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クロード様がこんな風に言うなんて、今までだったら考えられなかったことだ。クロード様は驚く私の腕を掴み、有無を言わせず引っ張っていく。
横目にミアを見ると、彼女は呆然としたまま動かなかった。
「クロード様、よかったんですの?」
「何がだ」
「ミアさんの誘いを断ってしまって。驚いていましたよ」
「別に構わない。今日はお前と来たのだから」
私が焦って尋ねると、クロード様は平然とした顔で返す。
これまでなら私のことなんて放っておいてミアに構っていたくせにと、今更な彼の言葉を恨めしく思う。
それから無言のまま廊下を歩いた。
やっぱりクロード様は不機嫌な顔のままで、それ以上何か言おうとしない。
ようやく教室のドアが見えたときは心底ほっとした。私とクロード様はクラスが違うから、ここで別れられる。
「クロード様、では私はこれで……」
「待て。今日の昼休みは空いてるか?」
「昼休みは、いつも友人たちと食堂に行っておりますが……」
「ならその友人たちに今日は用事があると断っておけ。昼休みになったら迎えにくる」
「え、あの……」
クロード様は言うだけ言って、今回も私の返事も待たずに行ってしまった。
私は呆れてその後ろ姿を眺めていた。
***
「エミリア。約束通り迎えに来てやったぞ」
朝に言われた通り、昼休みになると本当にクロード様はやって来た。彼の姿を見た瞬間、友人たちが一斉に騒ぎ出す。
「エミリアさん、今日はクロード様と一緒に過ごされるの? よかったわね!」
「クロード様、お忙しくてなかなか会えないって言ってらしたものね!」
友人たちは楽しげに囁く。
私はクロード様に冷たく扱われていることを、つまらないプライドから彼女たちにも話せずにいた。
クロード様も人前では私にひどい態度を取ることはないので、私たちの関係が冷え込んでいるとは気づかれないで済んでいた。
しかしそれが災いして、私達が関係良好だと思い込んでいる彼女たちは、目を輝かせて私をクロード様の元へ行かせようとする。
「あの、私は行きたくな……」
「エミリアさん、私たちに気を遣うことはないのよ! せっかくクロード様が迎えに来てくださったのだから行ってらして!」
笑顔で後押しされ、行きたくないとは言い出せない雰囲気になってしまった。クロード様も白々しい笑みを浮かべ、「悪いね、ありがとう」なんて言っている。
私は諦めてクロード様について行くことにした。
***
「昼食は用意しておいてやった。遠慮せず食べろ」
「はぁ……」
連れてこられたのは、学園の庭にある休憩スペースだった。ここにはテーブルと椅子がいくつか並んでおり、いつでも休めるようになっている。
人気の場所だけれど、今日は肌寒いからか人はまばらだ。連れてこられたテーブルの上には、たくさんの料理が並んでいる。
「どうしたんだ? 早く座れよ」
「……失礼します」
あまり気乗りはしなかったが、促されるままに椅子に腰掛ける。
先日婚約解消を申し出たばかりの人と向かい合って食事。憂鬱なことこの上なかった。