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「あの……一体どうなさったんですか?」
「見ればわかるだろう。迎えに来た。一緒に学園に行くぞ」
クロード様はそう言って馬車に視線を送る。クロード様の家の馬車で学園まで乗せていってくれるということらしい。
こんなこと学園に入学してから今まで一度だってなかったので、戸惑うことしかできない。
「私はいつも通りうちの馬車で行きますから……」
「いいから乗れ。せっかく来てやったんだ」
クロード様は顔をしかめて私の腕を引き、無理矢理馬車に乗せる。私は仕方なくそのまま椅子に腰を下ろした。
強引に馬車に乗せたというのに、クロード様は腕組みをしたまま不機嫌そうに黙りこくっているだけだ。話があるわけではないのだろうか。
「あの……クロード様」
「なんだ」
「どうして急に迎えに来てくださる気になったのですか?」
尋ねると、クロード様は不機嫌そうな声で言う。
「お前が俺の態度が不満だと言ってきたのだろう」
「私は態度を改めて欲しいと頼んだわけではありません。婚約を解消して欲しいだけです」
「断る。二度と口にするなと昨日も言ったはずだ」
クロード様はそう言ったきり、また黙り込んでしまった。
私は仕方なく窓の外を眺めながら、学園に到着するのを待つことにした。
馬車が学園に到着すると、クロード様は意外なことに手を差し伸べて私を下ろしてくれた。
顔はやっぱり不機嫌なままだったけれど。まさか本当に態度を改めるつもりなのだろうか。
「珍しいですね。手を貸してくださるなんて」
「素直に礼も言えないのか。可愛くない女だ」
クロード様は素っ気ない声で言う。私は何とも言えない気持ちでクロード様を見た。
「クロード様! おはようございます!」
その時、後ろからやけに明るい声が聞こえてきた。振り返るとそこには元気に手を振るミアがいる。
「ミア」
「今日は少し遅かったですね。クロード様に会えないかと思って待っていたんですが……」
言いかけたミアは私の方に顔を向け、驚いたように目を見開いた。
「えっと……今日はエミリア様とご一緒だったのですか?」
「ああ。俺たちは婚約者だからな」
クロード様はやけにきっぱりと言う。いつも私が婚約者であることなんて忘れたように振る舞っているくせに。
クロード様の言葉を聞いた途端、ミアの顔が引きつるのがわかった。
「……そうですの。仲がよろしくてうらやましいですわ。あの、クロード様。お邪魔でなかったら私も校舎までご一緒してもよろしいですか?」
ミアはすぐに気を取り直したようで、花の咲いたような笑顔で言う。
「いや、今日はエミリアと二人でいたいんだ。申し訳ないが今度にしてもらえるか?」
しかし、可愛らしく尋ねるミアの言葉を、クロード様はあっさり斥けた。
ミアは驚いたようにクロード様を見る。一方で私もミア以上に驚いてしまった。