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異形の襲撃

 リシュワとレオネは、ダクツに案内されて下の食堂に降りた。ダクツが席を作ってくれる。

「みんなここで食事する。食い物は向こうから自分で取ってくるんだ。ついてこい」

 給仕班のところへ連れていかれた。

 忙しそうに立ち回る給仕たちの背後には、食べ物の山があった。

 テーブルクロスは純白で清潔。

 温かな食べ物の匂いで溢れている。


「新鬼人は食べ放題だ。だからといって動けなくなるほど食うなよ。戦いはいつ始まるともわからない」

 ダクツは給仕している中年女性に声をかけた。

「お嬢さん! こっちは新入りだ。新鬼人だからたっぷり盛ってやってくれ。まずそのチキンだ。そう、まるごと一羽くれ。それにシチューも。たっぷりとな。あとパン。それもまるごとよこしてくれ」

 リシュワとレオネはトレイを持たされ、あっという間に食べ物が満載された。

「じゃ、適当に食っててくれ。少ししたら使いのものをよこす。部屋をやるからよ。酒も飲みたきゃ飲んでいいが、ほどほどにな」

 ダクツは溶岩の右手をあげて去った。


 リシュワとレオネはさっきのテーブルにつき、食事をはじめた。

 まず大きな塊であるパンを切り分ける。

 リシュワは左手の鋭い鉤爪を使った。普通の生活を送るには不便な腕だが、役に立つ場合もある。

「パンなんてひさしぶり!」

 切り分けたパンを両手で持って、レオネが頬張る。

 そのあいだに、リシュワは鉤爪を使ってチキンも切り分けた。

「チキンも! ひさしぶり!」

 レオネは片手にパン、片手に鶏モモを持って口いっぱいにつめこむ。

 レオネの明るい表情を見られたのはいつぶりだったろうか。

 彼女の顔が肉管に覆われてから初めての顔だったかもしれない。


 リシュワはシチューを口へ運んだ。

 玉ねぎとじゃがいも、人参が牛乳で煮込んである。こんな料理を口にするのもまた一年ぶりだった。

 パンもうまい。

 チキンもうまい。

 この食事にありつけただけでも、ジェントル・オーダーに加わったかいがある。


 リシュワとレオネが言葉もなく食べ続けていると、ひとりの男がふらりと近寄ってきた。

 男はローブを着ていて、腿まであるブーツを履いていた。

 魔導師によくいる服装だった。

 短髪は茶色で、顔は痩せていた。


 男は無言でリシュワの右隣の椅子へ腰をおろした。頬杖をついてリシュワへ目を向ける。

「あんた、この前の産獣師のところから来たんだって?」

 いささか不躾だと思いながらも、リシュワは愛想よく口を開いた。

「そうだが」

「じゃあ、あんたがジョイスを殺したんだな。そうだろ、あんたがジョイスを殺した」

 リシュワは表情を引き締めた。おおよその見当はつくが言葉を濁す。

「名前をいわれてもわからないな。すまないが」

「メダ・ポルスと一緒にいた魔道士だよ。コドンと産獣と魔道士の小隊だった。あんたたちを見つけて殺されたはずだ」

 リシュワは認めた。

「どうもそのようだ。わたしが殺した」


 レオネが食事の手をとめて男を凝視する。

 男は言った。

「こうも聞いてる。あんたたちは頭に虫を埋め込まれて、産獣師のいうことをきくしかなかったと」

「それも事実だ。殺すか殺されるか、それしかなった」

「どうもそうらしいな。どうしようもなかった。戦いだから。だから恨みっこなしで、あんたたちを仲間だと思えってお達しがあった」

「そうしてもらえるとありがたい。産獣師であったラーヴ・ソルガーはわたしが始末した」

「それでかたきを討ったって思えってのかい?」

「そういうわけじゃないが、悪の根源は討ったと、とらえてもらいたい」


 男は目を伏せた。

「ジョイスはまだ所帯を持っていなかった。悲しむ嫁も子供いない。それは不幸中の幸いだ。でもな、親はいるし兄弟だっている。それに俺は友達だった。魔術学舎からずっと同じ道を歩んできた。この仕事は危険を伴う。戦いだってのはわかってる。でもな、あいつはいいやつだった。あんたはそれを殺しちまった。いいやつだったんだ」

「もうしわけない。戦わずにすめばそれがいちばんだったが、そうもいかなかった」

「いいやつだったんだよ、ホントに……」


 レオネは怯えていた。恐怖の色が目に浮かんでいる。

 それを見てリシュワは態度を決めた。男に向かって冷徹に言い放つ。

「すまなかった。だがこれ以上話を聞くのは断る。メシが不味くなるんでな」

 男は目を見開いた。

「ジョイスの話よりメシが大事だってのか! おまえが殺した……」

 そこへ二人の男が割って入ってきた。

「フリック、いい加減にしとけ。飲み過ぎだ。新鬼人にケンカ売るんじゃねえ」

 男二人はフリックを立たせて、引きずるように連れていった。フリックは大声で繰り返した。

「いいやつだったんだよ! 本当に! いいやつだったんだ!」


 一瞬、周囲のテーブルが静寂に包まれたが、少しじっとしていると再び話し声が湧きはじめた。

 リシュワは視線を感じて目を走らせた。

 コドン四人がついたテーブルから見つめられていた。

 その中心にいるのはコドンの女戦士、ヘズル・デンスだった。

 無言の圧がある。しかし、かまっていてもしかたない。

 リシュワは目を離し、ふたたび食事に意識を向けた。固まったままのレオネに言う。

「食べられるときに食べておけ。ここも楽園ではないらしい」

 レオネは頷き、詰めこむように貪り始めた。


 ふたりは食べ続けた。今度は邪魔されることなく食事が済んだ。持ってきたものをあらかた食べ尽くす。

 様子を見ていたのか、タイミングよく、今度は女が現れた。

 布の服を着ていて、戦士でも魔道士でもないようだった。女は頭を下げてきた。

「お二方のお世話係となりました。ローラと申します。食事が終わったのでしたらお部屋へ案内いたしますが」

「そうしようか」

 リシュワは立ちあがり、広間ぐるりを一瞥した。

 いま、リシュワとレオネに注目しているものはいない。

 それどころか、かかわりを避けられている雰囲気がある。でも、そのほうが楽だ。


 リシュワたちはローラについて、二階へあがっていった。

 廊下を何度か折れると静かな区画へ入った。ローラが扉のひとつをあける。

「こちらへお部屋をご用意しました。この区画は指揮官たちに供されている場所ですから静かです」


 リシュワは部屋へ入った。

 燭台の明かりがある。

 白木で作ったベッドが二台、オーク材の机と椅子。

 それにタンスもあった。簡素な部屋だったが、家具は造りがしっかりした高級品のように見えた。

 机の向こうに大きなガラス窓があり、カーテンがかかっていた。カーテンも意匠の凝った織物だった。

 扉には太い閂がかかるようになっていて、かなり頑丈そうに見えた。

 コドンでもこの扉を破るのには骨を折りそうだ。


 リシュワは自分の荷物を置いて、ローラに聞いた。

「ダクツとゲデ・スオーンの部屋も近くなのか」

「はい。右隣がゲデ・スオーンさまのお部屋で、その向かいがダクツさまとナッシュさまのお部屋です」

「フリックとかいう男は位が高いのか。部屋はどこだ。ヘズル・デンスの部屋も知りたい」

「フリックさんもヘズル・デンスさんも一階に居室があります。フリックさんはゲデ・スオーンさまの工房の隣に、ヘズル・デンスさんは一族のかたと一緒に四人部屋です」

「そうか、ありがとう」

「わー! ふかふかでまっしろ!」

 レオネがベッドへ身体を投げ出して、感触を楽しんでいた。鎧を外して寝転んだらさぞ気持ちいいだろう。


 ローラが言った。

「腰を落ちつけたらゲデ・スオーンさまの工房へ出頭されよとのことです。なにか重要人物の似顔を描くとか」

「ああ、きっとノゼマどののことだろう」

「リシュワさまひとりでけっこうだそうです」

「いや、レオネと二人で行く。すぐ行こう。案内してもらおう」

「かしこまりました」

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