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「俺がいつそんなことを言った」
「言葉にして言われなくてもわかります。クロード様は私が話しかけても冷たい顔を向けるばかりで、ろくに返事すらしてくれないではないですか。プレゼントもつき返されて、外出に誘っても毎回断られれば、さすがに私も傷つきます」
「それは……」
クロード様は気まずげに視線を彷徨わせる。まさか、ひどい態度を取っている自覚がなかったのだろうか。
けれど、クロード様がどう思っていたのであろうと、今の私にはどうでもよかった。
今までなら決して言えなかった本音が口から溢れる。
「クロード様、私、もう疲れてしまったんです」
そう言ったらクロード様は大きく目を見開いた。クロード様の顔が一瞬、泣きそうに歪む。しかしそれは気のせいかと思うほど一瞬のことで、彼はすぐに怖い顔に戻って私の肩を掴んだ。
「ふざけるな! 貴族同士の婚約がそんなつまらない理由で解消できると思っているのか!?」
「何をおっしゃっているんですか。私たちの婚約は絶対に維持しなければならないものではないでしょう? 私たちが結婚した方が両家に取って多少都合がいいというだけで」
実際、うちの両親はクロード様との婚約を解消したいと頼むと心配そうに何度も理由を聞いてきたものの、最終的には許してくれた。
濁して伝えはしたものの、クロード様の態度に思うところはあったのだろう。
最後には、二人の意思を確認せず、幼い頃に婚約を決めたことを申し訳ないと謝られてしまったくらいだ。
「クロード様のご両親は納得していただけなかったのでしょうか」
今までよくお世話になった彼らに迷惑をかけてしまったのなら申し訳ないと思いながら尋ねると、クロード様は苦々しい顔で言った。
「両親は婚約解消を受け入れる気でいた。……俺がエミリアに失礼な態度を取ったのだろうと文句を言われた」
クロード様はいかにも不満そうに私を見る。私は本当のことを、それもかなりクロード様に気を遣った表現で伝えただけなのに心外だ。
「クロード様のご両親が納得していただけたようで安心しました。そろそろ失礼してもよろしいでしょうか」
「あ……っ、待て!!」
立ち去ろうとする私の腕をクロード様が掴む。
「俺は認めないからな! 婚約解消はしない!」
「え……」
私は戸惑いながらクロード様の目を見つめる。
クロード様は意固地になっているのだろうか。婚約解消はクロード様の方にこそメリットが大きいはずなのに。
「いいか、俺は絶対認めない。二度と婚約解消なんて口にするなよ」
「クロード様、待ってくださ……」
クロード様は私の呼び止める声など聞かず、さっさと歩いて行ってしまった。
私は呆然と彼の背中を見送ることしか出来なかった。