3-1
俺とエミリアは、六歳の時に婚約者になった。
薄茶色の髪に青い目のエミリアは少々頼りないところがあるけれど、素直で俺の言葉は何でも目を輝かせて聞くので、結構気に入っていた。
だから、エミリアが婚約者になると聞かされたときも、悪くない気分だった。
エミリアは泣き虫でしょっちゅうつまらないことで泣くので、俺はエミリアが泣かないようによく面倒を見てやっていた。
さっきまで泣いていたエミリアが嬉しそうに笑ってお礼を言ってくるのを見ると、ちょっと得意な気分になった。
幼い頃の俺たちは、決して悪くない関係だったと思う。
しかし、いつからか俺はエミリアの目を真っ直ぐに見ることが出来なくなった。
子供の頃のエミリアは、年齢よりも幼くて、どう見てもあまり頭も良さそうではなくて、出来の悪い妹という感じだった。
しかし、エミリアは成長するに従ってどんどん美しくなっていったのだ。顔からは幼さが消え、手足も腰もほっそりして、幼い頃の面影は消えていく。
俺がついて行ってやらなければ、よく行く街ですら道に迷っていたエミリアが、今では完璧な淑女だと称えられるようにまでなった。
俺はそんなエミリアを見る度に落ちつかず、以前のように振る舞えなくなっていた。
「クロード様、今度のお休みは空いていますか? よろしければ一緒に劇場に行きませんか?」
エミリアが頬を染めて尋ねてくる。
外見や周囲からの見方は変わっても、二人でいる時のエミリアはエミリアのままだ。なのに、なぜか俺はこれまでと同じように振る舞えない。
今までだったら劇場くらい平気で一緒に行ったのに、その時は妙に頷くのが照れくさく感じた。
「……悪いけど、今は忙しいんだ。別の奴と行ってくれないか」
自分で思っていた以上に素っ気ない声が出た。
エミリアの顔を見ると驚いたように目を見開き、悲しそうに顔を俯ける。
予想以上に傷ついた顔をされて動揺した。何かフォローするべきだと思うのに、謝罪の言葉も繕う言葉も喉に詰まったように出てこない。
「……そうですわよね。お忙しいところお誘いして申し訳ありません」
顔を上げたエミリアは、もう悲しげな顔をしていなかった。柔らかな笑みを浮かべそう言うと、頭を下げて去っていく。
ほっとするのと同時に、すぐに態度を切り替えた彼女に不満を抱く自分に気がついた。
自分でも勝手だと思うのに、胸に広がるその感情は消えなかった。