12-2
「少し時間をくれないか。ちゃんと考えるよ。エミリアが真剣に言い出したことを今までちゃんと受け止めないでごめん」
クロード様はそう言って頭を下げる。彼に頭を下げられるのなんて初めてのことで、驚いてしまった。
「クロード様、待ってください。私は……!」
私はクロード様と話し合うつもりで早く来たんですと言いかけると、クロード様は寂しげな目をして言った。
「婚約解消したほうが、きっとお互いのためにいいんだろうな」
クロード様の言葉に、言いかけた言葉が出てこなくなる。
……お互いに。
あれだけ婚約解消しないと言っていたクロード様だけれど、今はそう思っていないのだろうか。もう私に愛想を尽かしてしまったのだろうか。
クロード様はかすれた声で別れを告げて背を向ける。
私は遠ざかっていくその背中をただ見ていることしかできない。
私たちはこのまま終わってしまうんだろうか。クロード様はそれでいいの?
クロード様がもういいと言うのなら、諦めた方がいいんじゃないかなんて弱気な考えが頭を占拠する。
けれど、このままクロード様が離れて行く未来を想像したら、胸が苦しくなった。
「ま……っ、待ってって言ってるじゃないですか!!」
大声で叫ぶと、クロード様は驚いた顔でこちらを振り返った。立ち止まるクロード様の方まで駆けていき、その腕を掴む。心臓が痛いほど音を立てていた。
「一人で勝手に完結するのはやめてくださいませんか? 私の言いたいこと一つも聞いてくれてないじゃないですか!」
「いや、でも……エミリアは婚約解消したいと言っていたじゃないか。俺のことも迷惑そうにしていたし、もうこれ以上エミリアを苦めたくないと思って……」
「今まで来ないでと言っても何度も何度も諦め悪く近づいてきたくせに、なんで急に物分かりがよくなるんですか! 結局私への想いはその程度だったってことですか……!?」
クロード様の腕を掴んだまま詰め寄ると、彼は戸惑い顔をする。
「違う。俺はエミリアのためを思って」
「私のためだって言うなら、私の気持ちちゃんと聞いてください!」
大声で言ううちに、感情が高ぶって涙が滲んできた。恥ずかしい。こんなところで泣くなんて。
早朝とはいえ玄関ホールにはいくらか人がいて、みんな何事かという顔でこちらを見ていた。こんな風にみっともないところを見られたくないのに、それでも言葉は止まらない。
「やっと自分の本音に気づけたのに……。何も聞かずに離れていくなんてあんまりですわ……!」
クロード様は涙目で詰め寄ってくる私を、困惑した顔で見下ろしている。そしておそるおそるといったように尋ねてきた。




