2-3
食事中も、やっぱりクロード様はあまり話さなかった。
私もこの場に相応しい話題なんて思いつかない。気まずい思いで、黙々と料理を口に運ぶ。
(グラタンは好きなのにな……。全然味がしないわ……)
おいしそうなグラタンは、口に入れてもまるで砂を噛んでいるみたいに味がしなかった。他の料理も普段だったら好きなものばかりなのに、もったいない。
そう思ったところで、テーブルに並ぶ料理にはやけに私の好物が多いことに気がついた。
(まさか、クロード様は私の好きなものを覚えていてくれたの……?)
一瞬そう思いかけて、すぐに偶然だと頭を振った。私の誕生日だって気にも留めないクロード様が、私の好物なんか覚えているはずがない。
苦行のような昼食を終えて席を立つと、クロード様は不満げな顔で私を見た。
「……それではクロード様、ご馳走様でした。私は教室に戻ります」
「なんだよ、もう戻るのか?」
「だってもう昼休みも終わってしまいますし」
「それなら、放課後にまた迎えに行く」
「え……? 来なくていいですが」
思わず本音を漏らすとクロード様は思いきり顔をしかめた。
「いいから教室で待っていろ。勝手に帰るなよ」
「今朝から一体なんなんですか?」
思わず不機嫌な声が出る。私としては、わけがわからないクロード様の気まぐれに付き合わされて、もううんざりだった。
せっかく長年の想いを断ち切って婚約解消することを決意したのに。今になってなぜ私に構うのだろう。
じっとクロード様の目を見つめる。すると、彼の視線が戸惑うように動くのがわかった。
「俺は……」
「私から婚約解消を申し出たことがそれほど不快でしたか」
「何?」
私の言葉にクロード様は眉をひそめる。
「今さら私に構う理由がわかりませんので……。下に見ている私から別れを告げられて、意地になっているのですか?」
思い切ってそう口にする。それ以外の理由は考えられなかった。だって、クロード様が私への好意から婚約解消したくないのだとは到底思えない。
それならもっと私の気持ちを考えてくれるはずだ。
好意もないのに私と婚約解消したくない理由なんて、ただの意地だとしか考えられない。
「エミリア、俺は……」
「とにかく、私はもうクロード様と関わりたくないんです。ただの意地なら、もう来ないでいただけますか」
流されないように、きっぱりと言い切る。しかしクロード様は引いてくれない。
「意地などではない」
「じゃあなぜ……」
尋ねると、クロード様の顔がわずかに赤く染まった。それからやけになったようにこちらを見る。
「単にお前との婚約を解消したくないだけだ! 俺の態度に不満があるなら、その……改めてやる! だから考え直せ!」
クロード様はそう言った後、さっと目を逸らした。随分一方的な宣言だ。私には彼の言葉の意図がわからない。
私が言葉に詰まっていると、彼はやはり一方的に言葉を続ける。
「お前は要するに、俺が構ってやらないのが不満だったのだろう? 俺がお前を差し置いてミアに構っていたからやきもちを焼いたわけだ。それならはっきりそう言えばいいんだ」
クロード様は一人でそんなことをペラペラ言い募る。
全く心外だった。そう思ったことも確かにあるけれど、私はそういう感情も全てひっくるめて終わりにするつもりでいたのに。
「これからはお前のこともちゃんと構ってやるから、馬鹿なことはもう考えるな」
クロード様は平然とそんなことを言う。呆れてしまって、私は返事も出来なかった。