩んだ。


 リシュワは息を喘がせ、身体を震わせながら、絡みついていた腕を払い落とした。

 膝が笑ったがなんとか立ちあがる。

「助かった、ヘズル・デンス」

 ヘズル・デンスは周囲を警戒し、ややあって言葉を返した。

「これが仕事だ」


 敵新鬼人はふたりとも、頭に管をつけたまま倒れていた。

 ダクツがいっぽうの脈を見ていた。

 左手を新鬼人の首から離して顔をあげる。

「もう死んでる」


 もうひとりの新鬼人も動かない。

 見張りに立っていた産獣師らしきコドンは、光線の爆発で吹っ飛んでいた。


 リシュワは大穴が空いたほうへ声をかけた。

「フリックはだいじょうぶか?」

 崩れた石門の陰からフリックが姿を現した。

 レオネが付き添っている。

 フリックは片手で目をおさえていた。

「目が……。まったくじゃないがよく見えない」   


 ダクツがフリックの傷の具合を確かめた。

「炎症を起こしてるようだ。レオネ、フリックについて先に山を降りてくれ。馬のところで休息するんだ。俺たちはざっと調査しておく」

「俺の知識を役立てられなくて残念だ」

「あたし、もうこんなところ嫌」

 フリックとレオネは山を降りていった。


 ダクツは異形の死骸を見下ろした。

「ヘズル・デンス、リシュワ、どこを持ち帰ったらゲデ・スオーンのお気に召すかな」

 リシュワは言った。

「やっぱり首だろうな」

「そうだろうな」

 ヘズル・デンスが言った。

「それと手だ。人間のものに近いが異常な形をしている。いい標本になるだろう」

「はぁー……」

 ダクツはため息をついて剣を振るい、異形の首を叩き落とした。

 ついで手首もひとつ切り落とす。それらを取りだした麻袋へ詰めこんだ。

「これで標本はいい。あとはこいつらの住処を調べておこう」


 三人は寺院の本堂へ向かっていった。

 すでに失われた信仰の像が、入り口の両脇に立っていた。

 朽ちかけていて苔が生えており、人形をした鬼神らしきものとしか判別できない。 


 暗い本堂の内側への入り口は扉がなかった。

 三人は入っていく。

 全員、まだ武器をしまっていない。

 ダクツが言った。

「生きているものがいないか探すんだ。それ以外にあまり手を触れないようにしてくれ」


 本堂は奥に祭壇らしきものがあり、左右に別の部屋への入り口があった。

 この部屋はおもに生活に使われていたらしく、テーブルがあり、食べ物のカスがそこらへんに転がっている。

 すべて古びて腐っていた。長いこと食事がとられていないようにも見えた。


 部屋の一画にはおなじみの施術台が設置されていて、産獣師の道具が並んでいた。

 こちらも薄汚く汚れていて、少なくとも一ヶ月はそのまま放置されていたことを示している。


 リシュワは向かって右側の部屋へ入っていき、左にはヘズル・デンスが向かった。

 リシュワの入った部屋は広かった。本堂と同じくらいの広さがあった。

 手前に寝台がふたつ、奥に単純な造りの炉とふいご、鉄くず。


 寝台の近くにはテーブルがあり、ろうそくと筆記具が載っていた。そして一冊の本。

 皮装丁の立派な本で、リシュワには読めない文字で書いてあった。

 読めないが、似たようなものは何度も見てきた。

 人間の魔道書だった。

 これでテーブルの上のろうそくにも納得がいく。

 この部屋は暗い。

 コドンや新鬼人なら見えるだろうが、人間の魔道士には明かりが必要だっただろう。

 そして鍛冶の炉もある。

 この部屋には産獣師と人間の魔道士が暮らしていたにちがいない。


 リシュワは魔道書を持って戻り、ダクツに見せた。

「人間の魔道書だ。少なくともここには産獣師と魔道士が一緒に暮らしていた」

 ダクツは魔道書を受けとってペラペラめくった。

「フリックに見せればなにかわかるだろうが、あいにく目がやられてるときてる。よし、わかった。ここは産獣師の工房で、人間の魔道士もいた。だが、あんな異形が潜んでいたのはなぜか、さっぱりわからない」


 もういっぽうの部屋からヘズル・デンスが出てきた。

「こっちの部屋にはろくなものが残っていない。寝台が二台」


 ダクツは思案顔になった。

 リシュワはみなの頭をかすめているだろう計算を整理して口にする。

「人数は合うな。産獣師ひとり、新鬼人がふたり、そしてあの異形がもと人間の魔道士だったとすれば。人数はぴったり合う」

 ダクツは納得しようとしているかのようにコクコク頷いた。

「そうだな、人数が合う。なにが起こったかは皆目わからんが。まだいろんな可能性がある。あの異形は人間の魔道士が変化したものか、それとも新種の産獣か。あるいは両方がひとつになったものである可能性すらある。あとは調査隊を派遣して、そいつらの力に頼ろう。われわれはひきあげるぞ、けが人もいるしな」

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