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「エミリア、それはつまり俺と婚約解消したくないということか……?」
私の顔を覗き込むクロード様の目には、不安と期待が混ざり合っているようだった。私は観念してこくりとうなずく。
「……認めたくありませんけど」
「で、でも、エミリアはレスターが好きなんじゃないのか? 俺といる時よりもレスターといる時のほうがずっと楽しそうだったじゃないか。レスターは俺みたいにお前を傷つけたりしないし……」
クロード様はまだ戸惑った顔のままで言う。
「そうですわね。レスター様の方がずっとお優しくて紳士的で素敵な方ですわ。クロード様と違って誠実ですし」
「そ、そんなにはっきり言わなくても……。それなら俺のことは気にせずレスターと」
「でも私が好きなのは、どうしてだかわかりませんけれど、自分勝手で強引で、婚約者の目の前で別の女の子とイチャついてるような最低な人なんですもの。仕方ないじゃないですか」
思い切って一息にそう言う。クロード様は目をぱちくりした。
「エミリア、俺のことをまだ好きでいてくれるのか?」
「……ええ。私、男性の趣味が悪いみたいなので」
クロード様から目を逸らしながらそう答える。
もっと素直になるつもりが、最近ずっと天邪鬼な態度を取ってばかりいたせいで、ろくな言葉が出てこない。これではクロード様のことを言えないではないか。
クロード様はしばらく黙ったまま、何も言わなかった。
おそるおそる顔を上げると、クロード様は呆けたような顔でこちらを見ていた。
「……エミリア」
「……なんですか」
「……ありがとう、エミリア! 俺も愛してる!!」
「ちょ、ちょっと!!」
クロード様は突然私に近づいてきたかと思うと、そのまま躊躇いもせずに抱き上げた。
先ほどから何事かと私たちを見守っていた生徒たちから、ざわめきの声が漏れる。
「ちょっとクロード様! 降ろしてください! それと私は愛してるとまでは言ってません!!」
「ああ、そうだったな! じゃあこれから愛してると言ってもらえるように頑張るよ! エミリア、これからは絶対に幸せにするからな!」
クロード様は私を抱き上げたままくるくる回す。その顔はとても幸せそうだった。
私はそんな彼の顔を見つめながら戸惑うことしかできない。
しばらく私を抱き上げて嬉しそうにしていたクロード様は、ようやく我に返ったように私を下ろすと真剣な顔で言った。
「エミリア、今までのことは本当に悪かった。もう二度と馬鹿なことはしない。エミリアのことを絶対傷つけないと約束するよ」
「……どうでしょうね。期待はしないでおきますわ」
「エミリア、信じてくれ……! 俺は心を入れ替えたんだ!」
またも可愛くない返しをしてしまう私に、クロード様は真剣に言い募る。
素直に言葉には出せなかったけれど、クロード様が本気でそう言ってくれているのは、ちゃんとわかっていた。




